(エントランスホールにはもう客の姿はなく、その代わりに警備をしているらしい者達が各所に配置されている。上階でオークションが開始され、賑やかな声が上がった。)
(その一角、ひとつの扉が荒々しく開けられ、警備員たちが一斉にその方向を見た。)
ゲラルト「(身を少し低くして床を蹴り、加速。一番近くに立っていた警備員に接近、右手でハーネスを掴み背負い刀を左手で抜く動作のまま胴体に斬り込むが、刃が入りきらず、勢いのまま相手を床に倒れ込ませた。刀を両手に持ち替えて胴体から引き抜き、トドメを刺すことなくそのままホールの中央付近に歩いていく。 ホールに居る者全員の視線が集まる。)……なるほど。やはりそうだな。」
マベ「相変わらず一発目からハデにやりやがンなァ……(ゲラルトの後方からやや遅れて現れる。倒れ込んだ警備員にも目もくれず、自身の周囲にいる者が怯むほどの強い風を身に纏い後に続く。)なーにがっすかぁ?隊長ォ。(やはりそうかと口にしたゲラルトに呑気そうに、しかしどこか真剣味を帯びた声で聞いた。)」
(警備員たちが現れた2人を交互に見て何か言い合い、場がざわついた。ゲラルトに切られたはずの者も、血のようなものを流しながらもふらつきながら立ち上がった。)
ゲラルト「こいつらは人間では無い。(片手に持った刀を床に向けて少し降ると、さっき斬ったときの血液が散って床に落ちた。) ……これは機密情報扱いだ。わかるな? なるべく迅速に……全て殺せ。一人も逃がすな。(いつもより幾分低い声で。)」
マベ「………へーぇ。(歩きながら、口の端が不気味に上がる。)ミラを掻っ攫おうとしたのもガキの姿をした化け物だったが、あんたの話で合点が行った。(風鳴りを伴ってコツ…コツ…と足音を立て、ゲラルトの側まで近づく。そして背中を向けると、ホルスターのナイフを抜き素早く構え大きく屈んだ。)ーーーー了解、隊長。」
ゲラルト「能力者を無理矢理産ませる都合上、五体満足で産まれることは稀らしい。成長障害もよく見るパターンだ。(刀を両手に持ち替え、自分の眼前で上向きに真っ直ぐ構えた。)」
(どこからか微かに声がした。その途端、ゲラルトが初手で斬りつけた敵が飛び出し、確かに人間とは思われぬほどの速度で接近。手に持った短めの剣を斜め下から振り上げる。)
(ほぼ同時、別の敵がマべに向かって接近。獲物は確認できない。)
ゲラルト「(構えた刀に左腕を押し当てた。一歩踏み出し、敵の一撃を迎え撃つべく逆の軌道から刀を振り下ろし、その軌道上に僅かに血液が飛び散った。敵の動きは初手よりあまりにも重いその衝撃に耐えきれず、いとも簡単に弾き返される。返す横一文字の一振で、今度は敵の胴体がぶつりと断ち切られ、敵の一切の動きが止まった。)」
マベ「ひでえことしやがる。クソめ。………、(マベの聴覚が何かを捉えた気がした。しかし確認する間もなく敵が接近してくる。)ハッ、(ニヤリと笑んだ。瞬間、マベの姿が消え敵の真上に鋭い風とともに現れる。双刃を振りかざし、敵の肩口からXの形に切り裂いた。倒れ込んだ敵の前に着地し、血塗れのナイフを構え直す。)………じゃあ俺の風で、死者の門まで送ってってやるよ。来やがれ出来損ないども!!(烈しい旋風がドウと音を立ててホール内を包み込む。常人なら間違いなく巻き込まれ飛ばされて地面に叩き落される風力。人外でも足を取られ、移動速度が落ちるかもしれない。)」
ゲラルト「お前は本当に口が悪いな……。地上階が崩れるような真似はするなよ。(ぐっと床を踏み込むと、ぐしゃりと床に倒れ込む敵の脇を抜けてまた別の敵に接近する。)」
マベ「それを躾けんのが飼い主の役目だろ?まあ任しとけって!善良な国民を守ンのが俺らの役目だからなァ!(起こした風で敵の動向を観察しながら、同時に索敵のため感知能力をより精密にするよう魔力の調整も行って。)……今回はあいつ(ミラ)のぶんも派手にお返ししてやらねえとな。出し惜しみはしねえ、だろ!?」
