08.「建国祭」合流

(マベが人質とミラを救出し、ゲラルトがある重大な事実を知った、それから少し経った後。裏口から続くエントランスホールへと繋がる通路。明かりは最小限だが、光源の近くにいれば相手の顔はなんとか判る。)

マベ「………………。(コツ、コツ…と重い足音を響かせる。1対のみとなった得物を太腿から提げ、下から睨むような目つきで歩いている。目の充血は少し収まっているが、相変わらず色は悪い。)」

ゲラルト「(その先、少し俯き加減で立っている。足音のした方に少し顔を動かして。)……。」

マベ「よーォ隊長。無事だったか。(声色は普段とあまり変わらないが、全く顔が笑っていない。近くまで歩み寄り、そこで立ち止まった。)」

ゲラルト「お前の方こそ、 ……随分言ってくれていたな。全部聞いていたからな。(ようやく視線を向けた。)」

マベ「おう。(ハ、と口の端でだけ笑ってみせた。その笑みもすぐに消して。)…まずは反省会と行こうや。最初ッから、考えてみりゃ妙だったんだ。お前、気付いてたか?」

ミラ「(ひょこ、とマべの後ろから顔を出した。)……?(2人の空気が何だか妙な感じなのに気付いて、少し首を傾げた。)」

ゲラルト「……、……何の話だ。(ミラの姿が見えて、言いかけた言葉を飲み込んだ。)」

マベ「おかしいんだよ。大事な”商品”を逃さねえよう閉じ込めた部屋だけ、システム上でロック操作が不可能なんざ。俺とお前が潜入した先も警備はアホほど手薄で、そのくせ人質はわざわざ3部屋に分けて閉じ込めてやがった。
……ありゃ全部、こいつ(ミラ)をおびき寄せてとっ捕まえるための罠だ。どうだ?」

ゲラルト「概ね、間違いではないだろう。(その先の言葉を悩んでいる。)…ミラは特殊な力を持っているからだ。私がさっき始末した男がそう言っていた。」

マベ「当初の目的と、この子の危なっかしさに気を取られすぎたんじゃねえか?ゲラルト”隊長”。(聞いているのかいないのか、特殊な力という言葉には今のところ反応しない。)
…だが俺も、初めてミラに会ったとき、周りに怪しい連中がいたのには気づいてた。なのに奴さんの筋書き通りになりかけたのは、所管である俺の完全な落ち度だ。……申し訳なかったな。あんたの大事な知り合いを、危険な目に遭わせちまった。…………。(少し、考え込むような仕草を見せる。)」

ゲラルト「(少し目を細めた。)……お前がそういう風に言うとは意外だな。だがそれは私に謝ることではない。私の知り合いだから、ではないだろう。ミラは”隊長”の知り合いでも、”何か”の代わりでもない。一人の人間だ。」

マベ「ああ。わかってる。けど今の言葉、まるで自分に言い聞かせてるみてえに聞こえるが?(そう言い返し、少しの間があって。)………そろそろ話してくれねえか?お前が追いかけてるものと、ミラがそれにどう関わってんのかを。…もう喋ってもいいんだろ?」

ゲラルト「(ごく短く息を吐いた。)…特殊能力者を集め、研究に使っている組織だ。訳あってミラも同じ組織を追っている。それで、目的が同じもの同士、手を組んだというわけだ。(事実のみを淡々と説明した。)」

マベ「(ちら、とミラのほうを見た。)……”一年前の建国祭”。”カミラの子”。………どういう意味だ。一年前っていえば…………。(マベの汚れた瞳がどこか遠くを見るようにぼやけた。)」

ミラ「(その視線の先で、表情を歪めた。)」

ゲラルト「一年前の建国祭も私とミラで行動していたが、その時もミラは組織の人間に連れていかれた。私はその理由を正しく理解していなかったようだ。 ……マべ。これ以上の話は今ここでするべきでは…(じ、と見た。その目がもうやめろ、と言っている)」

ミラ「……いいよ、隊長。黙っててごめん。 アイツらの言う通り、私、カミラの子なの。一年前にも同じこと言われたよ、カミラの血だから価値があるんだって。(ぷい、とそっぽ向いて。その表情は読めない。)」

マベ「(ゲラルトの視線には突き刺すような雰囲気で視線をかち合わせていたが、ミラの言葉を聞き終えると、ふと息を吐き、顔を背けた。)……わかんねえな。カミラだのミラだのと。そこの当たり障りのない返事しかしねーヤローよりは要領を得たがな。(再びゲラルトを睨むように見ながら、目の前まで近づく。)………おいゲラルト。」

