13.お見舞い


(異端信仰の街からミラが救い出された数日後。イシスアセトのとある病院の個室。)

ミラ「(ぼんやりと天井を見つめたまま寝転んでいたが、もぞりと体の向きを変えて窓の方を向いた。外は暗く、カーテンも閉まっていて何が見えるわけでもない。そのあとも落ち着かない様子で何度か姿勢を変えている。)……んー……。」

マベ「(突然部屋の中に激しい風が巻き起こり、その中心から姿を現した。普段通りのコートを着崩した姿。)…よーォ、お嬢サン。今夜はおとなしくしてンのか?」

ミラ「わっ……、(驚いて起き上がり、声のした方を向いた。) え……、ほんとに来たの? 忙しいでしょ? っていうか何時だと思ってんの……」

マベ「お前が眠れなくて退屈だから来いっつったんだろ?仕事も一区切りしたしな。(どうってことはない、といった調子で。)それとほれ。(…なんだか握り潰した痕のある小袋を取り出して放り投げた。)言われてきたモン買ってきてやったぜ。」

ミラ「言ったけど……、まさか今日も来るとは思ってなかったから。(投げられた袋をじょうずに受け取った。)冗談だったのに。 んー、でも、嬉しいよ。ありがと。(ふにゃっと笑った。)」

マベ「(ふっと、いつもより穏やかに笑ってみせた。ベッドの隣に来て、来客用の椅子に勢いよく腰を下ろした。)身体の具合はどうだ?まだ変な調子か?」

ミラ「………………。(しばらくぼんやりと見つめたままでいたが、急にはっとして)あ、うん、良くはなってる。逃げ出せないように意識がボーッとする薬を入れられてたらしいよ。ずーっと眠い感じだけど、それ以外は別に……。」

マベ「まだボンヤリしてるみてえだな。そうか……ああいう宗教じみた奴等は、そのテの薬を使うことが多いからな。(屈むようにして膝の上で手を組み、少し遠くをみるような顔をした。)……変な後遺症が残らねえといいが。」

ミラ「眠いのに寝られないし、詰んでるよね私。病院なんて落ち着かなくて。薬のにおいもするし。(また力無く笑って) え、やだ、怖いこと言わないでよ。後遺症って、例えばどんな……?」

マベ「そういうときは目を閉じてな。そしたら身体は少しは休まる。……不安だろうがな。病院なら心配いらねえよ。(そう言って目を閉じた。)……まあ、病人に言う話でもねえよ。幸いお前が食わされたのはそのテのモンじゃなさそうだしな。…………。なあ。ミラ。お前な。」

ミラ「(自分の手元に視線を動かした。珍しくネイルをしていない指を落ち着きなく動かして。)目を閉じると色々思い出しちゃうからなー。もー、濁すならそんな怖いこと言わないでくれない。(視線は落としたまま。)……何?」

マベ「(目を開け、屈みがちだった体勢を戻しミラのほうを向いた。)……お前な。今すぐってわけじゃねえが…。日の当たる仕事につきな。(どこか、暗い声でそう言った。)」

ミラ「………………私、が? 何で?そんな道、今更選べないよ。もう汚れすぎてて、陽の光なんて眩しすぎるや……。(目が合わせられず、少し顔を背け気味して冗談みたいに笑った。)」

マベ「…お前、俺ん家来て風呂入って飯食って寝たろ。俺は感覚が鋭いから、あんだけ”見りゃ”お前の育ちの良さはわかンだよ。お前にとっちゃ、誰かの代わりになるためのおままごとだったと思ってっかもしれねえが……、それでもよ。あれはお前の仕草だ。男と寝る仕事にも誑かす仕事にも、使うには勿体ねえよ。」

ミラ「…………。あー……そっかあ。そうだよね。こんな仕事してる女たくさん見てきたマべさんならそう言うよね。やさしーね、……。優しすぎて、……私にはつらいや。(短く息を吐いて暫く俯いた後、ぱっと顔を上げて)あ、隊長は怖い顔しながら「お前の好きなように生きたらいい」って言ってたよ?(でもいつもみたいにうまく笑えず、困ったような顔になった。)」

マベ「優しくはねえさ。俺が言いたいことを言ってるだけだ。(本当に優しいとは言い難い、真面目な顔つきをしている。)……あー……耳が痛てえのはわかってるよ。俺も普段はここまで言わねえんだがな?……なんかよォ、気になっちまってな。(ふと、顔を背けた。)……つーかな?あの隊長、マジで頭ひっぱたいてやろうかってことがあってな?」

