(イシスアセト、ウライオス本部。建物の裏側にある広場。休憩中なのか隊員はおらず、建物の中から話し声が聞こえている。)
ゲラルト「(広場に置かれたベンチに座り、建物の窓から見える隊員たちのほうをぼんやりと見ていた。風に吹かれてコートの裾が靡き、ふとその方向へ顔を向ける。)」
マベ「(普段よりその風が弱く感じるかもしれない。すぐ近くに立ち、顔を向けられじっと見つめ返すその顔は、不機嫌さがやや鳴りを潜めている。)………少しいいか?」
ゲラルト「何だ?お前が話しかけてくるなんて…………(なんかいつかにもこんな会話をしたような気がして、そこで言葉を区切り、黙って頷いた。)」
マベ「………。(言葉を切ったゲラルトにちょっと首を傾げて、口の端を上げてみせた。)…ちょっとな。別の奴と、魔術について話をしてたんだがよ。(そこまで言うとどこか困ったような顔になり。)…基礎の基礎のはずが、どうにも話が噛み合わねえんだ。学校行ってねェからかな?新人に教える時困っちまうだろって言われてさ…、……………。(気恥ずかしいのか、視線はずっと横の方を向いたまま。)」
ゲラルト「大丈夫だ。その程度の新人、この隊には必要ない。……で、具体的には。(反対側を向いたかと思うと、何か取り出した。薄い紙に包まれたサンドイッチを手袋をしたまま口へ運ぶ。)」
マベ「イヤそういうことじゃなくてな…?……、………。(サンドイッチを食べ始めたのをチラと見て、またバツが悪そうに目を逸らした。)……まア、なんだ。要は俺達がなんでもかんでも速すぎるって言いたかったんだろうな。基礎的な魔術を使ってみようっつーことになって、その場にいた奴等であーだこーだ言ってたんだが……。お前は魔術を使うとき、なんか考えたりするか?発動までの術式の組み立てがどうとかこうとか…小難しいことをよう。」
ゲラルト「(もぐ…、)いや、呼吸する時に息吸おうと意識する人間はいないだろう?それと同じだ。こうだと思った直後には術として出力されている。余程複雑な術式でなければな。(もぐもぐ…とまた咀嚼を再開し、ちらっとマベの方を見た。)」
マベ「………、(最初から答えがわかっていたかのように小さく息を吐いた。)……気に食わねえが、まったく同感だ……。俺からすりゃ、…これは部隊外の人間にも言えることだが。単純に息吸って吐きゃァいいものを、内臓の動きまで計算して求めてもいねえ最高値を叩き出そうとするも同然の行為に等しい。(言いながら近づき、ゲラルトから一人分離れたところに腰を下ろした。ほぼ同じタイミングで視線を送った。)……お前、学校行ってないんだろ。全部独学か?」
ゲラルト「まあ、…そうだな。……。……。(独学かという問いかけには短く返事をして、しばらく黙った。)基本は、魔力をインプットして、術式を汲み上げて、魔術として出力。インプット時の魔力の動きは捉えやすい。構築に時間のかかる複雑な術式はそこから出力までのタイムラグが長いから先手をうてる。単純な術式はすぐに発動するが、その単純さ故に発動を察知してからでも対処しやすい。………と、私は思うが。」
(何となくいつか見たような光景に、周囲を歩いていた隊員たちがふと足を止めて2人の方を見た。)
マベ「………フン。(何か考えるように僅かに首を傾げると、自然と眉間に皺が寄った。)俺は物心ついた頃にゃある程度、こうすりゃこうなる、みてえのがわかってた…気がする。遊び相手がいなくてよう。好き勝手やってたら、それが魔術の基本だったって具合だ。……ま、だからか知らねえが何をするにしても、(ふと周りの空気が変わった。感知魔術を完全に止めたのだとわかる者は目の前の人を除けばほとんどいないだろう。またすぐにマベから極微弱な風が発生しその範囲を広げていくが、普段より魔力量を落としている。)……こうやって、理屈抜きにやっちまってる節がある。それでいいと思っていたが、……良くねえこともあるのかもしれねえ。」
