(イシスアセト王都、街の中心部。すっかり夜が暮れているが店のあかりや街灯で通りは明るく、行き交う人々の喋り声も聞こえてくる。)
ミラ「(毛先が赤い長い絹のような黒髪に特徴的な赤と水色のオッドアイ。珍しく品のある丈の長いワンピースを着ていて、いつも付けていた左耳のピアスはつけていない。)あーーー、楽しかったぁー。こういうのもイイもんだねー、ほとんどしないけど。(上機嫌で笑いながらすぐ側にいる人に話しかけた。手には小さな袋を持っている。)」
マベ「(いつものように軽装で着崩したコートを羽織り、ミラの隣で普段より幾分柔らかく笑っている。)マジでフツーに過ごしたなァ。逆に新鮮だったわ。しっかしお前、大した趣味持ってンだなァ?(ミラの持つ小さな袋をちらと見て、意味ありげに笑った。)」
ミラ「途中で鬼上司の呼び出しとか無くてよかったよ。あー、もっと普通の女子に生まれてたらなー、……なんてね。(可笑しそうに笑って) 身に付けてるものがホンモノじゃないと、ナメられちゃうでしょ?(ちょいっと袋を持ち上げて)」
マベ「あったらぶん殴っちまってたかもしれねえわ、随分楽しかったからよォ。…ま、これからもたまにゃァ、こういうことすりゃいいんじゃねえか?(楽しそうなミラの様子に目を細めた。)ああ、間違いねえな。だからこそお前はプロなんだよ。そういうところでケチっちまう奴とは組まねえ。…ま、それはそれとして、趣味は悪かねーよ。俺が入っていいのかってくらいの格式ンとこだったのは予想外だったけどな!」
ミラ「んー、そうだね。(また少し違う雰囲気で、にこっと笑った。)並大抵のお姉さんは入らないお店だよね。 大事にしよーっと。一緒に選んでもらったし。もう落としたりしないから、安心してね。 ……。折角だし、付けて帰ろうかなぁ。(ほんの少し、目を細めて。)」
マベ「なんか今日のお前、いつもと雰囲気が違うな。おうよ、高い店ならいくらでも入りたがる女はいるが、伝統と格式のある店は別だ。店も客を選ぶ。…ま、落としたらまた拾ってやるよ。……あァ、そうか。(歩く勢いを落とし)……付けれんのか?お前、傷は?」
ミラ「今日は仕事モードのミラさんじゃなくて、私用のミラさんだからじゃない?服装も化粧も全然違うんだから当たり前だよ。 (ぴた、と歩くのをやめ、立ち止まって。)うん、前の穴とは違うとこに付けられるように選んだから。(袋を手にかけ、箱を開けて、綺麗に整えられた指先でピアスをつまみ上げる。)かわいー、最高♡ テンション上がる♡」
マベ「そうか。確かにそういう匂いがする。服も良ーィ裾の長さだ(最後の一言だけはからかうように。自分も足を止め、喜ぶミラの仕草を見た。)……袋と箱、持っといてやるよ。付けな。(ぴらっと手を差し出した。)」
ミラ「でしょ?無闇に足や胸出さずに勝負できるのがホントのイイ女ってやつだよ。 ん、ありがと。(ピアスをつけようとするが少しだけ手間取って、)っと…。いつもと違う穴だとなかなか入らないなぁ。 …こうかな?かわいい?(ぱっと手を離した。)……って言っても、見えないしリアクションに困るよね。(はは、と苦笑い。)」
マベ「それそれ。わかってんじゃねーか、さすがのミラ様だぜ。(持ち物を受け取り、目を細めてミラの仕草をじっと見つめた。)……。……。(そっと、新しいピアスに手を伸ばした。といっても顔の少し手前でその手はぴたと止まって。)………見えねえが、お前の仕草が可愛い。そンで十分だ。」
ミラ「……。可愛いとはよく言われるけど。なにそれ、ウケるわー。ほんとに思ってんの?(珍しくくすくすと控えめに笑って、顔を見上げて)……。……。(そのまま、何も言わずに黙っている。)」
マベ「思ってる思ってる。今日は今まで見たことなかったお前の仕草が色々見られたからよかったわ。最近はネエチャンと出かける暇もなかったしなァ?なんつってな!(首を傾げ、顔を見合わせて笑ってみせた。)………。………。………?(沈黙が長いことに気付き、だんだんと真顔に戻り。)…どうした?」
ミラ「…………ん? そこそこの時間だから、そろそろかなーって思って。どうせ明日も仕事なんでしょ?(そのまま、にこっと笑った。)」