(ゲラルトの向かう先にいる敵が剣を抜き、迎え撃つ構え。姿勢を低くして足元を薙ぎ払う。)
ゲラルト「そうだ。理解させてやらないとな。(トンと軽く地面を蹴って跳ぶとその攻撃をスレスレの高さでかわして着地。ついた片膝を軸に振り返りながら刀を振る。ゲラルトの動いた軌道上には血液が点状に落ちていて、ふわりと甘い香りが漂う。)」
(マべの背後に予備動作なしで敵が出現。感知を避けるように転移魔法を使ったようだが、魔術的な匂いが全く感じられなかった。)
(それと同時、天井の方から小石が落ちるようなパラパラという音がする。何も見えない。)
マベ「………!(少し首を上げて天井のほうを見上げた。もちろん、何も見えることはないのだが……)…ゲラルト、気になることが(ゲラルトのほうに振り向こうとした瞬間背後の敵に気が付いた。)ーーーッ!!(両手を顔の前でクロスさせ、風の盾とナイフの刃で敵の攻撃を受けようとする。命中の如何に関わらず、大きくバックステップを踏んでゲラルトの近くへ移動しようと。)」
ゲラルト「……ひとつ言い忘れていた。奴らは魔術とは違う力を使う場合がある。そういう意味ではミラと共通しているが……。感知が遅れると手遅れになる。気をつけろ。(大事なことなのに今更淡々と説明し…、) ……いるな、何か。」
マベ「ふざけんなよ!?先に言えよ!!…ったく、(先程襲いかかってきた敵を睨み、舌打ちしてまた背中合わせになり。)……ああ。さっき隊長が一番目に斬った奴が飛び出す直前、声みてえなのが聴こえた。フェイントじゃなけりゃ上だが……、(すう、と息を吸い込み、空気中に残る甘い匂いを嗅いだ。口の端を歪ませ、構え直す。)……こりゃ本腰入れてヤらねえとこっちが音ェ上げちまうな。」
ゲラルト「(舌打ちされたのは無視して)居るのに見えないとなると、認識が歪められているのだろうな。(何もいない天井を少し見上げ、左手にはめた手袋を取りながら、)その狂った境界線を、狂わせてやるか。 ……お前、先に音を上げるなよ?(言い終わるかどうかのタイミングで手袋を床に落として、爪先で首元を毟る。漂っていた魔力がその濃度を増し、噎せ返るような甘い匂いを放った。)」
マベ「ああ。俺の風でも感覚でもわかんねェ。………。(狂わせてやるか、のあたりでゲラルトをちらと見た。五感で感じたその動作に歪んだ笑みが深くなり、笑い出した。)ッハハハ…!!5年の間、俺が何やってたと思ってんだ?(広がっていく強烈な甘い匂いの中、目を閉じた。一瞬風が止まり、数秒後再びマベの周囲を吹き荒れ始めた。)
…ま、酔い覚まし程度だがな………っは、(閉じた目を大きく見開く。理解できる者なら、体内の魔力の流れを急速化させ代謝を活性化させているのがわかるかもしれない。倒れることも悶絶することもせず、ぎりと歯噛みするような笑みを浮かべた。)」
(ホールに集まってきた者達が皆一度動きを止め、徐々に広がるその異様な空気を感じてざわついた。)
ゲラルト「お互い、あの時とは違うからな……。(一度目を閉じてゆっくりと開けると、いつもと少し印象の違う表情で首を僅かに傾げた。)あれは、私達のような魔術師と全く違う原理で展開される力だ。物事の境界を狂わせるその力は”神域”と呼ばれている。… 詳細は未だ解明できていないが、ひとつだけ確かなことがある。(顔も合わせず、人差し指で2度天井を指さした。上に風をおくれ、と。)」
マベ「(ゲラルトの説明に驚くでもなく、蠢く者達を遠目に見ている。)……並の魔術師にゃ理解すらできねえかもな。あんた、とんでもねえモンを追ってたんだな。(目元を得物を握った手の甲で擦った。)………そらよ。(右手を天井に向かって突き出した。手の動きとは真逆の強い突風が巻き起こり、広いホール内で空気をかき混ぜ激しい旋風へと変わり、天井まで一気に駆け抜けていく。)」
