(ウライオス本部。ほとんどの隊員が帰り、緊急時のために残っている少人数の隊員も仮眠についている静かな本部内、ただひとつ明かりのついた部屋。)
ゲラルト「(その部屋の中で、黙々と山積みにされた書類に目を通している。)………。(読んでいた紙を机に伏せると、手袋をしたままの手を額にあててため息をついた。)」
マベ「(ドウ、という音と旋風とともに部屋の真ん中に突然現れた。コートの裾が激しくはためくほどの荒々しい魔術に、山積みの書類が宙を舞い、部屋中を飛び回る。)」
ゲラルト「(宙を舞う紙のその先で鋭く目を細めている。)……丁度、お前の報告書を読んでいたところだ。どこにあるかも最早わからんが。(いつもより低い声で喋るその様子は、どこか普段とは違う。)まあいい。書類を読むには適さない日だ。煩くてな……。 …どうした。」
マベ「………緊急事態だ、隊長。(眼鏡もかけず、臨戦態勢と言っても過言ではない険しい表情。ゆっくりと正面へ歩み、足を止める頃にようやく旋風も落ち着き始めた。)……新月の日、ミラは能力が使えなくなるんじゃねえ。別の力が顕現するんだ。」
ゲラルト「(鋭いその目が瞬きひとつせず、じっと目の前のその人を見つめた。)………、(何か発声しそうになったがそれを押し留めて。)………詳しく話せ。何があった。」
マベ「(濃い絵の具を塗り潰したような瞳で射抜くように鋭い視線をかち合わせた。)……新月の晩にあいつが見た夢が、近い未来に現実となる。…これまでには二度あった。一度目は”あの街”の教会の地下で、あいつが俺に自分の居場所を伝えたとき。二度目はつい最近、あいつが俺を呼んだとき。どちらもその前の新月の夜、あいつが眠っている間に口走った言葉と一言一句ピタリと一致してる。………。………お前、馬鹿馬鹿しいと思うか?」
ゲラルト「…………。(黙ってそれを聞いている。表情はほとんど変えない。)前に言っただろう、新月の日には思いがけないような事が起きると。それに他でもない、お前の言うことだ。確信があるんだろう。(ひらりと落ちてきた1枚の紙が二人の視線を遮りそうになるのを、指先で掴んでそっと机に伏せた。)……それで。何を言った。」
マベ「そうか。俺なんかより、あんたが一番理解している話だったな。(落ちてきた紙が視界から消える瞬間、僅かに目を細めた。)……”確信はしているが確証はない”。……ただ一つ、事実として、今までミラが見たのはすべて”あいつの身に災難が降りかかる夢”だということだけだ。………。………ミラが、………。(何を言ったかに答えかけて、唇の動きが止まった。)」
ゲラルト「その隊服に身を包んでここに現れた以上、お前は今ウライオスの一隊員だ。(その様子をじっと見続けたまま、急に短く息を吐いた。)…………マベ。感情に振り回されるな。私が知りたいのは、(トン、と紙を伏せたその指先が机を叩く。)……事実のみだ。」
マベ「(その指先の動きに瞳だけをくっと動かした。)………。………俺が聴き取れたのは”神域”と、……”わたし 死んだら”という言葉だ。(さらに一歩、ゲラルトのすぐ近くまで歩み寄った。)……ミラが殺される。相手は知らない女だと言っていたが……。……例の件について、あいつからの報告は?」
ゲラルト「……そうか。(返したのは、たったそれだけ。)例の人物の記憶に触れ、誰も訪れないような僻地の遺跡にいる”それらしい”女の姿を見たとのことだ。ほんの少し見ただけでそれが”神域”だと確信し、……近々、そこへ行くつもりだと。(す、と立ち上がった。)」
マベ「そこまで掴んでたか……あいつ……。(この前の出来事が脳裏をよぎり、そう呟いた。)……それだけは絶対に。絶対に止めなきゃならねえ。夢が現実になる前にだ。」
ゲラルト「(立ち上がった動作のまま隣に立った。部屋の扉の方を向いていて、二人の向く方向は真逆ではあるが。)ミラが殺される前に、そいつを殺す。例え相手が”神域”であってもだ。 ……マベ。これは命令ではない。お前が、悔いのない方を選べ。(視線が合わないままで、どんな表情をしているかはわからない。選択肢の答えを聞く代わりに、隣合った近い方の手のひらを軽く広げて、マベの胸の前に差し出した。)」
マベ「……あいつな。もう身体を売るような真似はしない、二度とやらないって俺に言ったんだ。俺の手が優しくて、他の男と違うのを知ったからって。俺の歪みに歪んだ視界すら受け入れて、嬉しいこと言ってくれたんだ…。……そんなイイ女、殺されてたまるか!!(その表情が大きく歪んだ。差し出された手を乾いた音がするほど叩くように掴み、強く握り締めた。)俺は覚悟を決めてここに来たんだ隊長……!!命令なんざなくても、俺はあんたと共に行く!!」
ゲラルト「それは、本人に言ってやれ。(真っ直ぐ行く先を見据えるように、ほんの少し俯くことさえない。)………未来を捻じ曲げるぞ、マベ。これは俺たちが”人として”すべきことだ。 ミラを死なせない……、その為に最善を尽くす。(握られた手を握り返し、珍しくゆっくり大きく頷いた。)」
マベ「生易しいことはしねえ…、(ゆっくりと手を離して振り返り、同じ方向を向いた。)殺すんだ……。未来を殺す。神域だろうがなんだろうが、喉笛噛み切って殺してやる!(その言葉に呼応するかのように室内の空気が変わった。再び旋風が力を強め、二人を包む。)」
ゲラルト「(目線も向けずに机に立て掛けていた刀を掴み、腰のベルトに差す。)…………行くぞ。(これから起こるであろう事を微塵も感じさせない、いつも通りの表情。冷たさを感じる瞳と声色で、少しも取り乱さずにそう言った直後、二人の姿は部屋から消え去っていた。風で舞い上がった書類が床に落ちる僅かな音がした後、明かりがついたままの部屋は静寂に包まれた。)」
(王都中心部から少し離れた、忘れ去られた古代遺跡。雲ひとつない澄み切った空は墨で塗りつぶしたように暗く静かで、風ひとつ吹かない。)
(上位の魔術師にしかわからない程僅かな魔力の乱れが生じた後、その中心部に黒いロングコートを着た男二人が現れ、一筋の風が巻き起こった。)
ゲラルト「(強い風に吹かれてロングコートの裾が大きく靡き、それに合わせて右脇に差した刀が揺れて硬い音を鳴らした。)……対象を目視で見つけるまで、私の傍を離れるな。気配がほぼ無いからな。(周りを少し気にするような素振りをした。珍しく、自分のこめかみと耳のあいだの辺りを触った。)」
マベ「(ゲラルトの隣で太腿のホルスターからナイフを一対、静かに引き抜いた。夜の闇に目を細め、眉間に深い皺を寄せる。)……建国祭での戦いを覚えてるか?あの時、俺の探知をすり抜けた敵に接近を許した…。今回は”本物”が相手だ。おまけに夜戦ときやがる。………、(ナイフを握る手の甲で目を擦った。)………お前の足を引っ張ることにならなきゃいいが……。」
ゲラルト「(投げかけられた言葉に視線を向けることもなくほとんど聞いていないような素振りだったが、言葉が途切れたところで僅かに首を横に振った。空中を指差すとその指先に光が集まり、やがてその光は浮遊して二人の行先を照らした。それに続くようにゆっくりと歩を進め先行する。)異様な空気だ。……歌が、……ほとんど聞こえない。(思いの外広い遺跡の内部に、警戒心をそのまま表すようなくぐもった足音が響く。)」
マベ「(背後を警戒するように少し後ろを歩いている。視覚以外の感覚神経を最大まで研ぎ澄まし、得物を握る手の皮膚ですら、空気の流れを読む一器官として機能させる。)………あの歌は、魔力バランスの均衡を保つために誰かが口ずさんでるんだろ。それが聴こえねえのは…、(その先を言いかけた時、張り巡らせた風に靡く微かな水音が鼓膜を揺らした。)………ゲラルト………、(横から声をかけ目配せすると、自分が先に立つために歩みを速めた。互いの距離は保ったまま、逸る気持ちを抑えながら歩を進める。)」
ゲラルト「この場所の影響か…? ただ、聞こえ方が違う時が無いわけでは無い。これまでに全く聞こえなかった夜も…………、(マベの行く方向に進路を変えてさらに歩いていくと、確かにぽたりと水滴の落ちる音が聞こえ、少し首を傾げた。)水、か?」
(2人の視線の先に、天井の高い、開けた空間が現れた。奥にはまだ通路が繋がっているように見える。空間の一部は水が張っていて、中から照らされるかのように水が青白く発光している。どこからか落ちる水滴がぽたりぽたりと音を鳴らすその水中にも遺跡は続いているが、水没してそうなったのか、或いは元から水中に作られたのかはわからない。)
(その水辺からほんの少し離れたところに、人型の影がひとつ”浮いている”。ほとんど気配のしないそれの目線がどこを見ているのかはわからない。)
マベ「ここ自体が影響してるってンなら、とんだ”掘り出し物”だな。(遺跡内を流れては跳ね返ってくる探知の風の感触に片目を細めた。)……人間の入り込んだ形跡がほとんど感じられねえ……。こんな場所、モノ好きの研究者どもにはうってつけだろうに……、………!(さらに奥へ進んでいくと、複数の水の音と開けた空間を感じ取り足取りを速めた。)………雨水が溜まっているのか……?視界が明るい……(ゲラルトの魔術以外の光源が視界をぼんやりと照らしたのに気づいたが、まだ人影には気付いていない。)」
ゲラルト「(開けた空間を見渡して、その先にある水辺の方へ目を向けた。発光する水辺を見た薄い色の目が眩しそうに細められた。)その理由が単にここが忘れ去られているというだけならいいが、(目を細めたまま、先に見える影を確認する。)……待て。何かいる。(ほぼ本能的に右手が鞘に触れた。)」
エリス「……まあまあ。こんばんは、”人間たち”。何しに来たの? ここは、お前たちのようなガキが来ていいところじゃ無いわよ。(浮遊する黒く長い杖の上に座った華奢な女性。ミントグリーンの長い長い髪を地面に垂らし、思いがけず現れた人間2人を見下すような目で見ている。)」
マベ「…………!!(ゲラルトの声に両手のナイフを握り締めた。続いて聞こえた女の声に、不愉快そうに片目を細める。)………”こいつ”か………、ミラの言っていた”神域”ってのは。」
エリス「神域、ねぇ。こっちの人間はそう呼ぶんだった?そーよ、私らは異世界側の生き残り。(目を細めてにやりと笑った。)」
ゲラルト「この場所に人が立ち入った気配が不自然なまでにないのは、お前が屠っているからだな。(挑発的な目を気にすることなく、普段の戦闘と全く変わらない様子で、いつも通り淡々と言葉を発する。)」
マベ「”異世界側”……?…………ッハ、(口の端を歪ませて短く笑い声を上げた。)本当に飽きの来ねェ人生だぜ。知らねえことばかり増えていきやがる……。(ざり、と一歩前へ出た。)ようネエチャン。若く見てくれンのはいいが、俺達ゃそれなりに大人でねぇ。今夜は年増相手にひとつ、イイモン見せてやろうと思って来たわけよ。」
エリス「ふん。図体ばっかりデカくたって、知らないことばっかりじゃガキと一緒よ。死際の断末魔でも見せてくれれば、無礼を許してやってもいいけど?(わざと肩を竦めて見せたかと思うと、急に睨みつけるような目線に変わった。)……私の質問に答えてないわよ。お前ら、何しに来たの。」