ゲラルト「基礎は幼い頃に読んだことがあるが、正しく読めていたかどうかは定かではない。(どことなくぼんやりと遠くを見つめた。空気の変化に気付いたかどうかはわからない。)…あの頃の私は魔術を見たことがなかった。 …改めて呼吸の仕方を確かめる、か。(手に持ったサンドイッチの残りを口に入れて、自分の左手を広げてじっと見つめた。)」
マベ「そうか……。初めて魔術を見たのは、随分大きくなってからか。(以前ここで聞いたゲラルトの過去を思い出し、どこか戸惑いがちな表情を浮かべている。左手を広げ見つめるその顔を窺うようにじっと見つめ、またバツが悪そうに顔を背けると後頭部を掻いた。)………身体を鍛えるのも基礎が固まってねえといずれ不調の原因になるってェからなア。…ま、たまにはそういうのも悪くねえだろ。」
ゲラルト「厳密に言えば、一度だけ見たことがある。(左手首と手袋の間に親指を差し込んで、手にぴったり馴染む皮の手袋を慣れた手つきで脱ぎ始める。)…それで発動の仕方を知った。(脱いだそれを自分とマベの座る間にそっと置くと、左手を前方に真っ直ぐ伸ばす。)教科書通りの魔術というやつだ。手を前方に伸ばす。指先に集中。(チラ、とマベの方を見た。)」
マベ「一刀さんに教わったわけじゃねえだろ?あの人は強かったが…。(革手袋の外される小さな軋むような音に目を向けた。ゲラルトの所作を見ていたが、こちらへ投げかけられた視線に自分も同じように右手を前方に伸ばし、指先を見つめた。)……お決まりのヤツだな。(自らの動きに口の端を上げて笑った。)」
ゲラルト「あの人は刀を振る以外のことはまるで不器用だ。ああいや、芋を煮るのはうまかったな。(冗談なのだろうが、あまりにも色のない声で。)ミラがよくやるアレだ。お前、属性を付加するなよ。」
マベ「…………。……ああ。……“美味かった”な。(同じことを別の意味で返した。懐かしむように目を細める。)…っといけねえ、俺もお決まりのヤツを出しちまうところだった。自分の魔術に慣れすぎて、逆に新鮮だ。(冗談めかして指鉄砲の動きを見せてから、また掌を前方へとかざした。)」
(周りや建物内にいた人達が、ひとりまたひとりと立ち止まる。この2人が今更するはずの無い、魔術の初歩の初歩で習う殺傷能力の無い光を発生させるだけの魔術を出す基本動作。興味深そうに見てヒソヒソと何か言っている。)
ゲラルト「……。(周りの視線に気付いているのかいないのか、まっすぐ、建物の壁のある方に視線を送ったまま。)予備動作も無しだ。手はまっすぐ動かさず、肩の力を抜いて、息を吸って吐いて……、3、2、1……、」
マベ「(そこかしこから聞こえてくるヒソヒソ声に、顔を顰めるわけでもなく真顔で前方を見つめている。)………相変わらずうるさい奴等だぜ。…了解。(かざした手に寸分の揺れも見せず肩の力を抜く。ゆっくりと呼吸をして、カウントダウンに合わせて指先に神経を集中させ…)……………!(音も無く、雪山の斜面が太陽光を反射したような強い光が周囲まで及んだ。本人は黒眼鏡の向こうで平然と指先を見つめている。)」
「見たか?ほぼノータイムだった… 本当に陣出ないんだな」
「陣だけじゃない、何の動作もなく…」
(周囲がざわついた。さっきまで二人の様子に気づいていなかった人達も含め、ほぼ全員が中庭の様子を見て何かを言っているが、最初から見ていた第2部隊の隊員たちはなにか嬉しそうに盛り上がっている。)
