<注意書き>
・どこかにあったかも知れない別の世界のお話です。本編とは全く関係がありません。
・魔物が増えて人間が減り、終わりに近づく世界。とある街の中心に建つ教会が舞台。
・ゲラルト・シェズム16歳。修道院で女性とともに暮らし、なぜかシスター服を身に付けている美少年。
・マベ・マヘス29歳。元軍人の神父。信仰心は全くない。
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(高い天井の聖堂内。少しひんやりした空気だが、美しいステンドグラスは明るい陽の光で色とりどりに照らされている。寸分の隙もなく整えられたその空間の奥には祭壇がある。)
ルト「……。……。(両膝を床につけ、首に下げたロザリオを掴んだ手をそっと合わせた状態で目を伏せて祈っている修道服の美しい少年。ステンドグラスごしの陽の光がかかり、その長い睫毛が煌めいているように見える。)」
マヘス「(その後ろから長身の男がゆっくりと近付いてくる。黒を基調とした聖職者の平服を纏い、歩くたびに長い裾が衣擦れの音を静かに立てる。がっしりとした体躯とこの場に似つかわしくない黒い眼鏡が、少年とは対照的で。)………………。(少年の背後まで歩み寄ると、陽の光に目を細めることもなくその黒く濁った瞳を彼に向けた。)…………ルト。少しいいか?」
ルト「…………。(じっとそのまま動かない。多分、集中しすぎていて周りの音も何も耳に入っていないのだろう。)」
マヘス「………………。(相手の動きが感じられず、怪訝そうに小首を傾げた。少し眉間に皺が寄ったその顔が怖い。)………おい。ルト。」
ルト「……!(はっと顔を上げ勢いよく振り返ると、弾みで尻もちをついたような格好になり、修道服のスカートから太腿が顕になった。)すみません。集中しすぎていて気付きませんでした。(そのままじっと見上げて。)……何でしょうか、神父様。」
マヘス「(その物音でどういう体勢になったのか理解したらしく、不機嫌そうな呆れたような顔をした。)……ドジか。気をつけろ。(しっしっと手を振り、覗いた太腿をどうにかしろと。)………ちょっと込み入った話がしたい。時間あるか?」
ルト「……すみません。(少し目を俯き加減にして、座り直して足を隠す。)まだこの時間ですから。これからいらっしゃる信徒の皆様の”悩みを”聞いて差し上げなければなりません。今日は月の初めの日なので、決まって来られる方がいらっしゃいます。きっと私に用事でしょうから、(あまり感情の乗らない声色でだらだらと喋り続けているが…)」
マベ「あー、“ソレ”はもういいんだわ。(信徒の悩みがどうこう以降の全てをバッサリと切った。)お前の私的な用事が無いかと思って聞いただけで、色ボケ信徒どもなんざどうでもいい。…どうせまたあの◯◯◯野郎だろ。(酷く侮蔑を込めた物言いで特定の人物を挙げた。)」
ルト「そういう言い方は感心しません。 ……私に、私用があると本気で思っているのですか。日が落ちる頃には修道院へ戻り、あとは、……いつも通りです。(立ち上がりながら、何となく視線を別の方へ向けて)それで。話とは?」
マヘス「……………。(自分を嗜める言葉にふと黙った。視線が曖昧な塗りつぶしたような瞳が、彼とは対照的に真っ直ぐ前を見つめている。少し間が空いてから、ようやく唇を動かした。)……お前、俺と組まねえか?」
ルト「…………は? 組む、とは? (透き通るような水色の目をぱちぱちと何度か瞬きさせて。)」
マヘス「二人で戦場に出ないかってことだ。(淡々と。)…今後、出撃要請があれば受けるつもりだ。だが俺は目が見えねえ。デカブツ相手ならまだなんとかなるが、小さかったりすばしっこかったりする相手には少々分が悪りィ。そこでお前の出番ってわけだ。」
ルト「承知しました。貴方がそう仰るなら。…元々私に拒む余地などない。(一歩、二歩と近づいて、思いの外至近距離から見上げた。)……見えたのでしょう?」
マヘス「(その物言いにどこか不服そうな顔をしたが、自分に近づき見上げるその姿を、ほんの少しだけ俯くようにして見つめ返した。)………よく気がついたな。(意外だったのか、ふっと息を漏らすように笑った。)」
ルト「(何かを思い出したのか、ふっと視線を逸らした。)動きが明らかに違いましたから。不思議ではありませんよ、私の血は……特殊なので。……。(その先を何となく言い渋った。)」
マヘス「そうだ。お前のその血のおかげで、あの時死なずに済んだ。これからは教会のクソ信徒どもじゃなく、本当に困っている奴のためにそいつを使ってやれ。分け与える他にも、使い道はあるはずだ。俺がお前を鍛え直してやる。(ぐっと眉間に皺を寄せて険しい表情になった。)