(天井まで巻き上がった風と共に、ゲラルトの血液の匂いがホール全体に充満する。それとともに広い天井に張り付くようにして下を見下ろす、赤い髪と金色の目をした、大きな人型のモノが”見えた”。背には細い蔦が這ったような羽が生え、そこには金色に光る宝石にも似た石のようなものが無数についている。)
ゲラルト「馬鹿言うな……、これはただの紛い物だ。(現れたモノを見上げて) この能力で魔力を過剰に集めれば、奴らが狂わせた境界を更に狂わせることができるらしい。 ……ということだ。しばらくこのままだが何とか我慢しろ。(…)」
マベ「(風の行く先を目を細めて見ている。充血が少し酷くなっている。)……”見えた”……。あン時と同じガキに見えるが…。(ゆっくりとゲラルトを振り返った。)オイちょっと待て。俺にこのままお前の血の混ざった風吹かせとけって意味か?3分しか持たねえとか、ここに突っ立ってないと無理ですゥとか言い出したらどうするつもりだったんだよ?(…。)」
ゲラルト「(マベの方を見た。)あー……その時は例の言葉を撤回するか。(く、と僅かに笑いが零れた。)まあ、3分もあればじゅうぶんだ。(右手を挙げると、その掌の先の空間が歪むほどに魔力が集まり、何の動作もなくそれが真っ直ぐ天井にはりついた異形に向かう。ゲラルトの金髪がその衝撃で起きた風で激しく靡いた。)」
マベ「(眉間に皺を寄せ、苛立つ…ように見せかけて、口の端を歪ませた。)フン。言ってろよ。追いかける奴の背中すら見えてないのに、その程度で諦めるような負け犬じゃねえよ。(ホール内を駆け巡る風の勢いはそのままに、ナイフを握った左手の拳を見つめた。バチ…と小さな音を立てて火花が散り、また別の甘い匂いのする風がマベの身体を包んだ。体内の魔力循環も合わせて3種同時の術式展開。)…少し足りねえが…、ま、成り行きに任せるか。(ゲラルトの起こした風がマベの風と混ざり合い激しく渦を巻く。激しく靡く薄汚れた茶髪から覗く瞳が異形を捉え、キュッと細められた。)」
(頭をもたげてゆるりとこちらを見たそれが瞬きをすると、背中の羽についた石が空中に広がり、鋭く尖った雨のように2人を追尾しながら降り注ぐ。異形の本体はゲラルトの放った魔術が着弾する前に、どさりという重たい音を立てて床に着地した。)
マベ「(降り注ぐ石の雨が着弾する寸前に地面を蹴って跳んだ。連続で降ってくる石を側転で躱し、ナイフを持った片手で器用に全身を支え、跳び上がって少し離れた場所へ着地した。)ーーーチッ。面白くなってきたじゃねえか。(着地した先には得物を構えた人型達が待ち構え、立ち上がったマベを取り囲み始めた。)」
ゲラルト「(石の雨を見上げたままその場に留まりギリギリまで引き付け、床を蹴って遠くへ跳び、その勢いを殺さず受身を取るように床で一回転。その先にいた人型を流れるように斬りつけたあと、崩れて膝をつく前に片手で背負いあげ、降り注ぐ刃が人型の背に全て刺さったことを確認してから、床に捨てるように放り投げた。)」
(羽の異形が顔を上げた。至る所に刺さった金色の石が弾け飛び、キラキラと光の粒になって舞う。その光はやがて羽周辺に集まり再び金の石に変わった。羽を広げるとふわりとその体が浮き上がり、両手にそれぞれ形の違う刃物が現れる。前方に動いた次の瞬間にはゲラルトの目の前に移動していて、2本の刃を振りかぶって叩きつけるように斬りかかる。)
マベ「(風を纏い、囲むようにして襲いかかってくる人型を次々とナイフで切り払っていく。一撃で致命傷に至りにくいのを手数でカバーし、中空を舞い空気の壁を蹴っては次々に肉片と血飛沫を撒き散らしていく。)
ーーーー!!(周辺の石が弾け飛んだのに気づき顔を上げ、浮き上がった異形本体がゲラルトに向かうのを認識した。目の前の人型を蹴り飛ばすと、異形の刃からゲラルトを守るように巨大な空気の壁を造り上げる。さらに手を薙ぎ払うようにして衝撃波のような暴風を発生させ、刃自体を破壊しようと。)」
