24.思い出の味

(イシスアセト王都中心部、ウライオス第2部隊隊長ゲラルト・シェズムの自宅の玄関前。)

マベ「(銀糸の刺繍とクリスタルで海の生き物や波模様をあしらった紺色のシャツを着て、襟元は第二ボタンまで開けている。白のパンツを靴と同色の革ベルトで留めており、色の付いていない細めのレンズをはめたフレーム無し眼鏡を掛けた姿。)
………ハァ………。
(先程からドアの前にいるのだが、どうにも呼び鈴を鳴らせない。何度か訪れた場所ではあるが、”あの日”以来足が遠のいたこともあり、色々な考えが頭をよぎってはその手を躊躇させてしまうのだった。)
…………何やってんだろな俺はよ。ああ…、クソ………。………………!
(それでも約束の時間は迫っている。雑念を振り払うかのように頭を振り、意を決して呼び鈴に手を伸ばし、しっかりと押し込んだ。)」

(カシャ、と鍵の開く音がした。少し間が空いてから、ガチャリとドアが開く。)

ゲラルト「(間から外を少し覗いたあと、ドアを開けた。首元が詰まり気味の何の装飾もない白い長袖のTシャツに、黒に近い濃い色のやや細身のパンツをほんの少しロールアップして履いている。)…………。(じ、と数秒ほどいつもと変わらない薄い表情のまま黙っていたが、)本当に来たんだな。……入れ。(ふと目を細めた。いつもの黒い隊服ではないからか、場所が違うからなのか、少し柔らかい印象に感じるかもしれない。)」

マベ「…………………。(扉が開く前からずっと顔を横に向けている。ちら、と視線だけを前に戻した。ほとんど私服を見たことがないその姿に少し驚いたような表情をしたが、すぐにそれを消して顔ごと正面を向いた。)……………どうも。……………。………………身体は休まったか?」

ゲラルト「(問いにはこく、と小さく頷いただけ。ドアを支えていた手を離し、振り返って部屋の中へ戻っていく。大して足音もしないが、よく見ると裸足のまま部屋を歩いている。)……こんなに暇なのは久しぶりだからな。たまには休みたいと思う時もあるが、数日でじゅうぶんだな。(部屋の中は独り暮らしにしては随分広く、完璧すぎるほどに整理整頓が行き届いている。ファブリックは薄めのグレー系がメインで、小綺麗だがあまり特徴もない。この空間の何もかもが”あの時”からほとんど印象を変えずにそのまま残っているようで、懐かしさとともに、ある種の異様さも感じられる。)」

マベ「(その後を静かについていく。響かない足音にすぐに裸足なのに気が付き、なんとなく気後れしてしまう。)…………そうだな。何もすることがないと、妙に落ち着かねえ。病院にいる間がそうだった。……入院中、ミラのことを気にかけてくれてたろ。助かったよ。俺が目覚めたとき、ひでえ顔してたから。もしお前が来なかったら、もっと酷い状態だっただろう。
(部屋の中の空気の流れに目を細める。当時の記憶を手繰り寄せながら薄ぼんやりとした視界を新しく塗り替えていくが、それもすぐに終わってしまった。)…………変わらねえな………。(思わずぽつりと呟いた。)」

ゲラルト「あいつが思い詰めたように泣き続けるものだからな。あまり放っておくと……(わざわざ自分が言うまでもない事だと、その先の言葉を切った。)時間が取れなくてな。”誰かが居れば”少し寝られるようだったから……、まあ、その程度のことだ。 (その辺を軽く指さした。適当に座れという意の仕草だろう。) 他の隊員もだいたい同じようなことをいう。そうであって欲しいと心のどこかで思っているんだろう。 あの頃からいる隊員で一度も来なかったのは、お前くらいだ。(少し苦笑いをして、キッチンの方へ歩いていった。)」

マベ「………辛い思いさせちまったな。(少しバツが悪そうに頬を指先で掻いた。促され、小さく頷いて椅子を引き、思い出したように眼鏡を外して胸のポケットに差してから腰を下ろした。)………それは、……お前もそうじゃねえのか。………………。(なんとなく、自分一人が取り残されたような感覚を覚えた。だんだんと空気が重苦しくなっていくようで、胡乱な目で目の前を見つめたまま動かない。)」

ゲラルト「(その問いかけに少し視線をあげた。静かに歩いて近づいて)ん、……20年も住んでいると、この風景に慣れてしまって今更替えようと言う気にもならないというか、……。……まあ、お前の言う通りかもしれないな。(コン、と小さく音がしてテーブルの上に揃いのグラスに入った冷えた水が置かれた。少し低くしたその体勢で顔を覗き込む。)お前、何を遠慮してるんだ? 今ここで出来るなら普段からしとけよ。(と言って、ほんの小さく笑った。)」

マベ「(目の前に水を置かれてハッと顔を上げた。濃淡のはっきりしない瞳が、冴えない表情と相まっていつもよりさらに曇っているようで、ゲラルトの表情とは対照的。)………お、…………おう。そうだ、な………。……あ、(ふと気付いて、小さな袋とやや大きめの紙袋を差し出した。)………持ってきたぜ。あの人の好みかはわかんねえが。……それと、(ふいっと顔を背けた。)実家からバカみてーに物が送られてきたから、………大したものじゃないけど。…酒のアテくらいにはなるだろ。(紙袋の中に自家製らしきベーコンの塊と数種類のチーズとおぼしき包みが入っている。)」