ゲラルト「(光ぎ収まったあと、その隣で右手で目を被った状態で座っている。)……発動時、周囲の魔力は全く動かなかった。取り込みは0、お前の中にあるものから出力された。(マベの伸ばした右手に、自分の左手を伸ばして何気なくその手を掴んだ。)……今、消費した分がまた、ここに溜まり始めている。意識的にしているか?」
マベ「フン……。(前方を見つめたまま大して面白くなさそうな顔をした。)魔力の読みは、お前の右に出る者はいないな、って…、(手を掴まれ視線を手元にやった。)………。………いや。何も考えてねえよ。意識すりゃ出て行く瞬間はなんとなくわかるが、瑣末事って感じだ。」
(先程とはまた違う、若い女性職員のざわめきが起きたようなような気がする…)
ゲラルト「使った分が無意識でまた取り込まれているということなのだろうな。(周囲から上がった声に初めて視線を動かして、その手を離した。)私はこの体質だから産まれた時からそうらしいが、……意識的に取り込むことは出来る。前に嵐を起こしたときがそうだった。…………他の術師はあんな面倒なことを毎回やっているらしい。」
マベ「……………なんだありゃァ?(若い女のざわめきに顔だけでそっちを振り返った。怪訝そうに小首を傾げ、また向き直る。)………無意識か。…俺は妙な体質らしいから、そいつが悪さしてンのかもな…。(ぽつりと呟き、すぐさまそれを振り払うかのように溜め息を吐いて。)…お前のそれがなかったら、あン時は二人仲良くおっ死んでたぜ。……しかし基礎でコレってことは、応用でも大して変わらねえだろうな。陣無しの魔術師なんて簡単に言われるが、出だしから差がでかすぎる。話が噛み合わねえわけだ。」
ゲラルト「そういえばお前は敏感な方だったな。私の……アレを食ってあれほど反応する人間は見たことがない。(周りで聞いている人が多いのを察して言葉を少し濁した。)陣無しのうちでも間力を意識的に貯めている者と、無意識で行う者がいるのかもしれない。発動に関してもそうだな。 ……こういう風に、とイメージする前にはそうなっている。(一度下ろした左手を前方に出した。)」
マベ「……敏感なのか何なのか俺にもわからねえ。…俺の中の何かがお前の…、……お前に反応して暴れようとするのを、死に物狂いで押さえつける。……そんな具合だ。(あの時のことを思い出しながら、らしくないほどに言葉を選んだ。)…幸か不幸か、おかげで俺はあの術式を組み、結果としてそれが命綱になったわけだが。(喋りながらゲラルトの手の動きに合わせて視線を動かして見守る。)意識的に貯める奴は戦況を見極めつつ魔術を使いてえのか、あるいは目的があってのことか。………お前、間違えんなよ?ガラス片っ端から叩き割るなんざ、ガキのやるこったぜ?(ふっと目を細めてにやりと笑った。)」
ゲラルト「最大限よく言えばそうだろうが、私は自分のした事を正当化するつもりはない。結果的にそうなったと言うだけの話だ。 ……殺傷能力のない術式だと言っただろ……、二度も同じ過ちは犯さない。(暫く黙ってから、チラとマベの方を見て。)……多分な。カウントを頼む。」
マベ「事実を言ったまでだ。フォローじゃねえよ。…………。………多分かよ。あー、さ…、………、(普通にカウントダウンをしようとしてはたと止まった。口の端をにやりと歪めると、ゲラルトの左手首をくっと掴んだ。抵抗されなければそのまま身体をぐっと寄せ、耳元に唇を近づける。この間の仕返しと言わんばかりに、わざと耳元で息を漏らすように笑った。)…さーん。にーい……、………いち。」
