12.異端者


(イシスアセト王都から離れた片田舎の旧市街。周囲を壁に囲まれた石畳の街の中央部には、この街唯一の高層建築物である教会が建っている。街の中央広場へと繋がる通りの周りには店舗と工房を兼ねた建物が立ち並び、王都ほどでは無いが人通りはそれなりにある。)

ゲラルト「あまりソワソワするな。みっともないだろ……。本部に帰るまで我慢しろ。(普段通り、シャツに黒いネクタイ、隊服の黒いロングコートを着て歩いてきた。) 用事という程でも無い。何も無ければ、すぐに終わることだ。」

マベ「(その少し後ろ。黒眼鏡は普段通りだが珍しくコートを着崩さず、ゲラルトと同じようにシャツと黒いネクタイを着用した姿で歩いている。)うるせえな……首が締まってると落ち着かねえんだよ…、あぁクソ…!(悪態をつきながらネクタイを締めたり緩めたりを繰り返し落ち着きがない。)なんなんだよ?いきなり寄り道しやがって。美味い酒でもあんのかよ?」

(街の人たちは誰もが知る隊服に身を包んだ2人を物珍しそうに見て、たまにヒソヒソと話をしている。)

ゲラルト「外で人に会うのに、いつも通りというわけにはいかないだろう。(やや早足で歩きながら、街の様子を見ている。) ミラがこの街を訪れる予定だと私に言いに来てから、姿を見せていない。……念の為のつもりだったが…、(その先を言い渋った。)」

マベ「………。チッ。(街の住人の様子に黒眼鏡の奥で目つきを鋭くした。)……はあ?ミラがこんなところに?………。……話せよ。」

ゲラルト「(一度立ち止まった。そのまま歩いて来るだろうマベの方へ振り返って)……カミラと関係の深い街かもしれない、と言っていた。憶測に過ぎないから様子を見てすぐに報告しに来る、と。それから数日経つ。」

マベ「(すぐそばまで来て立ち止まった。不機嫌さはそのままに、ネクタイを弄る手だけを下ろした。)………それで不安になって、別の用件の道すがらここに来たってか。」

ゲラルト「そう言って忘れているだけかもしれないが。アイツのことだからな。(ほんの少しため息をついて、) 何にせよ……多少、様子を見てから帰る方が良さそうだ。」

マベ「(ため息をつくゲラルトを複雑な顔をして見ていたが、視線を外した。)………。なあ。ゲラルト。……お前さ、……。(歯切れが悪い。)」

ゲラルト「そのうち突然現れるのがいつものパターンだ……。 (視線を外したマべの方を見た。その様子に眉をひそめて)何だ。お前がそういう言い方をすることは…そう多くは無い。」

マベ「……いや……(どう切り出すか考えている。だんだん困り顔になってきて。)……あのさ、自分でわからねえか?お前ミラのことになると目の色変わるっつーか…意識してんなあってのがわかるっつーか…。(首の後ろに手を当て撫でるような仕草をし。)……もしかしてアレか?」

ゲラルト「当たり前だ。私にとって、特別な存在だからな。(何の淀みもなくキッパリと言い切った。) アイツはすぐに危ない橋を渡ろうとする。それを止めてやる人が必要だ。」

マベ「……!!(目を見開いた。思わずゲラルトを直視したまま固まる。)……おまえ、……。(やはり言い淀んだが、あまりの真っ直ぐさに、それではいけないと思い立ち。)……お前。それさ、ミラのこと好きって意味で言ってんのか?」

ゲラルト「(ふと離れてその表情をじっと見ていた。)誤解を承知で言うなら、そうだ。ただそれは一般的に言う色恋のものでは無い。お前は「恩人」だと表現していたが、そういう言葉で言い尽くせるものでは無いからな。」

マベ「あ……、(また違う驚きの表情になった。)………。………そうか。(得心がいったように、ゆっくり何度か頷いた。)……ミラから色々聞いた。随分長い時間、話をしたからよ。…あー…、その、何だ。(ふいっと顔を背けた。気まずそう。)もしその一般的な意味なら、俺の部屋に泊めたのが二重の意味でマズかったなって思っただけだ。その……よく、わかった。(ちょっと顔が赤い。)」

ゲラルト「……なんだお前。平気で女遊びばかりしているくせに、そこは遠慮するのか? もしそうだとしたら、……とっくにお前の首をはねている。(無表情なので冗談なのかどうか全く分からない。) あの時ミラが選んだのはお前だった。それだけの話だ。(ふいと振り返ってまた歩き出した。)」

マベ「女遊びと色恋沙汰は違うだろ?お前とはこういう話をほとんどしたことねえしな。(少し顔を正面に戻してゲラルトを見た。)……ハッ。首ねえ。ソッチのほうかと思ったぜ。あー怖え怖え。(半笑いで肩をすくめた。歩き出したのを見て、何かを振り払うかのように首を振り、後に続く。)」

ゲラルト「さあな、どちらも無縁の話だ。 ……随分と他所者を警戒するんだな。(道を曲がった先を見た。その先が明るいメイン通りとは違った雰囲気なのを見て)あいつならこっちだろうな。」

