11.新月の雨の夜

(建国祭から暫くの後、雨の降りしきる新月の夜。どこかにあるマベのセーフティハウスの一つ。部屋は独り暮らしにしては比較的広く、モノトーン基調の部屋にはトレーニング用の鉄棒や器具が置かれ、掃除も綺麗に行き届いている。
建国祭で”人間とは違う存在”に触れたマベは、その取り扱いについて判断を下すための身辺調査が行われる間、期間不明の自宅待機を命じられている。)

マベ「………、………、(薄暗い部屋の中、ギシギシと音を立てながら鉄棒にぶら下がって腹筋をしている。室内にいるため眼鏡もかけず、リビングテーブルの上には無造作に何種類もの目薬が散らばっている。)」

(雨の音に混じって、外に繋がる扉を静かに叩く音が聞こえた。普通の人なら聴き逃してしまうかもしれないくらい、控えめなノック音。)

マベ「(その僅かな物音にギシ、と音が止まった。色の不明瞭な目で玄関のほうを睨む。)………。(鉄棒から降り、歩きながらタオルを首に引っ掛ける。タンクトップにトレーニングウェアの軽装で、扉に背中を合わせるようにして立つ。)………誰だ?」

(コン……とまた一度だけ音がして、小さく女性の声がした。)

マベ「(目を細めた。)………控えめな女は嫌いじゃねえが。もうちィっと声を上げな。(左手を腰に隠したナイフへ回し、右手でドアノブにそっと触れ、勢いよく開け放った。)」

「…………。(ドアの横に壁を背にして立っていたが、ドアが開けられた後、正面に立って目線だけ見上げた。黒い長い髪に赤と水色のオッドアイの、まだあどけなさもほんの少し残る女性。大きいTシャツにショートパンツをはいた姿は部屋着にも見える。髪も服も雨で濡れ、ぽたぽたと水滴が落ちている。)」

マベ「……………?(その姿とびしょ濡れであることが容易にわかる水音に顔を顰めた。左手はまだ腰に当てたまま。)誰だ。」

ミラ「やっほー……Mのほう……。(すごくテンションの低い声。肩で息をしている。)」

マベ「(その言葉にはっとして左手を離した。)……ミラ!?お前、(何か言いかけて勢いを止めた。強い雨音が続いている。)………どうしてここがわかった?」

ミラ「私に隠し事はできないから。……。(1歩前へ出て、トンと腹部のあたりを片手で押した。)」

マベ「おい、ッ……。(触られてどこか苛立ったようにも見えたが、いつもより口数が少ないミラにそれ以上なにか言うことはせず。)………。………どうした。(低い声で静かにそう言った。)」

ミラ「……入れて。アンタしか頼れる人がいないの。(俯いた。長い髪が頬にかかり表情はよく分からない。それ以上は踏み込まないし、何も言わない。)」

マベ「…………。(耳をそばだて、ミラ以外の人気が無いかを確認する。ふと目を細めた。)…………。(ドアを右腕で支えながら身体を斜めにずらし、「入れ」と顎で中を差した。)」

ミラ「ありがと。(数歩進んで部屋に入った。ぽたぽたと落ちる雫を見つめたまま。ぶるりと一度大きく身震いした。)」

マベ「(後ろ手にドアを静かに閉めた。明かりをつけ直し、室内を明るくする。)………ちょっと待ってろ。(と言って玄関のすぐ横にある部屋に入り、すぐにバスタオルを持って出てきた。それを無造作にミラに放り投げた。)…飯は?食ったのか?」

ミラ「わ…(見事に頭にタオルがかかった。そのままぼーっと立ってる。)……いんや、それどころじゃなくて。(ようやくタオルから顔をのぞかせて。)部屋に帰ったらさ、めちゃくちゃに荒らされてんの。何か盗られたかなと思ったら後ろに誰か居てさぁ…。」

マベ「(話を聞きながら、テーブルの上の薬品をゴミを捨てるように片付け、足元の雑誌を拾い上げ適当な場所に放り投げた。)……顔は見たのか?」

ミラ「そんな余裕なかったよ。アンタらと違って私はそういう能力は無いんだって……。(全身を拭いて、水が滴るほどではなくなった。ひたひたと湿っぽい足音を立てて、珍しく遠慮がちに部屋に入ってきた。)……夜が開けるまで匿ってくれない。今日は新月でしょ。都合が悪いの……、(タオルに身を包んで、自分の両手で身を抱くようにして。)」

マベ「そうか…。俺達に邪魔されて、奴さん躍起になっちまったようだな(足音に、ちょっと困ったような顔をしたがすぐに背を向けた。)新月ゥ?………とりあえずシャワー浴びてこい。さっき俺が入ったとこがそうだからよ。(首にかけたばかりのタオルを鉄棒に引っ掛けた。)その間に、なんか作っといてやっから。」