ゲラルト「(少しだけ首を傾げたが特にそれ以上何を言うわけでもない。差し出された紙袋を受け取った手は、当然ながら手袋をしていない。)あの人は卵と牛乳と上白糖が混ぜて加熱してあれば大丈夫だ。何回か投げやりなプリンを作ったことがあるがそれでも別に……、拗ねそうだから先に置いといてやるか。(紙袋からプリンの容器を取り上げて大きな手の上にちょこんと乗せると、テーブルの近くにあるチェストの上にそれを置いた。その傍にはたった一つ、傷だらけの刀の鍔だけが置かれている。少し目を伏せてプリンのフタを軽く指先でトンと叩いたあと、顔を上げた。)あー……、お前は家では飲まない主義らしいな?」

マベ「…………。(手袋をしていないその手に顔を戻し、普段とは全く違うその出で立ちを見つめていたが、ふっと表情を和らげ。)……ンだよそれ……、(投げやりなプリンという言葉が可笑しかったらしく、目を細めて少し笑った。そして目で追った先、チェストの上にある刀の鍔を見るとまた硬い表情になり。)………。ああ、自分の家ではな。…………。………なんだ。俺とサシでヤりてえってのか?」

ゲラルト「たまに発作起こしたみたいにプリン食わせろって言う時があってな。(懐かしむようにそれを見つめた後、向き直って)……サシでヤったところでお前が潰れるだけだ。(少し肩を竦めながら紙袋を手に持ってキッチンへと戻っていった。キッチンカウンターの上には本人が作ったらしい料理が並び、店でも開けそうなレベル。その中にはあの日、希望した例の料理もある。)……そもそもお前の好みを知らんからな。皆が適当に置いていって大概のものはあるが、……ああ、丁度、ミラが突然押付けて帰ったワインがあるな。何となく不気味で開けずにいた……、」

マベ「……そういやあの人、甘い物が妙に好きだったな。俺達よりずっと大人のくせに、冗談ばっか言っててよ。………。(入れ替わるように立ち上がり、チェストの前に立った。首だけで俯き、じっと刀の鍔を見つめている。)……お前、俺がこのナリで下戸だとでも思ってンのか?いーぜ、ノってやるよ。二人で酒飲むなんて、したことなかったしな。(料理の匂いにつられてキッチンの方へ目を向けた。その数の多さに素直に驚き、その中に例の料理があるのを認めて僅かに目を細めた。)…お前、すげーな。一人で全部作ったのかそれ。……ワインねえ。あまり飲んだことはねえが、ミラが持ってきたんなら貰うぜ。不気味ってのがちィと引っかからんでもないが。」

ゲラルト「思えば本部でくだらないことばっかりしてたな。私にはあれは真似ができないが………、……次の夏にはスイカでも割るか?(ふ、と浅く笑ったような息を吐いた。)謹慎期間と聞いて隊員たちが平気でタダ飯食って帰るからな。どうせ暇だろうから、とか言って……(ワインボトルとグラスを2つ机の上に置き、それからカウンターに置いてあった皿と料理に手を伸ばし、机に置いて。)まあ、普段からそんな感じだからな……、適当にやってくれていい。ソファで朝まで寝て帰る奴もいるくらいだ。(とん、と机の上に懐かしい匂いのする料理が置かれた。)」

マベ「あれは一刀さんだから許されてたんだよ。……いや、それでもヤバい案件はあったが……。スイカくらいなら、みんな普通に喜ぶんじゃねえか?(昔を懐かしむように、口の端だけで笑ってみせた。)……あいつらフツーに厚かましいからなァ。ま、そんだけお前も慕われてるってこった。…………。………良かったじゃねえか。(ぽつりと呟くように言うと、椅子を引いて改めて座り直した。その料理を気にする素振りを見せながら、なかなか手を出せない。代わりに懐から小型のアーミーナイフを取り出すと、ワインボトルに手を伸ばして封を切り始めた。)…………思えば、俺は一刀さんにもお前にも、不義理なことばっかやってきた。憎んでるわけでもねえのによ。(話しながら刃先を栓抜きに変え、コルクにその先端を突き刺した。)」

ゲラルト「ヤバい案件か。思い当たる件が多すぎるが……ボヤ騒ぎになったアレとかな。 (随分とゆったりした動作で、斜め向かいに座った。)どうだろうな。一刀さんの頃からの名残りでそうなっているだけのような気もするが、……。……私は、憎まれるようなことをしたからな。それでもお前は隊に残って、任務は絶対に手を抜かなかっただろう? それは、義理を通しているということだ。(真面目に話している風だが、いつの間にかフォークに指した梨をシャクシャク言われながら食べている。)……。……。(じ、とその様子を見て、何も言わない。)」

マベ「あれか……。どう上に報告したんだよマジで…馬鹿じゃねぇの……(遠いところを見ながら(見えてないけど)栓抜きを回しながら深く差し込んでいく。)……変な意味で遠慮してたり、本気でお前を嫌ってたりしてたら、鬼上司と名高いお前が一人暮らす部屋にわざわざ男連中は来ねえだろ。(ぴく、と片方の眉を吊り上げた。)……お前何食ってンだ人が真面目に話してるときに……。………まあいい。………違うぜゲラルト。隊に残るのも任務に真摯に取り組むのも、そんなの当たり前のことだ。(栓を深く差し込むと、ボトルを自身の身体に引き寄せる。手に力を込めるその直前、ふっと視線を落とした。)………俺な。こっちへ来てから、他人を信じられなくなったんだ。誰が、とかじゃねえ。自分以外の誰も彼もがだ。」