マベ「ほー。あんだけ女にキャーキャー言われといてか。(隣まで追いついた。もう先程までの照れや冗談交じりの言動は消え失せている。)…俺も小っせえ村の出だが、あれはそういうレベルじゃねえよ。空気も泥みてえに濁ってやがる……俺は嫌いだ。(目を細めた。)」

ゲラルト「(前半の言葉をまるっきり無視して、)仕事中は好き嫌いで物を言うべきではないが、……そうだな、今はお前に同意する。(しばらく進んだところで、石畳を打つ靴底の音に混じって何か小さな金属が蹴飛ばされて転がる音がした。)」

マベ「街に入った瞬間から見世物眺めるみてえな目で見やがると思っていたが、余所者ってだけじゃないかもなァ…。(不快そうに顔を歪め、一見普通に歩きながら周囲に注意を向ける。)………ミラとは、うまく話せたのか?(と話しかけたところで、靴音に混じった小さな音が耳を掠めた。)………?(足を止めた。音のしたほうを向き、動きを止めている。)」

ゲラルト「それなりにはな。 ……どうした。(マベが視線を向けている先を見た。何か小さなものが地面に転がっているのに気付き、それに近付く。)……これ、は、(指でつまんで拾い上げたのは、長いチェーンの繋がった見覚えのあるピアス。)」

マベ「……………。(指先からぶら下がるピアスに目を細め、手のひらを見せた。貸せ、と。)」

ゲラルト「(無言のまま、マベの手のひらにそれを乗せた。)……金具が外れていない。私は、……そうだと思うが。」

マベ「………。(乗せられたそれを手のひらの上で少し転がした。そっと握って感触を確かめると、顔に近づけた。僅かに残る、少し前に嗅いだ記憶のある匂いと極微量の血液の臭いに顔を顰めた。)…………ミラのだ。(それだけ言うと、鋭い目つきで急いで周囲を見渡した。)」

ゲラルト「ミラがここで自分で外したとは思えない。(顔を上げ、同じく周囲に目を向けた。)」

(周囲にいた街の人たちが一斉に会話をやめ、突然辺りはしんと静まり返った。その全員がゲラルトとマベのほうをじっと見ている。)

マベ「……僅かだが血の匂いがする。やべえぞゲラルト、どうやら完全に当たりのようだぜ。(突然の静寂に咄嗟にピアスをコートのポケットにねじ込み、街の住人達とゲラルトの間に立つように躍り出た。)…おいテメエら!いつまでも三文芝居やってんじゃねえよ!!なんとか言いやがれ!!」

(街人のうちの誰かひとりがポツリとなにか呟いた。そこから伝染するように周りの人々も口を開く。「異端者」という言葉が聞こえてくる。)

ゲラルト「……。(微動だにせず、視線だけでそれらの動きを追った。)なるほど。どうやらこの街はもう手遅れらしいな。 余計な遠慮が要らない分、かえって好都合だ。 ……ミラの痕跡を追うことは出来るか。」

マベ「これほどなのか。その小鳥とカミラっつー女の影響ってのはよ…。(少し背を屈めて構え、街人達の言葉に耳を傾ける。)ああ。探知で居場所を割り出せるぜ。この規模なら、そう時間はかからねェ。(付近の建物を見上げ、)上空から探す。そのほうが匂いを追いやすい。」

ゲラルト「人の心を操る術を持っていたからな。 ……お前を連れてきた意味があったな。先行しろ。私が後を追う。 無論、最短距離でだ。(右手が僅かに刀に触れた。)」

マベ「なるほどなァ。こいつらからしたら、俺らは異端者ってことか。(口の端を歪ませるように笑った。地面に片膝をつける。)
……了解したぜ、隊長!(その言葉を皮切りに辺りを強い風が吹き抜けた。周囲に張り巡らせていた探知の風の魔術を街全体へ伸ばし、その間にマベ自身は前方へ高く跳躍する。建物の屋上に降り立ち、吹き荒れる風に含まれる僅かなミラの痕跡を追跡し始めた。)」

ゲラルト「異端と言われてもな…。神様とやらは信じていない。信じられるのは己の強さのみ……そうだろ?(誰に問う訳でもない、独り言。)」

(地上や屋上に、魔術反応の薄い何らかの力を用いて街人たちが転移し集まってくる。それまで普通の人間らしく振舞っていた街人たちが、統制の取れていないほぼ獣のような勢いで一斉に2人に向かって襲いかかる。)

マベ「(街を見下ろし、駆け抜けては戻る風を一身に受ける。ふと風が弱まり、はためいていたコートの裾がゆっくりとその動きを止めた。)……見つけた。(振り向くと、眼前に迫っていた街人を横っ面からの暴風で叩き伏せた。屋根に足を引っ掛け叫ぶ。)…隊長!!教会だ!!街の真ん中まで走るぞ!!(言うが早いか、屋根を蹴り飛ぶようにして走り出した。)」

ゲラルト「(伏せがちにしていた視線を上げた。すっかり狂った目をして向かってくる人々を直前までひきつけ、)……了解。(マベの向かう方へ顔を向け、地を蹴って飛び出すと同時に刀を抜く。その先にいた街人たちが音もなく崩れ落ち、その開いた道を駆け抜ける。)」