ゲラルト「……。(左手首を掴まれた瞬間も表情は変えなかったが、手袋をしたままの右手がぐっと強く握られた。大きく息を吸って、吐いて、カウントが終わる頃にはすっかり元の通りに力を抜き)……。(周囲が術者の攻撃性を表しているかのような強い鋭い光に包まれた直後、バヂンと大きな弾けるような音、それからビリビリと空気が揺れて駆け巡った。)……あ。」
マベ「………………、(その強烈な光にさすがに目を細めた。空気の流れが正常に戻ってくると手を離し、ヒュウと口笛を吹く。)……お前でもこういうことがあンだな?(きひ、と口の端を上げて笑ったのが幾分か子供っぽい。)」
(周囲がしーんと静まり返ったあと、よく知った隊員たちが大喜びで騒いでいるのが聞こえてきた。)
ゲラルト「いきなり手首を掴むな…………。(眉間に皺が寄るだけで目が開かず、鬱陶しそうに目元をヒクつかせた。)足を右、左と出そうと頭で考えなくても無意識に歩行の動作が行えるのと同じようなものだろうな。脳から指示を送るのではなく、神経回路からこれまでの経験などを元に術式が自動的に導き出される…………、……酷い目眩だ。(おもわず目元を覆った。)」
マベ「(はしゃぐ隊員達の声ににやにやと笑っている。)俺は他人の魔力の流れがどうのを気にしたことがないんでね。触れりゃわかるかと思ったが…、………ン。(まだ笑みは浮かべているが、存外に真面目な調子でするりと手を離した。)外から魔力を取り込む必要がなく、かつ使い慣れた術式ほど発動が早いわけだ。ま、実践あるのみだな。(黒眼鏡を外すと眉間のあたりを指で揉み解す。)……あー、目が痛え。お前動揺しすぎだ。初恋の相手に触られたガキかよ?」
ゲラルト「体内で特定箇所に魔力が偏る感覚もある。私の場合、出血した箇所が顕著だが……、お前もさっき無意識にそうなっていたように思うが。……目から出血を伴うのはそういうことなのかもしれないな。(左手を動かし、ベンチの座面を触っている。)……そんな良いものではない。出荷直前の家畜の気分とでも言っておくか。(わかるようなわからないような喩えで誤魔化した。自分の左側に置いたはずの手袋を探しているようだ)」
「……お前、言って意味わかる?」
「いやー……全然わかんねーわ」
「魔力が偏るって何?そんな感覚ある?」
「ないない、俺そもそも陣なしじゃねーもん……」
(……などと、本部内に居たそれぞれの部隊の隊員、職員たちがひそひそと話し合っている。)
マベ「お前の場合は説明がつきやすい。血液そのものを使うよう身体が作られてるってことじゃねえのか。……俺も、なのか?よくわかんねえが…、(ぐっと手の甲で目を擦ると黒眼鏡をかけ直した。)俺の弱点は目だ。お前の血を飲むと元々弱ってる箇所に負荷がかかって出血しちまうもんだと思ってたが、…………。(ゲラルトの手の動きに視線を落とす。ちょうど踏みそうで踏んでなさそうなところに脱いだ手袋を見つけ、右手で拾い上げた。)…………ほら。(左手の手の甲に手袋をちょんと触れさせた。)」
ゲラルト「弱いと表現するべきかどうかは、考え直す必要があるかもしれない。(左手の甲に触れた手袋を受け取ると膝の上に置き、ようやくその青く透き通った目が開いた。)……迂闊なことは言うな。周りが聞いている。(さっき濁した”血が魔力媒体になること”をうっかり言葉にしたマベを静止しようとしたが、距離感を間違いその指先が思いがけず唇に触れるかもしれない。目立った外傷は無いが、左手が鼻先に近づくと血の匂いがほんのり届く。)」