ミラ「…私のせいだから。(ぽつりと吐き捨てるように言った。)新月の夜は能力が何も使えなくて。それも知った上で今日を狙ったんだろね。 あー……うん。寒いからそうする……。(落ち着かない感じできょろきょろして、言われた通りシャワーのある部屋にひたひたと歩いて行った。)」

マベ「(またそれか…。と心の中で呟いた。)タオルも服も好きに使ってくれりゃいい。…あ、ドア横の戸棚の中は見ンなよ!?(それだけは割と本気じみた声で言った。)………チッ、相変わらず汚ねえ手を使いやがる連中だ。…………。(ミラがドアの向こうに消えたのを見て、キッチンのほうへ。置きっぱなしの段ボール箱や冷蔵庫から何かを取り出して料理を始めた。)」

ミラ「え、何それ、フリ……?(ちょっとだけ笑った声が聞こえた。その後は喋り声は聞こえず、雨の音とも判別のつかない水の音がする。そこにほんの少しだけ歌っているミラの声がする。普段の喋り方からは想像しにくい、思ったより澄んだ歌声。)」

マベ「ちげえよ、バカ。(フンと鼻を鳴らし手元に集中する。卵を割り、チーズを削っていると歌声が聴こえてきた。)………………。(少しの間浴室のほうを見ていたが、再び作業に戻った。しばらくすると何かを炒める音と、水の沸騰する音が聞こえてくる。)」

ミラ「(暫く歌が聞こえていた。忘れた過去の日々、大切な人は何処へ、と聞こえたところではたと歌声は止まった。しばらく時間が空いて。)……うーん、仕方ないしいっか。(何か独り言が聞こえてきた。)」

マベ「……………。(胡椒のミルを手にしたとき、聴こえてくる歌の歌詞に目を細めた。)ン、………。………。(独り言に小首を傾げたがそのまま作業を続けた。)」

ミラ「ねえ、着るもの無かったから借りたよ。(その辺にあった長袖シャツを1枚だけ着た姿で出てきた。20cm程の身長差を感じさせる絶妙な丈感。)私の服濡れてたから干しといたけど………………、うわ、そういうタイプの人間だったの!?(素直に驚いている。)」

マベ「おう。(と、短く返事をしただけ。なんとなく顔を背けたような背けなかったような。)…あァ、勝手にしな。………なんだよ。俺が料理するのがそんなに可笑しいか?(しっしっと手を振るように、リビングスペースのローテーブルのあたりを差した。座れと。)」

ミラ「(全然何も気にする様子なく、指さされた場所に座ったが、その後でもそもそと座り方を直した。)意外だとは思ったかな……。おかしくはないよ、私みたいになーーーんもできない人の方が珍しいでしょ。(はじめて明るい声で笑った。) 」

マベ「寒くねえか?さっきの様子だと長い時間外に居たんだろ。(言いながら、湯気の立ち上る皿とペットボトルのミネラルウォーターを手に近づいてきた。)ハッ、なにもできねえわけじゃねえだろ?いっちょ前に仕事してたじゃねえか。……ほら。(ミラの前にペットボトルと熱々の皿を置いた。それは市販品ではなさそうな厚切りのベーコンがごろごろ入ったカルボナーラだった。)」

ミラ「んー大丈夫だよ、私いつも着てる意味あるのかないのか分かんないような服きて外歩いてるじゃん? 仕事は…今はそれなりに、かな。前は結構しくじってたし……、 わー。今日だけは素直に言うわ。おいしそ。(うふふ、と長い袖で隠れた手を口元にやって笑った。)」

マベ「なんだよそりゃ。服は自分で選んでるんじゃねえのか?(ク、と目を細めるようにして笑った。)………そーか。13歳で家飛び出して来たなら、ま、そんなもんだろうよ。俺もお前くらいの頃はそりゃ酷いモンだったぜ?(最後にフォークとスプーンを置いた。)…好きに食いな。(そう言うとキッチンへ戻り、冷蔵庫から自分用のミネラルウォーターを取り出して蓋を開け飲み始めた。)」

ミラ「だってほとんど仕事用の服だし。 ……ちょっとやらかし度合いが違うかもだけど。若かったし今みたいに器用にやれなくてだいぶ身を削ってたから…。 はぁーい、いただきまー…す…。(ちょっとソワソワと周りを視線だけで見回した。フォークだけで上手に食べているが、仕事柄なのか食べ方は綺麗。)」

マベ「俺の過去を見たときの服もか?まあ、仕事柄仕方ねえところはあるか。(ミラを横目で見ていたが、服の話や身を削ってきたという言い方に嫌なものを感じ取ってその目を細めた。)………お前、身体売ったことあンのか。(そう言いながら水を口に運ぼうとして、がりっとボトルを噛んでしまい)…う、わっ!!!(大きな声を出してボトルを放り投げた。)」