マベ「(建物から建物へ飛び移り、群がってくる街人達を殴ったり蹴飛ばしたりして地上へ叩き落としながら進んでいく。)……魔術反応が無ェと反応が遅れがちになるな……(眼前の敵を躱し、グライダーのように滑空してゲラルトの前方に降り立つ。コートの下に隠していた一対のナイフを構えると、追い風に乗り飛ぶように走りながら敵を切り裂いていく。ある程度敵を倒すと高く跳躍し、建物の壁を蹴りながら再び上空へ。)」

ゲラルト「(向かう先の十字路に狂った街人たちが群がっているのを見つけ、迷わずそこに走り込んで)……っ、(一度鋭く息を吸い込んで大きく踏み込むと、先にいた1人の肩を踏み台にして前方へ跳躍。両手で持った刀を右肩に担ぐように構えてから空中で体をひねって横回転し、利き手側に刀を振り切ってコートを翻す音と共に周囲を一刀両断。)……。(身を低く片膝をついて着地した。すぐに上を向いてマベの位置を確認。十字路を曲がって走って追いかける。)」

マベ「(一足先に中央広場まで辿り着き、一際大きな建物の屋上に飛び移った。眼の前に無数の街人が現れ、行く手を阻む。)……やっぱりここは通さねえってか。(低く呟くと、フンと鼻を鳴らして笑った。)上等じゃねーか!ついてこいや木偶の坊ども!!(敵目掛けて疾走し、地面を大きく蹴った。瞬間、巨大な上昇気流が生まれマベと街人たちを空高くへと吹き上げる。)ほォーら、高く飛んでけ!!ラッタッタァってなァ!!!(最高到達点で身を翻し、自在に宙を滑空し敵を切り裂きながら広場の入口へと着地した。コートを翻すように立ち上がると、打ち上げられた無数の街人たちが次々と地面に叩きつけられ、鈍い音を立てた。)」

ゲラルト「(角をいくつか曲がった先は行き止まり。刀を右に振り抜いて目の前にいた街人を斬り、体を斜めにした片足を前に地面滑らせるようにして急停止。返す刃で近くにいた人を切りつけ。)土地勘がないとこういうことになる……(行き止まりの先の壁まで歩きながら、途中にいた街人の腹部を突き、足をかけて蹴り返すようにして乱暴に引き抜いた。)まあいい。最短距離だ。(壁にぺたりと片手をつける。)」

マベ「(広場へ近づく見知った感覚にそちらを向いた。その先にある”障害物”めがけて手を突き出し、鋭い風を放つ。派手な音を立てて壁が飛び散るように砕け、巨大な穴が開いた。)…………”最短距離”だったろ?ガイドブックにも載ってねえ穴場だぜ。(そう言いながら、ゆっくり歩いてきた。)」

ゲラルト「(魔術反応のある淡い光がほんの少し見え、瓦礫と砂埃の舞う中からゆっくりと歩いて現れた。マベの言葉に返事はせず、その冷たい目だけがほんの僅かに一連の行動に対する不満を表しているが、気づけないレベルのことだろう。そのまま目も合わさずに歩いて教会のほうへと近づく。)街の人間が近づくのを禁じているのかもしれないな。まるで”入れ”と言われているようだ。」

マベ「(ゲラルトが自分の横を通り過ぎると、小さく息を吐いてその後に続く。)そりゃあ俺達は異端者らしいからな。異端者の末路っつったら裁判にかけられて拷問されて、最後にゃ広場で薪積まれて火炙りだろ。こっちから飛び込んで来たところを、満を持して裁いてやろうって魂胆なんだろうよ。」

(2人の歩く先には石積みの重厚な教会が建っている。日が傾き始め、その外壁が徐々に赤く染まりはじめている。)

ゲラルト「我々は”する”のが専門で、”される”側ではないからな。……日没までに片付けるぞ。(ようやくマベの方を向き、教会の扉を指し示すように無言で顔を少し振った。)」

マベ「違いねえな。………。(にやりと笑ったが、すぐに真顔に戻って日没の近い空を見上げた。扉に素早く近付くと、背をピタリとつけ隙間から中の様子を窺う。)………静かだな。人気を感じねえ。」

ゲラルト「(少し首をかしげ。)なるほど。それはそれで不気味だな。 ……行くぞ。(刀を持ったままで。)」

マベ「(コートの下に忍ばせていたナイフを一対取り出し、一本は右手に、もう一本は口に咥えた。)………了解。(ゲラルトの言葉を受け、左手で扉を開け放った。そのまま中へ身を滑らせるように入っていく。)」

(開け放たれた扉の先は、この国ではよく見かける高い天井の聖堂。奥には祭壇があり、美しいステンドグラスが傾きかけた陽の光で色とりどりに照らされている。並んだ椅子も、吊り下げられたあかりも、寸分の隙もなく整えられていて、そこには誰もいない。)

ゲラルト「(その後を追うようにしてゆっくりと聖堂内へ進むと、足音が広い空間に響く。少し見上げた感じで端から端まで、黙ったまま中の様子を見て。)何の気配もないな。本当にここであっているのか?(低く、ほんの小さな声で問い掛けた。)」