ゲラルト「私には人の心はわからん。ただ、隊員たちも金に困ってるわけでもないだろうから、……そうなのかもしれないな。(しゃく…………)は?いいだろ、家でくらい好きにさせろ。(といいつつ、2つ目に手をつけるかどうか悩んでやめた。その様子をじっと見つめたままで。何か思うところがありそうだが、口には出さなかった。)……。……。……気持ちはわからなくもない。」

マベ「わからんって言う割に、人のこと気遣うじゃねえか、お前。……甘い物がダメで果物がいいってのがわかんねえんだよなァ……。(ずっと手元を見つめている。栓抜きをぎゅ、と握り締めてコルクを外に引き出そうと。)
……視覚以外の神経が鋭くなって、人の心が”見えちまう”ようになったんだよ。僅かな声色の変化や仕草で、他人の本心がわかるんだ。そのうち、聞きたくもねえことまで聞こえてくるようになって…、……本当に見たいものは見えねえのにな……。それで捻くれて、脅し文句ばっか上手くなって、そのうち俺は、他人に深入りしなくなったんだ。
………そんな俺を拾ってくれたのが、一刀さんなんだよ。人を信用できなくなった野良犬を、あの人は一発で懐かせた。…なんて言われたかは、…もう覚えてねえがな。(フン、と自嘲気味に笑った。)」

ゲラルト「……誰にでもするわけではない。あまり考え無しにするとよくないことも理解している。(少し首を傾げ、引き抜かれるコルクに視線を落とした。)……そうか。その苦労は私には到底理解できるものでは無いが……、お前は芯の部分まで曲がってはいないだろう?寧ろ、誰よりも真っ直ぐだ。馬鹿みたいにな。 だから拾われたんだろ。あの人は、そういう人間が好きだからな。(あの頃を思い出し、少し穏やかな顔をした。仕事中にはほとんど見せない、ある日の晩にしたような穏やかな目。)」

マベ「(引き抜く直前で手を止めた。)………気遣った相手が善人とは限らねえからな。(まるで過去に何かあったかのように、低い声で。芯まで曲がっていないと言われ、眉間に皺を寄せる。)………わからねえ。少なくとも、入隊直後の俺は荒れていたよ。…それでも、第2部隊は居心地が良かった。みんな真っ直ぐで、たまにバカやってさ。俺の生きる場所はここしかねえと思った。……それでも、まだ心から他人を信用できなくてな。……お前にも随分喧嘩を売っただろ?今考えりゃ、ガキのすることだったな……。(その穏やかな表情に、苦笑いともいえない微苦笑を返した。)」

ゲラルト「あの部隊は馬鹿みたいな奴らしか集まらないからな。他の組織なら到底扱いきれないような人物が自ずと集まってくる。……私も、お前もな。(ん、と考えるような仕草をした。)あれを喧嘩と……そんな生ぬるい言葉で言い表していいのかは知らないが。そういえばその前も良好な関係というわけではなかったか……、まあ、今更気にしてはいない。実際ガキだったんだろ。……お互いな。いや、今でもか?(視線を別のところにやった。キッチンの方をじっと見て、なにか思い出したように一度目を伏せた。)」

マベ「(不意にコルクをボトルから引き抜いた。特有の破裂音のような音が、部屋に響いた。)………殺し合い。…みたいなモンだったよな。……まア……今でもそうなんだろうよ。お前のことを嫌ってると思われちまうくらいには、俺はまだまだクソガキってこった。あの女が俺達をガキ扱いしたのも、ある意味当たってたってワケだ…。
(トン、と栓抜きとコルクをテーブルに置いた。ボトルの底を持つようにして、2つのグラスに中身を注ぐ。深い赤色の液体が渦を巻くように勢いよく中を満たしていく。)
………俺な。一度もあの人を隊長って呼んだこと、無かったんだぜ。荒れてた手前、恥ずかしくてさ。もっと強くなったらきっと呼ぼうって……、それきりだ。…最後に話したとき、またうちに来い、何が食いたい?って聞かれて……。………俺がなんて答えたか……、………わかんだろ……?(ボトルをテーブルに置くと、その料理を見つめた。少し目が赤くなっている。)」

ゲラルト「いいんじゃないか?なんでも分かりきって世の中の全部面白くないようなツラするより、いつまでもガキのままで、本部の中庭でスイカ割って種飛ばしてくだらねーなって笑ってる方が。(一度目線を向けかけたのをやめて、キッチンの方を向いたまま。)……。……そうか。……。……。お前と私は根本的に相容れない人間だが、こんなところで意見が合うとはな。私ももし同じ質問をされたら、そう答えるだろう。(少し長めに息を吐いて、やっと視線を向けた。)……まあ、食ってみろ。そこそこ自信はあるぞ?(に、と珍しく口の端を上げて笑って見せた。きっと同じようなことを、数年前にもこの同じ場所で”彼”が言ったのだろうが、言った当人はそんなことは知る由もない。)」

マベ「……お前さ、(赤い目をしたまま表情を崩した。ずっとこちらを向かないことにやっと気が付いたが、何か言うわけでもなく。)時々そーいう喋り方するよな…。前に比べて、色々と顔に出すようになった。……それに、……。………。………!(その言葉と滅多に見ない表情にハッとし、思わず手を伸ばしかけて慌てて両手をパチンと合わせた。)………い、……”いただきます”……。(言ってから気恥ずかしそうにしたが、それを振り払うように思い切って箸を取り、おそるおそる目の前の”芋の煮っころがし”に手を伸ばした。器用にひとつ摘んで、口に入れる。)」