ミラ「13歳の女が何も持たずに家を出て、他に何ができるって言うの? 一応言っとくけど、今はもうお金積まれてもやんないから、売ってはいな…… わっ!?(目に見えるほどにビクッと身体が跳ねた。)な、何……?もー…、やめてよね……。」

マベ「(口を手で覆って冷蔵庫にもう片方の手を当て項垂れてる。)……悪りぃ。何でもねェ……あー…畜生…やっぱ鍛え直さねえと…(ぶつぶつ言っていたが、大きく溜め息をついて落ち着くと、ミラのほうへゆっくり戻ってきた。)………本当にやってねェんだな?(向かい側に腰を下ろし、片膝を立てて。打って変わって雰囲気が少し怖い。)」

ミラ「……? (いきなり雰囲気が変わって、少し怯んだ。)え、ああ、えーっと、お金もらってするみたいなのは、ない……。ていうか何聞いてんの……。もし今売り出し中ですって言ったら金出したの?(ぷいと顔を背けて。)やだなー、仕事の中身に干渉しないでくれる?」

マベ「(その言い分に、眉間に皺を寄せた。顔を背けられても意に介さず。)………どんな状況でも、やめとけ。お前はそういうことはやらねえほうがいい。(はあ、と溜め息をついて)出すも出さねえも売ってねえものには出せねえし、お前のことはそんな目で見ねえよ。…ただな、ミラ。(胡座をかき、ミラをじっと見つめた。)」

ミラ「…いまさら綺麗事言っても仕方ないよ。でも、……大丈夫。私だってしたくないからさぁ。だって男のヤるの、キモいじゃん?(冗談みたいに笑って)分かってる。そーゆー目で見られてそうなら、こんな風に頼ってないし…、 ……ん?何?(背けた顔、その視線だけおそるおそるマベの方を向いた。)」

マベ「そういうことじゃねーよ。……。(少し考えるように間を空けた。)……お前、自分のことしょーもねえなんて、もう言うなよ。自分の価値を正しく理解してねえ女は、客の男に食い物にされちまう。自分を安売りすんじゃねえ。」

ミラ「(珍しく黙って、ほんの少し悲しいような目をした。)でも私は…………、(言いかけた言葉を飲み込んで、)そうだ、あのとき私に”お前はお前だろ”って、………(もぞもぞと両膝を立てて座って膝を抱え、額をつけて。顔が下向いて全く見えなくなった。)…あれ、嬉しかった。……………ありがと……。」

マベ「ああ、言った。あの時はお前がずーっとカミラの子カミラの子って言うからよ…。…………ああ。(立ち上がってミラの隣に膝をつき、そっと大きな手で背中に触れてとんとんと何度か優しく叩いた。そして、その名を口にするか迷ったが。)………ゲラルトも、言ってたろ?謝る俺に対してだが、ミラは一人の人間だとか、何かの代わりじゃねえとか。」

ミラ「うん…あの時、かなり動揺してた。そのこと言ってなかったの……隊長に。なのにあんな風に知られちゃって。それに…………、(何か言おうとしたが、唇が震えてその先が言えなかった。)わかってるんだよ、私は私だって。でも 色々思い出しちゃうの。私が私じゃなかった時のこと。
あー……だからさあ、こういうときに優しくしたら駄目だって。私馬鹿だから勘違いしちゃうよぉ……(顔は上げない。かわりに膝を抱えている手の指先にギュッと力が入り、自らの二の腕に爪を立てた。)」

マベ「……イヤなら話すな。聞いちまうかもしれねえが、イヤなら話さなくていい。(ほんの少し顔を背けた。その時のことを思い出したのか顔を曇らせる。)…何だよそれ。お前、家で何が、………。(背中を叩いていたほうの手を引っ込め、自分の膝を押すようにして立ち上がった。)……なァーに勘違いするってンだ?俺は口が悪いしハッキリものは言うが、人並みの優しさくらいはあるつもりだぜ?おかげで人質になった奴等から感謝されまくりだ。……ほれ、さっさと残り食え。なんか温かい飲み物淹れてやっから。(スタスタとキッチンの方へ向かった。)」

ミラ「話す勇気が無かったってだけなんだよ、本当は。ふー……話してもいいけど、そんなの聞きたい?あーでも、あの人が話さないこと色々わかるかもね……もう無関係じゃないし。(ようやく顔を上げて、ぺたんと座り直して少し笑ってみせた。)……そうだよねぇ………、はーい。いやあ、落ち着かないわあ、人んちって。(いつもみたいに笑おうとするが、どことなく無気力というか。いつも通りにはいかない。)」

