(イシスアセト建国祭。とあるオークション会場。)
(コツ、コツ、と高いヒールが床を打つ音。オレンジに近い茶髪に紫色の瞳、胸元の大きく開いたゴールドのミニドレスを身につけた女が歩いてくる。女は一度だけ意味ありげに笑った。)
ミラ「大丈夫?聞こえてるよね。 じゃ、今から行ってくるから。」
(会場内は着飾った人たちで溢れかえっていて、誰がどこに向かって歩いているのかもよく分からない。その片隅、閉ざされた扉の傍に会場の関係者らしき男が1人立っている。ミラの歩みはゆっくりとそちらへ向かう。)
ミラ「(にこ、と微笑んで、ドレスのウエストベルトから1枚のカードらしきものを取り出した。何も言わずに扉横の装置にそれをかざすと、ピ、と短い音がして扉の鍵が開いた。)」
「(何らかの表示を見たのだろう。急にミラの顔を見て)……関係者のカード?……見ない顔だな。 失礼ですがあなたは―――、」
ミラ「あら。(片手の指先を顎の当たりに寄せ、)女は抱く度に違う顔を見せるものよ。一日たりとて同じ顔をしている日はないの。……おわかりになって?(うふ、と笑った。)」
「……。(それ以上聞かなかった。扉を開け、通るように促すような仕草。)」
(ミラが上機嫌に笑った。扉をくぐると長い階段を降りる。その先には地下2階分を吹き抜けにした明るいエントランスホールが広がっている。ホールの両サイドには上階へ続く階段があり、上の階が賑わっている。)
ミラ「あー、しょうもな。我ながらしょうもない切り抜け方だったなぁ。(くすくすと笑って。) もしもーし。思ってるよりだいぶ広いよ。2階……っていうのかな、上の階が会場みたいだね。下の階は関係者の控えとかなのかな…。パッと見ではわかんないや。」
ゲラルト『…武装した人間はいるか?』
ミラ「あ、やっほー、Sのほう。(視線だけですっと全体を見渡して)いる。結構いる……、私の目でわかる範囲で10人くらいは。倍は居ると思った方がいいね。」
マベ『おい待てよミラ。Sの方って何だ』
ミラ「やっほー、MM。え?名前ださないほうがいいでしょ?だからあんたら今日はSとMね。 んー……と、人も多くてわかりにくいなぁ…。紙上では把握してきたつもりなんだけど。(歩きながら、きょろきょろと何かを探す。)」
マベ『最初にMふたつ重ねたのは俺のイニシャルか?まあいい。また会えて嬉しいぜ、デコ娘。(この状況下でいつもと変わらない声色。楽しそうである。)』
ミラ「……。(ごく小さく舌打ちした。さっきミラが「10人くらい」と数えたうちの1人の男に近づいて) ……こんばんは。パウダールームはどこかしら? あら、……うふふ、ごめんなさいね。(言いつつ、躓いたふりをして、そっと腕の当たりに触れた。お胸がむぎゅりとあたる…)」
「あ、えっと……、この通路をまっすぐ行った先ですよ。(ミラの(作り物の)お胸があたって、少し狼狽えた様子。特に振り払いはせず、視線が胸元に落ちたが……)」
ミラ「(少し目を閉じて、それからぱっと目を開け。)ご親切に、どうもありがとう。(ふっと離れて数歩歩いてから、一度振り返って思わせぶりに少し手を振った。) ……人質がいるのは下の階。今のじゃ正確な位置まではわからなかった。」
ゲラルト『おい、マベ。お前さっきから何笑ってるんだ……?不気味だからやめろ』
マベ『……え?あぁ、すいませんねェ。何でもないっす。………まあ、下だわな。金持ちのクソどもを喜ばすのに、会場の舞台に昇降装置をつけて人質を見世物にした奴らもいたからな。』
ミラ「さすが場数踏んでるだけあるねぇドMさん。 (目的の部屋につき、ドアを開ける。)わー金掛かってんなぁ……。さてと、あそこだな……。(近くにあった椅子を運んで、部屋の奥の方まで運ぶ。高いヒールのまま椅子にあがり、天井にある何かを触っている。)」
マベ『…………ドエム?(気になったのかそこだけ復唱した)』
ゲラルト『お前黙ってろ』
ミラ「(天井についている蓋のようなものが開いた。)よーしよし、じゃあ行ってこよっと。 おわ、狭いな……。(ダクトに入り込んでいる。音声越しにもガタガタと音がする。) 女性客ほとんどいなかったし、いても化粧直しもしなさそーな小汚いババアばっかりだったし、ちょうどよかったや。」