ゲラルト「(暴風に少し目を細めたが、それだけ。ちらりと視線を送るようなことさえなく、空気の壁を通り抜け、加速して前方へ。)」
(マべが発生させた風の力で異形の手から刃が離れ床を転がって行ったが、それもまた金色の光の粒となって両手に集まっていく。 その間、背中の羽が蔦のように伸びて2人を捕捉し体を貫こうとする。)
マベ「(ゲラルトが風を抜けたのを認識し、フンと鼻を鳴らすように笑った。刃が粒子となって戻っていくのを認めると途端に笑顔を消し、異形を睨み据えた。)厄介だなオイ。こんなに滾らねェ裸は初めて見たわ。…裸って言っていいのかわかんねェがよ、オッ!!(迫ってくる羽だったモノを高い跳躍で躱す。壁を蹴り、空中で大きく一回転しながら両手のナイフを構え直し、)もっと色気のあるモン見せろやァ!!!(着地の勢いそのままに羽を切り刻む。音を立てて地面に降り立ち、連続する攻撃を走って躱しながらその切っ先を切り落としていく。)」
ゲラルト「(羽が伸びてきた時には既にかなり接近している。そのためほぼノーアクションでそれを躱し、)マべ。少し黙れ。(刀を振りかぶって片方の羽の根元を真っ直ぐ断ち切ろうとするが、刃が入り切らない。) ……こんなに硬いモノだとは思わなかったな。(困ったように笑った。空気中の魔力が刀に集まってくる。そのまま力任せに振り下ろすと、片方の羽が質量のある音を響かせて床に落ちた。)」
マベ「(蔦を叩き切りついでに近くにいた人型を薙ぎ払っていく。)あんたはもうちょっと喋れ。…そういうとこ、変わってねえのな。安心したぜ。(減らず口を叩きながら床に落下してきた羽を見つめる。)まさかコイツも光の粒になってまた戻ンじゃねえだろうな?」
(異形が羽を切り落とされ、空間全体を震わせるほどの金切り声を上げた。残った片方の羽を、敵味方関係なく広範囲に横から薙ぎ払う。両手の光が刃物を再構築させた。)
ゲラルト「(羽からバラバラと落ち、溶けるように消えていく石を見ながら。)再生するのはこいつが持っているモノだけだろう。(異形のほぼ真横にいる。羽を薙ぎ払う動きには特に反応しない。)」
マベ「……………ッ(空間を震わせる咆哮に顔を歪めた。身体が硬直しかけたが体勢を低くし、薙ぎ払いに背を向け突風とともに駆け出した。しかし逃げるためではなく、残った人型の敵を羽の攻撃範囲へ蹴飛ばしたり暴風で突き飛ばしたりしながら殲滅していく。)…はん、なるほどなア!だったら……、(あらかた片付いたところで巨大な旋風に身を任せるようにして天井ギリギリまで高く跳び上がった。天井を蹴って猛スピードで羽に向かって降下しながら、一対のうち一本のナイフを両手でしっかりと握り締めた。)根元を断つのが最善策だよなアァッ!!!(滞留させていた風を切っ先へと集中させ、羽の根元に深々と突き刺した。バキバキというイヤな音とともに羽にヒビが入り、轟音とともに崩落していく。)」
(マベに刺されて崩落した異形の羽からまた石が溶け、金色に光る液体が床にじわりと拡がっていく。次の瞬間、その液体が床から無数の針のように伸び、異形本体を守る鳥籠のような形になった。中にいる異形からはメキメキと何か音がする。)
ゲラルト「……硬いな。物理突破は賢い選択では無いようだ。何か策はあるか?(異形の羽が再生しそうな音を聞いて、僅かにため息をつきながら。)」
マベ「(ゲラルトの側に着地する。今の攻撃で折れたナイフを捨て、ホルスターから最後の一本を引き抜いた。防御態勢に入る異形を見つめながら。)普段人間相手にしてる俺に聞くか?再生まで本体を守らねえとならねえほど、奴さんも追い詰められてんだろうが…、(ふっと俯いた。口の端に笑みを浮かべたのが見えただろうか。)……ま、あるっちゃある。どうなるか”俺自身”にも予測はできねェが。」
ゲラルト「……。(黙ったまま、マべのことを見た。ほんの少し見上げる形になって。)お前は、俺が”賢くないやり方”でやるのをただ見ているつもりじゃないだろうな? (刀を構える左腕の肘からぽたりと血の雫が落ちて)俺がやれと言った時は、やれ。言ったよなぁ?ご主人様の命令は絶対だと……。」