マベ「…ああ、そうだな。だいぶ気温も落ちてきたな。……お前、今夜のアテはあるんだろうな?」
ミラ「もー、私子供じゃないんだからさぁ、心配しなくて大丈夫だよ。(ふいっと進む方へ向き直した。新しいピアスが光を受けてキラリと光った。)ね、ちょっと寒くなったし……、もう行くね。……楽しかったね。私、今まででいっちばん楽しかったかも。(少し俯き気味で目を閉じて、何かを思い出すような感じで。)」
マベ「(光が目に入ったのか、眩しそうにほんの少し目を細めた。)…ほーお?テーブルに頭ゴッチンしたとき、今夜の宿は?つったら『と…取ってない…』っつったのはどこのお嬢ちゃんだっけねえ?(冗談交じりに肩を竦めた。)…………おう、気ィつけてな。俺も楽しかったよ。あんまうまく、言葉にできねえけどよ。あっという間だったな。」
ミラ「…あー、そういえばそんなこともあったなぁ。ほんと、あっという間だったね。(ふう、と息をついて。しばらく置いて。)ん、 じゃあね、ありがと。(目を細めて笑って、)………ばいばい。(少しだけ手を振って、返事も待たずに歩いていく。)」
マベ「………。おう。こっちこそ、な。(その笑顔に応えるように微笑んで軽く手を挙げた。)………ん、……。(こちらの返事も待たずに歩き出したミラに呆気にとられ、しばらくその姿を見送った。)……おう。……またな……?(歯切れの良くない返事を、その後姿にかけた。もう聞こえるかどうかもわからないが…)」
ミラ「(一度も後ろを振り返らずにそのまま歩いていった。やがて夜の闇と人混みに紛れ、その姿は全く見えなくなった。)」
マベ「………。(挙げていた手を下ろした。しばらくぼうっと突っ立っていたが、風が前髪を小さく揺らした。ふと我に返り、ミラが自分の”視界”から完全に消えたことを悟ると、自分も背を向けて歩き出した。)…………、…………。(しばらく歩き続け、人通りの少ない路地まで来ると、ゆっくり歩みを止める。)……そういやこの前、結局あいつにキメたとこ見せてなかったな。今度着てったらビックリすっかな。はは……、(そう呟いて、また歩き出そうとしたが、踏み出したのは一歩目だけ。)………、………ミラ?」
(振り返って、彼女の名を呼んだ。応えが返ってくるはずもなく、表通りの雑踏に向けられた声はすぐ人混みに掻き消されていった。)
マベ「(少しずつ、表情が険しくなっていく。立ち尽くしたまま俯き、無意識にコートのポケットに手を入れて、まだそこに入っているものを握り締めた。)………違う………。(よろめくように、建物の壁にもたれかかった。)………違う違う違うッ!!何やってんだ俺、何やってンだよ俺はよオッ!!?(ガッ、と硬い音がするほど拳で壁を殴り付けた。いくら人通りの少ない路地裏とはいえ、その怒声に驚き幾人かが振り返った。)……わかってただろうがよオッ!?ええ!?っざけんなあああっ!!!」
(マベの怒号とともに彼の周囲に張り巡らされた探知の風が猛スピードで広範囲へ拡大していく。彼女の歩いていった方角へ、さらにその周辺へ、反対側の路地へ、広大な王都の区画を少しずつ塗りつぶすようにマベの風が駆け抜けていく。しかしその風は重く、嘆くような音とともに地を、空を這っていくようで…)
マベ「(なりふり構わず駆け出した。ミラと最後に別れた場所へ戻り、そこから彼女が消えて行った方角へひた走った。)ミラ、……ミラ!!………ミラあああぁぁぁっ!!何処だ!!(立ち止まり、頭を振り、見えない目を必死に凝らして、それでも見えなくてまた駆け出した。)ミラ!!隠れてないで出てこい!!……ミラ!!(同じことを何度も繰り返す。探知の術に引っかからなかった場所にも足を運び、路地裏と表通りを走り抜け……ただひたすら、彼女の名を叫ぶ。)」
(目に見えて魔力が削られていく。それでも術式を止めることはせず、自らの風で加速し、路地を駆け抜け、充血した目を瞬きもすることなく見開き彼女の姿を追った。)
マベ「(路地を走り、障害物を獣のように跳躍で飛び越え、見えない彼女に追いすがるように走り続ける。)頼むからッ……!!行くなッ!!絶対追いついてやるからッ!!……何処にいても必ず、必ず追いついてやるからっ……!!………ミラ!!返事をしてくれ!!」