マベ「ああ……間違いねえ。ごく僅かだが、血の混じった微かな匂いがここまで続いていた…。(ポケットに入ったままになっているピアスにコートの上から指先で触れた。ぎり、と小さく歯噛みし。)………。………探知をこの教会に絞る。少しの間、静かにしてくれねえか?」

ゲラルト「(そのまま少し歩を進めて聖堂の真ん中に立ち、祭壇の上のステンドグラスのあたりを見上げた。窓から差し込む光で、その後には長い影が伸びている。)……。(そのまま、言われた通りに黙り込んだ。)」

マベ「(マベが俯くと、聖堂内の空気がほんの少し動いた。極僅かな風がありとあらゆる隙間をぬって聖堂から教会中へ張り巡らされていく。)……どこだ……?(日没の近づきを知らせる長い影と、耳を塞ぎたくなるような静けさに思わず微かに声を漏らした。)…捕まって何日経った…?……くそ、余計なことばっか思い出しちまう…!(頭を振り、顔を上げた。)……どこにいんだよ、ミラ……!!(はっきりとその名を口に出して呼んだ。その声が空気を震わせ、マベの起こす風に乗って教会中に運ばれていく。)」

(教会内に響いたその声に”彼女”が小さく反応した。普通であれば絶対に聞き取れない程の小さな声で自らの居場所を答える。直後、少しざわつく人々の声のようなものが聞こえた。)

マベ「(はっとして、思わず足元を見た。)ミラ…!?………ッ!!(彼女のその声と周りの声らしき物音に表情を変え、ゲラルトに向かって声を張り上げた。)隊長ッ!!下だ!!ミラはこの下にいる!!あいつが声で俺に教えてくれた、…ミラが危ねえ!!」

ゲラルト「取り乱すなといつも言ってるいるだろ。……焦る気持ちもわかるが、私を迎えたときのように壁や床を壊すな。ミラならあの瓦礫は防げない。(ばっと見渡した視線の先、聖堂の横に別空間へ繋がる格子の扉を見つけてそちらへ駆け寄る。扉の鍵は開いていて、間から地下に繋がる石の階段が見える。)」

マベ「(目を見開いた。自分でも気付かなかったことを如実に表す驚愕の表情。)…焦ってたのか?俺、……っ!(何か言いかけたのを振り払うように首を振り頭を垂れた。)………申し訳ありません、隊長。人質を救助する任務に就く者として、あるまじき行為でした。………バカだな俺は………(最後の方は独り言。ゲラルトに続き、扉の方へ。)」

ゲラルト「(段を飛ばしながら階段を降りはじめ、先に続く空間が見えたところで足を止めた。)」

(地上階のように煌びやかでは無い、厳かな空気の地下礼拝堂。人々が小さな声で「ついに聖女様が言葉を発せられた…」と言った主旨のことを口々に言っているのが聞こえる。
礼拝堂の正面には祭壇があり、そこには引きずるような丈の白い服を纏った金髪の女性が座っている。背もたれのない祭壇の上で、壁から繋がった金の鎖で無理やり座った状態にされ、背後にある鳥の羽の装飾と重なり異様な空気感を漂わせている。目元は金糸や石で飾られた布で隠されていてその表情は読めない。)

マベ「(ゲラルトの後ろに続き、すぐ背後に控えた。)………………!!!!(目立つ祭壇の上に座らされたその姿に、コートのポケットを上からギュッと握り締めた。殺気を抑え、無言で歯噛みしながら様子を見ている。)」

ミラ「……っせぇなぁ……、あの人に呼ばれたような気がしたの……、アンタらに喋りかけたんじゃないよ…………、(いつものように悪態をつくその声はひどく弱々しい。)」

ゲラルト「…………マベ、悪いが、前言を撤回する。(俯き気味だった顔を上げ勢いよく礼拝堂の中へ駆け出すと、刀を横に構え、ミラの身体を支えている鎖を断ち切ろうと。その場にいる人間が一斉に2人の方を向いた。)」

マベ「えっ…、ハァ!!?(ゲラルトの豹変ぶりに驚愕した。…だが、すぐに口の端に若干引きつった笑みを浮かべた。)…そうこなくっちゃアな…!!(勢いよく礼拝堂に躍り出た。)ーーーようお前ら!!大事な客二人、忘れてンじゃねえのか?招待状はねえが名簿にゃ載ってンだろうがよ!?(手を天に掲げると礼拝堂に凄まじい風圧がかかった。祭壇までは効果は及ばず、ミラとゲラルト以外の者達をその場にねじ伏せるための風。自身も祭壇めがけて走り出す。)」

ミラ「(そう遠くない過去の夢を見ていたらしい。ぼんやりと顔を上げて、)……うん? ……あー、もう…遅いよ……、2人とも私に謝って?(はは、と乾いた笑いを漏らして。)」

ゲラルト「(ちら、とミラを見たが「謝れ」という言葉は聞こえなかったことにしたらしい。刀がミラを繋ぐ鎖に接近したところで、突然金属同士が激しくぶつかり合う音がして、その動きが止まった。)……!(見えない何かと鍔迫り合いになり数秒ほどその状態でいたが、互いに弾き合い、後ろに吹き飛びそうになるのを床に片手をついて後方に回転し着地した。) またか……」