マベ「あァ?何だよいきな……、(言いかけて、間近で血の滴った音と甘い匂いにドクンと心臓が跳ねた。)…………。(言葉を呑み込んだ。乾いた音が鳴るほどナイフを握り締め、”大きく息を吸って吐いた”。)…こいつの仲間がミラを襲ったとき、風に乗って運ばれてきたお前の血液を利用して相手の術式を破ったんだ。あとはお前の血を含んだ空気を圧縮して、弾丸代わりにして撃ち込んでトドメを刺した。
同じやり方が通用するかもしれねえ……だが、こいつはバカでかい。一発ずつキメるより、一度の攻撃で複数箇所を狙ったほうがボロを出すかもしれねえな。(静かにそこまで言うと、不意に一歩詰め寄った。ゲラルトの目線より少し上、見下すように視線をかち合わせ、)ーーーおい。”ゲラルト”。(低い、どこか挑発的な声で名を呼んだ。)」
ゲラルト「……口の利き方を考えろ。飼い主のことは何と呼べと言った?(至近距離で見下され、ほんの少し眉をひそめて不機嫌そうな顔をした。)」
マベ「なんだ、少しの焦らしにも耐えられねえのか?狂犬の飼い主のくせしてよ。…言ったろ?しっかり手綱は握っとけって。(見えていないはずの異常なほど血走った目がゲラルトを見据える。獣のような獰猛さの滲む挑発的な目に、口の端を吊り上げるような笑みを浮かべた。)あいつの外皮をぶっ壊すには、血が足りねえ。”もっと濃いの”が要る。……ここまで言やァわかるだろ?ゲラルト。” お 前 の 血 を 飲 ま せ ろ ”。……そうしたら、何度でも求めるがままに呼んでやる。」
ゲラルト「(その挑発的な様子を鋭い目でじっと見ていたが、呆れたように鼻で笑って視線を外して。)お前、何を言っているかわかっているのか?馬鹿言うのも大概にしろ……。そんなことをしたら許容量を超えて……」
マベ「(視線を外そうとしたのを、胸ぐらを掴んで無理矢理こちらを向かせようと。)…”俺がやれと言ったときはやれ、絶対だ”っつったのはお前だろうがよ?ご主人様気取ってるくせに、肝心なところで尻込みか?え?
言ったよなァ?提案はいらねえ。欲しいのは命令だって。…お前、俺がどんな思いで5年間やってきたか知ってンだろうがよ。それはお前に頭撫でてもらって尻尾振るためじゃァねえんだよ。(口の端では笑みを浮かべているのに、怒りのような狂気のような凄みのある表情でゲラルトを睨みつけている。)」
ゲラルト「…やめるべきときにやめろと言うのも飼い主の役目だ。(異形から聞こえるメキメキという音の間隔が徐々に早くなっていくのを聞いて、ち、と珍しく小さく舌打ちをして)だが、お前が一度言い出したら止まらないことも理解している。 ……後悔しても知らんからな。」
マベ「ハッ。よく理解ってんじゃねえか。俺を本気で止めたいなら、思いッ切り手綱を引っ張ることだな。(苛立ちを隠さないゲラルトにニヤニヤしている。)…俺はミラのぶんも一発キメてやんなきゃいけねえからな。(大袈裟に両手を広げた。)さ、非礼の詫びがいるなら跪いて頂戴してやってもいいぜ?」
ゲラルト「(手に持っていた刀を右手に持ち替えて、だらりと下ろした左手は血で赤黒く染まっている。)そういうくだらん誠意の示し方には興味が無い。……見せてみろ。ウライオス流の誠意ってやつをな。(左手を差し出した。)」
マベ「…そうだな。俺達にゃそんなモン必要ねえな。(差し出された左手を見てニヤリと笑った。その手首を自分の方へ引き寄せんばかりの強い力で掴み、顔を近づけた。あの日嗅いだ強烈な甘い匂いと記憶が蘇り、ぞくぞくと背筋を震わせる。)………食い千切ったらゴメン、な、ぁ………ッ!!(昂るがままにその親指に強く齧りついた。犬が獲物にそうするように容赦なく歯を立て、肉を断つぶつりというイヤな音が聞こえた。)」
