(ーーー建国祭の後、しばらくしてから。
ウライオス本部、作戦会議室としても使われる簡素な造りの一室。数人の男達が思い思いに腰を下ろし、手元の調査報告書を確認したり作戦内容に耳をそばだてたりしている。)
マベ「ーーー以上だ。本筋はいつも通りってトコだが、今回は不穏因子とやらが幾つかある。その辺りはどうだ?」
隊員A「例の✕✕✕ですが、あの一件以来動きはありません。」
マベ「ま、あれだけ手酷くヤられりゃ暫くは動けねえだろうよ。……連中、殺気立ってなかったか?」
隊員A「………いえ、………そこまではーーー」
マベ「(困ったように首を傾げた。)…オイオイ。困るぜ?敵の動向を探るっつーのはなア、怪しい動きをしてないか目を光らせときゃいいってモンじゃねえんだよ。些細な目の動きや、仕草の変化にも逐一気をつけな。奴さんだってその道のプロなんだぜ?そう簡単にゃァ尻尾は出さねえよ。」
隊員B「……あの……マベさん」
マベ「ん?」
隊員B「✕✕✕は今回の対象よりずっと小さな組織で、例の一件でまともに動ける構成員も僅かです。何故そこまで気に留める必要があるんですか?」
マベ「(黙って座り直した。)………✕✕✕をヤったのが俺達なら、ここまで懸念はしねえんだがな。(目を細め、眉間に少し皺を寄せる。)…あの一件は、同士討ちだ。✕✕✕は組織自体は小さいが、義理堅く武闘派で喧嘩っ早い。”弱いものいじめ”されて黙ってるような連中じゃなさそうだ。……お前らがあいつらなら、どうするよ?」
隊員C「そりゃ売られた喧嘩は買う。な?」
(一同がそれぞれ頷く。)
マベ「だろ?(にやりと笑った。)勝てる見込みのない相手でも最後に潔く散って、一花咲かせてやろうぜって気になンだろ?それにもってこいの場所が、今回の競売ってワケよ。(机に両肘をついて手を組み、見えない目を細めた。)………ま、そういう訳だ。いつも通りであれば、それでいい。心してかかろうぜ。対象の組織の規模もデケェ。長い付き合いになるかもしれねえからな。(音を立てて椅子を引きずるようにして立ち上がった。)」
隊員B「…あ、そういえばマベさん。待機命令出てたんでしょ?女どうしてたんすか?」
マベ「は?女ァ?」
隊員A「あ、それ俺も気になってました。やっぱ呼んでたんですか?アレ(にやにや笑いながら)」
マベ「……………。………お前らなァ。(はあ、とわざとらしく溜め息を吐いた。)想像に任せるよ。(踵を返し足早にドアのほうへ向かう。)…気になって仕方ねえ奴ァ出撃前に抜いとけ。以上、解散。△時集合、忘れんな。」
隊員A・B「へーい」
マベ「(一度外に出ようとして、ばっと振り向いた。)………ゲラルトの奴に余計な告げ口したら容赦しねえからな。(で、音を立ててドアを閉めて出て行った。)」
隊員C「……見たか?」
隊員A「顔が割とマジでしたね」
隊員B「ありゃ呼んだな。女。」
(バンッ!!と乱暴にドアが開け放たれた。)
マベ「聴こえてンぞテメエら!!!アホなことぬかしてねえでとっとと支度しろ!!!」
隊員A「うわっ!!」
隊員B・C「(手慣れた様子で)了解しました!!」
(マベの舌打ちとともに、また勢いよくドアが閉められた。)
—
(暫く後、とある競売会場の一室。豪華なその部屋には人組の男女がソファに座っているのみで他には誰もいない。
部屋の外からわっと歓声が聞こえたのと同時、ミルクティベージュのミディアムヘアをアップスタイルにし、プリザーブドフラワーで作った髪飾りをつけた少し幼げな印象の女が、窓の方から入口の方へ顔を向けた。夏の夕暮れを思わせるような紫色のドレスは肩口が大きく開き、スカートは軽い生地が幾重にも重なり足先まで隠している。いつもと雰囲気は違うが、その耳に揺れる”バラのモチーフのピアス”だけがその人がミラであることを示している。)
ミラ「……盛り上がってる。あんなの、何が楽しいの?(男に寄り添ったまま、淡いピンクの大きな目でじっと扉の先を見つめている。)」
男「(傍らにいるミラを見て、機嫌よく笑った。)はは、まあそう言うな。みんな珍しいものが好き……、それだけなんだ。コレクションか愛玩用にでもするんだろう。」
ミラ「えー、でも、本当に珍しいのは売らないんでしょ?(ちら、と機嫌よく笑う男の顔を見た。)」
男「ああ。本当に使えるモノは国外に流すのは勿体ない。そういうのは、素材を活かせるところに流さないとな。」
ミラ「素材を活かせるとこ? ん……私、よくわからない。(頬に手を寄せて、きょとんとした顔をしながら首を傾げる。)」
男「(女の仕草に思わず笑みを零して、肩から背を撫でて。)とある研究所だ。まー、難しいことは俺にもわからん。」
ミラ「研究所って。(ぱっと顔を上げた。その目の奥が獲物を捕える獣の様に鋭さを増したが、気付ける人はそう多くはないだろう。)前、シンイキって言ってたあれのこと?(その視線をいかにも媚びるような熱を帯びた目に変え、ほんの少し唇をむにゅ、と尖らせた。)」
男「お前にゃ、もっとわからんだろ。息子がそこにいてなあ。……。(女の目をじっと見て、何の素振りもなくその首筋に口付けた。)」
ミラ「(男の視線の届かないところで、先程までの可愛らしい表情をころりと変えて心底嫌そうな冷たい目をした。)……ん、や…♡ 鍵閉めてないのに……誰かに見られたら、恥ずかし……。」
男「大丈夫大丈夫、お前が思ってる程のことはしない。少なくともここではな?」
ミラ「……あ。跡つけたでしょ!(顔を赤くしてぺち、と胸元を叩いた。)もう~、”メッ”だよ? 息子さんの話、聞きたいなぁ。きっとすっごく頭良くて立派な人なんだろうなぁ。」
(男が何か言いかけたところで、扉がノックもなしに勢いよく開けられ、部屋の中にいた2人がハッとそっちを向いた。)
男「おい!何事だ!?ノックくらいしろ!!」
部下「す、すみません、ですが、ヤツらが……!!」
男「ヤツら!?誰のことだ!?」
部下「この間の、✕✕―――(言いかけたところで急に言葉が途切れ、そのまま膝を床につけ、手をつくことも無くばさりと前に倒れた。)」
(倒れた男の背後に、目付きの悪い男が立ちはだかっている。その手には匕首のような短刀が握られ、その刃には誰かのものらしき赤黒い血とたった今男を刺したときの鮮血がべっとり付着している。)
男「ようロリコン爺……、この間の落とし前、つけてもらうぜ。まずは手始めにそのガキをこっちに渡してもらおうか。(ゆっくりと二人に近づきながら、その鋭く血走った目がミラを見つめた。)」
ミラ「……! 面倒臭いことに巻き込まれた感じね……。(傍に居る男にぎゅっと寄り添おうとするが、盾にでもするかのように両肩を押されてしまう。さっきまでの可愛らしい笑顔から普段の”悪人面”に変わって。)……は!?愛人のひとりも護れないで裏組織のトップやってんじゃないよ!!!」
男「……イキがってんじゃねえ。てめえが望むならガキの命の一つや二つどうってことない。俺らはそんなことに頓着するようなおたくらみたいなちっせえ組織じゃねえ。(とんとミラの背を押すように前に突き出した。)」
ミラ「まじでクソだわ……!!オメデタイのはお前の頭だけにしとけよロリコン不全ジジイ!!(前に立たされ思い切り悪口を言いながら、片手でスカートの裾を掴んだ。じっと現れた男の出方を見ている。)」
匕首の男「その小っせえ組織を血眼になって潰したのはおたくらだろ。(目の前に立たされたミラに顰めっ面を見せた。)……まったく、肝もケツの穴も小せえ野郎だ。わかってねえな。こっちが望むのはてめえの命ただ一つよ。あんたの可愛いお人形は、全て終わってから好きにさせてもらうぜ。(短刀を握ったまま男に詰め寄る。動線上のミラはもう眼中に入っていない。薬物でもキメているのか、目が据わっている。)」