マベ「言ってくれんじゃねーの…。ま、その通りなんだけどよ。(まるで友達にでも話しかけているかのように、ナイフを持ったまま後頭部を掻いた。)…お前さんにとっちゃ”まだ”身に覚えのない罪なんだろうが、見逃すわけにはいかなくてな?(顔の前で刃を翻し、お返しと言わんばかりに、濃淡のはっきりしない瞳で鋭く睨みつけた。)……最強と最狂の死神から、未来のテメエに手向けの刃の贈り物だよ。逝く前にイイ声、聞かせてくれンだろうなァ?」
エリス「(ふ、ふ、と笑い声が漏れる。)どれだけ愚かで浅はかなの? うふふ、そうねえ!身に覚えのある罪なんて数え切れないほどあるわよ!!(笑い声とともにこの場を包んでいる空気が逆立つように蠢き、長い髪が生き物のように浮き上がる。)知ってるわよ、アンタたち。国王に飼われているペットでしょ?国を守るだの世界を守るだの、そういう正義を振り翳して理解できないものを爪弾きにするのだけは上手よね、人間って。だから、いっぱい殺してやったわ!ゴミみたいにね!!」
ゲラルト「(左手が柄を握り、音もなく刀を抜いた。そのまま、今ここで生きていることを最後に確かめるようにゆっくりと息を吸って吐く。)私たちが今夜刃を抜くのは、世界のためでも、国のためでもない。私たち自身のためだ。(遺跡の奥で光る水辺と同じような冷たい青の目が、真っ直ぐ”対象”を捉えた。)」
マベ「自分から地雷踏みに来やがったぜこの女。全部にツッコミ入れてやる暇はねえが、ひとつだけ答えといてやる。……雇い主は国王陛下だが俺の飼い主は、ーーー別のヤツだ。(双刃を構え、片足を一歩前に出し体勢を低くして身構える。この夜と同じ深い闇に覆われた瞳に一瞬、獣のような獰猛な光が宿り”獲物”を捉えた。)」
エリス「(ふと視線を落とした。笑い声が徐々に小さくなり、しんと静かになった。)誰が飼い主なんて心底どうだっていいわよ。どうせアンタらみたいな薄汚い犬がどこでの垂れ死のうと、誰も悲しみやしない。 ……この世で平等なのは、死だけよ。(2人の射抜くような視線をもろともせず、ふと正面を向いたその目は気怠げで溶けるよう。一度瞬きをする程の間に、2人の立つすぐ目の前に黄緑色に光る宝石のような鋭い刃が無数に出現し、その身体を貫こうと一斉に飛来する。)」
ゲラルト「……!(その発動を全く予想できず、目の前に出現したそれを視認した瞬間に動き出す。一瞬のうちにマベとエリスの間に移動していて、やや正確性の欠ける太刀筋でその刃を叩ききって壊すが、その全ては防ぎきれずいくつかが体をかすめ、血液が舞い散る。)……初手から随分手粗な真似をする。(が、怯むことなくすぐにエリスに向かって距離をつめ、甘い香りをまとった刀でその体を断ち切ろうと初手で振り切ったのと逆側に刀を振る。)」
マベ「(何か言葉を返しかけた瞬間空気の動きを察知したが、もうその瞬間には目の前にゲラルトが立ちはだかっていた。敵の攻撃を弾く硬い音と、肉の裂ける僅かな音に続いて甘い匂いがマベの感覚神経に響いた。)ーーーーッ!!!(二人の背後から生まれた風が、ゲラルトが壊し、その身体を掠めていった破片と刃を絡め取った。それらの切っ先が向きを変え、強い追い風とともにエリスへ向かって放たれる。ゲラルトの動作と太刀筋には一切の邪魔をせず、あらゆる方向からエリスに迫った。)……相当拗らせてやがるぜこのクソアマァ。俺のストライクゾーンに一切かからねーわ……!(自身の風に乗り加速。水没した遺跡を蹴って飛び越え、途中で高く跳躍する。エリスの背後を取り、頭上からナイフの連撃を叩き込もうと身を翻す。)」
エリス「(エリスが座っていた黒い杖が意志を持つかのようにその体の下から抜け出して、ゲラルトの刀を軽々と止める。自身は空中に浮いたまま微動だにしない。)アンタのストライクゾーンに入る女って、かわいそうねぇ?どうせ下品な女なんでしょうけど。(強い風に吹かれた”宝石”がパン、と弾けるような音と共に粉々に砕け散り、舞い上がって周囲に広がる。それは吸い込む度に身体の内側から蝕み、いずれ死を迎える”毒”。)……うふふ。いいわよ、おいで。(撒き散らした毒の一部が集結、増殖し、エリスの頭上に硬い石の壁を生成する。)」
ゲラルト「(いとも簡単に刀を止められたが、想定していたかのような反応。鍔迫り合いになる前に刃を滑らせて杖を跳ね上げ、嫌な金属音が静かな遺跡に響く。追撃をしようと刀を握り直した僅かな音がしたが、風に撒かれた毒を少し吸い込んだところで顔を顰めた。)……っ……(じわ、と身体の中に広がる嫌なものを感じる。刃先が新たに生成された石を割らないよう刀を振り下ろすのをやめ、軌道を変えて横から薙ぐ形に切り替えた。)」
マベ「……!!(エリス目掛けて降下中、宝石が意図的に破壊されその一部が眼下で壁を形成したことに気付き、それが何なのかを認識する前に本能的に転移魔術を行使した。エリスの背後に現れ、僅かに残った降下の勢いをナイフに乗せて大きく振りかぶる。)……ああ、下品かもしれねえなァ!俺の女だからよう!(ゲラルトと挟撃する形で一撃、二撃と打ち込もうと身体を捻り、)………だがテメェの一億万倍は愛嬌も可愛げもあるぜ、アバズレ!!(既に毒を吸い込んでいるにもかかわらず、平然と悪態をつきながらエリスの両肩に双刃を突き刺そうと地面を蹴って再び振りかぶる。)」
エリス「(マベが移動したのを確認すると、パキンと甲高い音を鳴らして生成された壁がまた粉塵となって周囲に飛び散る。自身は何の動作もなく軽々と浮き上がって2人の攻撃の軌道から外れてしまう。)やーねぇ、飼い主の躾が甘いわ。馬鹿犬飼って、楽しい?首輪絞めて殺してやった方がいっそ幸せよ。(そう言い切った時には毒はおさまり、その代わりに2人を取り囲むように光る石の刃が生成されている。それが視認できる頃には刃は2人めがけて加速している。)」
ゲラルト「…マ、(その一瞬の間に判断を迫られ、呼びかけた名も中途半端にしたまま正面にいるその人へ向かって飛び出すと胴体を片腕で乱雑に抱えた。あたりに漂う血液の匂いが急にその濃さを増し、飛び出した勢いのまま石の刃を魔力の壁で打ち壊しながらすり抜ける。そのまま自分が下になり、背中から地面に着地した。)…、(ほんの僅か舌打ちしたような音。その体勢のまま”不可視の”魔力が唸るような音を立て、浮遊するエリスを天井に叩きつけようと足元から押し上げる。)」
マベ「な、……!!!(全ては躱しきれないタイミングで魔術を行使する直前、飛び出してきたその人に抱えられ、攻撃の最中をすり抜けた。そのまま体勢が崩れ、どさりという重い音とともに着地する。)………………ッ!(甘い匂いに包まれる中で毒と血が身体を這う感覚を覚え始め、状況と相まって苦々しい表情を向けた。)………”捨て置け”ゲラルト。あんな奴の挑発に乗るな…!代わりに俺が乗ってやる。囮に使え!」
エリス「(魔力が動いたのを察知して目を見張り、浮遊したまま水平移動を試みる。しかしその影響は想像していたより広範囲に及び、体制を大きく崩されたところで、その姿が光の粒となって消えた。)……ふん。少しはやるじゃない。(やや間が空いて、随分遠くの方から声が聞こえた。)」
ゲラルト「(マベの身体を押して起こし、自身も上体を起こした。)…私にはそんなものほぼ耳に入っていない。 あの攻撃はほぼ全く感知不能だ。それにこの、(そこまで言ったところで咳き込んで、思わず右手で口元を抑えた。表情は相変わらずほとんど変えないが、甘い香りが強くなっていくことからゲラルトの焦りが感じられる。)今はまだ、手数を増やして応戦する他に方法がない。それには、……お前が必要だ。(口元に手をやった動作のまま右手の手袋を口で噛んでやや乱暴に手を引き抜くと、その手は既に血でべたべたに汚れきっている。鋭い目線もそのままに無言で、手を顔前に差し出す。)」
マベ「(身体を後ろにずらし片膝をついた。)違う!捨て置けと言ったのは俺自身のことだ!………っ、………。(咳き込み焦りを見せるゲラルトの姿と、それを明確とする強くなった芳香に二の句が継げなかった。急速に呼吸がし辛くなるのを感じ、思わず胸のドッグタグを握り締めた。)………クソッ!せめて、…………!!(せめて目が見えたら。そう言いかけて、何かを差し出された。嗅覚を鋭く刺激する甘い香りに何かを思い出してハッとする。)………、………。(片膝をついたままその血塗れの手に両の手で触れ、ぐっと掴んだ。)………すまねえな………。(その手に舌を這わせた。表情がわからないほど上体を深く屈め、渇きを覚えた犬が水を飲むようにびちゃりと音を立てる。周囲の空気がうねるように流れ始め、赤黒いスパークが幾度も空気中を駆け抜けた。ドウ!と低く唸るような暴風が二人を包むように発生し、瓦礫を吹き飛ばし、水辺が大きく逆立って波を作った。)」
ゲラルト「お前の言葉は理解している。理解した上で……、だから謝るな。(手を染め上げていた血液を舐め取るのを見た後、すぐに対象の姿を目で追い、それがまだ遠くにいるのを確認した。)末端の感覚が痺れている。お前が私の手に舌を這わせているのもほとんどわからないが、……わからなくて丁度良かったかもしれないな。(冗談を言うように肩を少しすくめて見せた。)」
エリス「ちょっと。男同士で気持ち悪いことしないでくれる?見てるこっちが不愉快よ。(目を細めて2人を睨みつける。)知ってるわ。……お前たちには”これ”が感知できないんでしょう?(口元に手をあてていかにも妖しげに笑う。弾けた光がエリスの周辺に集まってまるでオーロラのように空中を波打つ。)……そっちの犬は目も見えてないのねぇ。威勢だけはいいけど、並の人より劣ってんじゃない。」
ゲラルト「そうだな。だが、それはつまり……お前もまた、私たちの術がどういうものか理解できないということだ。(右手を預けたまま、左手が刀を握り直す。痺れて加減の効かない手が不必要に強く握られ、ぎり、と皮の手袋が擦れる音がハッキリと聞こえた。)…見くびってくれるな。私たちは伊達に陣無しの魔術師と呼ばれていない。お前らの”魔法”とは違う我々の魔術が、……お前にとっての”神域”が、どういうものか見せてやる。(予備動作なし。マベの起こした暴風に乗せてゲラルトの起こした魔力の衝撃波がエリスを押し潰そうと押し寄せる。)」
マベ「(手に付着したほとんどの血液を舐め取り、喉を鳴らした。は…、と震える息を漏らす。)…俺はまだ大丈夫だ……だが、感覚が少しずつ鈍ってッてる……。あの女の毒か……、たっぷりお礼参りしてやンなきゃなァ隊長……っ…!!(俯いたままの上体がぶるぶると震えだした。)……ぐ、…………ううう、ッぐゥゥあァっ……!!!(呻きながら仰け反り、オーバードーズによって充血し血管が浮き出た両眼を見開いて苦しそうに胸を掻きむしった。暴風と放電の中、空を掴むように悶えながら大きく息を吸った。)