マベ「よわ、ぃっ………!?(弱いだろ、と返しかけた唇に指先が触れそうになって一瞬身をこわばらせた。後ろに引くのをプライドが許さず固まったままの唇にちょんと先端が触れた。)…………、…………悪い。…………。(気まずそうにそうっと顔を少しだけ背けた。)…………本当に、お前のその匂い、よくわかるな。」
ゲラルト「…………酷い目眩だ。(謝るかわりにそれだけ一言ぽつりと呟く。手をゆっくり引っ込めると、膝の上に置いた手袋を拾って指先を入れはじめた。)左手や左の鎖骨付近は特に。お陰でいつでも手袋に襟付きのシャツにネクタイだ。 ……。……あまりこういう話をしたことが無かったな。他にも色々聞きたいことはある。お前の視界が開けるあの術式のことも、あの夜に展開した風のこと…………(が、周囲がまた妙にざわつくのを感じて言葉を止めてしまった。)」
マベ「………大丈夫、じゃ、なさそうだな。(またバツが悪そうにこちらもぽつりと呟いた。所在なさげに視線をゲラルトの手元付近でうろつかせる。)……例の組織のせいか。……。………俺は“そういう話”をするのを避けてきた。お前とだけじゃねえ、ミラと話す時も、他の奴等と話す時も、…だ……。(最後は濁し、どこか自嘲気味に笑った。)………。………聞きたいなら答える。等価交換だ。(表情が普段の不機嫌なそれに変わった。周囲のざわつきが気に食わないようで視線をそちらへ向けた。)」
ゲラルト「(じ、とマベの顔を見た。それからまた顔の向きを変えてまっすぐ前を向いて。)そうだな、ここはお前の上司として”聞きたい”と答えてやろう。……。……何が欲しい。」
「あ~あ、マベのやついつもの不機嫌に戻りやがった」
「さっきまで隊長にデレデレしっぽ振ってたくせにな」
「オレも隊長に唇つつかれたいなあ♡」
「例の組織って言わなかったか?何の話だろうな」
(周りから色んな会話が聞こえる……)
マベ「あ゛?腹立つ言い方しやがって。…そうだなァ。まずは、だ。部下として頼みたいことが一つある。(周囲の一言一言を全てその過敏なまでの聴覚で捉え聞き逃さない。口の端を上げてにやりと笑った。)………“もう一つだけ、俺の魔術を見ていただけませんか?”………基礎の基礎だが、よォォく敵さんの撃ってきやがるやつを。」
ゲラルト「上司に向かって等価交換を持ちかける部下も大概だ。(反対側から持ち運び用の使い捨てカップに入ったコーヒーを持ち上げ、口に運んだ。)…許可しない。昼休憩中だ。周りには非戦闘員もいる。午後の訓練で相手をしてやろう。」
「…マベってさ、隊長と仲悪いんじゃなかったのか?」
「馬鹿言え、さっきの顔見ただろ?」
「見た見た。大好きでーす♡の顔してしっぽ振りまくってたな。」
「自分も陣無しでツートップとか言われて、特別扱いされてるからって調子乗ってんだよアイツ」
「はは、言い過ぎだろw」
(建物内からもあれこれ聞こえてくる………)
マベ「………フン、言うと思ったぜ。(マベの周囲に数個の光の弾が発生するのとほぼ同時に、建物内で喋っていた者達に向かって猛スピードで一直線に飛んで行った。ピタリ人数分、庭の樹木を激しく揺らし窓ガラスをぶち抜いてド派手な音を立てた。ゆっくりと立ち上がり、ゲラルトに背を向けて大きな声で言い放つ。)……お前ら、気に入った。午後からの訓練で俺と組もうぜ。勝った奴を特別扱いしてやるよ。(ギリ、と音が立ちそうなほど睨みつけて怒りを露わにして。)…………わかったらさっさと飯食って準備してきやがれ!!テメエらもいつまでジロジロ見てやがる、見世物じゃねえぞ!!ぶっ飛ばされたくなかったらとっとと失せやがれ!!!(結局全員に罵声を浴びせた…)」
