(ウライオス本部。建物の裏側にある広場。休憩中なのか隊員はおらず、建物の中から話し声が聞こえている。)
ゲラルト「(誰もいない広場に設置された休憩用の長椅子に座って建物をぼーっと眺めている。先日ぶっ壊した建物の窓はすっかり修復され、元の姿に戻っている。)」
マベ「(ふと風向きが変わった、その風上から歩いてきた。陽の光に目を細め、背を少し屈めるような姿勢。知らない者からすれば喧嘩を売ってきそうな、そんな態度。)」
ゲラルト「(建物を少し見上げていると、風に揺られた金髪が額を撫で、少し顔を顰めた。一瞬だけ風向きが変わったその方へ視線を動かしたが、特に反応はしない。)……。(何かを思い出したようにふと息を吐いた。)」
マベ「(長椅子の前まで来て歩みを止めた。)…………………。(少しの間黙って突っ立っていたが、ムスッとした様子で長椅子の端っこのギリッギリのギリッギリに背を向けて座った。)」
(建物の窓から外を見ていた隊員が、ヒソヒソと何か話している様子が見えた。皆、少し前に起きたあの件を思い出しているのだろう…)
ゲラルト「……………何か用か?(普段より幾分か穏やかな印象の声色。)……。……いや……、お前、この間、”あの歌”が少し聞こえると言っていたな。」
マベ「ただの休憩だよ。………。…アイツらまだ騒いでやがんのか…。(隊員の声が”聞こえた”らしく、舌打ちして建物の方を睨みつけた。)…………あ?(振り向いた、そのときに発した声は思っていたより柔らかい。)……ああ。ずっと女の話し声だと思ってたんだが、ミラに言われて気付いたんだ。普通なら、すぐに妙だとわかるはずなのに…。」
ゲラルト「この状況だからな。いやでも思い出すだろうな…。(少し苦笑い、と呼べるのか分からないほど微妙な表情の変化。) アレは、普通の人には聞こえないらしいと知ったのはここ数年の話だ。……私には幼少期から聞こえていたからな。それが普通だと思っていた。」
マベ「そりゃあな?誰かさんがえっぐい大技キメやがったせいで、………。(なにか思うところがあったのか急に押し黙り、少し振り返るような格好で向き直った。)………なるほどな。お前のことだ、どうせ誰かと話していても、話題にも出さなかったんだろ。」
ゲラルト「建物ひとつぶっ潰したことある奴が言うことでもないだろ。窓の一つや二つ……、(言葉を区切ってため息を吐いた。)いや。何となく話題に出した時、誰も同意しなかった。それで初めてあれが”気が触れた”魔術師にしか聞こえないものだと知ったわけだ。……今まで私が尋ねた中でそれに同意したのは、ただ一人だった。お前を除いてな。」
マベ「(何か言いかけたが、大きく溜め息を吐いてそれを無かったことにした。完全にゲラルトのほうへ向き直り、座り直す。)………あのな?こないだのは仕方なかったとして、だ。緊急時でもねえ限り、あんッな大技キメるときは事前に言え。じゃねえとこちとら無用な心配しちまうからよ。………。………。そいつは誰だ。」
ゲラルト「いや……まあ、そうだな……、私の能力を知らなかった隊員たちが、あのあと顔を見る度に押し黙るようになった。そのようなつもりは無かったんだが…。 (誰だ、と尋ねられて初めて視線をそっちに向けて) アリーチェ……、アリーチェ・ネフティスだ。あいつも今どこで何をしてるんだろうな。」
マベ「(イラッとした顔になり、長椅子に手をつくようにしてグッと近付いた。)俺だってあんなやっべえモン持ってるって知らなかったっつーの!!こちとらお前が死んだんじゃねえかと思ってマジで心配したんだからなバカ野郎!!……、………。(はっとして、そっと距離を取った…。)………アリーチェか。……強い奴ほど、すぐに居なくなるな…。」