………お、おおお………!!お゛おおおおおぁぁァアアアアッ……!!!!!(絶叫しながら対魔力解放術式が発動する。マベを取り巻く空気の流れが一瞬変わった、それだけで終わるはずが、荒々しい旋風が白銀の光の粒子とともに新たに巻き起こった。光の旋風はその身に纏う風となり、その髪を、隊服を激しくはためかせる。徐々に拒絶反応が収まり、自らを包む風の中で呆然と立ち尽くす。)」
エリス「チッ……、(再び光を撒き散らしその姿が一瞬消え、不可視の魔力をすり抜け前方に転移しようとするが、あまりの衝撃の強さに光がゆらぎ再出現するのに少し時間を要した。)何が神域よ、人間のくせに生意気言うわね。(すり抜けた先にゲラルトが現れることを予測。予測到達地点を中心とした範囲に光の粒が再結晶化して矢の雨のように降り注ぐ。自身はその場に留まり黒い杖を体の前に引き寄せた。)」
ゲラルト「……見くびるなと言ったはずだ。(マベの起こした旋風に乗ったその身は、一瞬のうちにエリスが予測した地点より遙か前に到達している。両手持ちに握り直した刀を一度斜め下に軽く振った後、地を蹴って強引にその身を捻り、横回転しながら力任せに刀を振り抜く。掠めた矢が血液を散らし甘い香りが舞うが、全く気にもとめていない。)」
マベ「(感覚を確かめるように、拳を握っては離すのを繰り返す。コートの裾を手繰り寄せると、音を立てて裏地を引き裂いた。引きちぎった布を折り、閉じた両目に当てるとそれを後頭部へと回し、固く縛って完全に視界を遮断した。)
(地に両手をつけたような格好のまま、ふっとその姿が消えた。次の瞬間にはエリスの後方から先程とは比べ物にならないスピードで迫り、翻したナイフをその首の裏に突き立てようと振りかざす。)」
エリス「(引き寄せた黒い杖が、エリスの体のすぐ傍に迫ったゲラルトの黒い刀と真逆の方向からぶつかり合い、大きな音を立てた。その勢いを止めると杖はどろりと溶けて形を失い、向きを変えて再形成しゲラルトの喉元を突き刺そうと迫る。)……ふーん、なるほどねぇ。(決して地面につかないエリスの長いひきずるような髪が、単独で意思を持つような動きで背後から迫るナイフを持った手首を絞めあげよて乱暴に地面に叩きつけようとする。)さっさと内側から殺すのがいいって事ね。(成功の如何に関わらず、避けようがないほど大量の毒を撒き散らし、その中でニンマリと笑っている。)」
マベ「……テメエら神域ってェのはよ。性格の悪さでどんな力が使えンのかが決まんのか?(髪が手首を締め上げると一瞬嫌そうに眉間に皺を寄せた。絞め上げられた手でぐっと長い毛束を掴み自分のほうへ引っ張ると、自身の後ろから鋭い刃のような風を発生させエリスへ放った。その軌道上に髪を固定し、斬り裂いてしまおうと。)……隊長!!こいつからできるだけ離れろ!!まともに喰らっちまうぞ!!(背後からの風の刃とは別に、赤雷混じりの暴風の壁をゲラルトとエリスとの間に発生させ杖の攻撃と毒の追撃を弱めようとする。自らは覚悟を決めて身を翻し、さらに複数の見えない風の刃を発生させると、白銀の粒子の風を纏った姿でエリスへ突っ込んで行く。)」
ゲラルト「(止められた刀の感触を確かめ、その青い目がじっとエリスの目を見つめた。マベの起こした風で毒の影響は最小限ですんだものの、杖の再形成はあまりにも早く避けようがない。視認できた瞬間に顔を大きく背けたが、首元をざくりと切られて白いシャツが一瞬で赤く染っていく。)……お前の指示は受けない。(魔力でブーストをかけ、鍔にかかった杖を弾き返し、身を翻して一旦距離を取る。)」
エリス「だからぁ、その呼び方はこっちの人間が勝手にしてるだけ。(毛束を引っ張られても、重量も質量もまるで無視したように微動だにしない。)私たちは”賢女”。私はねぇ、(対象を捉えずその場に浮いたままになっていたおびただしい数の光る石の矢がいつの間にか全てマベの方へ向いている。何の前触れもなく加速したそれが風の刃に触れると風が溶けるように消え去っていく。)森羅万象、全てに死を与えるのよ。(風さえ殺すその矢が”自らの毛先を切って”その手を離させると、不規則に軌道を変え、一斉にマベを迎え撃つ。)」
マベ「(一斉に石の矢が動き始め、風が打ち消されたのを聴覚と空気の流れを感じる触覚が捉えた。口の端を吊り上げてにやりと笑ってみせて。)………目隠しして正解だったぜ。そのバカ面マトモに見ちまって、どこが賢女だ!!…って”バカ笑いが止まらなくなって死ぬ”とこだったぜ!!
(布の奥で目を細めると、赤黒く放電する小さな風の弾丸が無数に放たれた。着弾すれば皮膚を抉り電撃が加わる代物だが、自らもナイフを手に飛び込んでいく。視覚を封じ残った感覚を駆使して空を蹴り矢を避けていくが、その一つが脚を掠め後方にパッと血が舞った。)…………ッ!!(バランスを崩したところへ次々と追撃が入り、四肢と胴、頭部に被弾しエリスのすぐ目の前に滑り込むようにして倒れ伏した。ナイフを握り締めたまま伸ばされた手の甲には、中が見えるほどの切り傷が刻まれている。)」
エリス「私にはアンタの馬鹿面、よーく見えてるわよ?(髪先に緑色の光が集まり、一瞬にして髪は元の長さに戻った。大量に吐き出され漂っていた毒が浮き上がりパキパキという音を鳴らすが、音同士が重なりあってどこが発生源なのかわからない。)恩を仇で返す。……お前らの得意なやつよね? ほら、せめて飼い主に謝れば? 不出来な犬でごめんなさい、ってねぇ!!(気付けばマベが作り出した風の弾丸の比にならないほどの数の小さな石が生成されていて、一斉に2人を目掛けて放たれる。)舐めてんじゃないわよ!!”薄過ぎる”!!!!」
ゲラルト「(発生源のわからないその音が聞こえた瞬間、一度大きく息を吸いこむ。その音の傍ら、ギチ、と空間が歪むような音が一度だけした。)…っ、(息を吐くと、手袋をしていない右手をぐっと握り込む。同時、場にある見えない魔力が一斉に動き出す。それはいつか本部の窓を一斉に割った時のように、エリスが生成した大量の石が放たれた直後にそれらをぶち壊していく。壊された石は光の粒に戻ることなく跡形もなく消え去ったが、)…は、……っ…(苦しそうに息を吐いた後、激しく咳き込む。再生成される前に、魔術的干渉ができなくなる前に、大量の”理解不能な”魔力を大量に取り込んだらしいことが窺い知れる。)」
マベ「(空間の全方位からエリスに向かって烈風が吹き荒れた。その力は水没していた遺跡が大きく波打ち、濡れた部分を露出するほど荒々しく激しい。)ーーーーーーーテメェこそ舐めてるヒマがあったら、そのよォく動く口で”しゃぶってみろ”よ。本当に薄いかどうか、まだわかンねえだろ……?(倒れ伏したままくぐもった、しかしはっきりとした声でエリスを挑発した。光る白銀の粒子の風がマベの身体から巻き上がり、骨まで見えていた手の甲の傷がみるみるうちに塞がっていく。その手の指がぐっと握り締められ、立ち上がった。光る風がその身を包み、他の傷も次々と塞がっていく。そんな中ゲラルトの激しく咳き込む声にぴくりと反応し、その表情が怒りに塗り潰されていく。)
…………おれの飼い主と、随分よろしくヤってくれたじゃねえか。俺んとこの部隊長ォ、随分苦しませてくれたじゃねえか!!!(ゲラルトに向かって手を突き出すと、マベの纏うものと同じ光の風が足元から発生し、その身体を包み込む。体内を蝕む毒が浄化されていき、同様に今まで受けた傷が縫合されるかのように消えていく。削られていた体力もゆっくりとだが戻る感覚を覚えるだろう。)」
ゲラルト「(今夜どこにも見えないはずの月光を思わせるようなその光にはっと顔を上げる。魔力の流れや人の起こす術式に人一倍鋭感なゲラルトが、初めて見るその術式にこの場の誰より一番驚きの表情を浮かべている。)……!?(見る見るうちに傷が塞がり、出血が収まったのことで普段の落ち着きを取り戻していく。)……お前、それは……」
エリス「……。(どこか生きた感じのしない目が、この場の全てを帳消しにしたゲラルトの目をじっと見た。)何をどういう風にしゃぶれって?具体的に言ってみなさいよ、その下品なお口でね!!(肩に掛かる髪を肩手の甲でスっと梳いて後ろにやると、その動作に合わせるように緑色に燃え盛る炎が弧を描いて拡がるように2人に接近する。火は床を濡らしていた青白い水をあっという間に蒸発させ、遺跡の中は嫌な湿気に包まれていく。髪を梳いた手が空中を指さす。どこからかまた石の生成される音だけが聞こえる。)」
マベ「(ゲラルトのほうを見もせずに肩で息をしている。)……やっと……”半分”組めたぜ…。予備動作アリアリの隙だらけ、”陣無しの魔術師”にゃァ有り得ない、荒削りもイイとこだが…、…ハッ…、5年間お前を倒すためだけにたった一人で組み上げてきた”対魔力解放用術式”が、まさかこんなことになるとはなァ……!(乱暴に目隠しを外して地面に打ち捨て、片目を細めて笑った。)…いいか?絶対死ぬなよ?おれが、(その口の端が醜く歪む。)…………殺すまで死ぬな。
(空間を支配していた烈風がすべてマベの身体に吸い込まれるように一旦収束した。次の瞬間、触れれば切り裂かれるような鋭い赤黒い風が、同色の雷とともにマベの周りに発現する。白銀の粒子も伴い、本人の肉体からも小さな黒いスパークが幾重にも放たれるほどの魔力量。)言う前にソッチ行って咥えさせてやるよ。……そらッ、まずはこっちィ喰らいな!!!(低い声。熱気とともに赤黒い風が網の目状にエリスのいる方向、広範囲に放たれた。空気中の熱を我が物とした鎌鼬であり、触れれば冷たく、切り裂かれる。)」
エリス「あーら、赤黒くて熱くって、とーってもおいしそうよぉ?(ぱくりと口を開けてから噛み切るような仕草をした。)あんたの魔術、荒いわ。よくこんなので今まで生きてこれたわね。(自身の放った炎が行き過ぎ実態を失ったその先、大人の男が避けて通ることを許さない程の密度、360度どこにも逃げ場も行き先もなく空間を埋め尽くす程の、おびただしい数の小さな光る刃が生成されている。その一部がぞわりと動き出しマベの起こした鎌鼬に触れてその風を溶かしていく。それでも余りあるほどに浮遊する刃が規則性なく動きはじめ、2人の全身を回復が追いつかない程に切り裂こうと飛来する。)」
ゲラルト「……支援しろ、お前は前に出るな!(言いきるより先に既に地を蹴って前に飛び出している。軌道が全く予想できない刃を避けること無く全身にうけ切り傷を負いながら甘い血液の匂いを漂わせるが、それは同時にマベの術式で塞がっていく。力の戻った両の手のひらで刀を握り横に流した。)……奇妙な感覚だ……、(次の瞬間にはエリスのすぐ斜め前に移動していて、その軌道上にあった刃は叩き切られて光の粒に変わっている。接近した先で大きく刀を振りかぶって、エリスめがけて振り下ろす。)」
エリス「(小さな刃が集まって横一文字に構えられた大太刀のように生成され直した。ゲラルトの刀とぶつかりあった時、金属同士がかち合うような音とひび割れの音が同時にして、エリスの魔法が碎けそうになる。)………。(少し不機嫌そうな顔をしたが、直後には別の光の太刀が生成され、僅かな風切り音と共にゲラルトの身体を横から薙ぐようにひとりでに動いた。一連の動作でゲラルトの周辺にあった小さな刃の密度が他に比べると薄くなっている。)」