……とまァよう。大袈裟に言ってみたわけだがな。最前線に立ちゃア、いつ死んでもおかしくねえ。お前が死ぬかもしれねえし、俺が死ぬかもしれねえ。仲良く二人で心中、なんてコトだってあり得る。お前、そんなんでもいいのか?」
ルト「……わかりました。(短く、たったそれだけ。本当にわかっているのかどうか…) 私は神に仕える者です。私が生きるか死ぬかは神がお決めになること。……。……そうならないよう、私を連れて行くのでしょう?」
マヘス「(ハァ、とひどく大げさに溜め息をついてみせた。)……わかってねェな。戦場にゃ神なんていねえ。まだ生きてる人間、敵、死体、力と力がぶつかり合う音、血と泥、断末魔の叫び。………それが全てだ。そんな地獄ン中で生き死にを決めンのは、他でもねえテメエ自身なんだよ。(自らもぐっと顔を近づけて)……お前、本当に覚悟ォ、できてんだろうな?……え?(ぴくりと片方の眉を上げるようにして、怒ったような顔で睨みつけた。)」
ルト「私はあなたが思うほど無知ではありません。…………覚悟は、ずっと前から出来ています。(ゆっくりと視線を上げた。感情が希薄なその目はマヘスへ真っ直ぐ向けられているが、どこか遠いところを見ているような気もする。)」
(聖堂内へ繋がる扉が不意に開く音がする。)
ミラ「ルトくーん、いつもの人来たけどどうする?(ひょこ、と顔だけ覗かせた。)あれ。エロ神父も居るじゃん……。……何、込み入った話? まあいいや、確かに伝えたから自分でどうにかしてよ。私アレの相手したくないし。」
マヘス「……………。(その目を見えない瞳が見ている。瞳孔と黒目の境がわからない、月のない夜のような色。)………、(何か言いかけたところで扉が開かれ、そっちに身体の向きを変えた。)………おう、エロシスターか。こいつは行かねえぜ。今後、ルトには俺の片腕としてついてきてもらうことになったからな。」
ルト「(はっとミラの声がした方を向いて)あ。……すぐ行きます、待っ…………(と言いかけたところで先に”行かない”と言われてその先の言葉を飲み込んで、また視線を戻した。)……?(そのまま不思議そうな顔をしてじっとその表情を見ている。)」
ミラ「片腕?恋人じゃなくて?(首を傾げる仕草をしていたが、すぐにやめて)よくわかんないけど、まあいいや。とにかく今日は合わないってことね。ルトくんは生理中でーす♡って伝えとくわ。じゃあねー、(適当に手を振ってから顔を引っ込めて、出ていった。)」
マヘス「神父が恋仲作ってどうすんだ、バーカ。(肩を竦めた。)修道院長にはもう話は通してある、文句言いやがるならそっちへ行けって言ってくれ。“アソコが疼いてたまらねえなら、この俺が一晩中泣かせてやるからケツ洗って待ってな◯◯◯野郎”…って伝えな。(ひひ、と悪童のように笑ってミラを見送った。彼女が出て行くとまたルトに向き直って。)
……ま、そういうこった。俺と出るとなりゃあ、当然緊急の要請にも応じることになる。いちいち修道院の許可を待ってたら時間がいくらあっても足りねえ。お前のいう悩める信徒(バカ)に割く時間も最低限にする。……拒否権はねーぞ、覚悟は出来てンだもんなア?」
ルト「少なくとも今は緊急時ではないですから、断る理由は無かったのでは……?(少し首を傾げた。) ……。……。……私のこの血を利用する人が、彼らから貴方に変わるだけの話です。最初に言った通り、私に拒む権利などありません。」
マヘス「大事な相棒ォ気色悪い目ェ向ける奴に差し出すわけねえだろ。(心底気持ち悪そうに。)……ああそうだなァ、お前を利用することを否定はしねえよ。だがお前な。自分の置かれてる状況をおかしいと思わねえのか?一刀さんがいる頃は黙っていたが、………あいつら、あの人がいなくなった途端好き放題しやがって。外の世界がどんな状況かも見ようとしないで、みんなお前で憂さを晴らして現実から目を背けてる。俺はそれが気に食わねえ。」
ルト「そう、ですか……。 おかしいとは特段思いません。皆、苦しいから何かに縋りたい、辛い物事から目を背けたい。それだけのことです。その点で私には彼らを非難することはできません。……私も、同じですから。」
(外から何やら言い争うような声が近づいてきた。だんだんはっきりとした言葉として聞こえてきて、「だから、会えないって言ってるでしょ!今日は具合悪いからデキないっつってんの!」「でも一目見るだけでもいい、あの子に会いたい」と扉のすぐ向こうから聞こえた。)