(その時、建物の別の場所からまた声が上がった。今度は歓声ではなく悲鳴や絶叫が混じっている。同時に何かが炸裂するような音が次々と響き渡り、建物内の至る所で何かが起こっているらしかった。)
匕首の男「何だ………!?(予想外だったのか、男の注意が一瞬外の方に逸れた。)」
ミラ「好きになんかさせるわけないでしょ、バァーーーーーカ!!私はお前らみたいな人間の底辺みたいな男に買われるような安い女じゃないんだよねぇ。(軽く地面を指さした手の手首から先を軽くはね上げると、部屋の中が一瞬だけ目を開けていられないくらい眩い光に包まれた。光の加減で足元に陣が出たのかは見えなかったが、それがおさまった頃にはミラは入ってきた男の傍を短刀を持つのと逆側からすり抜け、扉付近まで移動し、そのまま廊下へと駆け出していく。)」
匕首の男「!!!(あまりの眩しさに片腕で目元を覆った。閃光の中で何事か悪態を返したが、まだ目を開けられる状況ではなくミラを逃してしまう。)」
(ミラの向かった先、広い廊下の上で先程の男の仲間と思われる男達やこの組織の構成員達があちこちに転がっていた。うめき声を上げている者もおり、あちこちに血が飛び散り、奥のほうでまたなにかが破裂するような音が聞こえた。)
「………おい。ガキがいるぞ。奴の女じゃないか?……捕らえろ!」
(ミラの背後から声がした。廊下の向こう側からこちらへと男達が走ってくる。刃物や杖を手にした者もおり、魔術師と非魔術師の混成部隊らしいことがうかがえる。)
ミラ「(持ち上げたスカートの裾から見える足には、珍しくほぼフラットな靴を履いている。それもあってか、ドレスを纏っているとは到底思えないほどの身のこなしで転がる人間を軽々と飛び越えていく。)うっ……わあ、……ひど……、 (建物内を”全て把握してから”来たミラは、全く迷うことなく駆け抜け、暫く行った先のドアを開けようと手をかけた、が。)……あれ!?うそ…………!?(何かがつっかかっているのか、ドアは開かない。)」
✕✕✕の男「鬼ごっこは終わりだ……、」
(不意に背後から声がした。振り返ると得物を持った男達がミラを取り囲もうとにじり寄ってきている。)
杖を持った男「…娘一人ということは、奴がボスをやったのかな?」
✕✕✕の男「どうだろうな……合図がないが……。こいつは上玉中の上玉だ、手に入れておいて損はないだろ。…覚悟してくれ嬢ちゃん。あんたに恨みはないが、俺達にも通さねえといけない筋があるんでな。」
(男達がじりじりとミラとの距離を詰めていく。正気の者もいれば殺気立ち狂ったような目つきの者もいて、その世界の人間特有の表情をしている。)
ミラ「(はっと振り返って近づいてくる男たちの方を見る。目線がその人数をざっと把握して引きつった笑いを浮かべて。)あのさぁ、私はちょっと欲しいものがって来ただけで、そこらの客と何ら変わりないよ? 美しすぎる自覚はあるけどぉ……。(急に足元に魔術師の使う”陣”が現れる。)……チッ。間に合え……!(つま先で床を打って転移術式を展開するつもりで、長いスカートに隠れた片足を少し持ち上げたが……)」
杖を持った男「遅いな!そんなんじゃ間に合わないぜ!」
(男が杖を振るとほぼ同時に魔術陣が展開する。他の者達も飛びかかろうと身構えるが……)
「ーーー遅せェな!!そんなんじゃパーティーに間に合わねえぜ!?」
(場の空気を一気に変えるような一声が背後から響き渡った。杖の男が思わず振り向いたその頭上から、茶髪の男が黒いロングコートを靡かせて現れた。杖の男を踏みつけて床に倒すと、呆気に取られる男達を次々に殴り飛ばし、向けられた凶器を躱しながら一人ずつ倒していく。)
ミラ「遅くないし!これが普通でしょ……!(咄嗟にギュッと身を縮め、頭を守るように両手を耳の辺りに置いた。結果的にその場に現れた人の声が良く聞こえず、目をつぶったまま身構えていた。)…………。…………?(が、誰にも襲いかかられることはなかった。俯いたまま、閉じた目を薄く開けた。)」
杖の男「貴様……!!(起き上がり、逆上して背後から杖で殴りかかろうと)」
マベ「(振り返りもせずに裏拳を男の顔面に軽く当てるようにして倒した。)…………っふー。……よう、ケガしてねえか?(呆れたように一息つくと、ミラに近づき俯き加減になって視線を合わせる。濃淡のはっきりしない瞳だが、確実に相手を見ていることをわからせる視線。)…ここはおチビちゃんの遊ぶようなとこじゃねえ。俺について来な。(言葉は冗談めかしているが、その顔は真剣そのもの。ミラの眼前に男の大きな手を差し出した。)」
ミラ「(恐る恐る顔を上げた先に居たのは、よく知った黒いコートの、よく知った人物。あの時以来見ることのなかったその姿に驚いたのか、はっと目を見開いた。)……っ……、……。(思わず何か言いかけたが、掛けられた言葉から恐らく自分が誰であるか気付かれていないのを察した。問いかけに黙って何度か頷いて答えただけで、俯き加減になって顔を合わせようとせず、差し出された手をじっと見つめたまま固まっている。)」
マベ「(ミラの仕草にも手慣れた様子でもう少し深くしゃがみ込んだ。恐怖や猜疑心で動けないのだろうと思ったようだ。)……だァいじょうぶだ。怖くねえから。これから安全なところまで連れてってやるから、ついてきな。(この場に似つかわしくない穏やかな表情をしているが、ちらと視線を外して何かを考えた。)
……とはいえな。ちィとややこしいことになってんだわ。今この建物ン中で、2つのグループが魔術ぶっ放し放題喧嘩し放題の大盤振る舞いをやってやがる。互いに面合わせた瞬間攻撃が飛んでくる乱戦状態だ。……お前、そんな中ァその”なり”で走れるか?さっきは随分頑張ってたみてえだか。(その美しいドレス姿を見えない瞳が見つめた。)」
ミラ「(こくりとまた頷いた。遠慮がちにちらりと向けた視線は、恐怖がすっかりどこかへ行ってしまったように穏やか。)……”あなた”ほど早くは走れないけど、大丈夫……(普通なら聞こえないくらい小さな小さな声で喋っていたが、通路の先から聞こえた音にはっと視線を向け、大きな手を掴みかけた。少し躊躇ったミラの手が、人差し指のさきのあたりだけ少し引っ張った。)……来てる。」
マベ「…おし、いいコだ。(黒眼鏡の奥の瞳がニィと細められた。ミラが視線を向ける直前にその鋭い聴覚が物音を捉え、立ち上がって背後を少し気にした。)……この先は行けねえでもないが、血眼になった奴等がウヨウヨしてやがる。鉢合わせすると面倒だ、迂回するぞ。(人差し指を引っ張るその手を一度優しく握って離した。二人のすぐ横の通路を顎で指す。)………行くぞ。俺の背中だけ見てろ。走れなくなったら言え!(背を向けて走り出した。魔術補正のない軽い身のこなしで、決して同行者を不安にさせない、それでいて速い走り。男達が床に転がっているのを避けながら、時折ミラのほうを振り返る。)」
ミラ「……っ、(握られた手が思いの外優しく、もう一方の手を反射的に自分の胸元でぎゅっと握りしめ、ほんの少し上がった体温を悟らせないようにすぐに手を離した。)……わかった。全部、任せるから。(慣れた手つきでスカートの裾をあげて走り出す仕草も、その後床に転がる人間を避けながら走る身のこなしも、明らかに”ただのガキ”ではない。が、元々の運動能力の違いがあり、その後ろをピッタリとついていけるわけではない。)」
マベ「……………。(背中を向けている間もミラとその背後に細心の注意を払う。その過程で、彼女の普通でない身のこなしに気付きはしたが特に気にする素振りは見せない。)…お前、人質じゃねえな。誰かに金で買われてここに来たのか?