ゲラルト「(ぶつかりあった互いの刃に体重をかけて地を蹴って飛び上がると同時、魔力消費しながら体を捻って地面に対してほぼ水平状態で横から迫る刃をスレスレで避け、その動きのまま自らの刀で横薙ぎをし返す。)……なるほど。(エリスの魔法の密度の薄くなった僅かな隙間に片膝をついて着地、間髪入れず繰り出されるであろう攻撃に向けて体制を整える。)」
マベ「……人のこと言えねーな。力でゴリ押ししやがるだけの下品なヤり方じゃねえか。賢女サマが聞いて呆れるぜェバカ女。(夥しい数の極小の刃には目もくれず。噛み切るような口の動きに不愉快そうに唾を吐き捨てた。)……おめェ、”処女”だろ。男ォ知らねえ女が大人ぶって振る舞うんじゃねえよ。興が冷めるぜ。……………!!!(ゲラルトが自分へ発した言葉に目を見開き、不愉快を怒りの感情へ変えてギリリと歯噛みした。だが身体は素早く行動へと移り、エリスの足元めがけて不可視の風の刃を、頭上からは叩きつけるような空気の壁を発動させ、動きを封じようと。)
(そして不規則に飛来する刃を”全て自分の方へ誘うように”、自らに向かって強烈な風を起こした。)………”支援”!?……狂犬への命令が支援だと…!?ナメてくれるなよ隊長…!!俺だってヤれる!!(迫りくる刃を体術で躱しながらも被弾し全身が血みどろに染まっていくが、白銀の粒子が発光し傷を塞いでいく。不満を露わに叫び、身体に纏う赤黒い風がその威力を少し増したように見えた。)」
エリス「股の棒を女にアソコに突っ込んで子作りごっこしてれば大人?ふふっ……笑えるわね!!!!(付近に浮いていた杖を掴んで乱雑に振り上げると重力を無視したような速さで浮き上がり、ゲラルトの刀を避けると共に空気の壁へ杖を突き立て、硝子が弾け飛ぶような音ともに術式を壊す。その魔力量に見合う大量の毒の粒子が舞飛ぶ。)アンタ、親になったこともないし子の成長を見守ったこともないでしょ。その愛しさも知らない男が……大人ぶってんじゃないわよ?(風に吸い寄せられているように見える刃は一旦無視して、緑の炎をまとった杖を振り下ろし、見えているよりも圧倒的に長いリーチで、そう遠くない距離にいるゲラルトを殴り切り付ける。 と同時、被弾せず過ぎた刃が急にマベの方へ向きを変え、再度その全身を切り裂こうと向かってくる。)」
ゲラルト「(エリスが”手にした”杖が振り下ろされた瞬間その動きを正確に捉えて刀で止めたが、今までに聞いたこともないくらい激しい音がして、その衝撃の強さに思わず表情をほんの少し歪めた。並大抵の獲物ではそれが止められなかったであろうことは確実で、ゲラルトの力をもってしても魔力ブーストがなければ、或いは片膝をついていなければ受け止めきれなかったのではないかと思わせるほどの攻撃。)……お前らもう黙れ……、舌噛み切って死んでも知らんからな……(エリスの杖が纏う炎が刀を持つ手を焼こうと揺らめくのを見て、自らの体内に周囲の魔力を取り込んでから全身を使って杖を押し返すと、魔力を前方へ衝撃波として出現させその反動で自らは後方へと移動。大量に取り込んだ毒の解除が優先されているのか、全身の傷が塞がらない。)」
マベ「(血みどろで踊るように躱し続け、斬り裂かれた隊服や肉が汚れた花弁のように飛び散る。それでも”顔を”エリスとゲラルトのほうへ向けて杖の実質的なリーチを認め片目を細めた。)……ああ、無ェな。故郷の村でガキのお守りはしてたけどなァ。だが、(ニィと凶悪な笑みを浮かべ)心から愛した女の”良さ”は知ってンぜェェ!!!ありゃイイもんだ…!!あいつが、あいつが俺にくれたもんに報いることができるならおれは、ッーーー(言いかけて、背後からの刃が全身を貫いた。空中で力が抜け、地面に崩れ堕ちるところでなんとか踏み止まった。俯いたまま咳き込み、ぼたぼたと赤黒い血液が落ちて血を汚す。)…………っ、ゲラルトぉぉぉ。まだか…?まだお預けなのか…?知ってるだろ焦らされるのが嫌いだって……もう一太刀だって我慢できねぇよぉぉ……(ク、クッとその身を揺らして笑った。)」
エリス「(ふと目を細めて笑ったような、微妙な表情をした。)まあね、ガキにしては悪くないわよ。あと千年くらい生きたらマシになるんじゃない?(ゆっくりと首を傾げた。咳き込み血液を流すマベを追い詰めようと光の粒が浮き上がる。前方を取り囲むように大人の腕ほどもある鋭い杭状のものが形成された直後、串刺しにしようとそれぞれが少しずつ時間をズラして動き出す。)」
ゲラルト「(杭が形成される前に体が動く。焦って浅く踏み込んでしまった右脚が僅かに地面を滑って靴底をする音がしたが、それでも以前本部で見せたような空間を飛ばした移動を見せ、マベと杭の間に割って入る。)……っ、(睨みつけるような目が瞬きもせず、時間差で飛んでくる杭の到達するタイミングを正確に捉え、刀を順序よく左右に3度振り抜いてその全てを砕く。)少しずつ慣れてきた……、発動はわからないが僅かに魔力の流れが見える。お前は不利だ。無理をせず解毒に――――、……。(すぐ後ろにいるマベの喋り方が、様子が、いつもと違う。しかし、敵から視線を逸らすわけにはいかず、正面を向いたままで。)……お前、様子が……、」
マベ「(不意にゲラルトの隣にゆらりと現れた。深く俯いた横顔から表情はまったくわからない。白銀の光の粒が裂傷を癒やすその上を、黒い風と赤黒い放電が血管のように這いずり回って覆っていく。不気味なほどゆったりした動作でコツ、コツ、と靴音を立てて二人の間に割って入り足を止めた。)……おかしいんだ、ゲラルト……。あの時と同じなんだ。俺を、何かが乗っ取って……、術式は展開させ(動作にそぐわない焦った声でそこまで言いかけて、急にがくりと頭を垂れた。そのまま四つん這いになると、突然黒い風がぶわっと広がり赤黒いスパークが激しく明滅した。)
もう待てねえよ。あれはおれがもらう。
(低い唸るような声で言い終わる頃には、もうエリス目掛けて飛び出していた。黒い風を纏った手足で地を蹴り、眩しいほど放電する赤黒い雷を湛えた拳でエリスに殴りかかるように飛び込んで行く。)」
ゲラルト「(敵から視線を逸らさずにいたが、隣を通り過ぎていくその姿の異様さに思わず顔を向けた。)話を聞いているのか?お前はあれを視認も感知も……、(言い終わる前にマベの声色と口調が狂ったのを見て、何が起きたか凡そ察した。)マベ!!己を制御しろ!!(次にエリスが取るであろう行動を見越し、真っ直ぐ険しい表情で対象を見た。左手に持った刀は斜め下におろしたまま、血塗れの右手の甲が無意識に自らの口元に触れると、周囲の魔力が蠢くような生温い独特の感覚と甘い匂いが広がった。)」
エリス「あら。狂ったわね? うふふ、可愛らしいとこあるんじゃない!(手に持った黒い杖を軽く振り、殴り掛かるその拳を迎え撃つ。軽い動作からは全く想像もできない威力をもつそれは、熱を帯びたまま、ぐらりと周りの景色を揺らす。)私はアンタになんか貰われてあげないけど?!(同時にゲラルトが壊して散った大量の粒子が風に舞い、発動原理のわからない謎の力で一瞬のうちにマベの背中側に最結晶化されている。)」
マベ「……喧しい。黙ってろよ飼い主。(獣のような動きをしながら低く唸るような声色で。風と雷を纏った拳の攻撃範囲は異常なほど広く、周囲の空気ごと地面に叩きつけるような圧力がかかっている。杖を叩き落とさんばかりにぶつかったその手首から嫌な音がしたが、二人を包むほどの電撃が杖を伝わりバチバチと空気を震わせた。)……勘違いすンなよバカ女ァ……!テメエはただの獲物だ!!オマエは女としても術者としても、”俺の”をピクリともさせられねえんだよ!!意味わかるか!?男にも負けるくれえのアウトオブアウトなんだよぉぉ!!!っあははははははは!!!(一度振り下ろした拳は手首の骨が折れだらりと垂れ下がったが、瞬時に再生が始まっていく。骨が砕けようが熱に皮膚が爛れようが意に介さず、自己再生する間も残った手と足を駆使して、重い一撃を何度も叩き込んでいく。自身の周囲の異変など、まったく目に入っていない。)」
ゲラルト「お前は……、(大きくため息をついたその吐息が手の甲にかかり指先だけが僅かに動く。大量に吸い込んだ毒の影響を受けてまだ塞がり切らない傷口からぽたりと地面に落ちると同時、エリスの光の粒子が動くのを察知。激しく交戦するマベの頭上に淡い光が無数に現れる。エリスが結晶化した魔力が放たれたほんの少し後に、それらが光の残像を残しながら結晶のほとんどを上から撃ち落としていく。)飼い主の命令が聞けない駄犬には成り下がるなよ……!?」
エリス「(少し不機嫌そうな顔をして杖から手を離したが、独立した意志を持つ物体のようにそこに留まる。) いいわねぇ!血に飢える狂戦士、理解されない者たちの馬鹿騒ぎよ!(マベが攻撃を繰り出す度にその軌道に魔力で石の塊を生成して防いでいくが、その重い一撃が入る度に光の粒を撒き散らして砕け散っていく。)知ってるわよぉ、アンタが好きなのは、あそこにいる”ゲラルト”なんでしょ?(ゲラルトを指さすと、ゲラルトの頭上に石の塊が生成されて落ちてくる。)」
マベ「お前こそ狂った犬一匹マトモに使いこなせないような三流の飼い主に成り下がるんじゃねェぞゲラルトおおおおお!!”俺”はお前だから”おれ”の手綱を握らせたんだ!!他でもないお前だからだ!!!(自身を援護する魔術を認めるとぎり、と怒りに満ち溢れた顔で歯噛みした。)飼い犬を護るんじゃねえッ!!殺せ!!未来を殺せっ!!!こおおおぉぉろぉぉぉおおせ、(エリスの声にハッとして絶叫を止めそっちに振り向いた。その言葉に攻撃を叩き込みながら耳を傾けていたが、顔を歪ませ侮蔑の眼差しを向けた。)
……………うゥゥゥるせええェェえええええッ!!!理解されないィ!?それはテメエがか!?もっとハッキリ言えやこのメスガキがあああああああッ!!(怒りに支配され、祈るように組んだ両手を振り下ろして石の塊を叩き壊した。エリスがゲラルトを指差したのとほぼ同時に、狼が離れた岩山へ跳び移るように追い風を纏い跳躍する。落下してくる石に体当たりして破壊できれば再び空を蹴ってエリスのほうへ突進する算段。)」
ゲラルト「(チ、と小さく舌打ちして、眉間に深い皺を寄せた。)感情に飲まれるな…! 怒りに狂わされている間は、お前は弱いままだ。(石に体当りをしてそれを砕いたマベの腕を掴んで引き寄せて乱暴に投げ捨て、敵への接近を許さない。その代わりに自らが粉々に砕け散った破片の中から飛び出すようへ前へ進み出る。)お前が前線に立つと相手の思い通りの、(流れるような動作で刀を斜め上に振り上げ、右手を添えてそのまま斜め下へと振り抜く。空を斬る音さえしないその一撃が、刀身が揺らめいて見えるほど集めた魔力を一直線に飛ばし、ゲラルトからエリスの間にある事象全てを切り裂いて進む。が、ほぼ同時、ゲラルトがはっと目を見開く。)」