マベ「話したくねえことなんざ、誰でもひとつやふたつはあるもんだ。(食器棚から種類の違うマグカップを2つ取り出した。)あー、気になるよ。お前が話す気があるうちに聞いておきてえってのもある。(膝をついて低い戸棚を何個か開け、ミラのほうを振り返った。)……無理すんな。(何をとは言わない。)…悪い。茶葉を切らしてるから、コーヒーでいいか?」

ミラ「ふーん……。 そうだね、私は気が変わりやすいし。あの人は口止めされてるけど、私は誰にもされてないから……って言っても何から話したらいいんだろ。どうしよっかなぁ。(考えながら、お皿に綺麗にカトラリーを揃え、)ご馳走様でした。あ、やったーコーヒー好き。飲みたーい。(手を挙げた。シャツが腕に引っ張られて丈感が微妙なことになったが…、)」

マベ「本人の性格もあンだろ…あの野郎、土壇場で本ッ当に必要なこと後出しで言いやがったからな…(なんかちょっと怒ってる…。)……俺はお前達のことはほとんど知らねえ。隊長と口聞けるようになったのも、一年前からだしな。ってオイ!服!気ぃつけろ!(裾が一気に短くなったのを手で払うようにして指摘し顔を背けた。)………ま、そうな。まずはお前のことだろうよ。話せるとこから話してみな。」

ミラ「(ん?と自分の太ももを見て、スン…と手を下ろした。裾を両手で引っ張って膝上まで隠して。)私も似たようなモンだから人のこと言えないや……。えーと。私の母親は意図的に能力者を作り出す研究をしてたの。皆が”小鳥”って呼んでた子がいてね、それみたいな特別な女の子を作りたかったんだって。………私は、そのために生まれさせられたんだよ。(最後は少し声色も暗くなった。)」

マベ「……。(コク、と頷いた…。)”小鳥”…。……そういうことか。(粉の入った袋を取り出し、俯き加減になった。)…だからお前を攫おうとしたやつと、俺達が最後に戦った奴の姿が似てたってわけか…。(立ち上がり、コーヒーメーカーの前で色々と準備を始めた。)……でもお前、見た目が全然違うじゃねえか。ああいや、悪い意味に捉えんなよ?」

ミラ「あ…うん、カナリア…じゃなかった、小鳥は私とは似ても似つかないような、本当に美しい女の子だったよ。(少し苦笑いをした。以前見た少女の姿を思い出したのだろう。)私さ、いつも見た目違うじゃん?あれってそういう体質なの。多分、見た目も近づけたかったんだろうね。家に居た時は色々させられてたよ。結局見た目も声も、能力も全然あの子とは違ったから、……要らなくなったんだろうね。(どこか他人事のように。)」

マベ「……そうか……。(こちらも、どこか遠いところを見るように返した。なるべく感情を出さないようにしているようにも見える。)……要らなくなった?お前、自分から逃げ出したんじゃねえのか?」

ミラ「ん、そうだよ。誰にも言わずに家を出たの。でも、誰も追いかけてこなかった。それって要らないって言われたのと同じだよ……。別に、追いかけて欲しかったわけでもないけど……。(少し困ったような、寂しいような顔をした。) はー……この話したの、マベさんが初めてだよ……私の初めてをこんな形でもらってどーすんの?責任取れー。(はは、と冗談めかして笑った。)」

マベ「お前にとっちゃ、家は家だったんだろうよ。誰かの代わりなんざ、関係ねえからな。生まれてきた者にとっちゃァな。(少し経って、良い香りが漂ってくる。)…はァ?責任……責任ねェ…。…ま、機会がありゃ俺も何か話してやるよ。砂糖とミルクは使うか?(コーヒーをマグカップに注ぐと、2人分運んで来た。)」

ミラ「そうなのかもね。あんな奴どうでもいいって思ってたのに、やっぱり、ちょっと……、(俯いて長ーく息を吐いて、それからまた顔を上げた。)冗談だよ。私なんかに迂闊に話したらダメだよ。売っちゃうかも。 ううん、要らない。ブラックが一番、眠気飛ぶじゃん?」

マベ「母親のことか。…その気持ちは否定すんな。自分のこと自分で認められねえうちは、大人になれねえぜ。(カップをミラの前と自分の座る場所に置き、にやりと笑い返した。)ほー?マベ様の情報をか?いいぜ、いくらでも売れよ。大した話でもねえから、値段なんてつかねえって意味だがな。つーか寝ない気か?疲れてンだろ。」

ミラ「うーん……死んだらしいのは知ってたし、そうなんだろうなってどこかではわかってたけど。身近な人がっていうのは…(目を閉じて、またため息をついて)……つらい、なぁ…。 普通そこは嫌がるとこでしょ。嘘でも嫌がっといてよ。 (カップに手をかけて。)ありがと……。寝ようとすると色々考えちゃうから。今日みたいな暗い雨の日は特にね。」