マベ「悪いなミラ、遅くなった!しかし花嫁さんにしちゃアどぎつくねえかこの衣装はよォ!!(大声で返しながら、着地したゲラルトの後ろで一対のナイフを構えた。)……いるのか?隊長。(”またか”の声に、鋭い目つきで前方を見やる。)」

ミラ「(ふふ、と今度はおかしそうに笑って。)……ん。…………いいよ。(それだけ答えると、また項垂れて返事が無くなった。)」

ゲラルト「明らかに何かが意志を持って弾き返してきた。……また負担を強いることになるが、(そこまで言ったところで言葉を区切り、右腕の外側、隊服と手袋の間に刃を押し当てて)まあ大丈夫だ、何とかしろ。(例のごとく、ゲラルトの血液の匂いがあたりに漂う。)」

マベ「さしずめ聖女サマを守る騎士様ってかァ?(見えない敵に向かってぎり、と歯噛みする。顔をゲラルトのほうへ向け。)……今後もそうだが。負担になるなんて思うな。俺はお前に手綱を預けた。預けたからには従う。俺もそう思わせないよう努力する。いいな?(ゲラルトの仕草に合わせて、マベの周囲の風の流れが変わった。)………、(スゥ、と息を大きく吸う。)…さァ、異端者様のお相手はどんなヤツか見てやろうじゃねェか。」

(目の前が歪み、ミラがぐったりと座っているその両側に人の背丈をゆうに超えた鎧騎士のようなものが立っているのが見えた。そのうち一体は双刀、もう一方は大斧を持っている。)

マベ「オイオイオイ…!マジで騎士様じゃねえか、っははァ!(可笑しそうに笑った。が、すぐに眉間に皺を寄せて2体を睨みつけた。)……ふざけやがって。まとめてお役御免にしてやるよ。」

ゲラルト「まずその口の利き方を正す努力からだな。(言うが早いか前方へと飛び出し、双刀の騎士の真正面に向かって刀を振り下ろす。)」

(双刀の騎士が2本の刀を交差させ、ゲラルトの一撃を止める。その横からブンと風を切る音がして、大斧の騎士がその重量のある斧を真横に振り切ろうとしている。)

マベ「フン、人が敬語使ってたのロクに聞いてねェだけだろ。(大斧の騎士の動きを察知し飛び出し跳躍、姿が消える。振りかぶった斧の真上に突然ナイフを構えた姿で現れ急降下。落下の勢いそのままに身体を回転させ、二本のナイフを連続で大斧にぶつけるようにして叩き斬ろうと。)」

(上から攻撃を叩き込まれた衝撃で大斧を横へ振り抜く勢いが落ちたが、並の人間をはるかに超えた腕力で降下してきたマベの身体を吹き飛ばそうと、刃を横に向け斧の面が上を向いたまま上へと振り上げる。)

(双刀の騎士が交差させた刀を力任せに両側に開き、ゲラルトを大きく後方へと吹き飛ばす。その見た目に反する速さで一度空いた距離感を詰めるべく前へ踊り出て、両肩後ろに担ぎ上げた刀をタイミング違いで振り下ろす。)

マベ「(攻撃の矛先が自分へと向いたのを察知し、自身の周囲に強い風の防護壁を張り2本のナイフの切っ先で斧を受け止める。)…………ッ!(ガギイッという耳をつんざく音に顔を顰めたまま吹き飛ばされるが、空気の壁を作ってそれを蹴り、今度は大斧の騎士の手首を狙ってナイフを振りかざした。)」

ゲラルト「(後方に吹き飛ばされ、床に片手をつけた状態で後ろに滑りながら着地。続く一発目の攻撃を見切って身を低くして避けるが、二発目の軌道上から外れられず、刀を刃先を下に構えて攻撃を受け止めた。思わず片膝が床につき、)……とんでもない質量だ……、(刀の刃に添えていた右手を前に突き出し、予備動作なしゼロ距離で衝撃を打ち込む。)」

(大斧の騎士が武器を持った手の手首を返したことで、ナイフは鎧に突き立てられた。僅かに入ったヒビからうぞうぞと赤黒いミミズ状のものが這い出してくる。ナイフを突き立てたマベの手首を掴もうともう一方の手を素早く伸ばした。)

(下腹部のあたりに衝撃をまともに食らった双刀の騎士が後方に傾き、割れた鎧の隙間からは同じように赤黒いものが這い出して床にぼたぼたとこぼれ落ちる。片足を後ろに大きく踏み込んで体勢を維持し、双刀を同じ向きに合わせて横からなぎ切ろうと。)

マベ「(切っ先と鎧がかち合い火花が飛ぶ。ヒビから這い出した何かにゾッとして)こいつ……!………ッ!(手首を掴まれた。口の端を歪めて笑うと、足元から竜巻を発生させて手首を掴まれたまま天井へ飛ぶ。最高到達点で風の力を使って身体を捻り、一本背負い投げの形で鎧騎士を地面に叩きつけようと。)」