(通路をひた走っていたが、前方と後方から気配を感じ取り床の上を滑るようにして止まった。)…………伏せろ!!」
(マベの前方とミラの後方に一人ずつ、それぞれ武器を構えた男達が急に飛び出してきた。)
ミラ「(必死で取り繕う暇が無かったその”玄人感”のある動きを指摘され、うっと顔を歪ませた。)……私は、その、ロリコン爺の愛人っていうていで……、 は、……わ!!!(前を走っていたマベが急に止まったのを見て止まろうとはするが、なにか言おうと考えていたために反応がやや遅れ、前のめりに転びそうになる。そのまま結果的に伏せる形になるかもしれないが…)」
マベ「ッ!!(前のめりになったところへ飛び込み、低い姿勢でミラを抱き留めた。そのままスライディングしながら身体を捻り、太腿のホルスターからナイフを引き抜いてミラの後方から迫る敵目掛けて投擲した。)
挟み撃ちでお姫様ァ奪おうってのか!?ーーー三下が!!(ザクッというイヤな音に耳を傾ける暇もなく勢いそのままに、ミラを抱く手を瞬時に持ち替えてもう一本を前方の敵に放つ。)」
(またイヤな音がして、男達が呻きながらその場に倒れ伏した。急所を外してはいるが、刃渡りの長いそれが刺さっていては動けるはずもない。)
ミラ「(前のめりになる体を支えようと伸ばした両腕がマベの胸の辺りに触れ、そのまま抱きとめられた。ちょうど胸の辺りに頬がぴったりくっつくことになったが、男たちが倒れ伏すほんの一瞬の間には事態が呑み込めず、そのまま大きく息を吸って吐いてを繰り返していたが、急にその顔が赤くなっていき……)…………!?(それを隠すように咄嗟にむぎゅっと胸に顔を埋めた。)」
マベ「……………。……………?(ミラを抱えてナイフを投擲した格好のまま辺りの様子を窺っていたが、自分の胸に顔を埋めたのに少し怪訝そうな顔をした。)おい……もう顔を上げても大丈夫だぜ。どっか捻ってないか?(言いながら、ミラの足を床につけるようにそっと下ろす。)………で?ロリコンジジイの愛人が何だって?そーいやァこの組織のボスはガキみてえな女を好き好んでるって話だったが、まさかお前ーーー」
(マベが何事か続けようとしたとき、今度は少し向こうのほうから複数名の走る足音が近付いてきた。今の男二人とは違い、別の方向に伸びる通路の奥から何やら焦って話をしながら走ってくる。)
ミラ「(こくこくこくと頷いて大丈夫だと伝えたが、くっついた身体から鼓動が伝わってしまうのではないかと気が気でない。明らかに肌から伝わる体温が上がっている。)私はどっちの組織のひとでもないし、客でもない……、ロリコンが私の欲しいものくれるっていうから…………(は、と通路の方を見た。走った直後でまだ息が整わないが、不思議とその顔から不安は感じられない。)」
マベ「(目線は音のする方から外さない。その眉間の皺が少し深くなった。)………目先の欲に囚われンな。こういう世界で生きる男について行くとな。最悪、死ぬより辛えことになるぞ。…………!(音が近づいてきたのに合わせるように、ミラの背後の壁に片手を突いた。)ーーやり過ごせる。壁にピッタリ背ェつけな。…何があっても声は出すな、できるか?(ぐっと身を屈めて顔を近付けた。黒眼鏡の奥からその目が真っ直ぐ見つめてくる。)」
ミラ「違うの、私にとっては大事な―――、(壁についた片手をハッと見て、)はっ…………!?ちょ、っと待って、(これまでどことなく逸らし気味だった顔をあげてはっきりと向けてしまった。)私、走ったばっかりで……っ、心拍数上がっ……(思わずあまり意味をなさないとわかっていながら、押し返すような仕草をした)」
マベ「(押し返されるような仕草に片目を細めた。ちょっと怒ってるような表情。)ーーー死にてえのか?心拍気にして心臓止まっちまったら意味ねえだろ!?(有無を言わさずその長駆を押し当てるようにして密着した。壁と自分に挟まれてミラが潰れてしまわないように、その背と壁の間に手を差し込む。口調と圧力は乱暴ながら、出来る限りの力加減はしている。)……動くなよ?呼吸も、できるだけ浅くしろ……!」
(その刹那、バタバタと複数の足音が近づいてきた。かなりの大人数になったらしく、足音がなかなか遠ざからない。)
ミラ「……んっ……(ぎゅっと密着する形になり困ったような表情をして鎖骨のあたりに顔を埋め、左耳につけたピアスが揺れて本当に小さな音を立てた。鼓動がどんどん跳ね上がるのを抑えるように静かに息を吸って吐いてを繰り返すが、なんだかもう耐えられなくて、思わず黒いコートの脇の辺りをぎゅうと握った。)」
マベ「………………………。(鎖骨に温もりを感じたのとほぼ同じタイミングでその耳が僅かな音を捉えた。聞き覚えのある音にはっとしたが、まだ身体は動かさない。脇の辺りを掴まれても身動き一つせず、騒々しい一団が過ぎ去っていくのをじっと耐えた。)
………………、………………。(足音が遠くへ行ってしまうと、長く細い息をゆっくりと吐いた。抱き締めていた手とピタリと寄り添っていた身体をそっと離すと、一度廊下の向こうへ目を向けた。)………行ったみたいだな。(で、くるりと顔をこちらに戻した。)………お前。ミラだろ?」
ミラ「…うん、…そう、だね……。(一応返事はしたものの全然上の空な様子。廊下の向こうに消えた音すら追わずに、じっと顔を見つめていたが、顔の向きが戻った時にバッチリ視線があう。)……。……は!?!? えっ、あっ、ち、違うし!!!?(思わず両頬に手を当てて顔を隠した。)」
マベ「その反応見てハイそうですかって引き下がる奴ァいねえだろ……(呆れ気味に笑った。)そこのピアスは必ずつけンだな、お前。(自分の左耳を人差し指でちょんとつついて。)ーーーで?まァァた危ねえ橋渡ってンのかお姫様はよ。”この騒動”が起こらなけりゃ、ロリコン爺に変態プレイ要求されてたかもしれねーぜ?えェ?(しかめっ面で両手に腰を当てた。)」
ミラ「わぁぁあ~お姫様とか言うのやめてよおお恥ずかしい……最悪……久々に会うのがこんなだっさいロリコン爺仕様なんて……。(恥ずかしいせいなのかなんなのか、耳まで赤いのを両手で隠したまま。)あー……えー……ちょっと、どうしても欲しい情報があったから……。……。……。(叱られている子供みたいに、じっと視線だけで見上げた。)……ごめん、こんなことになってるって知らなくて。」
マベ「なァに恥ずかしがってンだ。どんな格好でも胸張れよ、それがプロってモンだろ?(やや不機嫌そうな顔をしていたが、それを和らげた。)…………いや…、………こうなっちまったのは俺の詰めが甘かったせいだ。悪かったな、巻き込んじまって。(眉間に皺を寄せた。)…簡単に説明すると、お前さんの目当てのロリコン爺が先日、使いっ走りにしてた弱小組織をひとつぶっ潰しやがったんだ。で、頭にきた連中はひとつ死に花咲かせてやろうってェ魂胆で、今日ここで開かれる競売に乗じて乗り込んできやがったってわけだ。……お前、ロリコン爺が死んだとこ見たか?」
ミラ「ドレスだって化粧だって可愛い自覚はあるけど、こんな子供みたいな姿、アンタには……、(言いかけてやめた。軽く首を横に振る。)ううん、私の自己責任だから気にしないで。 あー…でもそれにしたって向こうは太刀打ちできる規模感じゃないし、まさかこんな…………。ん?いや……見てない。盾にされたから悪態ついて飛び出してきた。(そ、と自分の胸のあたりをひとなでして。)」
マベ「………………。(やはりどこか不機嫌そうな顔でミラをじっと見ている。)…それでも一矢報いたかったんだろうよ。潰された方の組織は残りカス程の戦力だった、仮に乗り込んできやがっても俺達でぶっ潰せると踏んでたんだが……。……情けない話だぜ。(言いながら、ゆっくりと歩き出す。)そうか。俺のホンボシはそいつだ、お前を盾にしやがった分倍返ししてやりてえが…、このザマじゃ生きてねえかもしれねえな。(人気のなくなった廊下に出て、辺りを見回す。)……お前を外に逃がしたら、俺は戻ってロリコン野郎を探す。残念だろうが今回は諦めな。」
ミラ「………………。……あ。……ねえ、待ってよ…!(不機嫌そうに見つめられてしばらく固まっていたが、歩き出したのを見てはっとして、その後ろをとことことついて行き、少し袖口を引っ張った。)情けなくなんかないよ。また助けてくれたじゃん。やらかしたと思ってビビってたのに急にアンタのに……ンッ じゃなくてっ!!えっと……!?あーーーーー知ってる人が現れたからほっとしたっていうか……!(何か言いかけたのを誤魔化したらしいがめちゃくちゃ動揺している。)いいよ、次のアテはできたし。私は自分で外に………………、」
マベ「(袖口を引っ張られ、はっとして振り向いた。なにかを誤魔化したのを不思議そうに見て、少し肩の力を抜いた。)………こんな場所でスカートの裾持って足出して逃げまくってるお姫様がいたら、そりゃ助けるだろ。(口の端をちょっと上げて笑った。)……イヤ。一人は危険だ。情けないっつった理由は他にもあって、思ったより敵の人数が多いのと、おそらくあいつらーー(言いかけてカッと目を見開いた。飛びかからんばかりの勢いでミラを抱き上げ)ーーッカ野郎!!!(お姫様抱っこして走り出し、天井に頭をぶつけそうな高さまで跳躍した。その足元、先程まで二人がいたところに背後から火球のようなものが飛んできて、轟音とともに炸裂する。爆風で跳躍距離が延び、身体が浮き上がるような気持ちの悪い感覚とともに前方に押し出される。)」