マベ「(その様子に、自分も向かいに座ると視線を落とした。)………お前。ゲラルトのとこには行かなかったんだろ。行っても会えなかったかもしれねえが、………。(また黙って、自分のカップに手を伸ばして口をつけた。)嫌がりゃしねえと言えば確かに嘘になるが、マジで売る気じゃねえんだろ。それくらいわかる。……雨の日は嫌いか。俺も、大嫌いだったぜ。」

ミラ「行けるわけないじゃん。私、どんな顔してたか見えてたから。私の気持ちの整理がついたらそのうち会いに行くよ。でも、まだ無理そう。また泣いちゃうの嫌だし……。(苦笑いして。) ん、そうなの?聞かない方がいいのかな。(座り方を変えようと一度足を伸ばした。思いがけず足先がつんと当たるかも。当たらないかも。)」

マベ「………そうか。お前には見えてたのか。…またあいつの心抉っちまった。(ぽつりと。)お前も無理すんな。泣けるうちにどっかで泣いとけ。……んっ、(体勢を変えようとして、何かがどこかに当たった。ちょっとびっくりしたような声が出たのを呑み込み。)……俺、のことは、いいよ。お前はアレか。雨降ると家のこと思い出しちまうのか。」

ミラ「あー、私もあの人の心の傷、抉りまくったことあるよ。(何か思い出したみたいに。) え、やだ、私は激つよメンタル女子として生きてくから、泣くなんてらしくない。そういうの要らないの。 (伸ばした足を曲げて、片側に曲げて揃えた。)暗い日って気分も滅入って、何となく夢見も悪くなるでしょ。(と言う言葉とは裏腹に、ふあ、と欠伸がでかかったのを袖で見えない手で隠した。)」

マベ「……チョット可哀想になってきたな。(ふ、と苦笑いを浮かべた。)お前、あいつのこと恨んでねえのか。(言いながら、密かに触れたところに手を伸ばして自分の手で押さえてみた。)…どこが激強メンタルだ、跳ねっ返りが強いだけのフツーの女子だろ。本当に強い女になりてえなら、まずは自分の価値を正しく決めな。(そこまで言って、息を吐き。)……そうだな。視界は悪くなるし、雨で聴覚も嗅覚も鈍る。湿度も高いし、イヤなことだらけだ。(話が噛み合っているようで噛み合っていない…)」

ミラ「恨んでは……ない、かな。救われたことも何度もあるし。それこそ1年前の建国祭だってあの人がいなかったら私、普通には暮らせてないもん。(うーんと伸びをして。雨の音がますます強くなってきて、何となく窓の方を見た。)そっかぁ……。マベさんは、そうだよね。ごめんね、前に、見えなくてよかったなんて言っちゃった。 ……私の話はもういいでしょ?他、なんか聞きたいことある?」

マベ「…そうか…。じゃ、会いに行けるようになったら、そうあいつに言ってやってくれ。(そう言って俯き、少しの間黙りこくった。目を閉じ、雨音に集中しているようにも見える。ふっと瞼を開けた。)……いいんだ。見えねえのも、見えすぎンのも、しんどいもんだろ?(口の端だけで優しく笑ってみせた。)……正直言うとな。……聞くのが怖い。」

ミラ「大丈夫だよ。私なら5年はかからないから。 (はっと驚いたように顔を向けた。暫く黙ったまま、ただそうやって見ている)…………あ、……うん。………そう、だね。(またはっとして慌てて視線を外し)何のことだかちょっと予想つくかも。怖いなら、また今度でもいいよ。いつでも…話したげるから。」

マベ「……。お互い、苦労するなァ。(充血の残る、色味の悪い瞳を細めた。)……いや。……俺の心が弱いだけだよ。知ったら、なにかでけえものが変わっちまうんじゃねえかとか。そういう、余計なことばっか考えてよ。…そんなことねえだろうにな。(テーブルの上で手を組んだ。)……一年前、ゲラルトの奴が死にかけたろ。あのときなんだな?小鳥ってのが死んだのが。」

ミラ「私たち、対照的だね。……。..…不思議な人。(ぽつりと呟いたが、雨の音でよく聞こえなかったかもしれない。) そうだよ。1年前くらい前の、……あれも新月の夜だった。」

マベ「(聞こえたのか聞こえなかったのか、遠くを見たまま何も言わなかった。)その時もお前が力が使えない日を狙ってきたのか。……あいつにとってみりゃ、悲願みたいなもんだったろうに。たった一人でやりやがってよ。それが、今になってこういう形で戻って来るとはな。(肝心の部分を言わずに淡々と喋り、目を閉じた。)」