エリス「(ゲラルトが粉塵を超えたその向こうで、にこりと笑っている。)……ご苦労さま。私ねぇ、どっちかって言うとあの煩い犬よりアンタの方が目障りなの。(予備動作もなく、その気配すら全くしない。唯一”見える”エリスの炎が、石の塊が砕かれこの空間に充満したその粉塵に燃え移り、遺跡の天井も壁も全てを壊してしまうほどのとてつもない爆発を起こす。)」
ゲラルト「(少し後ろに位置する部下と前に立つ自分、どちらかは生き残らなければならない。瞬時に答えを出し、唇が僅かに動いた。周囲の汚れた魔力を一気に取り込み、最大出力で防御壁を展開。とんでもない爆風に思わず片足を後ろに下げて踏みとどまり爆発の衝撃をなんとか食い止めたが、前に立つゲラルトが突き出した右手は緑色の炎に包まれ焼け爛れていき、全身を焼こうと広がっていく。膝が折れそうになるのを何とか留め、この戦闘の中でもなお青く美しく光り輝いたままの水辺へ飛び込もうと一歩踏み出した)」
マベ「(ゲラルトが一歩踏み出そうとしたその眼前に背を向けて立ちはだかった。予備動作を一切行わず、最大出力の防御壁をも包み込む最大風速の巨大な風の砦が形成され、爆風を防ぎ、緑炎と衝撃で飛び散った遺跡の瓦礫をすべてエリスのいるほうへ”押し返した”。)
(風の防壁が完全に展開すると、ゲラルトを抱きかかえて水辺の深い場所へ飛び込んだ。熱せられた水の表面は風によって宙へ巻き上げられ、飛び込んだ瞬間清らかな水が冷たく肌に染み込んでいく。)」
エリス「(追撃を繰り出そうと接近していたところにマベの防壁が現れ、杖をぶち当てて術式を溶かそうとするが、粉塵爆発で大量に消費して辺りから無くなった魔力を集めるに時間を要し、壊しきれない。エリスの両脇腹が僅かに出血していて、爆発の直前にゲラルトが放った魔力の刃を防ぎきれなかったことが伺える。)お前何してくれてんのよ!!!全身焼いていっちばん苦しい死に方しなさいよ!!!!ただでさえ……っ!!!?(何かに怯んで言葉が途切れた。大きく顔を歪めて追撃をやめ、急にふたりの見える範囲から姿を消してしまった。)」
ゲラルト「(一連の出来事をその両の眼でしっかりと捉えていたが、水中でふとその目が細められていき、やがて目を閉じた。自分を抱えたマベのコートの肩の辺りを右手で握ったが、その手にはあまり力は入っていない。それでも左手の刀は固く握ったまま。)」
マベ「(地面を大きく蹴り、水面に勢いよく顔を出し大きく息を吸った。爆風で顔や肌の露出した部分に火傷を負っているが動けない程ではなく、ゲラルトを両手で抱えて波打ち際まで水中を蹴るようにして移動した。)
……………あの女。(低い声でそれだけ言うと、波打ち際に膝をついた。ゲラルトの身体を水に浸し、その上体を支えた。)……………隊長。………ゲラルト………、俺の声が聞こえるか………!?(支えた手にぐっと力が入る。)………起きろ………!!」
ゲラルト「あー…………、(すごく気だるそうに声を出し、咳き込んだ。あの爆発をまともに受け止め、吸い込んだ熱で体の内部からやられている。)この程度で……、死ぬと思うか…………?お前が言ったんだろ、殺すまで死ぬなって……。だから冷静さを失うなと言ったんだ、ろくなことに……(うっすらと目を開け、はたと言葉を止めた。ぼんやりとした目でマベの顔を見ている。)」
マベ「馬鹿野郎!それはお前もだ。俺を守ることばっかにかまけやがって…、あいつの狙いはお前だ。どういう訳か、相当拗らせてやがるぜあのバカ女。(悔しそうに眉間に皺を寄せる表情は普段と変わらない。が、その瞳は透き通るような薄い茶色へと変化しており、風で打ち寄せるさざなみの青白い光を反射し淡い光を湛えている。)」
ゲラルト「(苦しそうに息を吸って吐く毎に身体が徐々に再生していく。焼け爛れた右手をかざしてみて少し苦笑いをした。)……自惚れるな。お前が……、戦闘に必要だからだ。私はウライオスの隊長だ。その判断を見誤るはずが、 ……。なあ。お前、目が……、(かざした手をふとマベの顔に伸ばし、頬の辺りに指先が触れた。ゲラルトのアイスブルーの瞳が、その光をじいっと見つめる。)」
マベ「(苦笑いしようとしてその悲惨な状態に何かを堪えたように笑えなかった。)……自惚れてンのはどっちだよ……、バァカが……。(頬に指先が触れ、目を細めた。)………ああ。見えてる……。建国祭の時も、お前の血を口にしてしばらく経ってから、ほんの少しの間だけ視界が戻ったんだ…。……ハッ、(ようやく困ったように笑った。)綺麗な色の目ェしやがって…、俺が女だったら惚れてたぜ。…………。(何かを決意したような力強い眼差しで見つめ返した。先程まで鳴りを潜めていた白銀の粒子を纏う風がふわりと戻ってくる。水面に光を伴うさざなみが生まれ、ほんの僅かな間、静寂が辺りを包んだ。)」
ゲラルト「(ゆっくりと起き上がって、至近距離でその瞳をじっと覗き込んだ。一瞬なんとも言えない複雑な表情をしたが、すぐにいつもの無表情に戻る。)馬鹿言うな。……冷静に戻ったか? (先程までエリスがいたあたりに視線を向けて、短く息を吐く。)……マベ。見えているなら、感知の術式は不要だろ。怪我が戻ったら治癒に振っている分も一旦止めて……、できる限り最大の嵐を起こせ。まだ私たちに勝ち目は、……ある。」
マベ「ああ……戻った……。もう”ああはならねえ”、俺の中に、完全に抑え込んだ…。(常時発動型の術式を切ることにどこか緊張した面持ちになって頷いた。)………嵐?どうしてそんなことをする。詳しく聞かせろ。」
ゲラルト「(見えるとより一層冷たく鋭い印象を与えるその目でじっと見つめたまま。)……お前は、いちいち説明されて納得しないと行動できないのか? どんな手段を使っても構わない。お前が最善だと思う方法で出来る限りの暴風を、雷を起こせ。 選択肢はない。”やれ”。(やや乱暴な口調でそう捲したてると、傷が癒えてきた右手を見てから、熱を吸い込み咳き込んでいた喉元に手で触れた。)……返事は。」
マベ「……………!(一瞬怒りの感情が瞳に宿ったが、ふっと両目を細めることでそれを打ち消した。)…………”了解致しました”。(言うが早いかゲラルトの肩の辺りを突き飛ばすようにして押し倒した。ばしゃりと派手な水音を立て、覆い被さり上体を折り曲げるようにしてぐっと顔を近づけた。睫毛が触れ合うくらいの至近距離で瞬きひとつせず、そのアイスブルーの瞳を見つめながら首に両手を掛け、乱暴にネクタイとシャツのボタンを引きちぎるようにして襟元を開けさせていく。)」
ゲラルト「(まだ回復しきっていない身体が何の抵抗もなく押し倒される。顔が近づいても動じることなく、またその目の奥をじいっと見つめて。)……な、んだ、血か? また利き手を噛みきるなよ……、ほら、(右手を差し出そうとした時に、思いがけずその手が首に掛かって珍しく少し驚いた表情になった。普段見せない首元、鎖骨よりやや上のあたりには陣らしきものが刻まれていて、その付近は出血してもいないのに甘い香りがしている。)」
マベ「(曝け出された陣のような紋様に瞳だけをちらと動かしたがすぐ向き直った。甘い匂いにも全く動じず淡々と首元を大きく露出させると、ゲラルトの頭の両側にばちゃりと手をついた。)…………さっき”そっち”はもらった。傷負ってるトコ悪りィが、我慢しろよ……っ!(息を吸い込み、ちょうど陣の真ん中あたり目がけて喰らいついた。獰猛な肉食獣が急所を狙う動きと寸分違わず、容赦なく歯を立てて齧りつく。)」
ゲラルト「おい、どこを齧っても同じ……、(噛み付かれた瞬間思わず息が詰まり、マベの後頭部の髪の毛を握ったが、最善の方法でと自分で言った手前引き離しはしない。) ……って…ぇ…… ンなとこ痛いに決まってんだろ……馬鹿かお前…………(皮膚の弱い所を齧られ、指を噛まれた時とは比にならないほどの量の血液が溢れ出し、その血液量に比例するように甘い香りが沸き立つ。)」
マベ「唇ひっつけて舌吸って噛みついたほうがよかったか…!?(髪を掴まれながらぎりぎりと皮膚を噛み締める。)……痛いよな……?俺にとっての最善は、お前にとっての最善じゃねェかもしれねえってこった…!そういう些細なすれ違いが原因で二人共おっ死ぬのだけは避けてェから、俺はあえて聞くんだよ………狂ったバカ犬だからな!!(溢れ出る血に大口を開けて吸い付いた。一度目より下品な音を立てて飲み下ろしていく間に対魔力解放用術式と感知の魔術が解除され、それに割いていた魔力がマベの元へと戻り始めた。それは膨大な量の奔流であり、赤黒い風と放電が二人を包み始める。)
………っは、わかるか…?隊長……、俺に嵐を起こさせるってのが、どういう意味かよく覚えとけよ…。俺の風は敵を屠るための魔術じゃねえ……”大切な奴を護るための力”だ…。あの女から、俺の大事なモンぜんぶ護ってやる!!(その叫びに呼応し、二人を包んでいた風がこれまでと比較にならない巨大な竜巻となり空を貫いた。際限無く成長していく烈風に呼び寄せられた黒雲が澄んだ闇夜をあっという間に覆い、赤黒い稲妻が雷鳴を伴い幾重にも上空を駆け抜けていく。)」
ゲラルト「別に何だって構わないが、(吸い付いた唇や舌の感触に隅々まで鍛え上げられた身体が強ばった。)……最低な気分だ…(この状況に悪態をついたが、その数瞬後には目の前で起きる魔術の変化に思わずふと笑い声のような息を漏らした。)…予想以上だ。お前はいつも私の想像を超えていく。(ぐいと掴んだ髪を引いてマベの体を引き離して上半身を起こそうと。)……毒が回るか、あの爆発をもう一度食らうかすれば、私たちの死は確定だ。 石を出来る限り破壊するな。必ず機は熟す。 ……。……俺を、信じろ。(ここに来る前にそうしたように、片手を胸の前に差し出した。今度はその顔を、じっと見つめている。)」
マベ「ッハ…、何だって構わねえって言うくせに悪態はつくんだな?(髪を掴まれ自分からも後ろに下がった。血でべとべとになった口元を手の甲で拭い、それでも拭き取れず赤い跡が残った。)………そうかい。褒められて悪い気はしねえよ。もうほとんど余力はねえが、やれるだけのことはやっておかねェとな。悔いだけは残したくねえ……。…………。(ゲラルトの言葉を真剣な面持ちで聞き、最後に互いに見つめ合った。信じろと言われほんのわずかに戸惑いを見せたが、一度大きく瞬きをして、瞼を開けたもうその時には覚悟を決めた表情になっていた。)……………わかった。(五感全てで感じるその感触を覚えるかのように、今度はゆっくりとその手を握った。)………お前を信じる。」
ゲラルト「(手を握り返してゆっくりと頷いたあと手はするりと解けた。)対象を追えるか。私とお前以外の血の匂いがするはずだ。 ……、(何か言おうとしたところで、何も無いところを見つめて動きが止まった。)…………聞こえる。歌が、……。(過去の光景が、色んな人の思いを背負って戦ったあの日のことが、頭の中に鮮明に蘇る。急に険しい表情に戻ったが、それはいつも通りと表現するのが良いのかもしれない感情の薄い顔。その目は遥か先を捉えている。)……。……先行しろ。後を追う。」