ミラ「関係ないやつのことなんて突き放す人がほとんどだよ。アンタらは仕事上、そういうわけにはいかないのかもしれないけど。(少しほっとした表情をした。)あのさぁ。気持ちはわからなくもないんだけど、私も一応、時間さえあれば外に移動するくらいでき……、(急に抱き上げられたことに驚き、顔を上げて何か問いかけようとしたが)……ひっ!? んぅ、やだっ……!!(そのあとに続いた音にびくりと体を跳ねさせた後、腕を回して首元にぎゅっとしがみついた。)」
マベ「ーーー!(耳の近くで発せられた声にびっくりしたがそんな様子は微塵も見せず、前だけ見つめたまま着地して走り出した。追い風で加速し常人では出せないスピードで跳ぶように廊下を駆け抜けていく。)……しっかりつかまっとけ!!………その”時間”が無ェんだよ。初めの頃は話も通じたが……、あいつらちィとでもこっちの気配を感じたら全力全開でぶっ放してきやァがる。(チ、と忌々しそうに舌打ちして。)…ありゃ何か”キメてやがる”。」
ミラ「この状況で手を離すほど馬鹿じゃないし……!!(一度首元にくっつけた顔を少しあげて、後方に何かついてきていないか確認した。)敵が区別できてないのかな。完全に目がイッちゃってる奴もいたし、あんなの会場の外に出ちゃったら大変なことになるよ……。 (時々会場のどこかから聞こえる大きな音にびく、と身が強ばる。)…っ……怖ぁ…。」
マベ「だろう?だから俺達で一人ずつご丁寧に気絶させてふん縛ってよォ、時間がいくらあっても足りねェってモンだ……ッ!!(通路の十字路を通り抜けようとした瞬間、横から火を纏った矢のような魔術が飛んできた。一発目は走りながら躱し、残りは風の防壁で進路を逸らされ壁に突き刺さった。そこからゆっくりと炎が壁を燃やしていくが、気に留める余裕はなく走り出す。)………怖いだろ。もう少しで仲間の待機している部屋に着くから、目ェ瞑っとけ。(あちこちから爆音が聞こえる中、一瞬優しい笑みを向けた。胸元へミラを引き寄せるようにして抱え直す。)」
ミラ「そんなの生かしとく必要あんの?アンタら別にあいつら殺したって何の罪にも問われないんだし…。時間無いなら私のことなんかに構ってないでそのへんに放って仕事…………(自分に向けられた優しい笑みに目を見開いた。)あ、……、……何、マベさんのくせに、そんな、…………(恥ずかしそうに顔を逸らして何かもごもご言ったようだが、周囲の騒がしさもあってよく聞こえなかった。)」
マベ「あいつと一緒にするな、俺は必要な時以外は極力殺さねえ。……できるだけ多くの奴等から証言取って、次の取引を未然に防いで、いつかこういう犯罪に関わる組織を根こそぎ潰してえんだよ。(それがどれ程難しいことを言っているか、眉間の皺が全て物語っている。)………だがここまで乱れに乱れちまったら、今回ばかりは厳しいかもしれねえな。おまけになにかイヤな予感がしやがる。(ミラが何事か呟いたのには頓着せず、真っ直ぐ前を見つめた。その目前に一際大きな扉がある。今日特に賑わっていた大広間に繋がっているようだ。)」
ミラ「必要だから殺してるんだと思うよ、一応は…。何かさ、そのツラの割に……っていうと失礼かもだけど、真面目だよねぇ。この間だって…… (は、と扉の方に目線を向けた。先程まであまり不安そうな素振りは無かったが、少し身構えたのかぎゅっとくっついた。)大丈夫かな。競売に出される子たちもいたはずだけど。」
マベ「……。……わかってる。(短くそれだけ返した。)おう、取り締まられる側みてーな顔してっけど根は真面目なマベ・マヘス様だぜ?(ミラの気分を和らげるためか、この状況下でおどけた表情を見せた。)…安心しな。競売にかけられた人間は全員救助したと報告を受けた。問題は、それ以降の連絡がまったく取れてねえってことだ。本来ならこの先に分隊の仲間がいるはずだが……、(ゆっくりと扉の前まで近づき片目を細めた。表情が芳しくない。)……ミラ。お前一人で逃げてえってんなら、これが最後のチャンスかもしれねえ。逃げるなら、一気に本部まで飛ぶ。」
ミラ「あは、それ、私が初めて会った時に言ったやつ。(少し表情が和らいだ。目を細めて、困ったように笑う。)……よかった。関係ない女の子たちがこんなの見たら、トラウマになっちゃうだろーし…………。(急に温度が下がったみたいに真顔になり、珍しく状況の悪さを隠そうともせず表情に出したのを見ている。)私を逃がすために時間食ってる間に、他の隊員がやられたらどうすんの? 自分が傷付いたって仲間を助けるのがアンタのやり方でしょ。なら、私もそのやり方に乗るよ。 大丈夫、例えポンって放り出されてもしぶとく生き残ってやるし! …………行かなきゃ。ね?」
マベ「よく覚えてンなァ?(に。と片目を細めて笑った。)………そういうお前も、色々見ちまっただろ。こっから先のほうがもっとトラウマになるかもしれねえぞ。いいんだな。(疑問形ではなく、ミラの覚悟を理解した上での肯定。どこからか、焦げ臭い匂いが漂ってくる。先程の魔術で壁から火が燃え広がっているのかもしれない。)………随分俺ンこと理解してくれてンだなァ。こりゃロリコン爺から貰い損ねた分、補填してやらねえとなアァ!!(ミラを抱えたまま、大きく扉を蹴飛ばした。)」
(大広間は大理石の床に青いカーペットが敷かれた広い一階と、木製の大階段で繋がる二階に分かれていた。その中には✕✕✕の構成員と思しき男達が十数名こちら向きに立っているが、皆一様に俯いており表情がわからない。その中央で唯一こちらに顔を向けている男が口を開いた。)
匕首の男「…………何だ。逃げなかったのかメスガキ。良いボディガードを雇ったんならさっさと逃げればよかったのに。」
ミラ「大丈夫だよ、ある意味もっとグロいもん見てきてるから。今度話してあげよっか?(冗談めいたことを言っていたが、扉の向こう側が見えて息が詰まってしまう。)………さっきの覗き魔じゃん。さっきその”メスガキ”に向かって『全部終わったら可愛がってやる(性的な意味で)』って言ってなかった?アンタもロリコンじゃん。アンタみたいなラリった目してる男より、こっちのロリコンの方がいい男だもんねーっ。(べ、と舌を出した。混乱しているのか、若干間違ったことを言っているが?)」
マベ「……そうか……残ったのはテメエらか✕✕✕…。予想外だったぜ。俺達の目を掻い潜るたァやるじゃねえか。ロリコン爺はどうした?まさかもう墓の下か?(鋭い視線を向けて口元だけ笑っていたが、ミラの言葉で別の意味で険しい表情になり)………おい。おいミラ……。男前を褒めてくれンのはいいが俺はロリコンじゃねえ。何言ってンだお前……(一応口調だけは優しい。)」
匕首の男「(二人の様子を一切気にも留めず)……”あの方”には先に逃げていただいた。これは組織内の不穏分子を抹殺するための計画であり、新しい”商品”の具合を試す絶好の機会でもあったんだ。お前達が早々に人質を救出したのは予想外だったよ……、お陰で✕✕✕どころか、我々の仲間にも犠牲になってもらわなければいけなくなったじゃないか。責任を取ってもらわねばね。」
(匕首の男の言葉を合図に、他の構成員達が顔を上げた。皆一様に目が赤く染まり無表情だが、凄まじい殺気が伝わってくる。よく見ると彼らの足元には注射器や試験管が転がっている。)
ミラ「……は、何?マベさんロリコンだったの?(無意識に言い間違ったらしく、首を傾げて尋ね返した。)ねえ、私頭悪いからさあ。馬鹿にでもわかるように言ってくんない? ……。アンタら全員死ぬべきってことであってんの? ……。(目をぐっと細めた。)……なんで今日この日に限って、私はここに呼ばれたの? 呼べば巻き込むのわかってたんでしょ?」
マベ「そんなピンポイントの趣味に走らなくても女にゃァ苦労してねーよ。……要するにこいつはロリコン爺側の人間で、身内ン中の可愛くねえ連中を自分の手を汚さず粛清するために、✕✕✕をぶっ潰して報復行為に走らせたってこった。
(足元のモノに気づいているらしく不愉快そうに眉間の皺を深くした。)……あの狂乱ぶりはそのクスリのせいか。人質にも打つつもりだったのか、テメェ。」
匕首の男「…噂通りやかましい男だな。お前のボスは吠えグセのある狂犬一匹躾けられないのか?(冷徹な、少し血走った目でミラに目をやった。)…お前をここに連れて来ようと提案したのは俺だ。……お前、あの方に例の件についてそれとなく聞いてたろ?あの方はお前を気に入っていたが、俺は反対でな。引き離した上で然るべき処置を取るつもりだった。………本当に悪運の強い奴等だ。(マベとミラを交互に見て初めてその顔に感情を浮かばせた。)」