ミラ「……、(一瞬、何か顔を顰めたがほんの気のせい程度なので気が付かないかもしれない。)……。……マベさんさぁ、今日、雨の音以外に…なんか聞こえる?(全然関係ないような、漠然とした問い。)」

マベ「あ……?(目を開けて怪訝そうな顔をした。)……ちょっと待てよ。(組んでいた手を離し、聞き耳を立てるように少しだけ首を傾げた。)………ああ。誰かの話し声だろ?たまに聞こえるんだよな。(何でもないといったふうにそう答えた。)」

ミラ「(驚いてまた視線を真っ直ぐ向けて。)聞こえるの?その”歌”、隊長も聞こえるんだって。 …小鳥と接触できるのが新月の夜だけだったんだ。1人で戦ったわけじゃないんだって。私の分と、……お父さんの分も背負って。……本当にたった一人なら、勝てなかったと思う、って。(少し詰まりながら、言葉を慎重に選んでいる感じで話した。)」

マベ「歌…?(言われてはっとしたように。)……これ、歌だったのか。そういや一人の声しか聞こえねえ。何で、今まで気づかなかった…?感知は、ちゃんと……、(困惑した表情を見せていたが、続くミラの言葉にはっきりと驚愕のそれに変わった。)……あいつ、……そんなこと言ってたのか……。」

ミラ「人の声じゃないらしくてね。人間の域を越えると聞こえるんだって。 (少しだけ、柔らかく笑った。)そうだよ。帰るとこがあったから、生きて帰らないとって思ったんじゃない。自分はさ、それで残されちゃったわけでしょ。同じ事しないって……思ったんじゃない。 ……っあぁ~…だめ…この話するとさー……(ばっと顔を両手(両袖)で隠した。)」

マベ「いや待てよ、何だよそれ。人間の域をってなんで俺が…、ゲラルトに聴こえるのはそりゃわか、………!!(何かを理解した。だが続くミラの言葉に今はぐっとそれを呑み込んだ。)………、ハハ、ッ…(困ったような顔で笑い、俯いた。)俺、あいつに、一人で…一人でやり遂げたって…ずっと言ってた。そうじゃあなかったんだ、な……。あの馬鹿……だったらそう言えよ……ホント大事なこと言わねえ人だなうちの隊長は…なぁ…?(乾いた笑い。ぐっと深く深く、俯いた。)」

ミラ「どこを帰るところだと思ったのかは知らないけど。だって行く前に見送ったのは私なのに、終わったあと私らのとこにはすぐ来なかったんだもん。そっちに居たんでしょ?(思い出して、少し苦笑い。) ……生きたいと思ったんだろうなあ。……あぁ。やだー…この間もう絶対泣かないって決めたのにさぁ。思い出しちゃうんだよね、”あの人”の……、(顔隠したまま。鼻をすする音が聞こえて) ごめん、ティッシュを2枚ほど……」

マベ「そりゃあいつ死にかけてたから、ずっと病院のベッドの上にいたぜ…?隊長がやべえっていうから俺、居ても立っても居られなくなってさ…。………。………一刀さんか。…あ?ああ、ハイ……待ってな……(ベッドの近くに放り出されていたティッシュを持ってきて箱ごと差し出した。)」

ミラ「ま、そこは本人にしか分からないね。聞きもしないよ、どうせ話さないだろうから。 ……あぁ、うん。あの人の最期を見たんだよね。あの記憶辿るのキツかったなぁ。暫くは思い出す度に吐いてたわ……。 わぁ。意味ありげなとこからやってきたねぇ君……(顔を隠したまま片手を伸ばす。ちゃんと見てなくて、ミラの指先が差し出された手に触れてしまった。) わっ……、(で、手を引っ込めた。)」

マベ「だろうな……(困ったように笑った。)……隊長から聞いたよ。もしあの人の最期を知りたいならお前に聞けってよ。やめとけ、とも言われたが。………は?なんだよ人がせっかく…意味ありげなとこってなんだよバ、カッ!?(手に触れられ引っ込められた。)………おい。なんか見たのか?え?」

ミラ「覚悟がないなら聞かない方がいいよ。少なくとも今はやめといたら……? ……え~そのまんまの意味だよ。そらそうだよね。(もう1回手を伸ばしなおして、今度はちゃんと紙を掴んで。)……いや、なんも。……。(俯いて目とか鼻とか拭いてる。長い髪で顔が隠れていてよく見えないが、ほんの少しミラの女子らしい匂いと、この部屋の匂いが混ざったが匂いがふわりとした、かも。)」