ゲラルト「単にお前と会話したことがほとんどなかっただけで、隊長ではない私はいつもこんな感じだ。(ふっといつものようなほとんど感情の乗らない顔に戻り、少しぼんやりした感じで目の前で行われた動作を見ていた。)一刀さんとあのキッチンに立って何度も手伝わされて芋の皮を剥くのだけはうまくなったが……、いざ一人で作ると同じにはならなくてな。何度も練習して、かなり近い味にはなったと思うんだが…………、(少し目線を落として、しばらく言葉を探した。)……5年も経つと、もう、正確には思い出せないんだ。残念なことに、な。」

マベ「…………。(ゆっくり噛み締めるように口を動かしている。飲み込む前に2つ目を取り口に運んではまた長い時間をかけて咀嚼し、またその次を口に運ぶ。3つ目を飲み下ろしたところで箸を置いた。)……………。……………。(すぐ目の前を見つめたまま、黙りこくる。箸を置いた利き手をギュッと握り締め、俯いた。)……美味い…。………変わってない………。……ずっとずっと前、俺が最後にここに来て食べたときと、変わってないよ、ゲラルト……。(握り締めた拳が小さく震える。)……味覚の鋭い俺が言うんだ…、間違いないだろ……?なぁ……?(顔を上げた。両目に今にもこぼれ落ちそうなほど涙を溜め、困ったように、嬉しそうに笑っている。)」

ゲラルト「(はっと少し目を見開いて、顔ごと違う方を向いた。)…………こんなことをしたところで、一刀さんを越えられるわけでもないのにな。我ながらくだらん努力だ。(口元に手がいって、また言葉に迷った。)…………だが、……そう、だな、……素直に、嬉しいとは思う。…………。(少し気まずそうにグラスに手を伸ばし、自分の前に引き寄せた。)」

マベ「(ごし、と腕で目元を強く擦った。)くだらないなんて言うなよ……お前のおかげだ……。またこの味を口にできる日が来るなんて、思ってなかった……。(指先で目元を拭い、気まずそうなゲラルトのほうを見てふっと息を吐いた。)…………確かに、お前と俺とは、根本的なところが合わないらしい。……けど、……けどな、ゲラルト。俺はお前のこと、心の底から憎いってわけじゃないんだ。…………お前は、”言葉で自分を飾らない”から。(そう言うと自分もグラスを手元に引き寄せ、中身を確かめるように手の中で揺らした。)」

ゲラルト「お前のために努力したわけではない。自分のためだ。……まあ、お前がそう思うなら、このくだらない努力も少しは意味のあるものになったかもしれないな。(ほんの少し、意外そうな顔をしてチラリとそちらを向いた。)意外なことを言うんだな……? 私は飾らないのではなくて、不器用で飾れないだけだ。 ……。……ようやく、お前と言い合いにならずに会話ができるようになったな。(最後はおそらく冗談なのだろう。グラスを持ち上げ視線を向けて、少し目を細めた。)」

マベ「不器用でも、自分を良く見せようと無理して御託を並べる奴は星の数ほどいる。……お前はそうじゃない。そんなお前が”俺を信じろ”なんて言うから……、……信じてみたくなるに決まってンだろ?
それにお前は、一刀さん亡き後のウライオスを…、……俺の居場所を、守ってくれた。一年前、もしお前が死んでたら……俺はまた野良犬に戻って野垂れ死んでた。確実にな。(同じようにグラスを持ち上げた。視線をかち合わせた瞳の奥に、ぼんやりと光のようなものが反射したかもしれない。)………今日はな。悔いを残さないようにしようと思ってここに来たんだ。こんなに腹割って話すのは、今のうちだけかもしれねえが。部隊に復帰すりゃ、俺は”札付きの狂犬”だからな。(片目を瞑っておどけたように笑ってみせた。)」

ゲラルト「なんだ、お前もう酔ってるのか? そうだなー……、あのとき咄嗟にそう言ったのは私自身が…………いや。俺が、お前を信じていたからだ。期待とは違う行動を何度かしたことは確かだが。(と言いながら、空いている手でつんと首に貼っているガーゼをつついてみせた。)この無駄に長い”休暇”の間は、ウライオス隊員ってわけでもないだろ。何せ魔術が使えないんだからな。本当に、不便で仕方ないよな? ……悔いは、どんな形で終わろうと必ず残る。ただ、自覚している悔いは少ないに越したことはない。互いにいつまで生きられるかわからないからな。(ふ、と短く息が漏れた。すぐにグラスに口をつけて離し、そのまま少し黙っている。)」

マベ「酔ってねーよ。俺はアルコール度数16程度で饒舌になるようなタマじゃねえよ。(少し視線を落とした。)………。………ありがとうよ。誰も信じられなかった俺を、信じてくれて。(首をつつく仕草にちらと視線だけを向けた。)……あンだよ。悪かったねえ躾のなってねえ狂犬でよオ。テメエだって人の耳にキスしたろ?……ま、期待通りと行くかはしらねえが、今後の課題が山積みなのは確かだ。俺一人で”あれ”に対処できるようになるには、だいぶに調整が必要だ…。(片手を頭に当て、どこか遠くを見つめた。)あー、移動手段ひとつ取っても面倒臭えことこの上ないぜ。非魔術師ってのは大変なんだなァ?………。………そうだな。………生きてるうちに、言える機会があるうちに、口に出して相手に伝えねえとな。……俺みたいに後悔ばかりの人生になる……。(難しい顔になり、グラスに口をつけた。)…………ッ、ン…………!(その途端、口の中に広がる味に驚いたような表情を浮かべた。)」