ミラ「ほあー……回りくどいことするなあ。かっこ悪。(はあ、とため息をついた。)……それとなく? いんや、普通にぜーんぶ頂いたよ。爺が私の腰やら胸やら触って、首筋にきっしょいキスマークまでつけてくれた間にね。あれだけ”触り放題”なら、なんでも手に入っちゃうよ。(にやり、と悪い顔をして笑った。)……ねえ。ナメすぎじゃない?本当に悪運だけで乗り越えてきたと思ってんの?刀だけじゃなくて脳みそもちっちゃいわぁ♡ (急にその表情がふっと冷めて。)……確かに思ったこと口に出しちゃって女を泣かせる馬鹿な奴だけど、困ってる誰かを見殺しにしたりしないんだよ。……。マベさんが狂犬って自称するのはいいけど、お前が言うなバーーーーカ!!気に入ってる愛人ひとり守れない奴なんて”ボス”に相応しくないね。こっちの”ボス”はもーーっとイケメンで、もーーっと強いんだから!……以上、死ね!!(ひとしきり言いたいことを捲し立てるように言った。)」
マベ「………ミラ、お前なァ………(言いたいことは色々あるようようだが、今は呆れて溜め息を吐くだけに留めた。その口元を歪ませるようにして笑い、凶暴な鋭い目つきで男を睨んだ。)……ま、そんなとこだ。俺からも罵詈雑言ぶつけてェとこだが、今日は腕ン中のお姫様に譲ってやる。一言だけ付け加えるとすりゃア、テメェのボスは百遍殺したって足りねえくらいの変態クソ野郎で、そのクソ野郎の下についてるテメェは最低のクソ野郎だ。(マベの足元からふわりと風が吹いた。それは押し殺した怒涛が溢れる寸前のように張り詰めている。)」
匕首の男「このクソ女が……!!(ばっと片手を後ろに振り払って合図すると、整列していた男達が思い思いの武器を構えた。)国家の犬とまとめて野垂れ死にするがいい!!(理性を失った男達が怒号とともに突進してきた。)」
ミラ「ムカつくから言っとかないと。でも、これだけ言ったんだからぜーーーーったい負けないでよ? 後で何でも欲しいものご褒美にあげるから!(つん、と意味もなく爪の先で胸のあたりをつついた。)はーい、クソ女だけど何?アンタに言われなくったって知ってるよ。人の金騙し取って豪遊してる女が”オヒメサマ”なわけないでしょ。(追加で言いたい放題言った後、はっと何か思い出したみたいに、前を真っ直ぐ見たまま少しの間固まった。)」
マベ「………っ、………ハハッ。(胸のあたりをつつかれ、ぎりと歯噛みするように笑った。)ったりめえだろォ!これで負けたらウソだろォがよオッ!?(男たちが迫る前に大きく跳躍し、天井スレスレを滑空するようにして奥の大階段に降り立った。男達を見下ろしながら、声だけはミラに向けて。)……さァ、こっからが大勝負だ。あいつらはもう正気じゃねえ。隊長方式でも構わねえが、お前のドレスを汚すのは不本意なんでな。目指すのは”無血開城”だ。……絶対に手ェ離すなよ。何があってもだ。離すのは俺がやられたときだ。……いいな?(最後だけちらとミラを見た。)」
匕首の男「気取るな、下品な犬が!お前たちだって血みどろの修羅場がお似合いだろう!?」
(男達の足元に陣が展開する。マベとミラ目がけて光の玉や矢のような攻撃が放たれる。スピードは大したことはないが、逃げ場がないほどの物量で二人に迫る。)
ミラ「(暫く瞬きもせずじっと前方を見ていたが、声をかけられ、2人の視線がぴたと合った。)……大丈夫、私、マベさんのこと信じてるから。絶対、ぜーったい離さないよ。(少しだけ首を傾げて眉をひそめた。)んー……? 何だろう……?なんで私、見たことある気がするんだろう……。(抱いていた違和感を初めて口に出したが、続く術式展開に気付き、ぎゅっとしがみつく力を強めた。)」
マベ「……上等だ。(少し笑って頷いた。)建国祭ンときの夢でも見たんじゃねえか?……さァてと。そンじゃ……、(足元からぶわっと風が巻き起こり、二人の髪や服が大きくはためいた。)見せてやろうかああぁぁ!!!(ドウ!と大きな音とともに広間を分断するような烈風の防壁が二人を護った。ただ攻撃を弾くのではなく、風の中に飛び込んだ光弾が見えない空気の刃によって斬り裂かれるようにして消えていく。
攻撃を全て受け止めた時には、もうマベとミラの姿はそこから消えている。風が止むと同時に男達の頭上に姿を表すと、踵落としで一人目を床に打ち倒した。ミラを抱えたまま身体を捻り、鮮やかな回し蹴りで二人目を倒す。)…ビビってんじゃねえぞ!来やがれ有象無象ども!」
匕首の男「女だ!!女のほうを狙え!!」
(男が叫ぶと、魔術師達が間合いを取り始めた。武装した者達が二人を取り囲むように次々と襲いかかり、その隙間を埋めるように遠距離からの攻撃が飛んでくる。)
ミラ「んっ……、(巻き起こった風にミラの髪を後ろで2つにとめていた髪飾りが飛ばされ、花弁が舞った。ミラのミルクティのような色の髪が風に靡いて揺れる。)ふ、ぅわぁああえええ私!?(抱えられたまま急降下と回転を味わい変な声を上げながら、自分が標的になったらしいことを知ったが)やって見な?私を捕まえって、別の方法でアンタらのこと役に勃たないようにしてやるし!!」
マベ「させっかよォ!!目の前でお姫様ァ奪われる失態なんざ、一回で十分だッ!!(襲いかかる者達の動きを”全身に目があるかのように”察知しいなしては反撃に転ずるのを繰り返す。大きな動き以外はなるべく上半身を動かさないようにしてミラの負担を減らしているが、それに気付くかどうかわからないほど激しい動きをしている。)………っはは、弾道が見えッ見えだぜ!!シロートかよお前ら!?(成人女性を長時間腕で支えているにも関わらず表情には翳りの一つもない。むしろ愉快そうに飛んでくる攻撃を躱し、口の端を吊り上げて笑ったかと思うと躱した体勢のまま衝撃波を放って遠くの敵を昏倒させた。)」
匕首の男「…………………………。」
(その様子を見ていた男は何かを考えている様子で、そっとマベ達から距離を取り離れたところから一部始終を見ている。その手には液体の入ったアンプルが握られていた。)
ミラ「弾道見えんの?私には見えないけどね……。 ねえ、そのお姫様っていうのやめてくんない!?私、別に誰のものにもなるつもりないし――― 、(桃色をした大きな目があちこちで起きる人の動きを追う。その視線がふと、匕首の男の方へ向いた。) ……! マベさん、あいつなんかおかしいよ。何かヤバそうなもの持ってる。あの、なんて言うの、目薬みたいなやつ!」
マベ「見えねえよ。風を切る音とか空気の流れで大体の見当つけてるだけだ。ハハッ、可愛いからイイと思うけどなァ!?ま、誰のものになる気もねえならあんま柔肌を男に触らせンなよ?ロリコン野郎みてーに勘違いさせちまうぞ。(動き回りながら冗談を飛ばしたが、ミラの言葉に険しい顔になった。)………何?………!(何かがパキンと割れる音がしてそちらに顔を向けた。)」
匕首の男「(アンプルの先を折り、その中身をあおった。喉を鳴らして飲み下すと、二人のほうを見据えた。)さすがにウライオス隊員だけある、……と言っておこうか。だが俺はそいつらのような練度の低い魔術師じゃない、…………!!(男の身体が足元から電流でも流されたように跳ねた。外見は変わりないが何かが肉体を侵食していっているようで、その目が血走り一瞬ぼうっと光ったように見えた。足元に急速に陣が展開し、男が手を突き出すと他の者達とは明らかに違う速度で無数の光線が放たれた。)」
ミラ「えぇ?勘違いさせてナンボの商売だし、ちょっと触られるくらい別に……、っていうかアンタも私のお尻触ってたじゃん!?(思わず過去の出来事について非難したが、またハッと何かを思いついたような顔をした。)う、なんか来……、……ほら!さっきの奴らもヤってたクスリだよアレ。(何か言いかけたがすぐに注意が逸れ、目の前にある事実を言葉にした。そこで初めて男が陣を展開し、と術式を発動させる。)」
マベ「その話を蒸し返すんじゃねーよ、俺が言ってンのは、なにもジジイに肌舐めさせなくたっていいだろって話で、ーーー!(ミラの言葉に続いて発動された術式に目を細め、床を蹴った。速度に臆することもなく次々と光線を躱し、まるで二人で踊っているような動きを見せる。マベの躱した光線は広間の壁や柱に着弾しそこら中を破壊していく。)…ッハ、ナメんじゃねえよ!!この程度でイキがってんじゃねえぞ三流魔術師が!!」
匕首の男「………そうだろうな。だがこれならどうだ……!!」
(また男の足元に陣が展開する。ほんの僅かな一瞬男の目がぼうっと光ったように見え、何かビリビリとした空気が急速に広間に広がっていくが特に変わった様子はない。……一人を除いては。)
マベ「………………………!!!!(目を見開き、ぎりりと歯噛みして何かに耐えているがその顔には苦痛が滲み出ている。ぐっと俯き、ミラを抱える両手が震える。)」
ミラ「は!?なんでそんなこと今言われなきゃ…………、(陣が展開するのが見えて少し身構えたが、男の目が一瞬変化したのをしっかりと捉えていた。)………………! (ミラにはその空気の変化はわからなかったが、何かを察したようにすぐにマベの顔を見て。)ねえ、どうしたの……!?」
匕首の男「(間髪入れずに先程と同じ攻撃を放つ。同じタイミングでまだ立っている者達に何事かを指示すると、次々と二人に襲いかかり始めた。)」