マベ「覚悟か…。いつかは知りてえって思ってる。俺もあいつと同じものを背負っていかなきゃなんねえし。ただ今は、そうなァ………一個だけ、聞いておきたいことがある。(ティッシュを掴んでゴソゴソしているミラを見て)……本当に今夜は能力が使えねえんだよな?え?いやまあ別にいいんだけどな、………っ(鼻先をくすぐる匂いに若干狼狽えた。乱暴にティッシュをテーブルに置くと、背を向けてそこらへんにドカッと座った。)」

ミラ「じゃあ、そのいつかが来たら教えて。また泣いちゃうと思うけど、その時だけは許してね。 ん~……?そうだよ。何で……?(ぎゅ、と手を胸の当たりで握って、息を大きく吸って、吐いた。)」

マベ「………なあ。あいつは一刀さんがどういうふうに死んだか知って、泣いてたか?(背中を向けたまま。)……いや。なんか見えたのかと思っただけだよ、いきなり『わっ』とか言うからよ…」

ミラ「……泣かなかったよ。あの時さぁ、私、ちょっと隊長のことカッコイイって思っちゃった。 え?………あ…。いやいや見ないって。私、22歳のうら若き乙女だもん。(少し笑い声が漏れた。) あ~、何?それとも、見て欲しかったの?(笑) (パッと上げた顔はいつも通りの表情に戻っている。手をうんと伸ばして、その背中を人差し指でつんつんして。)」

マベ「(その答えを聞いて、ふっと大きく息を吐いた。微かに笑ったようにも聞こえたかもしれない。)……そうか……。おう、あいつはイイ男だぜ。いけ好かねえし大事なことは言わねえし、悪趣味なとこもあるけどな。(背中は向けているが、どこか雰囲気が変わった。)ハハッ、そうだな。お前はまだまだ若けーよ。せいぜい仕事に励み、(ミラの雰囲気の変化にそろそろ振り向こうかと思った瞬間、背中をつんつんされて。)わ、ッ…!?(背中が跳ね上がった。珍しい。ばっと振り向いて、)こンの、バッ…!!くすぐってェだろ!?(怒った顔がちょっと赤い。)」

ミラ「好きだね、あの人のこと。(それだけ。でも少し嬉しそうに聞こえたかもしれない。) 仕事ねえ。辞め時は考えなきゃだけど、今更他に私にできることって……、……(にやりと笑った。)ね、どうしたの?いきなり背中向けちゃって。うふふ……、おっきな背中してくすぐったがりなんて、マベさんにもそんな可愛いとこあるんだね?(人差し指を空中でくるくる回して、悪戯っぽく笑った。)」

マベ「……まあな。(目を細めてニッと笑った。)あ、の、なぁ?俺は視力に頼れない分他の感覚を鋭くしてッから、いきなり触られるとびっくりしちまうんだよ。…ああクソ、不意打ち食らっちまった、不甲斐ねえ…男をカワイイとか言うんじゃねえよ…(頭をがりがり掻いた。)」

ミラ「うんうん、そっかぁ~。それはそれは、イイコト聞いちゃった。(上機嫌で、そのままちょっと赤くなった頬をつんつん(するふり)しようとしてる。もう片方の手は自分の着ている服の裾をぎゅっと掴んでいる。)今日の私はある意味最強だからね。触ってもなんも見えないんだもん。新月の夜は色んなことが起きるからねー。(楽しげに笑っている。さっきまでの取り乱した自分を誤魔化しているようでもある。)」

マベ「(つんつんしようとするミラ(の指)ほうを目だけで見た。)……あと2秒同じことしたら指に噛みつくけど、いいのか?ほれ、2、1…(真顔で冗談を言った。ちょっと口を開けようとしてる!)……。……触っても見えねえ、か。今まで月の満ち欠けなんざ気にしたことなかったが、俺にもなんか起こるんだろうかね。(視線を落とし、自分の手を見るように手のひらを広げた。)」

ミラ「こういうときの「やるな」って「やれ」ってことだよね? あーはいはい、絶対そんなことしないくせにね。(つん、と最後に1回だけ本当につつこうと。) さあ。私は変化が大きいから嫌でも意識しちゃうんだけど、そうでないとあまり気にしないかもね。私は新月の日は仕事もできないし、いつもは誰にも会わないんだけど……、案外悪くないかもねー、こういう日も。」

マベ「いーや?思いっ切り噛み付いたぜ。ま、お前にはやんねーよそんなことは。安心しな。(つつかれるのをすんなり受け入れた。少し、目つきを鋭くして笑っている。)新月の日はお前の公休日ってことだな。…そう思えンなら、今日みたいな日でも大丈夫だろ。(窓の方を見て。)相変わらず止まねえな…。このぶんだと朝まで止みそうにねえな。お前、ここを出たらどうするつもりだ。アテあんのか?」