マベ「ああ。……問題ない。(解いた手でドッグタグを握り締めた。ゲラルトの言葉にはっとしてその目とその方角を見つめたが、思いを馳せるその姿に押し黙って顔を背けた。一年ほど前のあの日を思い出し、湧き上がってくる感情を静かに抑え込んだ。)……………。…………俺の風に乗れ。(そう言うと、暴風の中に新たな風を生み出し地面を蹴った。マベに続けば上昇気流に乗って上空へ飛び、そのまま後を追って行ける。)」
ゲラルト「(ゆっくりと立ち上がり、手に持った刀の刀身を右の手のひらで撫でるように触って軽く目を閉じた。祈るようなその動作が何に向けられたものなのかはゲラルトにしかわからない。静かに刀を鞘に戻し、目を開けると、少しの躊躇いもなくマベの生み出した風の魔術に飛び込んだ。)」
マベ「(先行しつつ、眼下に広がる暗闇の景色をつぶさに見つめている。自身の起こした暴風と稲光の中、どこか懐かしむような眼差しを隠さない。)……………!(ケホ、と小さく咳をして口元を押さえた。対魔力解放用術式を解除して暫く経っても、拒絶反応はまだ表れない。前方を睨みつけるように軽く舌打ちして、何かを考えている。)……………。(後方のゲラルトをちら、と視線だけで振り返った。無言のまま片手を挙げると滑空態勢に移行し、どんどん濃くなっていく”血の匂い”に真っ直ぐ向かっていく。)」
エリス「あら。来たの。(先程いた場所から少し離れた暗闇の中、魔法でいくつか仄かな明かりを作った中に浮いて座っている。)……シッポまいて逃げ出すなら、殺さずにいてあげようと思ったのに。 そんなに死にたいなら、いいわよ。その通りにしてあげるわね。(空を見上げたまま、2人の方を見ようともしない。)」
マベ「(空中で体勢を変え、爪先から着地した。)テメェこそいきなり逃げ出してどうした。一番苦しんで死ねって偉そうにぬかしておきながら。(太腿に装着されたホルスターから一対のナイフを抜いた。こちらに目もくれないエリスに首を傾げる。)…随分な憎みようだが、お前……隊長にヤり逃げでもされたか?」
ゲラルト「……おい、冗談言うな。私は品のない女も、幼稚な女も許容範囲外だ。(ほとんど感情の乗らない顔と声でそう言うと、刀に手をかけることすらせずに立っている。) 生憎、私たちは馬鹿で聞き分けがなくてな。人の忠告や意見に耳を貸すことなど滅多にない。 私は未来を……、護りにここにきた。はじめから私たちに退路などない。」
エリス「(俯いて長く息を吐いた。)アンタ涼しい顔してしれっと失礼なこと言うのやめなさいよ……。 今死ぬのよ、ここで。お前たちに未来なんて存在しない。(マベの起こした黒雲が稲光を放った瞬間、二人を待ち構える間に生成された大量の”石”が周囲に浮かぶのが見えた。光を受けたそれらはペリドットのように黄緑色に煌めいた。)」
マベ「(吹き出した。)……ッははははははァ!!そうだな、あんたの趣味じゃ全然ないなァ悪い悪い。こんなキーキー喚き散らすだけの拗らせババァなんて、頼まれたって願い下げだろ。(荒涼とした山の岩肌を想起させるような、それでいて透き通るような色の瞳でエリスを見据えた。稲光から遅れることなく轟く雷鳴にも瞬きひとつせず、浮かび上がる無数の石に鋭い目を向ける。)……テメェ、”俺達”をナメすぎなんだよ。さあ、許しを請うなら今のうちだぜ?両手ェ挙げてそのカワイイあんよモジモジさせながら泣いて謝りゃ、気絶もできねえくらいに悶え苦しみながらイかせてやらあ。」
ゲラルト「(マベのすぐ隣へ来て、耳打ちをするように。その声は風雷の中ではほとんど聞こえないほどに小さい。)…対象はお前の変化にまだ気づいていない。私たちに”あの毒”が効かないと思い込ませろ。 ……対象は必ず、然るべき時にまたあの爆発を起こす。その時が唯一の”機”だ。それまで時間を稼げ。まあ、……そうだな、(ふ、と笑うような声を出してその先の言葉が途切れた。)」
エリス「ナメてんのはそっちでしょ。額を地面にくっ付けて泣き喚いたって許してやんないわよ。焼かれるならどこがいい?肺?それともその出来損ないのおめめ?(ぐっと目を細めて不快感を顕にした。)何。コソコソ作戦会議でもしてるわけ。 (エリスの周囲に浮いていた石のいくつかがふと消えた。)」
マベ「(エリスから目を離さずゲラルトの言葉を聞き取った。その目はさらに遠くを見つめているようにも、急いで考え事をしているようにも見えるかもしれない。)…………わかった。(眉間に皺を寄せて目を細めた。低い声でそれだけ返すと、相変わらず前を見つめたまま口の端を吊り上げるような笑みを見せた。)ほーーーぉ?お前さん、さっきの大爆発が相当気に入ったようだなァ。…ま、無理もねえか。俺がいる限りあの妙な毒は打ち消しちまうし、ちまちま攻撃してても埒が明かねえもんなァ!?…………。…………だが。(笑うのを止めて眉間に深い深い皺を刻んだ。)テメェ、うちの部隊長に喧嘩売るのがどういう意味かわかってねえだろ?教えてやらァ。『どうぞあたしを噛み殺してください狂犬サマ』って言ってるってェことだ!!(両手のナイフを構え、体勢を低くした。)……俺を焼き殺したいならやってみな。バァァカの性悪メスガキが。(ぺろ、と舌先を出して嗤った。)」
ゲラルト「…ん?(作戦会議かと問われて、急にとぼけた様な声を出した。) あー…………、私たちはここで死ぬらしいからな。大好きな部下に別れの言葉を伝えただけだ。(淡々とした口調で、マベの耳元に軽く口付けるふりをして相手を挑発した後、マベの短い返事に少しだけ頷いた。ボタンが開けられたままのシャツの襟元、噛まれた痕から血が流れているのが見える。) お前は何処を刺されたい。肺か?その死んだような目か?それとも、……(少しだるそうな声。直後、浮いているエリスの足元に急接近。空間を飛ばしたようなその移動はあまりにも早い。)」
エリス「(目の前で行われた一連の動作に顔を顰めた。)あ、アンタ、なにやってんの!?気持ち悪いって言ってんでしょ!?本っっっ当に目障りよ!!! 噛み殺せるならやってみなさい。自制の効かないただの馬鹿犬のくせに!!(挑発に乗ってしまい一瞬出遅れる。傍に浮いていた杖を掴んで、軽い動作でそれを横から振り、見た目にそぐわない威力でゲラルトを弾き飛ばそうと。)」
マベ「(一瞬でその姿を消し、エリスが杖を振る直前、その後方頭上にナイフを胸の前で十字に構え身体を丸めた姿で現れる。腕を広げ、Xの形を描くように薙ぎ払うとその攻撃範囲は刃より長く、エリス本体とその杖を破壊するだけのリーチと威力がある。一撃見舞った直後に空中へ飛び上がり、一回転しながら同じ攻撃を衝撃波に変えて繰り出した。)…ッハァ、なァァんだァアホらしい、流れが読めたぜ隊長ォ!こいつ”失恋してる”ぜ!それも頭の先から爪の先までどぉぉっぷり浸かっちまった男になあ!!相当顔の良い男だったんだろ、気の毒になァァ!!??だからあんたに八つ当たりしてるってェわけだ!!アッハハハハハハハ!!!!」
エリス「(攻撃を予想していたのか、マベが現れたかどうかのタイミングで消えた石がエリスの背後に出現。物理的障壁となり一撃目の攻撃を受けるが、威力の大きさに細かい破片となって飛び散る。)馬鹿ねぇ、邪推するのは良いけれど……、(飛び散った破片は不自然な弧を描き集結し、次の攻撃を相殺しようと正面から飛来する。)アンタたち、未来なんて曖昧なものを頼りにここに来たんでしょ!?そっちの方が遥かに馬鹿げてるわ!!(周囲に待機する緑に光る石が移動、出現しながら大量に降り注ぐ。エリスの制御下にありながら、周囲の暴風に煽られ軌道が若干揺れ、その速さも先程までよりは落ちる。ひとつひとつの威力は小さいが量が多い。)」
ゲラルト「(エリスが繰り出した一撃がほんの少し集中力を欠いたその隙をつき、真正面から刀をぶつけて受け止める。マベの攻撃がエリスの石の壁を砕いた瞬間警戒したが、それが粉塵にならなかった事に息をついた。)それは一理あるな……(馬鹿げているというエリスの言葉に納得し。大量に降り注ぐ石を見て、ゲラルトの魔力が一斉に溢れ出す。力任せに鍔迫り合いを押し、エリスにぐっと近づくことでそれを凌ごうと。)……?……俺では駄目か?(マベの言葉を理解しているのかしていないのか、ふと首を傾げるようなゆっくりとした仕草で、 対象の目を覗き込んだ。。)」
マベ「……ッ!!(飛び散った破片に一瞬肝を冷やすが顔には出さない。二撃目の相殺を見るまでもなく空を蹴り、地面に降り立った瞬間降り注いでくる石を後方転回で躱しながら移動し、エリスとの距離をできるだけ縮めたところでゲラルトの言葉がその耳を掠めた。)…………。…………。…………ゲラルト?(そう呼ぶ声はほとんど聞き取れないくらい小さい。)」
エリス「だ、…………、(じっと見つめるゲラルトの青い目に唖然として動きが止まった。降り注いでいる石もエリスの思考停止に合わせて空中に不自然に止まっていく。)……だ……め、に、決まってんでしょ!!!?(空中に止まった石が渦を巻くように動き出したが、統制の取れない動きは軌道が全く読めない。吐息まで聞こえそうな距離感にいるゲラルトを刺すために舞うその欠片は、その中心にいるエリス自身も傷付けていく。)」
ゲラルト「あぁ?おい、フラれたぞ?(片目だけ細めてそう言ったところで破片に全身を傷をつけられていくが、そのまま動かない。)……っ…………、マベ、その動きはリスクが高い。……突け。お前得意だろ、そういうの。(あえて鍔迫り合いの状態を維持してエリスの杖を封じたまま、やけに冷静な声で後方にいるマベにぽつりと呟く。)」
マベ「………。(その豹変した言動にふっと目を細めたが、すぐにニヤついた顔になった。)おォい!そりゃねェだろォ!ゲラルトよぉ。ドーテーか?今の”ダメに決まってるでしょ”は”お願いします”だろうがよ?やっぱその女ァ、お前に気ィあンだわ!!(言いながらナイフを構え直す。)……はァん?お前に見せたことあったっけか。好きだぜ?俺のンで女ブッ刺してヒィヒィ言わせるの。ッハハ!!(短く笑うと、急に険しい顔つきを見せた。)……ただよう。”ついで”でも男ォ刺す趣味ァねえからよう。お前、(と言いかけた時には既にエリスのすぐ後ろに移動していて。)ちゃんと避けろよッ?(強く握り固めたナイフの二連撃、その背後から急所に突き立てるように深く振りかざす。)」
エリス「……、(短く息を吸うような音。エリスの長い髪が硬化して生き物のように動き、鍔迫り合いをしていたゲラルトを雑に突き飛ばし、迫り来る双刃を受け止めようと手をかざして杖を動かす。一方は杖がその刃を飲み込むようにして完全に止めきっているが、もう一方がエリスの腕に深々と刺さっている。)………の、…お前らぁあああああああ!!!肺の中全部焼き尽くして殺す!!!!(あたりを埋め尽くす程の石が再出現。その一部が剣のように結晶化し、エリスが止めているマベの手首から腕にかけてを狙って振り下ろされる。まともに食らえば手も武器もめちゃくちゃに破壊されてしまう程の威力。残りの石が放射線状にばら撒かれた後、ゲラルトに向けて何度も追尾するように放たれる。)」