ゲラルト「当然のことだ、礼を言うようなことでは無い。隊長が隊員を信じられなくてどうする。(ん?と首を傾げて)したか……?……。……またあんなことが起これば、また一緒に行けばいい。誰か一人に負荷のかかるやり方が気に食わないんだろう? 私と一緒に出られる人員は限られるが、お前ならどうとでもなる。 ……そうだな。さっきお前は心から憎んでいるわけではないと言ったが、私は、(言いかけたところで妙な反応をしたことに驚いて言葉が途切れてしまった。)何だ?毒は入ってないよな?(思わず自分のグラスを覗き込んだ。)」

マベ「……うん。……それでも、嬉しかった。迷いながらやってきたことが、報われた気がしてさ。………。(言ってから照れ臭そうに顔を背けた。)した!したっつーか、……まァしたも同然ってとこだ、大好きな部下になんちゃらかんちゃらとか言いながらな。あン時ゃァ必死だったから黙ってたけどよォ。(くすぐったそうに耳に触れる。続く言葉に真面目な顔になり向き直った。)………。………ああ。それが俺の理想ではある。だがお前におんぶに抱っこじゃ意味がねえからな。鍛え直しだ。……それとデスクワークも他の奴に振り分けようぜ。よくあんなアホみてえな作文読んでられンなァお前、感心したわ。…………っ。(けほ、と咳払いして)……大丈夫だ、味は問題ないんだけどな……。…………。(じ、とゲラルトを見つめた。なんともいえない顔をしている。)…………。………今、何か言いかけたよな?」

ゲラルト「……ん。(少し不思議そうな顔をしたが、短く返事をしただけで、それ以上は深く聞かなかった。)そうだったような気もするな。相手の動揺を誘えればなんでも良かった。深い意味は……あったら困るだろ? ……、(続く言葉に、ほんの少し責めるような目つきになった。何も言わないが「一番アホみたいな作文を寄越してくるお前が言うな」とその目が語っているようだ…。) ……ああ。大したことでは無いが。……。私にとってあの隊は私の全てだと言ってもいい。隊員全員が大事な存在で、アイツらのためなら何だって出来る。……お前も例外ではないということだ。嫌いじゃないぞ、大好きな部下、だからな。(冗談なのかどうか判断のつかない、あまり変わらないいつもの表情。じ、と見つめるその目だけが、心まで貫くように真っ直ぐ向けられている。)」

マベ「……………。(口元に手を当てて、難しい顔をしてグラスの中身を見つめた。赤黒い液体の入ったそれを揺らし、瞬きをするともう興味が逸れたかのようにゲラルトに視線を戻した。)………あったら困るな。次の日からお前の顔、見れねえわ。(フンと片目を細めて笑った。責めるような目つきは意に介していない。しかし続く言葉にその顔つきがみるみるうちに驚きの表情へと変わっていく。)…………、……………!…………。(もう見えていないはずの瞳で、その貫くような視線を受け止める。少しの間そのままで固まっていたが、ふっと肩の力を抜いて笑った。)……………あーあ。”憎んでるわけじゃない”なんて回りくどい言い方、するんじゃなかったな…。謝ったのもお前が先で、今回も先を越されっちまった。……………。(困ったように笑って肩をすくめた。先を言おうか言うまいか悩んで、俯き加減になった。)」

ゲラルト「言えるうちに、……生きているうちに、口に出して伝えないと、だろ。こんなこと言える機会はもうないかもしれない。お前がこんな風に仕事でもないのに会いに来て、喧嘩腰にならずに話が出来るのは今日が最初で最後かもしれないからな……?(つられてほんの少しだけ笑ったような息を吐いた。)嫌われているわけではないと分かれば、それでじゅうぶんだ。……。お前、今日俯いてばかりじゃないか?辛気くせぇ顔しやがって。」

マベ「…嫌ってなんかいねえよ…。おれ、ホントはあの人の後継げるのはお前しかいねえって思ってたんだぜ…?なのに、一刀さんが死んだのを受け入れたくなくって…、お前に向かって隊長だなんて認めないなんてよう……、……ホント、……笑えねえよなァ?(俯いたまま、静かに自分を嗤った。)
………あァ。……そうだなァ。俺にしちゃ辛気臭え面ばっか見せてるな。こんなんじゃ、一刀さんに笑われちまう。何しに来たんだお前、って。…………。(くっと顔を上げた。目はまだ赤いが、確かに強い意志を持った表情で。)
……俺が何よりも優先するのは、お前だよ、ゲラルト。俺も、自分の居場所を守っていきたいんだ。誰よりも強い、最ッ高にカッコいい男の隣でな。………あの月の夜、お前と和解したときにそう思ったんだ。」

ゲラルト「……………………………ん? おい、そんなこと面と向かって言われたら照れるだろ、普通に。(照れくさそうに困った表情をしたが、その顔は少し笑ってもいる。)あの人の背中を追わなければと気負ってばかりいたが、私も少しは近づけたのかもしれない。……これからも守っていこうな、……俺達二人で。(あの夜、不確かな未来を信じて二人で戦いに行ったことを思い出して、少し目線を下げたが、急にはっとした顔をして、) …………いや!? お前、それ、ミラには言うなよ!?アイツの前では「俺が何より優先するのはお前だよ、ミラ。」って言っておけよ!?」

マベ「お前だって言ったろ…。俺のほうが大事だって。まだ死ぬな、って。俺のことそれはそれは大事に抱きかかえながら。(な?と同意を求めるように首を傾げ笑った。)……さっき言いかけてたんだが。お前、似てきたよ。一刀さんに。時々はっとさせられる…。………でもよ、お前はお前だ。今のウライオスは間違いなく、お前の築いたものの上に成り立ってる。………。………おう。これからも、よろしくな。……ゲラルト隊長。(今までで一番優しく、穏やかな笑顔を見せた。)
…………ん?ミラはもう知ってるぜ。あいつに告白する時に言ったからな。(けろっとした顔でさらりと言った。)…知ってるというより、俺が言う前に気付いてたぜ?本当は俺がお前のことを大好きだってな。」