(どこからか歌が聞こえてくる。いつか聞いた澄んだ歌声。聞き覚えのないはずのその歌は、まるでずっと昔、産まれた時から知っているかのように、なぜか懐かしくもある。)
マベ「…………?(無我夢中だったマベの耳を、どこかで聴いたことのある声が掠めた。足を止め、暗い夜道で立ち尽くす。)…………。………ミラ……?(荒い息を吐き、歌声の聞こえてくる方角を探した。)」
(遠く不明瞭だったその歌が、ある一点に近づくごとにハッキリとしてくる。その歌声が確かに、『ここへ来て、愛しい人』と紡いだ。)
マベ「(その最後の旋律を、歌声を、はっきりと聴き取った。)…………ああ、………うううぅぅああああああああッ!!!!!(目を目開くと、憔悴も疲労も全て掻き消す力強い風を纏い、その一点へ向けて飛び込んで行った。)」
ミラ「(微かな歌声が聞こえるその先にいる。ぽつりぽつりと吐き出すように歌いながら歩いていたが、その両方をはたとやめて。振り返ることなく、その場にただ立っている。)」
マベ「(そのすぐ後ろへ、風と共に舞い降りた。肩で息をすることを隠さず、しんと静まり返った中、呼吸の音が響いた。)……ッ、……。………ミ、ラ………(掠れた声で、その名を呼んだ。)」
ミラ「……!(ぴく、と体がこわばったが、それでも振り返らない。) ……ばいばいって言ったのに。これまでもいっぱいわがまま言ったけど、これで最後にするから。 ねえ、……このまま行かせて。(暗い路地の中、背中を向けたまま俯いたその顔がどんな表情をしているのかはわからない。)」
マベ「なんでだ……。突然いなくなる必要はねえだろ……?(息を整えながら、またコートのポケットに入れたままのピアスを握り締めた。)………それとも、隊長にはもう言ったのか?」
ミラ「言ってるわけないじゃん……、もう誰にも迷惑かけないって決めたから。私は躊躇わないの、選ぶの捨てるのも。 決意が、鈍っちゃうから、……ねえ、お願いだから、(俯いたままのその肩が震える。)」
マベ「………。(震えるその小さな肩の動きに目を細めた。)……なあ。病院で、もし俺が生き方を曲げたら嫌いになるって言ったよな?覚えてるか?」
ミラ「…………。(黙ったまま、ほんの僅かな声さえ出さずに、小さく頷いた。)」
マベ「そうか……。じゃ、俺の本音を聞かせてやるよ。お前の言う通り、俺はゲラルトが大ッ好きだ。どんな修羅場でもあいつの狂犬として暴れ回ってやるし、あいつから一勝もぎ取るまでおっ死ぬ気はさらッさらねえ。
……だがな?そんな男に惚れられた女は相当苦労するぜ?俺が誰よりも何よりも優先するのはあいつだからな。なあ、……ミラ。」
ミラ「………(肩の震えがだんだん大きくなってきて、ふるふると首を振る。それ以上言うな、と言っているような仕草。)」
マベ「俺の気持ちはこの前、病院で言ったとおりだ。付け加えるとすりゃァ、与えられた任務だからでも救うべき人質だからでもねェ。この先何があっても助けてやるし、どこへ行っても最大風速で追いついてやるって、俺がお前にそう思ったんだよ。
だから……、(一歩前に踏み出した。)……行くんじゃねえよ。……行くな!!強がんな!!俺はお前のことが好きなんだよ、ミラ!!!(その肩を強く握り、自分のほうへ引き寄せようと。)」
ミラ「(引き寄せられ、はっと振り返ったその瞳から大粒の涙がはらはらと落ちる。)何で言っちゃうの……!?私、馬鹿だから、そんなの言われたら傍に居ていいんだって勘違いしちゃうじゃん……!! せっかく、せっかく諦めたのにっ、私がどんな気持ちで笑ってさよならしたと思って……(ぼろぼろと泣きながら。)」
マベ「(引き寄せた手の力強さはそのままに、ぐっと動きを止めた。)………いいンだよ、傍に居てくれてよ。勘違いじゃねえ。俺はそれを望んでる…(伝っていく涙の熱を認め、困ったように笑った。)俺は自分の気持ちにゃ鈍感で、そのくせ自分が一番ときやがるし、惚れた女の顔すら見えねえクソみてぇな男だけどな。……悪いな。アイツみてえな、カッコいい騎士様じゃなくてよ(そっと手を伸ばし、先程は触れなかったその先へ。頬に指で触れるようにして、涙を拭ってやろうと。)」