マベ「………ッ!!(ミラの問いかけに反応するより先に身体が動いた。ぎりぎりで男の放った光線を避けた先で別の男が剣をミラのほうへ振りかざしてきたのを間一髪で躱し、苦痛に歪んだ表情のまま剣の男の脇腹を蹴飛ばして大きく後退した。)………”うるせえ”……、……お前には聴こえないんだなミラ……!?頭にガンガン響いて、脳にキやがる……!(忌々しそうに男を睨みつけた。)」
匕首の男「(ふっと陣が消え、張り詰めた空気が元に戻った。)…やはりそうか。視覚に障害がある奴は大抵耳がいい。建国祭での取締の合図に犬笛を使ったらしいじゃないか?だとしたらこの魔術は辛いだろう?(血管が無数に走った目を細め嘲笑った。)」
ミラ「私には聴こえない……、(一瞬困った顔をしたが、珍しく険しい顔をして。)ねえ、耳塞いでも何とか戦える? 私、発動のタイミングは見えてるよ。 私がアンタの目になる。……ちょっと間違うかもだけど……、無いよりはマシでしょ!? あと、あとは、(何かを探しているようでじっと匕首の男の方を見ている。)」
マベ「…あのクソ野郎、普通の人間にゃ聴こえねえ音を爆音で垂れ流しやがったんだ…!!誰かが犬笛のことタレコミやがったな、畜生が……(音が止んだらしく嫌なものを振り払うかのように頭を振った。ミラの険しい顔に、真剣な面持ちで話を聞く。)………本当か?………。……あの魔術を展開されながら攻撃されると正直キツい。お前がいなけりゃ自分で鼓膜ぶち破る羽目になってたな(薄く笑って。)耳塞がれたって構わねえさ。お前が”見て”くれるんだろ?アレを使う寸前にトドメの一発をキメられりゃ、俺達が百点満点超えのダントツ優勝でフィナーレだ。」
匕首の男「……ごちゃごちゃ話しても無駄だ。女もろともここで心中するといい、キザ野郎。(最初にミラと出会したときに持っていた短刀を取り出した。先程は血に濡れていたが綺麗に拭い取られ、室内の光が刀身に反射して不気味に美しく光っている。)」
ミラ「今ここでアンタに死なれると困るんだから、それくらい当たり前でしょ。心中なんて絶対ゴメンだからね、(労わるようにそっと両頬に触れた。急に耳元によって小さな声になって。)ねえ。でもちょっとだけ確証ないから、あのクソ男がポイした容器、拾えない? 私が手伸ばして掴むから。(チラ、と男が飲んで捨てた容器を見た。)」
マベ「……お安い御用だ。あれは俺も欲しいと思ってたところだからな。…無茶だけはすんなよ。(ぎゅっとミラを抱え直し、男の足元に転がっているそれを感知した。鋭い視線を男に向ける。)ーーーよう、人が黙ってる間に随分言ってくれてたじゃねえか。全部聞いてたからな?テメェのそのクソほどに役に立たねえ術が常時発動型じゃなくてよかったぜ、今そっちィ行ってやるから、(言いかけている間に姿を消し、風を切る音とともに男のすぐ側に現れる。)なああッ!!!(男に足払いを仕掛けようと低い体勢で突っ込む、ように見せかけて、落ちたアンプルにミラが手を伸ばせるようギリギリの位置まで身体を滑らせた。)」
匕首の男「……ッ!!(慌てて陣を展開させたが、あまりの速度に”それ”を手にするまでには間に合わず、再び二人の姿が遠くに現れる頃に術式が発動する。)」
ミラ「無茶しまくってるアンタに言われたくないし…。ほんと、陣も出るわ予備動作もあるわのだっさい術式でよかったぁ、こんな底辺も底辺の魔術師(わたし)ですら発動読めるんだもん。 ……ね!!(予測していた辺りにちょうど移動したらしく、腕を伸ばして男の落としたアンプルを拾い上げた。)オッケー!!さっすがぁ♡ ご褒美格上してあげる、っと……!!(落としそうになって慌てて両手を離して掴み直し、深呼吸してからぎゅっと目を閉じた。)」
匕首の男「………!!?(攻撃をしてこずに離れた二人に驚き、みるみるうちにその顔が怒りと狂気に満たされていく。)………ッめえらアァッ…、ナメていやがんのか!!??殺す!!!!(明らかに度を超えて激昂している。血走った目をこれ以上はないというくらい見開き、乱暴に手を挙げると残った者達が一斉に雄叫びを上げながら襲いかかってきた。)」
マベ「(滑り込んだ体勢のまま転移し、男から少し離れたところに現れて体勢を整えた。)…ほー、そりゃ期待大だわァ!なァァにしてもらおっかなアァ!?とりあえず大事なモンは落とすなよ?……………ッ!!!(そこで男の術式が発動し、身構えた。鼓膜から脳を直接揺さぶるような音に顔を歪めるが、勝機が見えた分その表情には先程よりも余裕がある。)……頼むぜミラ……時間は稼ぐ……!(近づいてきた者達を後退しながら蹴飛ばし、突き飛ばしていく。)……あいつもクスリに飲まれだしたな……、もう手段なんて考えてねえって顔してやがる…バカが…、………ッ!(ミラの方へ刃を向けた相手から咄嗟に庇うように身を翻した。ざくりと布を切り裂く音とともに肩から背中を斬られたが、動きを止めることなく凶器ごと相手を蹴り上げ昏倒させた。)」
(男の術式が止む。マベとミラと男以外は床に倒れ伏し、どこからか焦げ臭い、何かの焼ける匂いが漂い始めた。心なしか部屋の温度が上がり始めている。)
ミラ「……っああうるさいなあ!黙ってよ!(雄叫びをあげる狂人達に向かって叫んでから、両手でアンプルは逆さを向きに包み込み、祈るような仕草で底面にあたる部分を額にコツンとあてた。)見、え、…………わっ!?え?(いつもより随分早くに目を開けると、ミラの薄い桃色の目が一瞬淡く光ったように見えた。マベの息が詰まったのを見て、咄嗟に片耳を手で、もう片方の耳はすぐ側にある自分の頬をムギュっと押し付けて塞いだ。男の術式が止んだのを見てから離して、そのまま耳元で)……ごめん、次は止められるはず。発動と同時に止めるから、その時がダントツ優勝のフィナーレだよ!」
マベ「…………ッ!!?(耳に柔らかいものがムギュッと押し付けられた。普段の戦闘時には見せないような驚いた顔をしたが、その場にいる誰も気にも留めないだろう。)………、………あァ、…気にすンな、俺は大丈夫だ…。お前こそ素っ頓狂な声上げてたぜ…?(じんじんする耳元で聞き慣れた声が優しく響いた。その柔らかさにほんの少しくすぐったそうに両目を細めた。)
……お前、ンなことできんのか。……よし。ヤるぞ。(その目から穏やかさが抜け、鋭い表情で倒れている者達と男を見据える。焼け焦げた匂いと室内の温度変化を感じ取り、僅かな一瞬考えを巡らせた。)……決着が着いたらすぐにここを離れるぞ。ド派手なエンディングが待ってるからよう。起死回生の一手、必ずキメてくれよ?お姫様。(にぃと笑った。そして男のほうには凶悪な笑みを向ける。)ーーーよう最低クソ野郎、遊びは終わりだ!!俺達の仲の良さ、今から存分に見せつけてやっから覚悟しろやロリコン爺の金魚の糞が!!!」
匕首の男「…………貴様ァっ!!!この盲目の雌犬にクソメスガキがああああっ!!!そんなに鼓膜ぶち破られてえのかッ!!!!(びき、と顔の血管が膨れ上がった。男の足元に陣が展開し、その充血しきった目が暗闇の灯りのようにぼうっと光った。)」
ミラ「そうやってすぐ大丈夫って言う……、痛い時とかつらい時はそう言いなよ。私にカッコつけたってしょーがないでしょ?(に、とミラのいつものどことなく悪い顔で笑った。)そうだよ、マベ・マヘス様とミラ様がタッグ組んだらヤバいってとこ見せてやるよ!(つんつん、と男をからかうように人差し指をさして、)アンタはモテなさそうだしタッグ組んでくれる子もいないねぇ♡ ……。……ねえ、やっぱりそのお姫様っていうの、やめてくれない!?(男が魔術を発動するタイミングを見計らって指先から放電が起きた時のようなバチンという音がし、目の前が一瞬真っ白になったが、今度ははっきりと”陣が展開しなかった”。タイミングと男の力量的に、不発になった術式を組み換えるは難しいだろう。)二度も食らってんじゃないよバーーーカ♡ 相手が見えないんじゃ発動しないよねえ!?」
匕首の男「ぐ、ーーーーーッ!!??(目の前が真っ白になり、陣が形成されなかった。一瞬思考能力が奪われたうえに薬の影響まで足を引っ張り、同じ術式を再構築するという考えにさえ至らない様子でまごつく。)」
マベ「…バァカ。男はなァ…、ちィとイイ女の前ではカッコつけてえ生き物なんだよ。(ミラの指先から放たれた音、男の狼狽えた言動をしっかり捉え、口の端を歪めるようにして笑った。ミラを両手でしっかりと抱き締め、その髪に唇が触れてしまいそうなほど深く胸元に抱え込む。)……さあ、ハッピーエンドの前にお待ちかねのお仕置きの時間だ。目が見えねえほうがマシかもしれねーぜ?……ザマァ見やがれッ!!!!(叫ぶと同時に二人の背後から無数の圧縮された空気の弾が放たれた。それらは軌道上で一つに収束し、地響きのような音とともに男の腹に着弾した。あまりの威力に男が大きく吹き飛ばされ、マベ達の入ってきた入口の扉をその身体でぶち破った。)
……ミラ!!火が来るぞ、怖けりゃ目を閉じろ!!ーーー俺が守ってやる!!」
(マベが叫び、男の身体によって扉が開け放たれた瞬間、外で燻っていた炎が新鮮な酸素を求めて急激な化学反応を起こし、扉から中にめがけて大爆発を発生させた。一気に炎が室内を駆け巡り、巨大な火の海を形成するが、二人にも、倒れている男達にもその熱と衝撃、そして轟音すら伝わらない。