ゲラルト「ああ言ったな。私にとっては大事な過去だが……、あの刀とお前の命なら天秤にかけるまでもない。ウライオスは、これまで所属した全ての隊員によって築かれたものだ。私一人が築いたものではない。(はー、と大袈裟にため息をついた。)お前……、本当に馬鹿だな……、俺との付き合いよりミラとの付き合いの方が長くなるだろ……?一生言われるぞ、それ。……たまにはミラの希望通りに何かしてやったらどうだ。お前が起きるまで寝ない食べない、その割に吐きまくるわで大変だったんだからな?」

マベ「………お前はホント、……良いヤツだな。………そうだな。お前はその全てを背負って戦ってたんだな。……あの時、少し、それがわかった気がした。(ふう、と息を吐いてグラスに口をつけ半分ほど飲んだ。)……だから何だ?俺もあいつも生半可な気持ちで一緒になったわけじゃねえと言ったろ?一生言われてイヤになるようなら、それは俺の覚悟が足りてなかったってことだ。(変なことを聞く、とでも言いたげに首を傾げた。)………あいつ、精神的にクると吐くタイプか。それは俺も思ってたところだ。…何してやったら喜ぶかな、あいつ。(頬杖をつき、先程とはまた違った穏やかな顔つきになった。)」

ゲラルト「そうか?当たり前だろ。全ては到底背負いきれないが、そうありたいとは思っている。……私も、まだまだだな。(片目だけ顰め、少し考えて。)お前が言われてどう思うかはどうでもいい……ミラの気持ちを考えろ。アイツは誰の一番にもなれずに生きてきて…………いや、お前らのことに干渉するのはよくないな…、(額に手を当てて、少し首を横に振って自分の言動を否定すると、また顔を上げ。)どうだろうな。何となく、なんでもないようなことを言いそうな気はするが。」

マベ「……それは歴代の奴等も、おんなじこと思ってただろうよ。ま、背負いきれねー分は俺が背負ってやるよ。……それが良い組織ってモンだ。(少し姿勢を崩し、首を傾げて目を細めた。)………ああ、そういうことね。俺ン中ではお前もミラも、それぞれ別の意味で一番なんだが、…………あいつが本当になりたいのは”一番”じゃなくて、”唯一”なんじゃねェかな。(じ、とゲラルトを見つめる。)女のなんでもいいはアテになんねえなァ…。……ま、本人に聞くか。全部やってやるくれーのつもりでよォ。(に、と笑った。)」

ゲラルト「まずはくだらん内容の報告書をやめるところから始めてみろ。そしたら、業務配分について考えてやってもいい。(額にあてた手をなんとなくそのまま軽く握って耳元に持ってきて、頬杖をつく形にして。)まだ、誰よりも強い、最高にかっこいい男を譲るつもりはないからな。 ……アイツは生まれた瞬間から誰かの代わりだった……、いや、いい。私がいうべきことではない。無かったことにしてくれ。 どうせ「じゃあまずはパフェ食べに行こ」とか言うぞ。「魚釣りしたい」とかな。(何となく見つめ返すことになり、そのままじ-ーっと見ている。)」

マベ「あー、アレねェ。ま、…そうだなァ。たまにゃァちゃんとしてやるよ。たまにはな?(ニヤリと笑ってグラスの中身を飲み干した。ことりとグラスをテーブルに置く。)…安心しな。まだ当分追いつけねーよ。他の連中はツートップだのと持て囃すが、俺にしかねえ強さという意味では、………まだまだだからな。(そう言うとまた芋の煮っころがしに手を伸ばし始めた。)…………わかった。(煮っころがしを口に入れる。よほど気に入っているのか頬が膨らむほどもぐもぐと食べている。)……おまえパフェ食べらんねえじゃん。…魚釣りねえ…あいつ釣りできんのか…?………。…………。(よく見ると眼鏡をかけていないからか、淀んだような瞳の色がわかりやすいかもしれない。深い闇のような、のっぺりとした茶色の目をしている。)」

ゲラルト「…どうだろうな。強さと一言で言っても色々ある。少なくともお前はあの夜、私には絶対に真似できないこともやっていたと思うが。……少なくとも俺にはあんなくだらない報告書を書く才能はないな。(自分の作った料理をたまにとって食べながら、ほとんど表情を変えずに。)ミラの提案は”やりたかったけれどやってこれなかったこと”を言っているだけだ。…あまり深く考えずに付き合ってやれ。 …………。……お前、意外といい顔で笑うんだな。」

マベ「(芋をつまむ箸の先を見つめながら)……文才を褒めてもらって恐縮だが、俺が目指すのは小説家じゃねえ。……やっぱ俺、誰かを守ったり、助けたりするのが性に合ってるわ。(そこまで言うと芋を口に入れ、少しの間黙った。)…………なるほどな。じゃ、暇な長期休暇中は、お姫様を甘やかしてやるとしますか。…………。…………!?(一瞬沈黙し、赤くなった。)ハアぁ!?……ンだよいきなり……。」