ゲラルト「(手を引っ張られたところまでは表情を変えなかったが、指に噛みつかれて思わず片目を細めた。)い゙っ………、……お前っ…………、何も……噛むことはないだろ……。(ぼたぼたと血が流れる。その度に周囲に血の匂いが広がっていく。)」
マベ「(ぎりぎりと歯を立てたままニヤリと笑った。)…ッハ、情けねェ声出すなよゲラルト…!犬にナメられたら終わりだぜ…?(溢れ出る血を深く指を咥えて飲み下ろしていく。その間にもビシ…ビシ…とマベの周囲の風に雷が混じり、放電を始めた。)」
ゲラルト「(心底嫌そうな顔をした。)これでも一応痛覚はあるからな…。……おい、もう終わりでいいだろ。早く抜け…(ぐ、と手を引っ込めようと力を入れた。)」
マベ「うるせえ…(がりっ!と最後にきつく、きつく噛み付いた。そうしてようやく離した頃には口元は血に塗れ、両目は血管が切れそうなほどに真っ赤に充血していた。)……次はあんたとやる時だ。飼い犬に手ェ噛まれた挙げ句ぜぇぇぇぇんぶ舐め尽くされないよう気をつけろよォ?……ご主人様ァ。…っく、くく…ハハ…!(口の端についた血を長い舌で舐め取り、肩を揺らして笑った。同時に自然の中でしか聞こえないような轟音とともに、二人を中心に烈風が吹き荒れる。渦を巻く風の中で火花が散り、風は血のように赤黒い稲妻を伴った竜巻へと成長していく。)」
ゲラルト「(ようやく解放された左手、飼い犬に噛まれたその痕を見て深い深いため息をついた。)……こっち、利き手なんだぞ…。 今日は必要があって大人しく噛ませてやったが、やり合うときは好きにはさせん……、……。(少し気だるそうに目の前にそびえ立つ”鳥籠”を見て。また刀を構え直して。)」
(音が、止まった。恐らくは羽の再生が終わったのだろうが、鳥籠に守られたまま動きがない。)
マベ「利き手だろうが問題ねェだろ?ウライオス隊長ゲラルト・シェズムは、そんくらいで刀の斬れ味が鈍るような男じゃねえ。……俺はそう思ってるが?(雷鳴で影の落ちたその顔は狂犬と呼ぶに相応しい形相で)
………さァーて。動きはねェな。俺はあいつのバカでかい図体に弾丸叩き込んであちこちぶっ壊す。あんたはその重てえ一撃でバケモンに致命傷を与える。筋書きはそれでいいのか?」
ゲラルト「お前は随分俺を高く評価しているんだな。 ……。言っただろう、好きに暴れろと。お前がどう動くかに関わらずやるべき事をやるまでだ。……その名に恥じないモノを見せてやる。(口元が笑った。危うさのあるその表情には、いつもの完璧過ぎるほどの理性は見えない。)」
マベ「あんたが心底嫌がる言葉で言ってやろうか?”惚れてる”ぜ。(凶暴さの中で悪童のような笑顔を見せた。ふ、と息を吐き)さすがは隊長ォ、俺を好きにさせておけるだけの実力があるのはあんただけだぜ!……おお、見せてくれよ。ぜぇぇぇんぶ見届けてやっからよ。(改めてホルスターからナイフを抜き、その手を見つめた。拳のあたりから赤黒いスパークが走り、その高濃度の魔力が身体中を駆け巡る感覚に笑みが獰猛さを増した。)」
ゲラルト「は……? ……。いや、……。……。は?(呆気に取られて2回同じ反応をした。一度項垂れるようにして、また前方を見て。)」
(パキン、と硬い音がし、鳥籠の両側が砕けて蔦が絡まったような羽が再度現れた。その時砕けて割れた鋭い金の石がまた照準を合わせるように空中を漂ってから止まった。一瞬の後、石が2人へと向かって飛んでくる。)
マベ「は……?(こっちも怪訝そうに返したが、音がしたほうに即座に身体を向けた。)腑抜けてる場合じゃねえぞ隊長!とっとと動け!(石の軌道を認識し、前に躍り出て手を薙ぎ払った。赤雷を纏った竜巻が空気の壁となり、二人を守る。)」
(竜巻にぶつかった石はまた弾け飛んで光の粒になるが、強風に煽られて異形の手元へと戻れない。羽がホール全体を覆うほどに広がって、空気の壁を両側から避けるように伸びて串刺しにしようとする。と同時に鳥籠状になっていた石たちが、その内側から弾け飛ぶ。その破片の先、大きく刃を振りかぶった異形の姿が見えた。)