ゲラルト「馬鹿はお前だろ…、あの程度で術者である私が死ぬと思うのか? ……本当に、……馬鹿だな。(ふと、困ったような顔をした。笑ったと言えばそうかもしれない。) お前、あれが本当に死んだと思ってるのか?(少し首を傾げた。)……。……新月の夜は世の中の魔力バランスが狂っているらしい。恐らく、その均衡を保つために”誰か”があの歌を歌っている。」
マベ「(ち、と小さく舌打ちした。)……部隊長の無事を確認すんのは兵士としても、飼い主ありきの飼い犬としても当然だろ。他意はねえよ。……それにな。(ふっと目を細めた。眉間に皺が寄っている。)…”強いから死なねえ”ほど脆弱な法則はねえよ、隊長。(一度目を閉じ、次に目を開けたときには真顔に戻っていて)さあな。俺は目の前にある命に目を向けるだけで精一杯だ。ここに居ない奴が生きているか死んでいるかには興味ねえ。…ただ…、もし、あいつが生きていて俺の前に現れたなら……少し、嬉しい。……。……”誰か”ねェ。そんなわけのわからねえ奴の歌が聴こえる奴は、確かに”気が触れて”ンな。(ふ、と小さく笑った。)」
ゲラルト「……そうか。そうだな。(ただ短く、それだけ。)意外なことを言うんだな。お前、アレにも酷いやられ方してなかったか? ……、(つられるようにふ、と息を吐いて。)新月の夜、あの歌が聞こえるレベルの魔術師やそれに準ずる者はその能力も狂うのかもしれない。少なくとも私は、本当に自分でも気が触れたかと思う程に、……(その先を言い渋った。)」
マベ「あ?それはもうクソ酷かったぜ。お前とどっちが、ってくれえの悪趣味ぶりだったが、それでも心の底から憎むようなことじゃねえだろ。……。………、(言い渋る様子にはっとして笑うのを止めた。)……言ってみな。笑わねえから。」
ゲラルト「……いや、そういうわけでは無いんだが、うまく説明がつかなくてな。(遠くを見て、何かを思い出すように軽く目を閉じて。)あの魔力解放の規模も強さも、私の制御が及ばないほどに増幅してしまう。広範囲の魔力を喰らい尽くしてしまう程に、だ。」
マベ「………。(同じ方向を見るようにして目を細めた。片手を目の上に当てて、陽の光を遮る。)それであの時、国のライフラインがイカれたわけか。……。………。(また眉間に皺を寄せた。)………なあ。…俺も、そうなるのかな。」
ゲラルト「あれが聞こえるなら可能性はある。ただ、自分でもそうなってみなければ分からないものだからな、気を付けるに越したことはない。思いがけないことが起きて自滅するようなことになり兼ねない。お前は、特に、……。(珍しく、また言い渋った。)」
マベ「特に、なんだよ?今日はやけに歯切れが悪いな。あんたがそういう言い方をすることは、多くはねえ。(黒眼鏡を外し、目元に当てていた手で両目を擦った。)……おかしな話だ。新月の日なんて、これまでに何度もあったはずなのに、俺自身全く気付かなかった。(擦っていた手のひらをじっと見つめた。)」
ゲラルト「不確定要素が多いからだ。何せ、この話に同意する術者はそう多くは………………、(言いかけてまた言葉を区切った。)……そういえばミラも新月の影響を受けるんだったな。あれは”使用不可”という形でだが、ミラは…………、神域の力を持っているから、ということなんだろうな。」
マベ「ッあーもー!…あのよォ?俺、焦らされるのは大キライなんだけどよォ?(真顔で言った…。)……。………そうなんだろう、な。………能力がなにも使えねえってのも、特殊だと思うが。(視線を落とした。手で触れた彼女の顔を思い出しているのだろう。)……神域ねェ。……。……(ふと、顔を上げてゲラルトのほうを見た。)……なあ。神域の力っつーのは、魔術師の使うものとは違うとかなんとかっつってたよな?」
ゲラルト「お前そんなに短気で大丈夫か……? 新月の夜はミラは姿を現さないからな。私には、確かめようもないことだ。(遠くを見たまま、視線を向けることもしない。)そうらしい。「魔力」を消費することに違いはないようだが発動条件が違うらしい。私も詳しい訳では無いが、……正しい情報かどうかもわからんしな。(暗に、誰かに聞いたと言うような感じ。)」