ミラ「いいよいいよ、私のこと気にしてる暇ないでしょ。アンタらやらないといけない事いっぱいあるんだし。(ようやくへらっと笑った。)えっどうしたの?もしかして、また指食わされた?」

マベ「いや、お前のことが気になるから今日来たんだが?(少し首を傾げた。)……いやなァ?………あンの高飛車野郎、教会で俺に焦んなだのなんだの叱責飛ばした90秒後に、悪いが前言撤回するとか言い出して先陣切りやがったわけよ!あん時は我慢したが今思い出すとクソ腹が立ってなァ!?マジで頭ひっぱたいてやろうかと思ったぜ!……ッハハ!(そこまで捲し立てると、急に可笑しそうに笑った。)」

ミラ「ん、……まあ、そうなんだろうけど。ごめんね、心配かけて。 あの人キレるとそういうことするでしょ?多分その場でひっぱたいていいと思う。(つられて可笑しそうに笑って。)あー……隊長にも余計な心配かけちゃった。危ない橋渡るなっていつも言われてるのにね。あの人に行き先伝えといてよかったよホントに。」

マベ「謝んなって。辛かったのは他でもねえお前自身なんだからな。…ま、最後にやりたいようにやらせてもらったから我慢してやるけどな。(あの街でしたゲラルトとの会話を思い出し、)……あいつにしてみたら、お前のために身体張るなんざ息吸うくらい当たり前なんだろうよ。甘えてやれ。……。ああそうだ。気になるっていやァもうひとつな。……あー。(今度は言葉を選んでいる。)」

ミラ「(ほんの少しだけ表情が曇ったが、それ以上は何も言わずに。)あの人はねー…、頼りにはしてるよ。私があの人に返せることって多くは無いから、せめて無駄足にならないようにあの件の確定情報を渡したいのに。 ん、どーしたの?何か今日、らしくないね。疲れてんの?(不思議そうに首を傾げて)」

マベ「………そうか。お前はお前で、そういう気持ちがあったんだな。(小さく頷いた。)
疲れてはいねえが…、なアに。俺の苦手分野の話っつーか…ま、そんなとこだ。…お前さ、ゲラルトのことどんな風に見てンだ?なんつーか…横で見てて訳がわからねえ時がたまにあンだわ。」

ミラ「……へ? どう、って言われても。どういうこと?なんでそんなこと聞くの……? 頼りにしてるよ、色んな意味で。私のことよく知ってくれてるからね。」

マベ「ああいや…、(顔を背けては戻したり、後頭部に手をやったり落ち着かない。)……そーかよ。ほれ、お前ちょくちょくすんげえ下ネタぶっ込んでくるじゃねえか?あーゆーのを普通にゲラルトにも言うからよ。どんな関係だよ?ってさァ。」

ミラ「あー、そういうこと?大丈夫、アンタの大好きな隊長様にはなーんもしてませんよー。私はあの人のこと悪くないなって思ってるけど、……そういうんじゃないの。なんて言うんだろうね……、親戚のお兄さんみたいな?ヤダなあんな親戚いんの。(可笑しそうに笑った。そこに嘘偽りがないと言うのは見て明らか。)」

マベ「大好きってなんだよ!?俺は別にそういうんじゃ…、(反論しかけて、続くミラの言葉に聞き入った。)………。…あー…、シンセキ、ね…?ちょっとわかるわその距離感…。(ふんふん頷いた。どこか照れ臭そうに頬を人差し指で掻いた。)…ヘンなこと聞いたよな?俺。」

ミラ「うーん、まあ、否定はしないかな……。(思わず苦笑いになって。)だってさー、仮に私と隊長がそういう仲だったとしても大人同士なんだから別におかしな話でもないじゃん。いや、しないよ?しないけど。前も言ったけど、私は金にもならないのに男とヤんないから。」

マベ「そうだよなァ……別にお前と隊長がどういう関係かなんざ、別にどうでもいいことなのになァ?(苦笑いした。珍しい。)やっぱどっか調子悪いのかな。色々、短い間に起こったからよう。お前と出会ってからそんなに経ってないのに、こんなこと聞くのもおかしな話だよな。」

ミラ「(自分と同じように苦笑いする様子をじっと見た。それから一度俯いた。)…………時間の長さは関係ないと思うけど。……。あー… あぁ…。(暫くしてぱっと顔を上げた。)…あーーーー退屈だなぁ。あと数日ここにいなきゃいけないって思うと気が滅入っちゃうね。はは、一晩中起きてると時が長すぎて。ねー。」