ゲラルト「(少し目を細めて零れ出た物体を不快そうに見たが、双刀が向かってくる方向に低い姿勢で飛び出し床を回転して攻撃をすり抜ける。双刀の騎士の斜め後ろに位置したことになるが、深追いせずにバックステップで距離を空け、いつの間にか袖から覗く左手首のあたりから血が出ている。周囲に漂っていた魔力が一気に濃度を増す。)」

(風で巻き上げられても手首を掴む手を離さず、さらに力が加わり、骨を砕きそうなほど強い力になっていく。地面に叩きつけられても尚その手を離さずに互いにダメージを食らう形にも連れ込もうと。)

(双刀の騎士が振り向きながら一歩前へ踏み込み、右の刀を横一文字に、左の刀をやや斜め上から振り下ろすようにして連続でゲラルトを切りつけようとする。)

マベ「こ、ンの……ッ……!!(地面に叩きつける寸前にもう片方のナイフに鋭い風を纏わせて翻し、自身の手首を掴む騎士の手首を切断しようと。)ーーーーッ!!!(それが成功してもしなくてもダメージは避けきれず、地面に落下した衝撃音とともに跳躍して少し離れたところに着地した。片膝をついて手首を押さえ、舌打ちして騎士の動向を見守る。強さを増した甘い匂いに、顔を歪ませるようにして笑った。)」

ゲラルト「(右の刀をやや下から打ち上げていなし、そのまま流れるような動作で左の刀を、自らの黒い刀でまともに受け止めた。)…これなら互角だろう?(口の端をほんの少し上げて笑った。初手でされたのと同じように腕力任せに刀を押し返して双刀の騎士のバランスを崩させ、鎧が壊れ”中身”が見えている箇所に刀を鍔近くまで深深と突き刺し、足をかけて一気に引き抜く。)」

(完全に無防備な状態のため手首がはねられて持っていた武器が手から離れる。落下の衝撃でものすごい音を響かせ、あちこち鎧が壊れた箇所から黒いものが溢れる。それでも尚ぎこちない動きで起き上がると、残った片手と切断された手首から蠢く黒いものが落ちた大斧を拾い上げる。頭部が片膝をつくマベのほうを向いたかと思うと、その質量に合わない速度で接近し上から大斧を振り下ろし叩き切ろうと。)

(双刀の騎士が大きく後ろに仰け反りそのまま倒れるかと思ったところを片手を着いて後方へ2度回転して大きく距離をとった。着地した先で体制を整え両方の刀を構え直し、間髪入れずに距離を詰め直そうとやや斜め前に飛び込む。)

マベ「(手首から響く痛みに片目を細め、交戦中のゲラルトを一瞥した。)…外の鎧は中身の脆さを隠すためか。(高濃度の魔力に思わず舌舐めずりする。素早く接近してくる鎧騎士に向かって駆け出した。)イイィじゃねェかああァ!!タイマンも嫌いじゃないぜええ!!(大斧が振り下ろされる一瞬のうちにスライディングで騎士の足元を抜け、片手片足でブレーキをかけて急速に方向転換。騎士に向き直った。)棺桶に入れる希望のパーツがあれば聞いてやるぜ木偶の坊!!!(抜けた足元へ接近し、騎士の足めがけて連続で斬撃を繰り出す。負傷した手首を補うべく強い風を纏わせ、片足を切断せんと執拗に同じ箇所へ攻撃を繰り返す。)」

ゲラルト「(両手で持った刀を刃先を前に向けて右肩の前に構えると、刀身がぐらりと歪んで見える程にこの空間に過剰に充満した魔力がその周辺に集まってくる。)……お前は黙っていたら死ぬのか?(小さな声でそう呟くと、少し目を細めて刀を下から上に振り上げた。集まった魔力が衝撃波となり、床をも抉りながら双刀の騎士へ一直線に向かう。)」

(空振りとなった大斧が床に突き立てられ轟音を鳴らす。その重たい一撃の後すぐには動作が起こせず、片足に対する斬撃を避けられない。切断されるより前に攻撃された方の足ががくんと膝をつきかけた瞬間、もう一方の足を軸にして身を捻って回転させ、無傷の方の片手を握った状態で横から殴り飛ばそうとする。)

(ゲラルトの放った衝撃波が距離を詰めようと前方に動いていた双刀の騎士を真正面から捉え、その重たい身体が吹き飛ぶ。頭部と胴体が割れて黒いものを飛び散らせながら後方の壁に激突し派手に瓦礫を散らして、その姿が一瞬見えなくなった。が、風切り音と共に黒いものと瓦礫の砂埃の中から何かが突然飛んでくる。)

マベ「聞こえてんぞ”飼い主”…。俺だってミラをあんなふうにされていきり立ってんだよ…わかンだろ…!?(連撃の最中に充血の強まった目で一瞥した。膝をつきかけたところにもう一撃加えようとしたが、空気の動きで横殴りを察知し跳び上がってギリギリのところで躱し、)………そォらッ!!(両手で握り締めたナイフを騎士の無傷の手に打ち込み、地面に楔のように突き立てて動きを封じようと。)」