マベ「ハ、今更だな。これでもマシになったほうだぜ?(口の端を上げて笑った。)……あー。……。……そうか。(彼女にそれとなく聞いてみるか、と思いはしたが口には出さなかった。)…お前が不確定なことをそうやって話すとはな。ま、次元の違う話だからそうなるか…!(目を細め伸びをした。)……さっきから聞いてるのは”術者側”の話だが、その神域の力に影響を受けてるヤツの話はねえのか?」
ゲラルト「不確定なことしかないからこそ、神域などと呼ばれているんだろう。実際あれは神でもなんでもない。(ん、と考え込んで、少し目を細め険しい顔をした。)……カナリアの結界の中に居た人間は、その認知が歪められている自覚がなかった。魔術とは異なるから、自分がそれにかけられていることに気付けないのだろうな。」
マベ「神じゃないなら…、(その言葉の重みに、一瞬沈黙し。)…何だってんだ?(低い声でそう言った。)………。ンン………(難しい顔で後頭部を掻いた。言葉を頭の中で整理しているらしい。)……ちょっとな。この前、気になることがあってよ。魔術とは違う何かに干渉されてるっつーか…そういうことを言われたって女に会ったぜ。」
ゲラルト「私は限られた時間ではあるが一緒に過ごしたことがある。あれは私のことを「人間ごとき」と言ったが、人間と同じように楽しげに笑うし、人間以上に悲しみを抱えて生きていた。……。…何という言葉で表せばいいのか、私にはわからない。(ようやく顔を上げて中途半端に顔の向きを変えて)……魔術とは違う何か?曖昧な言い方だが、可能性はあるな。」
マベ「お前……、……そんなこと経験してたのか……。……人間以上の悲しみか……。(なんとも言えない表情になって視線を落とした。広げた脚の間に置いた手で、黒眼鏡を時折弄る。ちらとゲラルトのほうを見て。)…そいつ、自分に触れると穢れがうつるって言ってたぜ。医者には、魔術師の使う力とは違う何かが働いてると言われたそうだ。」
ゲラルト「私は、…退屈しのぎの玩具にされていただけだ。それ以上でもそれ以下でもない……そうだったはずだ。(ふ、と息を吐き。それ以上は何も答えないと暗に示して。)穢れ、か。魔力の、人体に害があると言われている部分のことか…? ……。それが仮に神域の力を受けてのものだとすれば、その女を張れば力の主に接触出来るかもしれないな。あの力は、この国にとって紛れもなく脅威だ。」
マベ「………。……そうか。(その言葉に、それだけ返して終わらせた。)ああ、そういうことも言っていたな。悪い部分を溜め込むとか…。そいつ自身は魔術師じゃない。だから医者の言うことには疑問を抱いてたが、自分で原因を調べてるようには見えなかったな。………やるのか?(調査するのかの確認。)」
ゲラルト「民間人か?だとしたら調べようとしないのにも納得はいく。民間人にとっては決して安い額ではないからな。 …非魔術師。妙な話だ。(ふと、視線を向けた。)……その方がいいだろうな。」
マベ「ああ。俺の”縄張り”を一人でフラフラしてたから声をかけた。名前は聞かなかったが、病状自体が珍しいはずだろ?かかった病院さえ割り出せればすぐにわかるはずだ。…外見にも、妙なところがあったしな。(そこだけ低い声で。)………どうする?お前、今手一杯だろ?」
ゲラルト「(前半の言葉には何も返さない。それはつまり、肯定の意だろう。)民間人の女だろ?………ミラにやらせる。」
マベ「………そうなるよな。(静かに息を吐いた。ようやく黒眼鏡をかけ直し、目を閉じて眉間を指で摘むようにして解した。)………余計な奴等が茶々入れしてこないかは、俺が見張っておく。いいよな?(ミラに危害を及ぼしそうな人間が横槍を入れてきたら叩きのめすの意。)」
ゲラルト「お前、察しが良くなったな。(少し感心した様子で。)お前はミラの監視をしろ。あれの特殊能力も人の懐に入る力も私たちにないものだが……何せ危なっかしいからな……。」