マベ「………。そうだな。眠れねえと、色々考えちまうよな。けどお前、俺ん家では結構寝てたじゃねえか。もうちっと我慢してここを出られたら、うまいメシでも食いに行こうぜ。(よく喋るがどこか上の空のようにも聞こえる声色。)つーかお前さ、マジで誰かを好きになったりしたことねえの?まともな奴が一人くらいはいただろ?」

ミラ「不安になると寝れないの。寝てる間に首掻っ切られて殺されるんじゃないかとか考えちゃうから。……それはさ、アンタがいたら無いでしょ。 ん。(本当に短い短い返事。)え?無いよ。13歳の少女抱く男にまともなやついるわけないじゃん。一度人間が嫌になっちゃったから、そのままだよ。トモダチ?みたいなのが居なくはないんだけど。」

マベ「…随分物騒なこと考えンだな。そういう目に遭いそうになったことがあんのか?(低い声。)……そうか。俺は一度だけあるが、……。トモダチがいるなら、まあ、いいんじゃねえか?ちィとでも腹割って話せる奴がいりゃァ楽しいモンだろ。」

ミラ「情報屋仲間がそうやって死んだことは何度もある。(自分がどうだったかははぐらかした。)一度なんだ?意外だなぁ(笑)トモダチって言うのかなぁ。あいつも結局はカミラが好きだったわけだし……。もう、居なくなっちゃうしねぇ。」

マベ「………そうか。(それ以上は深追いしなかった。)前も言ったが、俺は女は買うだけだ。第2部隊は生きるために存在してるんじゃねえからな。そこに女を付き合わせる筋合いはねえだろ?(カミラの名を聞いて、目を細めた。)……居なくなる?どういうことだ?」

ミラ「ほー。そうなのかな…?ホントに好きなら、そんなの関係なくない?居なくなるかもしれないから一緒にいるのやーめた、なんてさ、そんなの、最初から要らない者同士じゃん。(ぼーっと壁を見つめたまま)もう死んでるんだよね。小鳥が死んだからそのうち消えちゃう。」

マベ「……わからねえ。(俯き加減になり。)どうしてもって思った時がその一度でよ。そン時はまあ、相手が俺がおっ死のうが生きていける強い女だったからよかったが、……結局土壇場でそいつを選んでやれなかった。
………なんだよそりゃ。……、……。大丈夫だ。そいつがいなくなっても、ゲラルトも俺もいる…から、…よ……。(先程自分の言ったことと矛盾する言葉に口を噤んだ。自分もいつかはいなくなるかも、という未来に。)」

ミラ「うーん……。そっか。隊長が”死にに行った”時、私は止めようとは思わなかったよ。アンタらみたいなのが生き方曲げたらカッコ悪いじゃん。だから、いいんじゃない?後悔してるなら戻ればいい。……けど、アンタら後ろ振り返らないでしょ?(ふと視線を戻して、目を細めて笑った。) ん……、そうだね。今はね。」

マベ「(後ろを振り返らないでしょと言われ、少し驚いて顔を上げた。)……お前、……。(ふっと笑った。いつもの狂犬を自称するときに近い笑み。)………ああ。退路はねえ。振り返りもしねえ。後悔して背中見せるような負け犬は、”俺達”にゃ要らねえ。(ぎり、と歯噛みするように笑った。)つまるところ俺は、そういう自分が一番大事なんだろうな。」

ミラ「そ。だから私はアンタらのこと信用してんの。だから「選んでやれなかった」なんて言わないの、そうすべき相手じゃ無かったってだけ。信念曲げるなら私、マべさんのこと嫌いになるからね? ……当たり前じゃない?私も私が一番大事だし!(明るく笑った。)」

マベ「(つられて笑った。)オイオイそこまで言うか!?だーいじょーぶ!曲げねえよ。……曲げねえよ。(静かにそう繰り返した。視線を合わせるように身を屈め、ベッドにいるミラのほうへ少し身を乗り出した。)…お前、思ってたより肝据わってンじゃねえか。ちょっと見直したわ。」

ミラ「(じ、と視線を返して。)私は即決即行動だよ?躊躇わないからね、選ぶのも捨てるのも。だってさあ、「私のモノ♡絶対私の傍にいなきゃダメなの♡」みたいやつウザくない?私がそれされたくないんだもん。私の生き方を縛るものはなんも要らない。 それこそ実家もねw 軽やかに捨ててやったわw 」

マベ「おーおー、その意気だ!(屈託なく笑った。)なんだァお前。随分イイ女になったな。助け出したときはそりゃ酷い状態だったが、……そうだな。あン時もお前が俺の声に応えてくれたから居所がわかったわけだしな。」