ゲラルト「(鈍い音ともに双刀の騎士の持っていた片方の刀がゲラルトの右肩に刺さった。思わず顔を顰めて右足が一歩後ろに下がったが、)……っ、(短く息を吸い込み、声らしき声も上げない。)……おいおい、2本しかない得物の片割れを投げるか?普通……。 あー……、(左手の刀をだらりと下げた右手に持ち替え、刺さった短めの刀を左手で引き抜く。)……まさかそんなナリでまだ勝算があるなどと…馬鹿なことを考えてはいない、よなぁ?(上げた視線はどこか虚ろげでもある。両手に刀を持ったまま、まだ治まりきらない砂埃の中に飛び込み、床を蹴って跳んだ勢いのまま体を捻って横回転しながら力任せに両方の刀で騎士を斬り殺そうと。)」

(手にナイフを突き刺されている間、――恐らく若干の隙が出来たであろうその間に、手首から先を失ったもう片方の腕を振るって突き飛ばす形にしようと。)

(残った1本の刀でその一撃を受け止めようとするが、接近と回転の勢い、魔力解放で増幅した力、そして2本分刀の衝撃に耐えきれず、騎士の刀がパキンと高い音を立てて折れた。そしてそのまま胴体が真っ二つに切れ、両膝を折るようにして地に倒れた。)

マベ「(空を切る音に反応したが間に合わず、突き飛ばされ勢いよく後方へ飛ばされた。空気の壁を背後に形成しそこへ身体を叩きつけられる。)………ッは、(ケホ、と咳込み口の端を歪ませ笑った。マベの周囲にバチバチと音を立てて緑の稲妻が走る。)……さァて。そろそろ返してもらうぜ…!!(空気の壁を蹴り、肉眼では捉えられないほどの速さで騎士へと急接近。緑の雷と強い空気圧を纏った拳を大きく振るって、騎士を地面に叩きつけ押し潰してしまおうと。)」

ゲラルト「(片膝をついて着地。目の前のモノから赤黒い液体が盛れ出して床にひろがり、それ以上動かないことを確認した。)……、(ぱっと手をあけて敵から奪った刀を床に落とし、ゆっくりと立ち上がる。)」

(片手と片足で這うように動こうとしているところに急接近を受け、反応できるはずも無かった。叩きつけられた頭部から大量の赤黒いモノが飛び散り、それは地面に拡がって暫くの後に蒸発するようにして跡形もなく消え去った。)

マベ「(拳を叩きつけた格好のままだったが、敵が消滅したのを確認するとゆっくりと立ち上がった。)………ッ、ふー……。(両膝に手を置いてゆっくり呼吸し、上体を起こして完全に立ち上がる。腫れ上がった手首をもう片方の手で握りながら、ミラのほうへ歩を進める。)」

ゲラルト「(周りにいた人間たちが魔力解放の影響で皆気を失っていることを確認して、)……治療は後回しだ。ひとまずミラを回収して本部に戻るか。暫く目を離す訳にはいかないからな……、」

マベ「ああ……それでいいぜ。(返事をしながら祭壇へ足をかけ、無理な体勢で座らされているミラの背後へ回り、そっと自分に凭れさせる。)……悪かったな。時間かかっちまってよ。もう少し辛抱してくれ。(囁くようにそう言うと、ナイフを突き立て拘束する鎖を切り離そうと。)」

ミラ「(鎖が切れると、支えるものを失ったミラの身体の重みがずしりとマべにかかる。同様に金の細い鎖で後ろにギッチリ縛られていた手にはくっきりと痣がついていて、左耳のピアス穴は引きちぎられて傷になっている。目が覆われていてどんな表情をしているのかは分かりにくいが、全く反応がない。)」

ゲラルト「(周囲に気を配りながら刀を納め、僅かに肩で息をしながら、祭壇の目の前まで近づく。)悪趣味にも程があるな……、……ミラ。……ミラ?(普段からは想像もつかないほど柔らかく、その名前を呼んだ。)」

マベ「(痛々しい傷は視覚ではわからずともその血の匂い、触れ合っている部分から伝わる体温や息遣いでどれほど消耗しているかはわかる。眉間に深い皺を寄せ、怒りを堪えて目を覆う布を外そうと。)……ミラ。…起きろ。ゲラルトも、俺もいるぜ。(ぐっと力を入れて抱き寄せた。)…ミラ、…ミラっ……!ミラ!!起きろ!!」

ゲラルト「(ふと顔を上げた。マべがミラの名を何度も呼ぶのを見てすこし不思議そうにしたが何も言わない。ミラが動かない様子を見て、珍しく不快をはっきりと表情に出して。)…仕方ない。今は一刻も早くこの街を離れるべきだ。 ……今すぐにでも跡形なく塵に変えて行きたいところではあるが……、」

ミラ「んー…………(目隠しを外されて頭がかくんと後ろに倒れて寄りかかる。)……、……。(ぼそぼそと何か言ったが、あまりに小さい声はほとんど言葉になっていなくてよく聞こえない。何か喋りかけて居るようではあるが。)」

マベ「(普段怒っているときとあまり変わらない様子だが、マベの身近にいる者ならどこか焦りが混じっているのがわかるかもしれない。それに本人が気付いているかは別として。)……ああ……シェズム方式で全部まとめて木っ端微塵といきたいところだが、……!(言いかけて寄りかかったミラを改めて抱き留めた、その唇から発せられる小さな声にはっとして。)………隊長、少し待て!(ミラの口元に耳を近づけた。)……なんだ?…何て言ってる…?」