マベ「何があっても助けてやるし、どこへ行こうが追いついてみせるって約束したからな。(ほんの少し笑ってみせた。)……考えてみりゃあんた、建国祭のときにあいつの危なっかしさに振り回されてたよな。」
ゲラルト「……そうか。お前がいる間は、大丈夫だろうな。……。 建国祭の時?今年か?1年前のことか……?(ふ、とまた短く息を吐いた。) あいつは周囲を振り回してばかりだ。」
マベ「………そうしてやらねェとな。(自分がいる間は彼女が無事に過ごせるようにしてやらないと、の意。)俺が言ってンのは今年のだが…一年前のときは確か、お前に感謝してるってことを言ってたな。……まあともかくだ(ふっ、と笑って。)あんたがあいつの一挙手一投足に振り回されてるとこ見たら、なんか可笑しくてさ。」
ゲラルト「……。(少し長めに息を吐いた。)どちらにしろ助けられてもいるんだが、どうもあの件に関わるとあいつは事を急ぐ傾向があってな。普段はあんな風ではないはずなんだが……、 ……それはお前も同じだろう。」
マベ「なァんだお前、理由をわかってねえのか?(やや呆れ気味に。)俺は振り回されてるとは思ってねえかな。むしろ…、(笑みを意地悪いものに変えて。)今後はあいつと俺とでお前を振り回すかもしんねえなアァ?」
ゲラルト「…………?(全然何もわからないといった様子で、顔を向けた。)どうだろうな。そんな日が続けば、……それは、悪くないだろ。」
マベ「………鈍感色男が。本人に聞いてみな?(仕方ないなというように肩をすくめた。)……。………ああ。……悪くねえなァ。(目を細めた。意地悪な笑みが一瞬だけ、屈託ない笑顔に変わった。)」
ゲラルト「いや、ますます何のことかわからんが。あいつは単に、自分の仕事を自分のペースでやってるだけだろう…? ……(つられてほんの少し目を細めた。)……ミラに話をする。お前は何も言うなよ?」
マベ「ホンッットォォォにお前はなァ?仕事は完璧なクセにそういうとこ……、……ま、それがお前らしさかねぇ?……わかったよ。あいつにゃ深入りさせねえ。…無いとは思うが、俺に変な気を使うなよ?」
ゲラルト「私がお前に気を遣ったり、遠慮したりすると思うのか? お前の言っていた”魔術とは違うもの”が、私たちの考えるものでなければ…、或いは、そうだとしても悪意のある存在でなければいいが。もしまたあれと敵対するようなことになれば……(直前に2人が描いた日々を思って、少し言葉を選んだ。)……厄介だな。」
マベ「さあねェ。俺には直接気は使わなくてもミラの前では気を使うんじゃねえか?……。……。(言葉を選んだゲラルトに、少しの間黙っていたが。)…なァーに言ってんだァ?今度は札付きの狂犬連れてンだぜェ?俺の手綱引っ張るのに苦労してるうちに、いつの間にか終わってるって。(ひひ、と笑ったが、目つきは鋭い。)」
ゲラルト「お前とミラで扱い方が違うのは当然だ。お前は私の部下だからな。 ……何にせよ調査の内容次第だな。お前も、あれの手綱を引っ張るのに苦労しているうちに見失うなよ……。(ふと、立ち上がって。)」
マベ「………ン。(理解した、とその短い一言で返した。)そうならねえようにしっかり見張るつもりだ。……二度とあんな思いさせたくねえからな……。(ぎり、と歯噛みし目を細めた。)………何かわかったら知らせてくれ。(同じく立ち上がって、黒眼鏡を外して腕で目を擦った。)」
ゲラルト「……。(何かを気にするように少しだけ顔を後ろに向けて見たが、何も言いはしない。)……。(そしてそのままなにも言わずに歩き出し、立ち去った。)」
マベ「…………。(何かを気にするような仕草に気付いたのか、行けよ。と小さく唇を動かした。が、届いたかはわからない。)………、………チッ。(黒眼鏡をコートのベルトに引っ掛け、少し充血した目を陽の光に晒しながらゲラルトとは別の方向へ歩き出した。)」