ミラ「ふぁ……、(触れられて思わず声が漏れた。その頬は想像しているよりずっと滑らかで柔らかい。くすぐったそうに少し身を捩って)誰かと比べたりなんかしなくていいんだよ。私にとって一番なんだから、それでいいでしょ。……。あーもう、何でこんな馬鹿みたいな奴のこと好きになっちゃったかなぁ……、わけわかんない……。」
マベ「変な声出すなよ、人が見てるかもしれねえぞ?……この前は人の背中と頬つついたくせによ(苦笑いしているが手は止めない。)………そうか。俺のこと好きか。……あー……言われると嬉しいモンだな。バカは余計……でもねえな。ああ、俺はバカだよ。お前もな、ばぁか。(人差し指で頬をちょんちょんとつついた。)」
ミラ「ん……、別に見られて困るような事でもないし……。(頬をつつかれてほんの少し片目を細めて。)”あいつら”がこの国にいる限り、私は何かの身代わりに狙われ続けるけど、いいんだね? ……。あーあ。ほんと、何やってんだろ。私らしくないなぁ。(ようやくうつむき加減で、困ったような笑顔を見せた。)」
マベ「ああ。小鳥だろうが何だろうがかかって来やがれ。…俺を誰だと思ってる?札付きの狂犬マベ様だぜ?この間みてえにウライオスの男をナメる奴らは、全員まとめて喰い殺してやる(ようやく安堵と優しさ、それに幾分か凶暴さの混じった笑みを見せた。)…お前、やべえ男に惚れたな。最狂に護られるってのがどんなモンなのか……覚悟しとけよミラ。」
ミラ「……そうだね。それを迷惑だなんて思わない奴だから、好きになったはずなのに。(顔を上げた。美しいピアスが揺れて、目に溜まった最後の涙が頬を伝って落ちた。)……。どうしようもないヤツだね、アンタも、私も。(じ、と見つめて。)」
マベ「(その涙が手に触れた。自分の手を伝う感触にふっとどこか切なそうな表情をほんの一瞬浮かべたが、瞬きで隠れてすぐに見えなくなった。)……ああ。そーだな。(に。と目を細めて笑った。)だからこそ俺達、きっとこうなったんだぜ?」
ミラ「…………。(何も言わずに、ほんの少し前へ出て両手を肩の辺りにおいて両足のかかとを浮かせた。)」
マベ「ん、……。……。(その仕草に目を細めた。腰に片手を回し引き寄せて、もう片方の手を背中に這わせるようにして。)………。(ぐっと屈むようにして、その唇に自分の唇を重ねようと。)」
ミラ「(少しだけ微笑んでからそっと目を閉じて、身を委ねるようにしていた、……が。)……っくし!!(ごちん、と額同士がぶつかった。) あっ………… ごめん……www」
マベ「(ごちん!!)どおッ!!?(首だけ見事に仰け反った。ぎぎぎ…と首の位置をもとに戻し。)……あのなァ……お前なア…?こーいうときはもうちっとこう…あンだろうがよ??(俯き加減で口の端を引きつらせるように笑っている。)………ほれ!ちゃんと目瞑れ!」
ミラ「ほんとごめん。(可笑しそうに笑いながら、)だって今日思ってたより寒いし、泣いちゃったし、身体冷えっ冷えなんだもん……。 んー、やっぱりお預けにしーよう♡」
マベ「はあぁ!!?おま、ふざけっ…!……。(言いかけて、すぐに追わなかった自分への戒めとしてそれを甘んじて受け入れることにした。)………チッ。”お預け”は程々にしとけよ?普通の犬でもタイミング見誤ると手が付けられねェんだからな?(身体を抱いたその両手にぐっと力を入れて引き寄せ、密着させようと。)……冷えてるな。……行く、か?」
ミラ「ふざけてないよ、超真面目だよ? (すり、と胸の辺りに頬を寄せて。)…わぁ。どこに行く気かなぁ。ま、いいや。私たち馬鹿だけど、大人同士だもんね。……。」
マベ「(その様子に目を細めた。少し笑みを浮かべたがおそらく気づかない程度。)そうか…。その言葉、然と受け取ったぜ。(もう手慣れた様子でミラの脚を掬うようにして抱き上げ。)……これで3度目だな。今までン中で、一番安心したわ。(今までで一番強く抱き締めた。)さァてな?着いてからのお楽しみ…ってモンでもねえけどな。……しっかり捕まれよミラ!(嬉しそうにその名を呼んだ。激しい風が二人を包み、一瞬のうちにして、その姿が消える。)」