(第2部隊と思われる隊員たちは各々術式を展開してその光弾を凌いだようだが、どこかから会話には加わっていなかったはずの例の新人隊員の悲鳴が聞こえ、そのあとまた聞きなれた男たちの笑い声が聞こえてきた。)
ゲラルト「(マベの一連の動作を呆れた様子で見て)……さっき私に窓を割るなと言ったのはお前だろう?そのお前が割ってどうする。(割れたガラスのちょうど下に自体を把握していない見知らぬ職員(男)が出てきたのに気付き、音もなくその地点に転移。片腕に抱える形で地面を蹴って、ガラス片を避けたあたりに片膝をついた低い姿勢で着地。立てた方の膝の上に座らせた職員が無事なことを確認すると、そっと離れるように促した。そしてコーヒーのカップを覗き込んで、中身が無事なことも確認した…)……午後は書類を見る時間に充てられそうだな。」
マベ「2、3枚くらいなら事故だ。……アホどもが……、あンくらいも避けられねえ奴がいんのかよ……。(窓をぶち抜いたほうを見やり、心当たりのある情けない声に舌打ちした。ゲラルトが男性職員を助けたのを見て、そちらに向き直る。)…………悪い。弁償するから隊長ン時と同じやり方にしてくれ。(存外に優しい声色で職員に言葉をかけるその顔は、どこか浮かない表情をしている。職員が離れた後も身動ぎせず、そこに立ち尽くしたままで。)…………特別扱いされて調子に乗ってたのは事実だ。」
ゲラルト「(立ち上がって、いつの間にか開けていた視界で珍しく真っ直ぐにマベの表情を見つめていた。)……。いや、お前だけじゃない。第2部隊にいる奴らは多かれ少なかれ、特別扱いされてる調子に乗ってる奴らしかいない。……実際特別だ。だからこの隊にいることを許されている。……お前も、私も。(表情は変えない。その奥に何か特別な思いがあるのだろう、噛み締めるように言葉を紡いだ。)」
マベ「お前が言わんとしてることは大体想像がつく。………けど………そういうことじゃねえんだ…。(視線を外し、どこか遠くを見つめるように顔を横に向けた。)…俺はあの夜、お前と二人で戦ってあの女を殺し、そして生き残った。それ以来ずっと舞い上がってたんだよ。………船の上で、自分の未熟さを思い知らされた。視界の利かない中、あろうことか俺は、ミラをそうと判らないまま殺そうとした……。(その時のことを思い出し、苦々しそうに目を細め右手の拳を握り締めた。)」
ゲラルト「そうか。(また大して感情の乗らない声で淡々と返した。)反省をするのは良いことだ。だが、そのあとやるべきことは後悔して思い悩むことではない。(一歩一歩、マベの方へ近づいて行く。)」
マベ「わかってる……。だがミラを陥れようとした奴等をぶちのめしたとしても、自分に向ける怒りは収まらねえ。(自分に近付いてくる足音に拳を解き、ゆっくりと向き直る。)…俺はいつかお前に追いつく。だが目的地はそこじゃない。追いついて、さらにその向こうへ辿り着かなきゃならねえ。…後悔して燻って、お前の強さに甘えてたら、いつまで経っても前には進まねえ。……そうだろ?」
ゲラルト「(一瞬目を細めた。その裏にどんな感情があるのかは読みとりにくい。)……。……魔術の使用が限られる場で力が発揮できないようでは駄目だ。互いにな。(6cm背の低いゲラルトが、ふと視線をあげた。)久々にやるぞ。……”感覚調整”。(口の端が僅かに上がったような気がする……)」
マベ「……お前も今回はなかなかの貧乏くじを引いたみてえだしな?(照れ臭くなったのか苦笑いした。見上げられ、見下ろしたその先で確かに視線がぶつかった。続く言葉にハッとして、)……………!…………。………今、感知魔術をあの時と同じくらいの魔力量に落としてる。それでも暗闇で遜色劣らねえくらいになるよう……、………どうだ。できるか?(こちらは目を細め、眉間に皺が寄った。)」