ゲラルト「褒めてねぇよ……(く、と笑った。)そうなんだろうな。私は殺すことでしか守れない…………、が、お前の任務を肩代わりしたときは”いつものやつ”は封印しておいたぞ。(一度外した視線をまたちらりと向けた。)いつも取り締まられる側みたいな悪人面しかしないくせにな。……ここしばらくの一件で、一刀さんがお前を見捨てなかった理由がわかった気がする。『なーんだお前、意外と可愛い顔して笑うんじゃないか!』って言われたことあるだろ?(いつもの顔で、なんとなく口調を真似して。)」

マベ「…………お前のやり方にも意味があるのは、もうわかってる。お前はお前、俺は俺だ。……フン、なんだ。やろうと思ったらできンだな。見てみたかったわ(口の端だけで笑った。)あーそうだよ、捻くれ者だからそういう顔になっちまったんだよ。おかげで誰が言い出したのか”札付きの”なんて呼ばれて……、(視線を外しかけたが、その声真似に戻して変な顔になった。可笑しそうな、憤慨しているような、そんな表情。)ッ……、………。……言われてねえよ、バァカ…。(片手で顔を覆って身体を少し震わせて笑っている。)」

ゲラルト「できるどころか、あの人に徹底的に鍛えられたんだ、得意に決まってんだろ? 一刀さんの真髄は不殺のCQCだからな。…………札付きの狂犬、か。似たようなもんだ、ろくな呼ばれ方をしたことがない。(ん、と不思議そうにその様子を見て)絶対言われてるだろ? ……出会ってしばらくした頃に言われたことがある。あの頃は、笑い方のひとつも知らなくてな。」

マベ「…………!(建国祭でゲラルトが見せたあの動きが頭をよぎった。その鮮やかな姿が”あの人”に変わる。笑うのを止めて、手を顔から離してテーブルに置いた。)……………ミラもな。人を守って戦ってる俺が一番好きだって言ってくれたんだ。……口では”俺がそうしたいからそうしてる”とか言いつつ、頭ン中じゃ迷ってたんだけどな。意味あるのか?って。…………。(くいっと目線を逸らした。)……そーか。お前もさっき、割とイイ顔して笑ってたぜ。……ま、俺はその通り名があったからお前の犬になれたわけだがな。(いつもよりは幾分悪さの消えた、皮肉めいた笑みで。)なんだ、俺が可愛いあだ名、つけてやろうか?」

ゲラルト「俺もお前も方法は違うが、目的は同じ……何かを護るために戦っている。そう思えば意味はある。(少し首を傾げるようにして。)今は隊長と一隊員というわけでもない、ただの知り合い同士だろ。気を張る必要もなければ、真面目になる必要も無い……スイカ割ってた一刀さんと同じだ。たまには笑ったりもするだろ、人間なんだから。 ……。……お前のあの文才でか? どうせ下ネタぶっ込んで……(突然家の呼び鈴が鳴り、そちらの方へ顔を向ける。)……?」

マベ「………そうだな。ホント、おもしれーわ。とことん真逆に見えて実は見てるとこが同じだなんてよ。(片手を軽く上げて肩を竦めた。)……お前のほうからそんなふうに言われるとは思わなかったぜ。普段はカタブツのくせに。……あ?下ネタ?そーゆー話がしてえならもっと早く言えよ。日頃から呼べる名前のほうがいいけどよ、お前がどーしてもって…(玄関の方へ視線だけよこした。)…隊の誰かが来たんじゃねえか?よし、ここは多数決でお前のあだ名決めるか!?(楽しそうに立ち上がった)」

ゲラルト「他の隊員もここではそんな感じだ。好きなことを喋って、私に相槌を打たせて、勝手に満足して帰っていく。だからここにいる間は、隊長ではなくただの一人の人間として話を聞いてやるんだ。……本当にくっだらねぇ話して帰るからな…、アイツら。どうやったら女にモテますか?とかな。俺に聞いてどうするんだ。(軽く制止して、)……いや、待て。今日は誰も来るはずがない。(思わずすぐ側においてあった刀に手が伸びる。)」

マベ「……………。(話を聞きながら目を細め、複雑な表情になった。ただの一人の人間として隊員の話を聞くというゲラルトに、5年前自分の吐いた言葉を思い出し伏し目がちになる。しかしそれはほんの一瞬で、すぐに顔を上げ、笑ってみせ。)………………そうか。(その一言に、思いの全てを込めた。)
そりゃお前に聞いても参考にならねえな、なんせ土台が違……、…………。(刀に手を伸ばすその手を片手で制した。)………”御法度”だろ。ナイフなら用途は殺傷だけじゃねえからな。(もう片方の手の中でくる、とナイフを回す。)お前、俺と自宅デートするつもりだったのか。そりゃ嬉しいねェ。(言いながら玄関の方に向き直った。)」

ゲラルト「わざわざここに話しに来るということは、何か理由があるんだろう。本人にその自覚があるかどうかは知らないが。(その手の動きを見ていたわけでは無いが、伸ばした手は刀を掴まずに止まった。)…………、なら、お前が確認してこい。止められているのは”魔術使用”だけだ。(顔を僅かに振って、行け、と。)」

マベ「……ああ、俺が行くよ。どちらにしろここでそれは振り回さないほうがいいだろ。(背面が鋸刃になったサバイバルナイフを軽く握り締めた。)……上も甘いよなァ、魔術だけが取り柄のお上品な部隊だとでも思ってンのかねえ?(そう言うとゆったりとした足取りで玄関へ向かった。ドアの前まで接近して、ナイフを持った手を背中へ回す。)
…………誰だ?生憎家主は不在だぜ。帰りな。」

(しっかりとした厚みのあるドアの向こう側の様子は、よく分からない。突然の訪問者は、中にいる人が反応するのを待っているらしく、何も喋らずしんとしている。)