ミラ「は?私、元々いい女なんだけど。アンタが私の魅力に気付いてないだけだよw(言いながら笑ってる。) あれも夢じゃなかったんだ?現実との境目がわかんなくてさぁ。 ……あ。ねえ、私もひとつ聞いていい?」

マベ「ハハハ、そうかもな!気付くのが遅くて悪かったな!(楽しそう。)夢じゃねえよ。たまたま俺が声を出しちまってな……その声が風に乗ってお前の耳に届いたんだろうよ。……ん?おお。なんでも聞けよ。」

ミラ「なんかねぇ、不思議な感じしたよ。夢と現実の間にいるみたいな、何か、デジャブっていうの? (首を傾げてその時のことを思い出すような仕草をしたが、すぐにやめて。) マべさんさぁ、自分が一番大事って言うくせに、何で人助ける時あんな感じなの?人守って戦ってる時が一番輝いてるよ。マべさんのくせに(笑) 」

マベ「ふーん……?そんなこともあるのかもしれねェなァ…(ぽつりと。)………、……え?(意外だったらしい。首を捻って考え込む仕草。)あんな感じ、ねェ?俺ァ本当に、自分がやりたいようにやってるだけだが。見てわかったろ?」

ミラ「あー、何かちょっと元気になってきた。人と話すと精神的にいいよねぇ。(うーんと伸びをして。) え?全然わかんないし、わからないから聞いてるんだけど……。 あ、でも駄目だよ、あんな風に抱きしめたりしたら。女は馬鹿だからすぐ勘違いしちゃう。」

マベ「…そうだな。あの夜も、色々話したな。………。(少し黙って、真面目な顔になり。)まあ、強いて言うならよ。俺の風は誰かを護るために使うって決めてる。……あ?お前のこと?俺そんなギューッてしたか?」

ミラ「(きょとんとした顔で)意外なこと言うね。そっかあ……じゃないわ、建物ひとつぶっ飛ばした人が言うことじゃないよ?それ。 ……。無自覚なんだ。力強いからそう思っただけなのかな。あのー…そだね、あんまりぎゅーってされると、ねえ。(何気ない感じですっと顔を背けた。)」

マベ「前の隊長にな。そう言われたんだよ。俺の経歴見てそう言ったんだろうが、…ま、思うところがあってな。そうしてる。(フンと笑って)あれくらいじゃァ足りねえくれぇだ、街ごと更地にしてもバチ当たらねえだろ。……あーそういやさ。おまえのこと助けるの、これで2度目じゃん?(ミラが顔を背けたのには頓着せず。)」

ミラ「ま、いいんじゃない。意外だけど……私は、いいと思うよ。 (顔を背けた先で、少し暗い表情をした。)そうだね。……そうなんだよねぇ。いい加減にしろって感じだよね。」

マベ「バカ、誘拐される奴にいい加減もクソもあるかよ。俺が言いたかったのは……(ちょっと上を向いて考えた。)…あの教会でお前のこと探してるときによ、ふっと思ったんだよ。お前がどこへ連れ去られようと助け出してやるし、どこへ行こうが俺の風で追いついてみせるって。建国祭ンときもまあそうっちゃそうだったんだが…。なんだかな、急にンな考えが頭をよぎってさ。」

ミラ「………連れ去られたら、ね。大丈夫、もうそんなことは起きない。でも、……ありがとう、気持ちだけでも受け取っとくよ。(もそもそと膝を立てて座って、その上に額を置いて。)」
マベ「………?(ミラの様子に怪訝そうに。)どうしたんだよ。…具合、悪くなったか?(顔を覗き込もうと。)」

ミラ「違う違う、そういうんじゃなくて。 あーほら、連れ去られたら……とか言うから不安になっちゃったじゃん。なんかさぁ、楽しい話しよ? (ぱっと顔を上げた。いつもの感じで笑っている。)あ、ご飯どこ行く?」

マベ「………おう、悪い。(顔を上げたミラにどこか腑に落ちなさそうに。)心配すんな、今は俺がいるじゃねえか。な?(覗き込んだその体勢で微笑んだ。)……そうだな。お前、何が食いたいよ?」

ミラ「そうだね、最狂男子が隣に座ってたら誰も手出してこないもんね。 えーそうだなぁ、何かなぁ。あっ!うふふ、誰かさんの作ったカルボナーラかなあ♡(片手を頬に当てて首を傾けながら、いかにも悪女らしいわっるい笑顔で。) なーんてね、ウケる(笑) 」