ゲラルト「……今のお前の状態と必要な能力にあわせて、調整の内容を考える必要がある。少なくとも、触れて魔力の流れがわかる程度にはならないと話にならないが、(不意に窓から2人を見下ろしてニヤニヤとしていた第二部隊の隊員たちの方へ視線を移し)……お前ら、王都じゅうのショートケーキを買い集めてこい!(今度ははっきりと、その整った顔にやや悪戯っぽい笑いが浮かべられた。)……まずは、これが無いと始まらないだろう?」
「っしゃーーー!!伝説のショートケーキ訓練だ!!!」
「ついにあれが目の前で見れるのかwww」
「おい!すぐ手分けして集めるぞ!!」
(第二部隊隊員たちが盛り上がって各々ハイタッチをキメる傍ら、同時に謎の黄色い悲鳴も上がったような……)
マベ「それは感覚の問題っつーか俺の…、(不意にゲラルトの出した大声にびっくりして、その悪戯っぽく笑う顔とまだ窓の向こうにいた隊員達とに交互に目をやった。)……オイ。……おいゲラルト!!お前、それはヤらなくていいだろうが!!……おいテメエら!!何喜んでやがる、午後の予定は変わらねえからな!?オイ聞いてんのか!!!…………、手作りして変なモン仕込んだらブッ飛ばすからな!?…………。(すっかり盛り上がってしまった部隊に参ったとでも言うように頭を掻き、大げさに溜め息を吐いた。)」
ゲラルト「……………。(マベがいつもの様子で周りに怒鳴り散らしはじめた様子を見て一度目を伏せて、また視線をあげた。)部隊員の前であんな暗い顔をしてはならない。上に立つ者になる覚悟があるのならな。(思いのほか穏やかな声色でそう言った。この馬鹿騒ぎはマベの暗い気持ちをどこかにやってしまうためだったのかもしれない。またどこか違うところを向いて。)……さあ、何個目まで平常心を保てるだろうな?」
マベ「(動きを止めてゲラルトをまじまじと見つめた。穏やかな声色の奥に何かを感じ取ったのか、ほんの少し目を泳がせた。相変わらず眉間に皺は寄っているが、雰囲気は普段のマベに戻りつつある。)………そうだな。俺はお前の真似は出来ないが、やれることは全てやってやる。……よろしく頼む、隊長。(スッと一歩引き、深く頭を下げた。数秒して顔を上げると、何かを思い出すように小首を傾げて。)………15個だ。ホールじゃねえぞ?それ以上食わせようとしたあの人に頭突きしたとこまでは覚えてる。…あー……今思い出しても鳥肌立ってくるわ。人間の沙汰じゃねえ……(本当に気持ち悪かったのだろう。肩をすくめて両腕を擦っている。)」
ゲラルト「私の厳しさは知っているだろう?(マベの行動が終わるまでどこか別のところをぼんやり眺めていたが、短く返事とも言えない返事をしたあと、第二部隊が使用する建物の方へ歩き出した)……倍はいくか。根をあげたら、あの人もやっていた例の感覚調整をシェズム式でやることにするか。(そのまま建物の入口へと姿を消した。)」
マベ「“厳しさ”?………ッハ。そんな生易しい言葉で済むわけねえだろ。……わかってるさ、…………。(おどけた調子からだんだん真面目な様子に戻る。「わかってる」と言った後、ゲラルトの視界から自身が外れたあたりでぞくりと背筋が震えそうになったのを片腕を握り締めることで押し殺した。)…………は?倍?ふざけんな。余った分はお前が食えよ?食い物粗末にするとバチが当たるぞ(妙にまともなことを言いながらその後を追った。思わず身震いするほど過酷な調整訓練が待っているというのに、その足取りは、ここへ来た時より軽い。)」