マヘス「……………。(その言い分にぎり、と歯噛みした。視線を斜め下に向けたその目には、怒りとも悲しみともつかぬ暗い感情が渦巻いている。)……………、……………。(遠くから近づいてくる声にハッとして扉の方に目を向けた。声の主の言い分が聞こえると、不愉快そうに眉間に深い皺を寄せた。)…………行くぞルト。ついて来な。(さっさと背を向け、扉とは反対方向、奥へと繋がる扉のほうへ歩き始める。)」
(風が吹き始めたのか、カタ…と礼拝堂の窓枠が僅かに音を立てた。)
ルト「(声のした方を見てほんの少し表情が曇り、咄嗟に伸びた手がマヘスの手を掴む。)……待って、駄目です、間に合っ…………、(言いかけたところで、講壇の下へ隠れようとその手を乱暴に引っ張った。半ば押し倒すような勢いだが……)」
マヘス「……!?(手を予想以上の力で引っ張られた。片足に体重をかけて踏みとどまろうとしたが、目が見えないせいか不注意なのか、重心がうまくかけられず長身が大きくぐらついた。)な、っ、………ッ!!!(そのまま押し倒される形で床に倒れ込んでしまい、大きな音が響いた。ちょうど外の風が強く吹き荒んで、それも掻き消されてしまう。)」
ルト「(上に跨った状態になり、乱れた服からは少年らしい華奢さを残した脚が大胆に出ている。)……嘘を伝えた以上、隠れないと、酷いお仕置きをされてしまいます。きっと一晩中寝かせてもらえません……。(決して大きくは無い講壇下のスペースに身を隠すようにぎゅっとくっつき、すごく小さな声で耳元で囁く。)……?(自分だけ隠れたらよかったかな?と少し首を傾げた。)」
(「どこかに隠れているんじゃないか?」「いないってば。具合悪くて街の病院に行ったって。」「他の奴と寝てるんじゃないだろうな?!奥の部屋か!?」「ちょっと!勝手に入らないでよ?!」と言ったような会話が聞こえ、足音が近づいてくる。)
マヘス「……ッてえ……ああ、クソ、…………、(バランスを崩して転んだ不甲斐なさに悪態をつきかけて、ふと下腹部に乗った重さに気が付き驚いたように言葉を呑み込んだ。間近で聞こえるその声と息遣いに心臓が跳ね上がったが、何も言わずに目だけは鋭くして。)……………。……いや、もっと他にやりようがあっただろ!?お前普段どんなことされてンだよ、あの色キチ変態野郎……!……………!(つられて小声になりながらも強い怒りを口調に滲ませた。自分にしがみついてくるその身体をギュッと抱きすくめ、耳だけは近づいてくる足音の方に向けて。)………見つかったらあの野郎、素っ裸にして天井から吊るしてやる…いや見つからなくても吊るしてやる…好き勝手言いやがって……。(ほとんど吐息だけで文句を言いながら、背中に回した片方の手をルトの後頭部に添える。その髪に指を差し込むようにして、これ以上はないほど密着していることには一切気にしていない。)」
ミラ「……そっちは駄目だって!それ以上踏み込むつもりならこっちにも考えが………………、(男が奥の扉に手をかけた時に片腕を掴んで引っ張り、何となく動かした視線の先に”2人”が見えた。)……!!(咄嗟に2人の姿を隠すように間に立ち、目を細めてつま先でトントンと2回床を打った。)」
ルト「(抱きしめられ、成り行きに任せた苦しい体勢を直すように両脚をもぞりと動かして腰を浮かせると、場所を変えてまたちょこんと乗っかり直した。)1ヶ月何をしていたか尋ねられて、”ご褒美”か”お仕置き”を頂くんです。どちらにしろすることは同じですが、まだ前者の方が…………(何となくされるがままになり、肩口のあたりに頬をひっつけていたが、ミラの送った合図に気付いた。)ミラが転移魔術を使えと言っている……、」
マヘス「(ぎりり、と強く歯噛みした。ルトの話を聞きながら体勢を変えた身体を抱き直す。射抜くように男を睨むその目つきは、今まさに獲物に飛びかかりそうな獰猛な獣そのもので。)……………!(転移魔術という言葉に目を細めた。ふとなにかに気づいたように口の端を歪めて笑い、自分達とミラ、男の位置を物音で把握する。)………そうかい。そんじゃあ、俺からはそんなあいつにお仕置きをくれてやるよ。もっともよう…、(室内をヒュウと鋭い風が吹き抜けた。祭壇に置かれっぱなしの立派な金の香炉がカタリと音を立てる。)…………これは、天罰だぜ。(その言葉とともに突風が吹き、重量のある香炉がいとも容易く宙を舞った。風に気を取られているであろう男の顔面めがけて一直線に飛び、鈍い音がした瞬間にはもう、二人の姿は風とともに消えている。)」