ゲラルト「(ミラがそれ以上のことを言わないのを見て、またため息をついて。)お前は本当に無神経だな……。 ……”カミラ”はその組織で中心的に動いていた人物だ。崇拝されていると言ってもいいほどの影響力を持っていた。私が、(視線を落として何か言いかけたがやめて。) ……何だ。」

マベ「(ぎり、と歯噛みするほどの苛立ちを隠さず睨みつけ。)無神経?ああ悪りィな、こちとらお前らだけが事情を知ってる中で人質背中にしょってワケわかんねえバケモンを一人で相手にしたとこでよォ。
いいか?俺は今、これ以上はねえってくらいブチギレてんだ。
お前に謝るチャンスをくれたのはミラだ。恩人って言ってもいい。そんなヤツを商品だのなんだの、物みてえに言いやがった連中を俺は許さねえ。だから俺にも事情を知った上で協力させてくれって言ってんだよ。わからねえか!?」

ゲラルト「そうだな、お前の言う通りだ。一部の事実を知らなかったとはいえ、お前に事情を話す必要があるという考えに至らなかったことは私の判断ミスだ。 ただ、ひとつだけお前の言い分に反論させてもらうが、(視線を上げた。あまりにも真っ直ぐな目。)……お前は、俺が怒りを覚えていないとでも思ってるのか?」

マベ「(その目を、見えていないずの目が見つめている。)…………何に対してだ。言ってみろよ。」

ゲラルト「さっき始末した男が言っていた。あの組織の信仰対象であった”小鳥”と、特別な存在だったカミラが死んだことで、ミラに順が回ってきたんだと。 ……小鳥とカミラを殺したのは私だ。私が起こした行動で今回の事態を招いたと言っても間違いではない。 ……そのことに対してだ。(睨みつけるような目は、怒りとも悲しみとも区別できない複雑な感情に満ちている。)」

ミラ「…………!(明らかに動揺した。紫色に擬態したその目の色が、赤と青の間を揺らぐ。”その事実”を知らなかったことがその様子からうかがえる。)」

マベ「(二人の様子を交互に見て、事の重大さに気付いたマベにも多少の動揺の色が見えた。大きく息を吐き、それを消す。)………そうか。(目を細めた。)俺の我儘で、あんたらを傷つけちまったな。………ミラ。お前、なんか言いたいことはねえか?俺に罵詈雑言ぶつけてくれたって構わねえが、………。(ちらとゲラルトを見て、黙った。)」

ミラ「(呼びかけられて、ビクッと肩がはねた。少し俯いて)あ、あのさ、全部私のせいじゃん?私が罠だって気付いてれば、私が”あいつ”との関係を話してれば、こんなことにはならなかった。それだけのことだよ。狙われても仕方ないよね、私、カミラの子だから。(なんとも言えない苦笑い。そこには悲痛ささえある。)話して自分が傷つきたくないからって黙ってたから、2人に迷惑かけちゃった。(早口で捲し立てた。2人に口を挟ませないようにしているみたいに。)……ごめんね。だからさ、もう言い合うのやめてよね。」

マベ「………お前も、俺も、ゲラルトも。今この場で同じことを思ってるよ。”自分のせいだ”ってな。俺が言えた義理じゃねえがな…。やめろよ、そんな顔すんのは。俺はカミラなんて女は知らねえ、お前はお前だろう?(怒りのような、悲しみのような表情になり。)
……言い合いじゃねえよ。隊長の胸の内が聞きたかっただけなんだが、まさかこんなことになるなんてな。…すまなかったな。(淡々と謝罪を口にすると、ゲラルトに向き直り)…………隊長。………やるんだろ?(敵を殲滅するのかという確認。)」

ミラ「(顔を上げ、いつもみたいに明るく笑って)えー、もー、やだなあ、謝んないでよ。2人とも悪くないんだし。 色々あって私の心の整理がつかないだけ。ほら、ね、早く仕事しに行……(ぼろ、と大粒の涙が零れた。) あー……、うー……、マべさんのばか……なんで今そういうこと言うのかなー……お前のせいだって言われた方が楽なのに……。」

ゲラルト「(マべを見て、長い長いため息をついた。)…お前な……、思ったことを何でも口にする癖をどうにかしろ……。 ……そうだな。予定外のことは起きたが、私達のやるべきことは変わらない。」