ミラ「(さっきよりいくらか明瞭な声になって、)うー……気持ち悪い………吐きそう…………、うっさいから黙って……ほんと無理…………(と、言っている……)」

ゲラルト「(ミラが大した内容を喋っていないのを聞いて少しほっとした様子で。)…そういえばお前、免疫なかったな。 何があったかは帰ってから聞く。……無理して動くなよ?」

マベ「………。……そういえばゲラルトの血で酔うっつってたっけな……心配させんなよ、ったく……(はあ…と深い溜息をつき、鼓動が少し収まった。)俺が担いで連れて行く。……あークソ、腹の虫が収まらねえ。隊長、この建物ひとつくらい、いいだろ?ヤッちまってもよお。」

ミラ「(ゆっくり目を開けた。特徴的な赤と水色のオッドアイが、ぼんやりと前を見つめた。)あれ……?やっほー…隊長……。夢じゃなかったんだ……。(ぎこちなく手を伸ばした。)」

ゲラルト「(伸ばされた手を握って、)ほら、現実だ。もう一人後ろにいるぞ。 ……するべきことをするのが先だ。まずはこの建物から外に出るか。このままだと本当に吐きかねない。(もう一方の手でミラを指さして。)」

マベ「(ゲラルトとミラの様子を見て、ふっと安堵の表情を浮かべた。)……あいよ。了解。(特に悪態をつくわけでもなく素直に頷いた。)さすがにここでやられるとキツいな。せっかくキメてんのに…、よ!(後ろから手を差し込むようにしてミラを抱き上げてしまおうと。手首の痛みにホンの少し片目を細めた。)」

ミラ「……へ?(握られた手をするりと離して、顔の向きを少し変えて後ろにいたマべを確認し、)あ、ほんとだ。やっほ…ぅえ…… 2人も来てくれるとは思わなかったや。ありがと、あー…助かった…(何されても全然全く抵抗もしない。だらんと力が抜けているのが、疲労のためなのかもっと別の何かなのかはわからない。)」

ゲラルト「(来た階段の方へ歩いていって、その先に誰もいないことを確認する)……外にいる連中は、まさか異端者が生きて戻るとは思っていないようだな。見くびられたものだ……。(一段一段、階段を登っていく。)」

マベ「おう。(振り向いたミラに首を傾げて笑ってみせた。)…さ、行くぞ。とっととこんな辛気臭いところからおさらばしようぜ。(以前のようにミラを抱え、ゲラルトに続く。)……こんなクソ溜めみてえな空気の街は初めてだぜ。ナメられたままでいいのかよ、隊長。ミラのぶんのお返しもまだしてねーぜ。(怒っているわけではなく、声色は平坦。これで普通の会話をしているつもり。)」

ミラ「わー……ごめん、めちゃくちゃ増量中なのに……。(手を回してぎゅうと抱きつくが、それもあまり力がない。肩の辺りに頭を寄りかからせて)ほんとこの街変態しかいないんだよ…、こんな酷いと思わないじゃん誰も…ね。」

(来た道を戻り教会の扉を開けて外に出た。外はもうすぐ日が沈む頃。広場を囲むようにして街人たちが立っているが、口々に「聖女様が異端者に奪われた!」と言ったようなことを叫び始める。)

ミラ「っわ……!?(思わずビクッと体が跳ねて、周りを見ないように肩に顔を埋めた。)」

ゲラルト「(その様子を見て溜息をつき、目を細めた。いつも以上に鋭い目。)…………マべ。この建物ひとつくらい、やってもいいぞ。」

マベ「心配すんな。お前もっと可愛いこと言えよ、マジでウケんぜ(軽口を叩きながら、だが目は全く笑っていない。寄りかかったミラを少し強めに抱き締めた。)
…………。(そうして教会から出たところで、口々に叫び始めた街人たちを冷めた目で眺めていた。そこへ待ち望んだ一声がゲラルトから発せられ。)……ハハッ、了解したぜ隊長!!(充血した目を見開き、口の端を吊り上げて笑った。ミラを抱えたまま群衆の前へ躍り出る。)

ーーようお前ら!血と嵐を纏う最強と最狂の死神二人のご登場だぜ!!歓迎と祝福の鐘を鳴らしな、✕✕✕✕ども!!(その言葉とともに、教会の頭上に黒い渦となった大旋風が発生する。それは緑の雷を纏った巨大な竜巻となり、巻き上がる暴風に時計塔と建物が壊れ始める。大聖堂のステンドグラスに大きく圧力がかかり、大きく軋んだ次の瞬間、繊細な音を立てて次々と砕け散っていく。屋根が吹き飛ばされ、赤や青のガラスの破片が瓦礫とともに巻き上げられ、日没間近の陽光を受けて暗く煌めきながら天へと昇っていった。)」

ゲラルト「……上出来だ。(風に吹かれ果実のような血液の匂いが香った。ガラス片が巻き上がるのを見てどこか満足げに笑うと、少しだけ左の指先を動かしたが、その次の瞬間には3人の姿は消え去っていた。)」