ゲラルト「(急に表情が変わり、マべの発生させた壁を間を縫って前方へ。同時に弾けた石が身体を掠めてそこら中に血が飛び散るが、怯むことなくその先の異形の姿を、動きを、瞬きひとつせず正確に捉えている。体の右側に流すように構えた刀の先が一度かくんと振れる。)」
マベ「(ゲラルトを見送り、真っ直ぐ異形を見据えた。マベの周囲に赤黒い稲妻を伴った空気の流れが集中し、バチバチバチ!と激しく放電する。)…悦べ、楽しい拷問のお時間だぜ!(マベの周りに無数の見えない空気の弾丸が生まれ、その言葉を皮切りにホール全体を揺らすほどの轟音とともに放たれた。それらが異形に刺されば一つずつが小さな電極となり、ホール全体に広がった雷を呼び寄せ電撃を浴びせる。激しく放電し、異形の体をスパークが鎖のように這い回る)」
(弾丸が撃ち込まれた羽が怯みその動きが不規則に震えた。頭や体ちも撃ち込まれ、そこら中がばらばらと崩壊していくなか、電撃に動きを阻まれる。それでも尚、前へと飛び出て向かって来たゲラルトに向けて振りかぶった刃を振り下ろすが、)
ゲラルト「(振り下ろされた刃が「確実に当たるであろう」と気を抜いたその一瞬をついて、刀を斜め上に振り上げその一撃を弾き返すと、瞬時に刀を両手に持ちかえて異形の腹部を深々と突き刺す。)……残念、だったな? (突き刺した刀をぐっとねじる様に握り直し、力任せに右斜め下へ振り切る。)」
(異形がまた金切り声を上げ、身体をガクガクと震わせる。羽が、その大きな体が震える度にぼたぼたと液体のように床にこぼれて消えて、崩壊していく。)
マベ「……………。(弾丸を打ち込んだときの体勢のまま、崩壊する異形の様子を見守っている。その両目から、真っ赤な血が幾筋も流れ落ちている)」
(大きな異形に見えていたモノの幻覚が全て溶け切ると、そこには赤い髪をした華奢な少女の体だけが横たわっていた。)
ゲラルト「(どんな表情をしていたかはよくわからないが、それをじっと見ていた。やがて刀についた血液を飛ばすように下に一度振ると、鞘に刀を納めた。)……。……大丈夫か?(いつもの無表情で、振り返った。)」
マベ「(徐々に赤雷が収まり、烈風が心地よい風へと変わっていく。少女の髪が風で揺れているのをじっと見つめていたが。)…………ああ。(血管が切れ白目が赤く染まり、頬も赤く濡らしているのを意に介さずそう短く答えた。)………、…………、…………。(なんとも言えない表情でじっとゲラルトを見つめる。)」
ゲラルト「(ベルトのあたりから包帯のような布を取り出し、片方の端を口で咥え、慣れた手つきで左腕に巻いていく。)どうした。今回の任務はこれで終わりでは無い。 これだけ派手にやれば中にも聞こえただろう。 ……急ぐぞ。(普段以上に素っ気ないような声で。)」
マベ「(無言でナイフをホルスターへと収めた。目元を拭うこともせず、ゲラルトを見ている。)…………やりきれない気持ちもあるだろうが。俺はあの時、隊長が生きててくれて嬉しかったぜ。(それだけ言って、黙って背を向けた。先に行けと、手で促す。)」
ゲラルト「…………?(ほんの少し首を傾げた。) ……そうか。そうだな。あの時死んでいたら、今日のこの瞬間が来ることもなかった。(上階へ繋がる階段を上がっていく。) ……意外と、悪い気はしなかったぞ。(何がとは言わない。ほんの少し、痛みの残る左手をさすってそのまま歩いて行った。)」
マベ「(返事が返ってくるとは思っていなかったらしく、少し驚いた顔になった。ゲラルトの後ろ姿を黙って見送る。)…………、…………ハッ。(俯き加減で息を吐いて、困ったような嬉しいような、そんな顔をして。)……馬鹿野郎。まだ大事な仕事が残ってンのにんなこと言われたら、ニヤついちまうだろうが。澄ました顔しやがって。(目を腕で拭うと、視界を確かめた。マベが去ると、残った甘い匂いを僅かな風がゆっくりと掻き消していった。)」