マベ達の周囲には強固な風の防壁が張り巡らされ、炎の熱と爆発による衝撃を全く感じさせず、まるで何かの見世物を体験しているかのように眼前で広間が焼け落ちていく。)
ミラ「(自分の目元にあてた手をはなしてチラ、と前を向いた。ぎゅーっと抱え込まれても気にすることなく、マベの展開した魔術を眺めている。)っわー、すごい密度!これもう、お仕置とかいうレベル超えてるよ。(いつもの口調でふざけたようなことを言っていたが、続く言葉にはっとして、急にもじもじと気まずそうになって。熱のせいなのか、その頬がいつもより火照ったように見える。)は……!?私、別に、怖くなんか――――………、っあ…………!(炎が迫ってくるのを見て思わずしがみつく両腕に力が入り、胸元に顔を埋めたが、熱も衝撃も音もないことにすぐ気が付き、おそるおそる前へ視線を向ける。)ふぇ…………(情けない声をほんの短く吐き出した。)」
マベ「死なねえ程度には加減してやった!有り難く思えよ!?バアアーーーッカ!!!(ミラを抱えた手で中指を突き立て笑った。そしてミラのほうを向いて、)……心配すんな。こんな場所は燃えちまえばいいが、誰にも火傷一つ負わせねえ。……特にお前は、えっぐい治療費請求してきそうだからな!(穏やかな声色で、最後は冗談といわんばかりに可笑しそうに笑った。)」
(彼らを守る防壁とは別に、建物全体を覆うさらに大きく強力な風が発生しているようで、あれほど激しい炎が煽られて少しずつ、ゆっくりと鎮火していく。暫く経つと大広間を除きほぼ全体が焼け落ちた建物全体の姿が見えてくる。)
匕首の男「……………………。(大広間から少し離れた場所で、吹き飛んだままの格好で失神している。マベの風に守られたらしく、まあ五体満足ではある。)」
ミラ「……。……。(しがみついた手がぎゅっとマベの上着を握るように掴んだ。しばらくそのまま黙っていたが、長く息をついたあとやっと口を開いた。)あれ、生きてるうちに入るの?息してればいいってもんでもないと思うけど…。 え、私……?うーん、桁の違うお小遣い頂いてきたから大丈夫だけど、もし怪我してたら上司の方を経由して請求させてもらうよ。 (ようやく顔を上げ、その横顔をぼーっと見つめた。)」
マベ「呼吸どころか五感は無事だぜ?頭はイカれてるかもしれねえけどな。俺達をバカにしたお返しにしちゃァ軽いほうだ。(へ、と笑った。)……それはそれは。ま、あんま無理はしなさんな。ロリコン爺よりもっとヤバい奴は星の数ほどいるからな。………。(ちらっとミラを見た。)…どうした?ボーッとしちまって。……やっぱ怖かったか?」
ミラ「頭は元々イカれてたから大丈夫じゃない?大丈夫っていうのかわかんないけど。 (思いがけず目が合って、分かりやすく顔の向きを変えて視線を逸らした。)んっ、や、……怖くはなかった、かな。絶対負けないって約束してくれたし。でもなんて言うか、その………、(ギューしてた腕を急にはなして、気まずそうに。)えーーーっと……久しぶり………、あれ以来だね…………。」
マベ「お前な…、(可笑しさ半分で苦笑いした。)…見たろ?あのやべえ薬、今度はアレを追わなきゃならねえ。………。(腕で握られていたのをようやく意識したらしく、腕が離れるのを目線で追った。)………は?今更だなオイ。……おう。久々の再会がとんでもねえことになっちまったなア。元気だったか?危ない目には遭ってねえか?(周囲が焼け焦げていても、まだ熱が残って少し熱いくらいなのも意に介さない。風がだんだん収まっていき、やや強いくらいになっている。)」
ミラ「大変だねえ。私みたいにしたい仕事だけするわけにもいかないし。(釣られるように苦笑いをした。)……うん、そだね。元気、かな、まあまあってとこ。危ない目にはたった今遭ったけど。 はー、よく成人女性1人抱えてあんなに動けるよね。……。………最後の、すごかった。ビックリしちゃったよ。あんなことできるんだね……(何となくぼんやりしていたが、暫くして視線がうろうろと泳ぎはじめる。)あのさ、もう大丈夫だから下ろして……。」
マベ「お前、さっき”見えた”か?ちょっと力貸してくれると有り難いんだが。……ま、これくらいはな。人間売り買いしてる連中相手にしてっと、大の大人抱えて立ち回ることなんてよくある話サ。(言いながらそっと足のほうから地面に下ろしてやる。)………今回の火事は偶然だが、人質もろとも自爆攻撃かましてくるような奴らもいるからよ。そういう時どうやりゃァ助けられるか考えるのも、俺達の仕事なんだ。………。………ま。それはそうとして、だ。(不意に、明るくニッと笑った。)”ご褒美”、弾んでくれンだろ?」
ミラ「んー、見たよ。でもそれは仕事になるから例えアンタが相手でもタダでは……………、いんや。この間ので先払いしてもらったことにしよっかな。いいよ、協力したげる。(地面に足が着いても、抱えられていたときの浮遊感が消えない。ほんの少し寄りかかるようにして胸の辺りに手を添えた。)真面目だよねぇ、ほんと、バカ真面目だわ…。 んー……もらったお小遣い全部!とか言われるとちょっとションボリするけど、まあいいよ。 あ、はい、これもどうぞ。(手に握りっぱなしだったアンプルを手のひらに乗せて差し出した。そこから漏れだした妙な色の薬液で手のひらが染まっている。)」
マベ「この間の?なあなあにするのはイヤなんじゃねえのか?(意外そうな顔をして、寄りかかられても特に動じない。続けられた言葉にさらに首を捻った。)人を救うのに真面目もバカもあるかよ、こっちゃァ仲間の命もかかってんだからな。…………ン。(アンプルを受け取った時に僅かにその指先がミラの手のひらに触れる。鼻につく匂いに顔を顰めた。)……お前、薬品が身体にかかってねえか?一度医者に診てもらえ。………。…………んン。金は要らねえよ。(少し考えるように後頭部を掻いた。)……そうだな……まだ耳の奥がガンガンするからよ。耳元で”お褒めの言葉”囁いてくれよ。どうだ?」
ミラ「だって、ろくにお礼できてなかったし……。私、何も言わずにふらっと出かけたまま居なくなったでしょ。……悪いことしたなぁって思ってたから。(珍しく、バツの悪そうな顔をしたあと、少しだけ首を傾げた。)……へ?そんなことでいいの?んー、あ、じゃあ、(背伸びをして片耳に近づき、反対側の頬に手のひらを添えて。)”ありがと♡ 好きにしていいよ♡”(にひ、と悪戯っぽく笑ったが、不意にミラの目がふわっと淡い光を放った。本人は意識していないようだが、何らかの術式が発動したようで……)」
マベ「…礼だの義理だのは考えなくていい。元は俺の無遠慮さが原因だからな。(ややぶっきらぼうになったが、それはマベのほうもバツが悪かったからで。)女にたかるほど落ちぶれてねえよ。せっかくカワイイ格好してンだ、とびきりのを頼むぜ。(自分からも少し身を屈めて耳を寄せた。鼓膜を包み込むような声に目を細めて思わず笑いそうになったが、ミラの目が淡く光るとはっとしたように動きを止めた。)…………。…………好きに、ねェ?………じゃあ、………よう。(すっとその片手でミラの耳元に触れて、戦闘で乱れているであろうその髪に指を差し込んだ。手櫛で優しく梳くようにその手を滑らせる。もう片方の耳に顔を近づけて、囁いた。)………なぁ、…ミラ。」
ミラ「ん、ふふ、どう? ちょっとだけ良い気分になれたならいいんだけど、ほんとにこんなしょーもないことで良かったの?(ミラは自身の魅了術が発動したことに気付かず、遠回しに冗談だと告げたつもりだが……。くすぐるように触れた手が髪を撫で、思わず身体がぴくっと反応してしまったところに、耳に息がかかる。)……ふ、あっ……、……!!(思わず声を出してしまったことに自分でも驚いて口元を抑える。)……え、何、…………はっ!? あれ、私、何か変かな……!?」
マベ「……変じゃねえよ……。お前のこと、……好きにしたいっつうか……、……聞きてえことがあってな。答えてくれねえか。(有無を言わせないような低い声。眉間に少し皺を寄せ、髪を梳いた手を戻してそっとミラの頬に当てるか当てないかのところで止める。手のひらの熱が伝わるだろうか、顔を真正面に戻して”見つめ合った”。濃淡のはっきりしない瞳が射抜くように見つめてくる。)………俺とあいつ。どっちのほうがカッコいい……?」
ミラ「いやいやいや私それ冗談で言っ…………(どくん、と大きく心臓が脈打つ感覚に目をしかめた。能力が暴発している可能性に気付いたが、魔力干渉に対して不安定なミラが薬の影響を自ら止めることは出来ない。焦りから普段のペースをすっかり乱され、その視線をまともに受けてしまう。)……っ!? そんなこと聞いてどうすんの…、そもそもアンタら全然タイプが違うじゃん。比べようがないからわかんないよそんなの。(いつものような口調でかわそうとするが、鼓動がどんどん激しくなっていく……)」
マベ「お前さぁ……俺のことカッコイイとか真面目とか、まあまあ言うじゃねえか。それがお世辞でも一時の感情でも、言われて悪い気はしねえ。(一瞬視線を外して暗い顔になった。)……けどな。どういうわけか”これ”だけは心ン中で引っかかっちまうんだ。あいつは”もっとイケメンで”、”もっと強い”んだろ?………俺は、………。(ふっと自嘲気味に笑った。)……俺じゃ相手になンねえか?」