マベ「……………?(片目を細め首を傾げた。)……宗教の勧誘だったら手加減できねえんだけど……、…………まあいいか。一発くらいなら、殴ったうちに入らねえだろ……ッ!(ドアノブを握り、思いっきり開け放った。)」

「…………これでも喰らえ!(ドアが開けられた直後、”見慣れない人物”がドア横から突然姿を現し、手に持った長い30cmほどの何かをマべの顔か首の辺りに突きつける。何となく聞いたような声だが、一瞬で判別するのは難しいかもしれない。)」

マベ「ーーー!(横からの空気の流れと声を出す直前の息遣いに反応し、上体を反らして何かを避ける。片方の手でその”何かを掴む手”を思い切り掴んで、自分のほうへ引き寄せて抱き込もうと。)」

「やっ…… わ、……ぁあんっ……!?(黒っぽい長い髪を緩く巻き、明るい茶色の目をした女。短すぎる白いスカートに、胸元だけが不自然にあいた童貞を殺しそうな黒い細身のニットを合わせている。思いがけず聞こえたのは無闇に色っぽい声だった。)……うぇ? やっほー、あれぇ?お土産のチュロスはお気に召さなかったかなぁ??(いつもよりへにゃへにゃしているが、その声は聞き覚えがある…はず…)」

マベ「(そのへにゃへにゃした声の相手を抱き締めてしまってから、はー………と長い溜め息をついた。)………おーいゲラルト。でけえのが釣れたぞ。(そう家主に声をかけると、腕の中の人に顔を向けた。)………ミラ。お前なんだよその格好は……童貞でも殺してきたのか?ん?(呆れ顔でチュロスを持った手を握っていたのを離す。)酔っ払ってンのか?随分ご機嫌じゃねーの。」

ゲラルト「…………。(部屋の奥から歩いてきて、その姿を見て同様に溜息を着いた。)もう来るなと言っただろ…。何しに来た……?」

ミラ「だってひとりだとまだ不安でぇ、(何だか心地よい匂いに包まれ、思わずぎゅーっとしたまま、すぅはぁと何回か深呼吸し、)あれえ?隊長んち来たつもりだったのに、キソーホンノーでマべさんち来ちゃった…………ん?……え!?なんで!? (ばっと顔を上げてその姿を見て驚いてから、またぎゅーっとくっついて。)……わぁ♡寂しかった♡ ……じゃなくて!!なんで!?(またばっと顔を上げて驚いている。多分酔っているのだろう。)」

マベ「……お前、もう来るなって言ったのか?(微妙な顔をしてミラに吸われている。)……帰巣本能ガバガバじゃねえか?俺がいたらどこでもいいんじゃねーか。(何度も顔を上げて自分を見直すミラに苦笑いを向けた。)おーおー、寂しい思いさせちまって悪かったなァお姫様。ま、入れよ。いつまでもここで騒いでると他の住人に迷惑だぜ。(身体を離し、ミラが中に入れるようドアの横に立つ。)」

ゲラルト「当たり前だろ。お前の入院中はあまりにも、……。(本人がいる手前、言葉を濁した)……仕方なく何度か上がらせたが、お前がいれば私は必要ない……いや、……。来るべきではないだろう?」

ミラ「あーそうだ、家行ったのに居なかったから、ちょっとよく分かんなくなって……、(急にふと酔いが覚めたみたいに黙り込んで、困ったみたいな顔をした。)……うん。隊長んちで飲み直ししよー♡ お邪魔しまーす♪(またハイテンションに戻って、2人の反応もまるで無視したようにふらついた足取りで家に上がり込んでいく)」

マベ「………。(ゲラルトのほうを向いてどう言おうか考えた。)……いーよ。俺じゃできねえことをお前はミラにしてやれるし、お前にだってミラは必要だ。……あんま、変な気は使わないでくれよ。今まで通りでいいじゃねえか。……………な?(困ったように少し笑って首を傾げた。そのままミラのほうを見る。)…そうか、悪かったな。今日は久しぶりにここに来る用事があったからよう。飲むのはいいが、だいぶ酔ってるだろお前。あ、メシ出来てるぞ。(最後はまるで自分の家のように……)」

ミラ「(さっさと奥の部屋に行ってしまったらしく、中から声だけ聴こえる。)あ、ほんとだ、ご飯できてる。あっ、ついにこの不気味なワインあけ ぁ~ わあぁあ (ドテッ!!とお手本のようなすっ転び方をした音が聞こえた…。)」

ゲラルト「……だいぶお転婆なお姫様だな。(また溜息をついて、片手で軽く頭を抱えた。)こういう時はお前の出番だろ。(目配せをして、ミラをどうにかしろと。)」

マベ「お前も不気味だと思ってたのかよ?………、……あ、……あーあー……俺達が生きてる間にあと何回転ぶんだろうなあいつは……?(横目でゲラルトを見た。また困ったように笑うと、小さく頷いた。)…大丈夫か?ほら、俺が行くまでそこ動くんじゃねえぞ?今度はテーブルの角で額ぶつけンのが見に見えてッからなア……(後頭部を掻き、自分も奥へと足早に歩き出した。)」

ミラ「あーもう、何で、(ごっちん!!)いったぁ!!!(言った通りの展開が起きたらしい音がした。)」

ゲラルト「(閉まったドアの鍵をかけて、何となく視線を下げて。)…………今まで通り、か。(ふと、静かに呟いた。)……悪くないな、(少し目を閉じて心の中でその先を言うと、また顔を上げ、2人を追うようにして部屋に戻って行った。)」