マベ「おう。俺は最狂だぜ。………んん?(きょとん、として。)……なんだ。アレ、気に入ったのか?豪華なコース料理とかじゃなくていいのかよ?」

ミラ「やだなぁ、冗談だよ。私は用事もないのに男の部屋に上がり込むような女じゃないんだから。(ぱたぱたと手を上下に振って。) ほら豪華なコース料理はパパからいただけるからさぁー、普通でいいの。普通のデートしよ♡(にひ、と悪戯っぽく笑って。冗談だろうなというのはすぐにわかる。)」

マベ「用事もねえのに男の部屋には上がり込まないっつってる割にパパ活はすんのかよ(へへっと笑って。)普通、ねえ。お前の普通と合ってるかはわかんねえが、いーぜ。肩肘張らねえとこに行くか!」

ミラ「そうだね、私の普通は普通じゃないかも。 ……わーい。(また膝の上に額を置いた。)……。……。……。(そして何も言わなくなった。)」

マベ「俺もデートっつったらほれ、そういうネエチャンとしかしねえからよ。自慢じゃねえが、カフェでダベるとか、公園でおしゃべりなんてしたことねえぜ?(にやりと。) ………。……。(黙りこくったミラをじっと見ている。)………ああ、そうだお前。耳のキズは、もういいのか?」

ミラ「………。……ん、ピアス穴のこと?…いいよ、他にも穴開けてるし。元気になったら他のピアス買って付けるかな……。(ちょっとだけ顔を上げた。膝の上にあご置いてる。)」

マベ「………。(コートのポケットからピアスを取り出して自分の手のひらに乗せて見せた。)あの日、こいつのおかげでお前にたどり着けたんだ。なんとなく返しそびれちまって。……元気になったら新しいの、買いに行くか?」

ミラ「あ、持ってたんだ? でもそれ、この穴ありきだからつけられないんだよね。(髪を耳にかけて、傷になってるピアス穴を指さして。) ……。……うん。え?やだーほんとにデートみたいになっちゃうじゃん。私が私のモン買うだけだけど。」

マベ「ああ…。俺が触っちまったし、嫌なこと思い出させるのもどうかと思ってよ。(ピアス穴の傷を見ると、その顔に憤りをあらわにし。)……クソが。女一人捕まえるために怪我させやがって…。(吐き捨てるようにそう言った。が、すぐに普段の様子に戻り。)…気分転換にいいんじゃねえのかな。お前の趣味がどんなもんか、気になるしよォ。付き合うぜ?」

ミラ「別に触るくらい何ともないけど。たいして大事なものでも無かったしね。 んー、じゃあ……いいけど。…驚かないでね。(ふー、と長くため息をついて)……眠くなってきた。何でだろ、さっきまで超元気に目が冴えてたのに。」

マベ「あー……捜索に必要だったんで…他にもまあ…イロイロ…(視線を外した。)……じゃあ、俺が処分するか?(手のひらのピアスをつまんで。)なんだ、脅すじゃねえか。別に驚かねえよ、人の趣味くれえでよ。……そら、いいこった。休めって身体が言ってンだ。眠るまで横にいてやるよ。(ガタンと椅子を揺らして座り直した。)」

ミラ「……え……やだ………何したの?それ聞いちゃったらもう要らないわ…。適当に処分しといて。 え、いいよほっといて……って言っても、好きでやってるんだからいいとか言うんでしょ。はいはい、ミラさんの寝顔でも眺めといてくださいよ…。変なことしたら……ふあ…、殺すから。(もぞもぞと横になって。)」

マベ「……イヤソノ……匂いでお前の居所を突き止めたっつーか……ゴメン……(…。)……あのなァ?いくら俺でも病人相手にソレはしねえわ……(ちょっと笑って、ミラが横になるのを眺めている。)……ゆっくり休めよ。」

ミラ「まじかぁ……まあ、思ってたよりだいぶマシだから別にいーよ。謝らなくていい。それで助かったんだもん……。 ……。何か、これはこれで落ち着かないなぁ。ま、いいや……。おやすみ。(落ち着かない様子で小さくまるまって、目を閉じた。そのうち寝てしまうかもしれない。)」

マベ「………。(ミラが目を閉じて暫くの間、ほとんど動かずにその様子を見守っていた。ふと、手の中のピアスの感触に我に返って、それをぎゅっと握り締めた。)……お前のこと離したくねえって思ったのかもな。あの時ゃ無我夢中でよ……、自分のことなのに、なんでわかんねえんだろうな俺はよ……。(ミラを抱き締めた理由を、今更口にして。握りしめた手を組み、額に当てるようにして項垂れた。)」