ミラ「私そういうの言い慣れてるからつい軽い気持ちで言っちゃうんだけど……、でも、アンタに媚び売る必要はないから、それは本当に思ってるよ。(う、と困った顔をした。)それ……アンタが、隊長の、相手になるかどうかってことだよね? 私から見たらどっちがどうって言うか、全然守備範囲の違う…… あのー、平たく言えば……アンタら2人とも、真面目だし……カッコいいと……思……ぅょ……(段々声がか細くなっていく……)ねぇ、好きにしていいって冗談で言ったけど、もっとなんか、”優しいのにして”?!」
マベ「…………ン。……そうか。(本当に思っていると言われどこか嬉しそうに目を細めた。若干、表情に獰猛さが見え隠れしているような気もするが…。)全く話にならねえってわけじゃねえんだな?そーか。………。……んン?なんか話が噛み合ってねえ気がするな……つまりだ、俺が言いたかったのはお前がーー(そこまで言ったところで”優しいのにして”の声が響いた。また少しの間ハッとしたように固まって。)………。………あー。悪い、ちィとばかし強引だったな。(ひょいと普通の姿勢に戻った。)……褒美なんてモンはな、ミラ。お前さんの飾らない笑顔だけで十分なんだよ。それだけでも、騎士様にゃァ勿体ないくらいだ。」
ミラ「(大きな目でじっと様子を見ている。)ちょっと私も話噛み合ってるのかよくわかんない。私がそう言わせちゃってるだけなのは、わかってるんだけど……。 ……、(何か言いかけてから一度躊躇って視線を外して、また真っ直ぐ視線を向け直して。)守ってやるって言ってくれたじゃん?私、守ってあげる~なんて100万回言われたことあるけど、さっきのはちゃんと信じられたんだ。……あは、……ちょっとドキッとしちゃった。マベさんの横顔、ほんとにカッコよかったよ。(珍しく力の抜けた感じで笑った。) 」
マベ「…………。(首だけ傾げるようにして、普段より柔らかく笑うミラを見ている。)………そー、か。…カッコよかったか。(つられるようにその顔に笑みが浮かんだ。嬉しそうなのが目を見れば分かる。)それだけ聞けりゃア、ま、いいか。…変なこと言っちまったな。(すぐにその嬉しそうな表情から普段の顔つきに戻った。ふと、何かを感知したらしく片方の眉を上げる。)……アァ、全員無事らしいな。少し離れたところにいるみてえだ。」
ミラ「(普段の様子に戻ったのを見て安堵したようで、長く息を吐き、自分の手のひらをちらりと見た。)それ、魔術干渉受けやすいタイプだと触れただけで危ないみたい。飲んだらあんなんなっちゃうのもわかるわ……。 ……よかった。これから本部に戻るの? さっきの協力するって言ったのは、今度の方がいいのかな。このあと色々やらなきゃいけないこと、あるでしょ?」
マベ「お前もそういう体質か。……チッ。あのロリコン爺をぶっ飛ばすだけじゃ済まなさそうだな……。……ああ、戻るがまずは人質の健康状態をチェックするから、お前も来いよ。医者に見せてやる。話はその後にしようぜ。(その手首を掴むようにして握ろうと。普段より強引にも受け取れる。)」
ミラ「私は新月の時もあんな感じだし。調整が難しいんだよ。その……もともと無理やり能力つっこんでて不安定だから。 医者ねー……。その医者ってちゃんと機密情報守れるタイプの人間だよ……… …ねっ!?(強めに握られ、少し驚いて固まっている)……医者って言ったら逃げると思った? このまま暴発続けたら危ないし、行くよちゃんと。」
マベ「…………。(なんとなく不機嫌なのかなんなのか、複雑な表情をしている。)……俺の主治医ならまあ、信用はしねえが仕事は確かだ。………。逃げるとは思ってねえが。……急にいなくなられたら、心配はする。(ふいと顔を背けた。)………まだその辺、熱いからよう。危ないぜ。ついて来いよ。」
ミラ「……………。……あのさ。今、アンタに思ってもないようなこと言わせちゃうかもしれないから、あんま私に触んない方がいいよ。もちろん、治るまで他の人にも触らないように気を付けるし、……。(また少し困った顔をしている。)んー……………、うん。(なんとも言えない曖昧な返事をした後、ついてこいという言葉には素直に頷いた。)」
マベ「………お前のそれ(術)はよう、他人に嘘をつかせるものなのか?(どうにも先程からぶっきらぼうさが抜けない…。手を掴んだまま外に出ようとして、自分でその強引さにはっとしたように振り返った。何か言おうとして、どこか照れたように視線を横にやって。)………まア、その、何だ。結果的にお前さんがいてくれて助かったぜ。ありがとーな。(へへ、と笑った。)」
ミラ「厳密に言うと違うかな。私のことほんのり好きにならせて、言うコト聞かせられるって言うだけ。 ……ねえ、そんなに強く引っ張らなくてもついてくってば。 お姫様扱いするんだったらもっと優しく……、あ、いや、違うなんでもない。(ハッとして、片手で目を覆った。)……んー、いらない仕事増やした感もあるけど。まあいいや。なんかイイもん見れたし!」
マベ「そうか。俺はなァ、ミラ。言い方は悪くても、どんな時でも嘘はつかねえ。俺は嘘が大嫌いだからな。(きっぱりとそう言い切った。)…イイモン?へえ、そうかい。んじゃイイモン見たついでにもっかい抱かれとくか?(※お姫様抱っこの意。ニヤけている。)」
ミラ「……そっか。私、嘘ばっかりだし、マベさんに嫌われちゃうね。(ほんの少し視線を下げて一瞬だけなんとも言えない表情をしていてが、マベがニヤついているのを見てじっと睨むような目つきに変わった。。)……あのねぇ。私は簡単に抱かれるような女じゃないの。私に触れるの、緊急時以外は有料なんだから、そこんとこ勘違いしないでよね。(いつもの様子に戻って小さく笑って、掴まれた腕を振り払って先にどっか行くつもり。)」
マベ「ほー?俺になにか嘘ついたのか?怒らねえから言ってみ、今なら脇腹くすぐる程度で許してやらア。(睨まれてもニヤニヤ笑うのを止めない。両手で軽くくすぐるフリをしてみせた。)緊急時ねェ……そう言うがお前さん、いっつも俺の前で転ぶか危ない目に遭うかして結局抱かれてねえか……?……あァほら。そこ燻ってッから、危ないぞ。(手を振り払われ、まだ火の残る広間を一人歩かせまいと追いかけた。)」
ミラ「………。(口元をムニュ…と歪ませて、何かを思い出したようだが。)……言わない。 えー、そうだっけ? マベさんが危ない仕事してるから、出会ったらそういう感じになるだけでしょ。あとその抱かれるっていう言い方語弊あるからやめなよ、一週間同じ部屋にいても抱かなかったくせに、っ……!(何歩か進んだところで顔を歪めたが、振り払って歩き出した手前何も言えず、そのまま何食わぬ顔をして歩いていこうと。)」
マベ「…ヒミツってか?女はそういうの好きだよなァ。危ねえ仕事してんのはお互い様だろ(小さく肩を竦めた。)…はァ?そりゃお前…、…………あ、オイ。お前今、変な動きしたろ?どうした?……待てって、火災現場をナメんじゃねえよ。俺について来いって言ったろ?(部屋で一緒に過ごしたときのことに対して何か言いかけたが、それを止めてミラを追いかける。)」
ミラ「……言えるわけないじゃん…。 ……。……。……。(振り向かずに何だか不自然な歩き方でとてとて歩いていたが、だんだんその速度が遅くなって、ついに立ち止まる。)……ううう……あっついよぉ……、(くる、と振り返って追いかけてくるマベに真正面からぶつかるように、突然ぎゅむっと胸に顔を埋めたかと思うと、つま先立ちでちょこんとマベの両脚の上に乗っかって)だ、抱き、だ、抱いてください……。(しどろもどろで変なお願いをした。)」
マベ「おっ……、…………。(ぶつかるように抱き着いてきたミラを思わず抱き留めた。自分に乗っかり哀願してくる姿を黙って見つめていたが、小さく息を吐いた。)……だから言ったろ?危ないって。(呆れたような、それでいて穏やかな声。そっと屈んで手を伸ばし、また先程のように抱き上げた。)……火傷してねえか?あと、その言い方すげえ語弊があるから他の奴には言うなよ。」
ミラ「でもアンタが私をからかったから……、(素直に抱えられて見えた足先はセパレートタイプのローヒールパンプス。足の側面が少し赤くなっている。)わかんないけどじんじんする……、あー、やだやだ、今日は何にも上手くいかない日だわ。どうにでもなっちゃえ……。もう、好きにして……、(すっかりテンションが下がった様子で。そっと目を閉じるその手前、ミラの目がまた淡く光ったような気がした。)」
マベ「そうだな。悪かったよ。(困ったように笑ってみせた。)……あァ。少し熱かったかもしれねえな。戻ってすぐ冷やせば、痕はつかねえだろうよ。…そう投げやりになるなって、俺のこと必死になって庇ってくれたじゃねえか。な?………。(ミラが目を閉じる直前に、また少し黙りこくった。先程のように、髪に唇が触れるほどぐっと抱き締め……実際に触れたかもしれない。)……今日はずっと俺の側にいろ。……いいな。(それがマベの”ミラにしたいこと”なのか単なる戒めなのかは、わからない。その熱が二人を包み込む前にゆっくり歩き出すと、途中で新しい風が二人を覆い、その姿を隠した。)」