ゲラルト「(肩のあたりを押されて後ろに飛んで距離をあける。全身に負った傷は多いが、エリスの眼前に居たため致命傷となる程の傷ではない。)は…? あー…何だ?何つった…? クソ…頭痛ぇ………、お前らもう黙ってろよ…、これ言うの2回目だぞ……。(右手で額を抑え、あたりに撒き散らされた石を視認。着弾寸前まで引き寄せて横に受け身をとり、再び引き寄せて、を繰り返してやり過ごし、2人の位置する場所から少し離れたところに着地。追撃せずにその場にとどまり、少しだけ空を見上げた。)」
マベ「ドーテーかっつったんだよ、聞こえなかったか!?……………ッ!!(杖に刺さったナイフのほうに一層力を込めて破壊してしまおうとしていたが、剣の形状を成した石を視認し、それが振り下ろされる寸前に双刃を残したまま後方へと飛び退いた。続け様に飛んでくる石は避けきれず、小気味の良い音を立てながらマベの顔や四肢、コートを斬り裂いていく。)……ハハッ。賢女サマはお怒りかァ!?図星突かれてイキってやがる!………。………クソッ、こんな時に”そうなる”かフツー?…おいゲラルト……、これ以上狂うなよ……?(苦々しい表情でホルスターからもう一対の双刃を引き抜いた。その手の甲に袖口から血が伝うがお構い無しにエリスを見据え、再び突きの連撃を繰り出そうと飛び込んでいく。)」
エリス「(腕に刺さったままのナイフを引き抜いて空中に放り投げると、石が飛来して刺さりナイフが原型を留めないほどにひしゃげて地面に落ちた。杖に飲み込まれたほうはそのまま杖が飲み込むようにしてどこかに消えた。)…お前らがここで死んだら、護りたかった未来まで殺しに行ってあげるわよ。アンタが愛してる女も、国のペット達も全員よ。なぁんにも残してやらない。(無傷の手で軽く指さすと剣の形をした石が迎え撃ち突き刺すようにマベを真正面から捉える。少し遅れて杖が動き出し、長いリーチでさらに体の中央を刺そうとする。着弾せずに地面に刺さったままの細かい石が小さく震えた後、ふわりと浮き上がり一旦粒子状になった後、再結集してやや大きい石の刃に生成し直してマベの背中を狙おうと)」
ゲラルト「こんな時だからだ。普段は完璧に自制してんだろ……。(空を見上げていた顔がこの場に空気にそぐわないほどゆったりと下げられた。その目はまさに”気が触れている”と表現するのが相応しく、どこに焦点が合っているのかわからない。)血の匂い…、あぁ、それだ、……喰ってやる…、(エリスが石を粒子に変えたのを見て、それらを再結成させないように”喰らい”、代わりにゲラルトがエリスに向かう魔力の衝撃波をうつ。が、その術式がマベを避ける気は全くない。)」
マベ「(片目を細めると、特攻する自身の周囲に見えない風の刃が無数に出現する。獰猛な笑みを浮かべナイフの一本を口に咥え、もう一本を右手で握り締めた。)……テメェ、ドデカ地雷踏んだぜ。ウライオスが国家の敵をみすみす逃すとでも思ってンのかァ!!(胸の前で刃をエリスの放った石の剣に向けて突き出し、真正面からぶつける。刃と相打ちになる形で石の脆い部分を突き崩してそのまま飛び込んでいくが、壊しきれなかった石にその身が斬り裂かれ血飛沫が飛んだ。)…ハッ…、そりゃ結構だが、俺も抑え込んでンのを忘れてくれるなよ!?お前のそんな顔見てると、戦リたくてしょうがなくなるんだよ……ッ!!!(杖の動きを悟られぬよう”見て”身を翻すように躱し、その場でさらに跳躍。ゲラルトの放つ衝撃波を空中で身を捻りながら避けると、衝撃波の届かない方向を補う形で、熱を伴った無数の不可視の刃をエリスに向けて放った。)」
エリス「はぁ?アンタどーせ国の敵とかどうでもよくって、そのいけ好かない飼い主に褒めて褒めてってしっぽ振りたいだけでしょ?(真正面からぶつかって砕けた石が粒子状になって舞う。その先、飛び込んできたマベの刃を避けるように半身をズラしたエリスの姿が見える。)…………!?(マベの体に視界を遮られた方向から感知の効かないゲラルトの魔術が飛んできて、苦々しい表情をした。気付けば随分遠いところにその姿が移動しているが、先程までエリスのいた場所にはエリスの毒と、2人の放った術で切られたエリスの緑の髪が舞っている。)」
ゲラルト「……わかっている。あぁ………初めてだな、こんな溜め込んだの…………。お前の声聞くだけでイラついて仕方ない…………。(マベが着地するであろう地点に進み出る。先程エリスの魔力を取り込んだ体はまたじわじわと内部から侵されていくが、それを悟らせないように悪態をついた。)……そろそろだ。……。……生きて帰れたら。何か作ってやろうか。お前の好きなモン、何でも。(ふと冗談を言うような口調でぽつりと呟いたその表情はやけに穏やか。)」
マベ「(空中で身体を回転させながら、エリスの言葉に少し目を見開いた。)…………そうかもしれねえな。(ほんのごくごく短い秒間でふと笑うような息を吐いた。次の瞬間にはもう”札付きの狂犬”の笑みに変わっていて)ーーーッて言うと思ったか!?俺はこの国も空も”人間も”大好きだぜ!!バアアァーーーッカ!!!(悪態をつきながら空を舞うようにしてゲラルトのすぐそばへ着地した。舞い降りる前からポタポタと血の雫が地面に落ちては上塗りされ、広がっていく。)
ああ…、……そうか………今回もお前に怒られっぱなしだったなァ……。駄目な犬だなァ俺はよう……、(エリスを見据えたままへへっと笑っていたが、はっとして表情を失った。「生きて帰れたら」、その言葉をウライオスの隊長であるゲラルトが口にした。その意味と重みを嵐の主人が理解したことを示すように、赤黒い稲妻が轟音を立て空を駆け抜け、暴風が唸り声を上げた。ぐっと俯いてから、怒ったような泣きそうな顔をゲラルトへ向ける。)…………………芋の煮っ転がし。………お前、絶対作れよ……!!!」
エリス「……私は大嫌いよ、この世界も空も人間も……!!どうせ、どうせ……、(異常な熱と共に周囲の魔力が結晶化していく。)どれだけ愛したって裏切るんでしょ!!?お前らも一緒よ!!わけも知らないで、自分たちの欲のために人を傷付けて!!!!(エリスが自分の内、そして周囲、可能な限りの魔力を一斉に結晶化し、星の数とも見紛うほどの光る石が2人目掛けて放たれる。ほんの少しの隙間もなく不規則に動くそれらを回避するのは不可能であろうと一目見て分かるほどの、圧倒的な攻撃。)」
ゲラルト「ん……、俺は不器用なんだろ。言葉が上手く選べなかっただけだ。今回、お前がいなければとっくに死んでいた。(マベの向けた顔は見ないまま、トン、とマベの背中を軽く叩いて。)……よくやった。(言った次の瞬間にはもう遥か前方へと移動している。エリスの放った石に接近し、両手で構えた刀を右、左とタイミングを合わせて振り切ると砕けた石が粉塵となって辺りに舞う。ゲラルトが進んだ軌道上の石がいくらか相殺できたのを確認した後、大量の弾幕に刺されながら強引にエリスの斜め後ろへと移動。全身から出血しながら、振り返ったゲラルトの青い目が、マベの方へ向けられ、語っている。”機は熟した、待て”と。)」
マベ「(背中を叩かれ、あの夜の出来事が一瞬のうちに蘇った。)……………………!!(ぐっと何かを堪えてゲラルトを見送った。ずっと歪だった視界で追い続けたその背中が、今になってようやくはっきりと見えた。飛び出したい、叫びたい衝動を抑え、血を纏って刀を振るうその一挙一動を目に焼き付けていく。そして何か深く思い詰めたような表情になると、振り返ったゲラルトと目が合った。)……………!(長い時間のように感じたほんのわずかな一瞬。それに応え、頷いた。)」
エリス「(背後を取ったゲラルト、そして到底回避しきれない攻撃に次の手が出せない様子を見てにんまりと笑った。)……いらっしゃい。待ってたわよ。(それでもなお刀を振ろうと浅く動いたゲラルトの腕を、足を、首を、エリスの長い髪が一瞬のうちに締め上げていく。少しだけマベの方に視線をやって)……あら、アンタは動かないでね?少しでも動いたら大好きなコイツの頭ぶっ潰してやるわ。 アンタのその目と髪の色。血に狂った目。余計なこと思い出して不快だわ。その綺麗なお顔が苦痛に歪むところ、見たいわねぇ……。(一帯に吐き出した石が全て一瞬にして粉塵となり大量に辺りを舞い、空気がまた熱を帯びた)……うふふ。」
ゲラルト「(周囲に吹く風が徐々に湿っぽくなっていく。体の自由を奪われたゲラルトが目を閉じ、大きく深呼吸した。)……俺じゃ、駄目か? ……お前を殺すのは。(開かれた鋭い眼光がエリスを捉えた。)…完成だ。普段こういうことはしないんだが。(マベの起こした嵐から稲光が走った瞬間とてつもない音量の雷鳴が響き、そのすぐ後に土砂降りの雨が降り始める。赤黒い稲光が走るその真っ黒な雷雲は瞬く間に3人の周辺から広がっていき、この遺跡を全て包み、それでもまだ拡大を続け、見渡す限りどこまでも広がっていく。)逃げようなどと思うな。この国内全域、逃げ場などない。……お前、水が嫌いなんだろ?(同時にその術式を展開するために大量の魔力が消費されて消えていく。僅かにそこにあるエリスの魔力さえも”降る雨に落とされ”地面を流れていく。)………っ、…………!!(毒された魔力を大量に取り込んだ直後で、吐き出した言葉はほとんど音にはならなかった。それでも届くと信じて”命令”を出した。)」
マベ「……………!!(嵐を外部から”操作”したその力に、威力に、そして起こった超巨大暴風雨に目を見開き天を仰いだ。自身の風、ゲラルトの起こした雨、二人の魔力の混合体である赤黒い稲妻が空を支配していくのを見届け、確かにその耳に届いた主の命に顔を向けた。だが次に発した言葉は、おそらく主の想定していたものではなくーーー)………”不承知だ、隊長”。ーーーその前に、やる事がある。(静かな、力強い声。何の予備動作も無く、白銀の粒子を纏った雄々しい風がゲラルトを包み込んだ。大地から空へ巻き上がるそれは暖かく、暴風雨を忘れさせてしまうほど穏やかにしかし急速に、その傷を塞ぎ身体の内側を癒やしていく。最初に受けた回復とは比較にならないほど再生が早いが、完全回復にはまだ時間がかかる。)
やっと完成したぜ……。お前をぶっ飛ばすために5年かけて一から編み出した術式を、命張りながら頭ン中で全部バラして、組み直して、やっと”全部渡す”やり方に辿り着いた……。”陣無し”らしく予備動作一切無し、譲るときの魔力の動きも極力抑えて最大限の効果を発揮してるはずだぜ?………ったくよォ。お前絶対”コレ”すると思ってたわ。だから言ったろ、大技キメるときは事前に言えって。お前を守るためのぶんの魔力、残しといて正解だったなァ。(最後の一本となったナイフを右手に持ち、ゆっくりと歩き出した。もうその目はエリスのほうへ向けられている。)」
エリス「は……、国内全域……!? 今の一瞬で…………!? (雨が全身を濡らしていく感覚にぶるりと震え、僅かに残った魔力の粒子が雨に打たれて地面を流れて薄まっていくの見た。マベが接近するのに気付いて上げた顔には明らかな焦りが見て取れる。杖を手元に寄せようと手をかざすが、杖が動かない。)……!! お前、私が全て吐き出すのをわかってて…………!?」