ゲラルト『……何の音だ?』
ミラ「ん?ダクト通って制御室入るの。アンタらにはできないでしょ?このために2kg痩せてきたんだから感謝してよね。」
マベ『ほう、やるじゃねえーか。んじゃご褒美はチョコレートバーだな(くっくっと笑った。)』
ミラ「(はあ、と大袈裟にため息をついて。)女子に棒状のモノ咥えさせるのやめてくんない? (隙間から下を見ている。)……。……(大きく息を吸って、吐いて。) あー、……ちょっと緊張する。」
マベ『(まだ笑っていたが、徐々に声を落とした。)………頼むぜ、ミラ。お前が頼りだ。』
ミラ「(少し意外だったのか、おめめぱちくりさせて。ちょっとむず痒そうに、むぐ、とくちびるを尖らせた。)……え?…うん。 行ってくる。(換気扇の蓋を音もなく開ける。縁に両手をかけて、そーっとぶら下がった。)」
(部屋には眼鏡をかけた男が1人座っていて、端末を広げて何か操作している様子。ミラに気づいていない様子だが――、)
(ミラが着地してヒールが床をトンと打った瞬間、男がはっと振り返ろうとした。が、バヂンと鋭く何が弾ける音と青白い光が空気中を伝って、男の首元を撃ち、どさりと床に崩れた。)
ミラ「……っあ……、ふうー……。こういう時だけ母親に感謝するわ……。(胸元から服に手を入れて、手錠を取りだした。男をつま先で転がし、後ろ手で縛って。)」
ゲラルト『……。(何も言わなかったが、明らかに眉間に皺寄ってる)』
ミラ「(男が触っていた端末に触れる。当たり前のようにパスワードを入力して)えーと、今、裏口のあたりにいるの?ロック解除したらすぐ入れる?」
マベ『……………隊長?(いいんだな?と。)』
ゲラルト『(はあ、と大きくため息をついた。)…ひとりの方がよほど気が楽だな。(全然違う返事…)』
ミラ「(画面を慣れた手つきで操作していき、)こうかな?あ、いけそう。 ……今空いたんじゃない?ふたりが抜けたら元に戻すからね。」
マベ『…………おい。ゲラルト。(ジトっとした声でもう一度呼んだ。)』
ゲラルト『…仕事中だ。口の利き方を弁えろ。(僅かに、扉を開けた音がした。)』
マベ『へーい…。(明らかに不満そうな声。)』
ミラ「仕事中に男二人でイチャつくのやめてよ。さあ、行ってらっしゃい、二人とも気をつけてね。(冗談を言いながらも、ほとんど瞬きもせずに情報を取っていく。) 捕まってる人たちの居場所もあった。送っとくから確認して。 ……。(普段へらへら笑っている時の表情とは全く違う、鋭い目つき。) 」
マベ『了解。助かったぜミラ。(とん、とん、と一定間隔で音がする。ウォーミングアップなのか軽くその場で跳ねている様子)』
ミラ「……。(一瞬ふと顔を上げた。顔を上げたからと言って、話しかけたその人の顔が見えるわけでもないのだが。)あーうん。仕事だから当たり前でしょ。 (また画面に視線を戻して)残念。捕まってる子たちのとこはここで制御してるわけじゃないみたい。暗証番号を直接入力するっぽい……。 私、そっち行くね。そこまでは付き合ったげる。」
ゲラルト『(屋内を歩いているらしい音が少し聞こえる。)……ミラ、くれぐれも無理はするなよ。』
マベ『………了解した。(少し声のトーンが下がった。)俺が人質の救出に向かう。』
ミラ「わかってますー。無理そうだったらアンタらでどうにかして。 (静かに席を立って。)うん、じゃあ自己責任の現地集合。私が先に着くかな? ……待ってるね。(ふふ、と漏らした笑い声は普段より随分大人びている。)」
マベ『こっちもお前がどこにいるかは把握できるようにしておく。けど、ヤバくなったら逃げろ。……隊長が出るってことはそういうことだ。甘く見るんじゃねえぞ。』
ミラ「はいはい。わかってるよ。隊長の仕事についてはアンタよりよく知ってるから。」
(ミラが床に転がった男の眼鏡を拾い上げる。入口へと歩き扉を開けると、その眼鏡を床に置いてドアに挟んだ。暗い部屋に、僅かに空いた隙間から外の光が一筋だけ入り込む。ミラの足音は遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。)