マベ「悪かったって思ってんなら素直に謝れっつったのはお前だろ?だから俺はゲラルトに謝ったんだぞ。(涙を見せたミラに少し困ったように首を傾げた。続くゲラルトの言葉にはジト目を見せて、)………隊長は思ったことをもうちょっとうまく口に出せ。そしたら考えてやるよ。(と悪しざまに言ったが、ふと真面目な顔になり)
………そうか。じゃ決まりだな。(そう言うと、ゲラルトの真正面にしっかり向き直った。ホルスターに残っている一対のナイフを引き抜き、ゲラルトへ見せるように構える。薄明かりで切っ先が鈍く光った。)」

ミラ「言ったけど…、私、しょーもないことですぐ謝るなとも言ったし……。あーほんとやだ、人前で泣いたの何年ぶりだろ……。(ぐしくしと雑に手の甲で涙を拭って。)」

ゲラルト「……私は人に含まれないのか?(ミラの言葉に少し首を傾げた。)ミラ、お前は先に外に出て隊員と一緒にいろ。なるべく1人になるな。……いいな?
(また、ふと視線を上げた。)随分上から物を言うんだな?……立場を弁えろ。間違ってもくそゲラルトとか言うな。(…)」

マベ「しょーもなくねえから謝ったんだよ、バカ。(一瞬ミラに顔を向けて笑ったが、すぐゲラルトに向き直った。)
…さあな。俺は口が悪いから。だがケジメはつけてやるぜ。
(二本の刃をゆっくりと掌から離した。地面に落ちた得物が硬い音を立てると、両膝を地面にゆっくりとつける。膝立ちになって両腕を垂らし、最後に頭を垂れた。いわゆる服従を示すポーズ。)
……今の謝罪ってわけじゃねえ。俺はあの夜、お前の背中を追うと心に決めた。お前の覚悟も怒りも悲しみも全部見届けて、お前を超えてやる。
これからは俺の手綱を預ける。何があってもついていく。……好きに使えよ、札付きの狂犬をよ。(頭が深く垂れているため表情は分かりづらいが、声色がその強い意志を伝えた。)」

ゲラルト「(静かにその前に立った。)今更なんだ? 私は元からそのつもりだ。お前の手綱は5年前からずっと私が握っている。(俯いたその顔の顎をぐいと片手で掴んで上を向かせようと。)……”お前”じゃないだろう。飼い主のことは何と呼ぶんだ?」

マベ「(やっぱそう言うか……と思っていたら顎を掴まれた。大した抵抗もせず、上を向かされた。反抗的な顔ではないが、生意気に見えるかもしれない。そんな表情。)……………”ゲラルト隊長”。」

ゲラルト「(顎を掴んだ左手の親指を口の端にぐいと押し付け、目を細めて。)……そうだ。それでいい。(ぱっと手を離した。)」

ミラ「男同士でイチャつくなって…………。(二人の横をすり抜けて歩いていく。後ろ姿で手を振って。)言われた通りちゃんと大人しく待ってるから。……早く帰ってきてね。(そのまま、エントランスホールのほうへ歩いて行った。1人になるなと言う忠告はあまり聞いていないようだ…)」

マベ「(手を離す直前、押し付けられた親指に噛みつくフリをして、ニィと口の端を歪めるようにして笑った。)……手綱はしっかり握っといてくれよ?隊長ォ。”提案”は要らねェ。犬が求めンのは”命令”だ。……ぶっ潰してやろうぜ、あのクソ野郎共をよ。」

ゲラルト「まだまだ躾が必要そうだな。 …私は命令をただ待つような犬は飼う気は無い。好きに暴れて見せろ、マベ。(ふ、と漏れた息はほんの少し笑った声のようにも聞こえた。行先へと歩みを進め、) ……あいつは話を聞いていたのか?しばらくは目の届くところに置いておくか…、」

マベ「言ったろ?”札付き”の”狂犬”だってな。(言いながら立ち上がるとナイフを広い、両手に持ったままゲラルトの後を追う。好きに暴れろと言われると目の色を変え)……ッハハ!楽しくなりそうだな!(心底楽しそうに笑った。)
ミラも聞かん坊だからなァ。俺はああいうの、嫌いじゃねえけど。」

ゲラルト「遊びに行くわけでは無いんだぞ……、私がそうと言った時は従え。ご主人様の命令は絶対だからな。(つられて口角があがったが、きっと気付かれてはいないだろう。 通路の先にある扉を開くと、暗い廊下には煌びやかな光が差し込む。ちょうど上階ではじまったオークションの賑やかな声が、その後に続く音を全て掻き消してしまった。)」