ゲラルト「(その言葉が届いたのかどうかはわからないが、冷たい色の目は確かにマベの方を向いていた。ふとその目が細められると、がくりと俯き、一度目に粉塵爆発を受けた時すら手放さなかった刀がするりと左手から滑り、重い音をたてて地面に落ちた。)……、(意識を手放しかける直前にマベの完成させた回復の術式で再生が始まり、何とか息を継ぐが、取り込んだ体力の毒の影響が強く、全く動かない。)」
マベ「(アハハ、とエリスに向かって軽く笑った。)凄えだろ……?これがウライオス第2部隊隊長、ゲラルト・シェズムだ。俺達が尊敬する隊長であり、”札付きの狂犬”が唯一手綱を握らせた絶対不動のご主人様であり、………………………………俺の憧れなんだよ。(グリップを握る手に力を込める。血の滲んだ手が震えるが、構うことなく真っ直ぐ前だけを見つめて進んでいく。その歩みは少しずつ疾くなっていき。)…さあ嬢ちゃん。フィナーレだ。………返してもらうぜ、俺の大事なヤツをよォォッ!!!(矢のように駆け、一気に距離を詰める。右手でナイフを握り、左手でその手を支えながらエリスの心臓めがけて刺突の一撃を繰り出した。)」
エリス「…………。(遠い遠い過去のことを思い出したのかどこか切ない目をして、ほんの少しつられたように笑った。)…馬鹿ねぇ、私は全て吐き出しきるほど愚かじゃないわよ。(杖を引っ掴んで力任せにマベのナイフを横から撃ち抜くように振ると同時に、エリスの髪と足が初めて地面に着いた。エリスの中に残る僅かな魔力と杖自体の持つ魔力を消費したその一撃には先程までの重さは無いが、ぶつかりあった瞬間、ナイフとそれを握る手を締め付けようと杖が変形する。)」
ゲラルト「(エリスの髪が魔力を失ったことでその拘束から逃れ、どさりと地面にその体が投げ出された。豪雨を降らせるその術式を維持したまま苦しそうに息を吸って吐いてを繰り返し、2人のいる方へ視線を向けた。)……こんなザマで言われてもな……、(マベが繰り出した一撃とそれに対するエリスの反応を見て、落ちた刀に手を伸ばそうとするが身体はまだ思いどおりには動かない。)」
マベ「なァァんだテメェ、可愛く笑えンじゃねえかア!!ちょっとグッときた、…………っ!!!(杖と得物がぶつかり硬い音が豪雨の中で確かに響き火花が散った。戦いで傷ついた腕から全身に鋭い痛みが走り歯を食いしばるが、押し通そうと持てる力を込めようと。しかし変形し始めた杖にナイフが絡み取られ、自らの手を守るために一度後方へ大きく飛び退かざるを得なかった。)…………っクソ………!(体勢を低くしホルスターに手をかけようとして、得物をすべて失ったことにハッとした。それでもエリスを見据え、口の端を歪めるようにして不敵に笑った。片手でドッグタグを握り締め、最後に残されたほんの僅かな魔力を、血の伝う手に込めようと。)」
エリス「(杖が捕らえたナイフを砕いて、破片が辺りの風に吹かれてどこかへ飛んで行った。)…………残念だったわね。本当に、……残念だわ。(自らの術でついた傷から血が流れ、それが雨に薄められ地面にぽたぽたと落ちていく。華奢な手が、黒い杖を握り直してその尖った先端が僅かに動く。)」
ゲラルト「(何とか片腕をついて上体を起こし、何とか刀を手繰り寄せるが、ずしりと重いその黒い刀は片手で扱えるような代物では無い。)……!(ゲラルトの左手が咄嗟に刀の鍔にかかる。)マベ!!!!こいつを使え!!!!(普段絶対に聞かないような声色で叫ぶと、そのまま左手を押し出し、地面を滑らせるようにして”彼”から受け継いだその刀をマベの方へと送り出した。)」
マベ「……ああ……、残念だ……。もう少し早く、お前の”本音”が聞きたかったぜ……、……………ッ!(捨て身で飛びかかろうとした寸前に”その声”が響いた。)
ーーーー!!!
(反射的に身体が動き、地を滑る刀へ飛び込むようにしてその柄を掴んだ。地に片膝をつき、左手に刀を構え右手を地面につけた瞬間エリスの真正面に向かって大きく跳躍する。僅かに唇を動かすと体内に残された魔力を全て刀身に注ぎ、両手に持ち替えてその刃をエリスの右肩口から身体の中心めがけて大きく振り下ろした。風を纏い鋭く肉を断つ力と着地の衝撃にマベの肉体も悲鳴を上げ、足元にぼたぼたと血が落ちて広がっていく。)………次、生まれ変わったら…、もうちィっと、素直になりな……。たかだか29年しか生きてねえクソガキからの忠告だ……、噛み締めて逝け……!!(笑うように、悲しむようにギリッと歯噛みした。)…………ぅゥゥおおおおおおあああああァァッ!!!!!(深々と突き刺さった刀をねじる様に握り直すと、最後の力を振り絞って獣のような咆哮とともに左斜め下へ振り切った。)」
エリス「(ゲラルトの刀を構えたマベの姿にハッと目を見開いた。マベの体を貫こうと手に持った杖を前方へと突き出すが、ナイフより遥かにリーチが長く、そして遥かに硬いその得物がエリスの体を切るほうが早く、杖の先は急所をとらえることが出来なかった。)……わ、たし、死ぬのね…………? ……やっと、死ねるのね……。長かった……、 ずっと、待ってた………………。(エリスの手が杖を離すと、元からそこに存在しなかったかのように闇に溶けて消えていく。斬られて崩れ落ちていく体から星屑のような光がはらはらと舞って空へ昇っていくと、その体も元からこの世に存在しなかったかのように、消えていく。”あの歌”が徐々に近づき、すぐ傍までやってきた。)」
マベ「(振り切ったその姿のまま消え行くエリスを見つめる。杖の切っ先が掠めたのか、額から左の瞼にかけて大きく切れて鮮やかな血が顔を伝っている。)…笑えねえな、死を与える賢女が死にたがりなんてよ。………お前の言い分はわかる………本当、人間なんてクソみてえだからな……。……それでも俺は、……………。(ゆっくりと構えを解くと、どこか遠くを見つめるように、歌の聴こえる方向を見た。)」
ゲラルト「(ようやくまともに息ができるようになって、重い身体を起こして片膝をついている。は、とその美しい歌声を目で追うが、そこには何も見ない。)あの時と同じだ……、また、俺は、生かされたのか……。 (ふとマベの方に向き直して、その状態を確認して)……マベ、無事か。」
マベ「(その長躯をふらつかせるようにして振り向いた。左目の上から鮮血が滴り目と頬を汚し、豪雨の中でも全身の負傷が見て取れる。)………っ、……ゲラル、ト……、……隊長……、(両手で刀を抱えるようにして歩き出そうとするが、足が前に出ない。糸の切れた人形のような動きでなんとか歩を進めるが、一歩歩くごとに少なくない血液が地面に落ちて雨水に薄められていく。)隊長………生きてるか……?死んでねえよな……、隊長………?(ふらつきが酷くなり、とうとうバシャリと音を立てて両膝が地面についた。それでも刀を大事そうに抱え、ゆっくりとゲラルトのほうへ近付いていく。ずるずると引きずって歩くコートの裾から流れた血が絨毯のように地面を赤く染める。)」
ゲラルト「(雨がだんだん小降りになり、やがてぽつぽつと落ちる程度になっていく。)ああ、生きている。お前のおかげだ。……。……。……もういい、動くな。出血が多すぎる。(自分の首元に右手で触れ、噛み切られた傷が塞がっているのを確認してから、静止するようにマベの方に手を伸ばす。)」
マベ「(その制止も聞かずに這うようにして、それでも刀だけは離さずようやく主の側に辿り着いた。肩で大きく息をしながら刀を差し出し、ゲラルトを見つめた。)………これは、お前と、親父さんとの、絆だ…。大事に持っとけ……。……、………ありがとな………、大事な刀……おれなんかに……」
ゲラルト「……自分を低く見積もるな、マベ。ウライオスの隊員たるもの、敵と退治した時も、死にゆく時も、常に誇り高くあれと教えられただろう。(膝で立ったまま、ゆっくりと頷いて刀を受け取り鞘にしまう。これまで何千回と繰り返してきたその所作は淀みなく、寸分の狂いもなく、美しいとさえ思うほど。)私がこれを託したのは、お前だったからだ。……。……ただ、どれほど思いの強い物であっても、物は物でしかない。私は……それより、お前のほうが大事だ。(大きく息をするその肩を支えようとする。狂気が抜け落ちいつもの様に透き通るゲラルトの青い目が、じっとその目を見た。)」
マベ「(半分赤く染まった視界でその所作を見て、ふっと息を吐くように笑った。)あんだけ狂犬ぶっといて、今更気取りゃしねえよ……俺は嬉しいんだぜ……?あの女にトドメ刺すとき、やっとあの人に礼が言えたんだからな……。……お前、こんな重いモン背負ってきたんだなァ……構えたとき、不思議と力が湧いてきた……、良い重みだった、っ……!(咳き込み、肩を支えられても力が入らない。自分を真っ直ぐ見つめてくるその瞳に苦笑いした。)……くすぐってぇ言い方すんなよ……自惚れちまうだろ……?……俺の目も随分見てくるしよう……いつもは、ロクに目ェ合わせねえくせに……(血の気を失った手でそっとゲラルトの頬あたりに指先を近付けた。)………隊長。ミラのところへ、行ってやってくれ……。俺の家にいるからよう……」
ゲラルト「弱い気持ちに流されるな。すぐに治療に……(珍しく焦りの表情を隠しもしない。マベの両脇の下から腕を回してその身を抱えるように支えて転移魔術を展開しようとするが、普段使い尽くすことなどないはずの自身の魔力も周囲の魔力も無く、たったそれだけですら発動できない。)駄目だ、お前はまだ……、(思わずマベの後頭部に手を回して強く抱き締めた直後、周囲の違和感にハッと目を見開く。)…………?(先程まですぐ傍で聞こえていたはずの歌が止まり、無いはずの魔力がゲラルトの中に新たに生み出されている。)」
マベ「……お前が焦ってどうする…、隊長だろ…ゲラルト…。(重くなっていく瞼に抗いながら、まだ感覚のある右手でその肩に触れた。)……ありがとうな。…一年前も…、俺の………、…って……、………。………約束、……れよ……。(自分を抱えるゲラルトになにかを伝えようとしているが、ほとんど聞き取れない。)………っ……。…………。(うわ言のように唇だけ動かし続けるが、やがてそれも止まり、なんとか瞼を閉じないように抗い続けていた瞳から光が消えた。意識を手放すと、ずる、と右手が肩から滑って落ちた。)」
ゲラルト「……ああ。大丈夫だ。約束は忘れていない。(意識を失ったマベの身体が重くなったのを感じ、しっかりと抱きとめる。どこか遠くを見つめたまましぱらく固まったにように動かない。)……感謝する。この礼はいつか、(誰かにそう一言だけ呟くと、転移魔術が発動して2人の姿は消えた。)」
(2人の姿が消えた後、再び歌が聞こえてくる。いつもよりほんの少し感情の乗った声色のそれは、彼女を弔うようでもあり、2人のこれからを見守るようでもある。ほとんどだれにも聞こえはしないその歌声が、どこまでも響いていた。)