ミラ「そりゃそうだよ。そんなんされたら平手打ちじゃすまないよ?社会的な死を受けてもらうわ……。 私の休みの日少なくない?隊長よりはマシかな?(おかしそうに笑った。いつもみたいに口元に手を当てて。) 荒らされた部屋には戻らない。荷物置いてるとこあるから昼間そこ行って……、その後はどうにかするよ。朝までに考える。」

マベ「おーおーそりゃァ怖いですこと。(ニヤニヤしている。)あいつ今頃昼夜問わず働かされてンだぜ。…ったく、俺達を何だと思ってやがるんだか。不死身じゃねえんだぞ。…っあー。(伸びをして、少し考えた。)……まあ、朝までって理由は特にねえよ。どうするか良い考えが出るまでは、ここにいろ。」

ミラ「アンタらは国王の犬だから当然でしょ?私はそうじゃないから自由にやれるし、上手に使ってよ。金額次第だけどね。(つられるように、また袖で隠して欠伸を噛み殺して。)いやいや、居たら色々不都合なこと……、あるでしょ。私は遠慮なく人を利用するタチではあるけど、あんまり甘えてばっかは駄目かなって。」

マベ「俺は国賊は許さねえしゲラルトには従うが、飼い主をぞんざいに扱う奴に振る尻尾はねえよ。(面白くなさそうにカップに手を伸ばし、冷めたコーヒーを口に運んだ。)……まあそうなんだがよ。一人で早朝から外に出られても困る。お前、日中はアテがあんなら、人気の無くなる夜間はここで寝泊まりしろ。”一階”を貸してやっから。…それが最善かなァ。(頭に手をやり、宙を仰いだ。)」

ミラ「隊長は存在自体が機密情報に触れてるから、生かしてもらってるだけマシなんじゃない。 ……うーん…まあ、あれをアテにしていいのかどうかは微妙なとこだけど。……昼間だけならいっかぁ……。(最後は独り言のように小さい声で言った。)何、もしかして、心配してくれてんの? ……は?1階?」

マベ「…………機密情報。(低い声で復唱した。)…本当に大丈夫か?お前危なっかしいからなァ…。は?もしかしてって何だよ。心配してるに決まってンだろ。(何を今更、という顔。)おう。下の階…っと、誰にも言うんじゃねェぞ?(ついてこい、と手で。キッチンの床下収納のほうへ歩いていく。)」

ミラ「……あ、そっか。あの能力、普通じゃないでしょ?本人に聞いたらきっと答えると思うよ。 (ちょっと複雑な表情をして、片手で顎の辺りを触った。)ん、大丈夫なんだけど相手が私に惚れてるの知ってるからなぁ。よく脱がされるし……。 ……私の事信用しすぎじゃない?(ちょっと笑って、立ち上がってついて行く。)」

マベ「……俺が聞いていいものなのか、それは。気にはなってたが、聞いちゃいけねえ気がしてずっと黙ってたんだ。(険しい顔をした。)………あー。……そういうことねえ。へえー。金は取らねえのか。(振り返りすらしない。)……信用って、そりゃお前、(そこだけは振り返って少し笑って。)俺とあいつとの仲を取り持ってくれた恩人だからよ。(床下収納部分の取っ手を持ち引き上げた。中を覗くとその下からは階下の床が見え、降りるための滑り棒が伸びている。)」

ミラ「マベさんには隠す必要なくなったからね。他の人には話さないはずだよ。 へ?金?…あー、違うの。そういうやましいのじゃなくて……、……。ん。(続く言葉に、誤解を解くための言葉が途切れてしまった。照れくさそうにしただけで、何も言わない。)わー何これ?下の階の人のストーカーしてるみたい。(膝をついた状態で下を覗き込んでいる。)」

マベ「必要なくなった?…ああ、建国祭のあれでか…。隠す必要がないからって話してくれるような内容ならいいが。………ん?なんだよ。…ま、お前がいいってんならいいけどな。(よくわからないが、まあいいかという感じで曖昧にした。)すげえだろ?この家は一階と二階を繋げてあンだ。間取りも家具の配置も全部同じにしてある。お前、下の階を使えよ。(ストーカーみたいと言われ、微妙な顔つきになり。)……別に覗かねえからな。」

ミラ「(曖昧な言い方に一瞬きょとんとした顔で見たが、すぐに別のことに気がいって、)なんかあった時のためってこと?すごい変態的なことするね。これって棒で降りるしかないの?私、今パンツ履いてないし、ちょっとなぁ……。 へ?覗きたかったら覗いたら?(笑)」

マベ「俺は恨みをたくさん買ってるからな。(むしろそれを愉しんでいるように笑った。)用心に越したことはねえよ、実際に別の家で大立ち回りしたこともあンぜ。………お前な、(ハァと大きな溜め息。)そういうの言わなくていいっつーか、もっと言い方あンだろ?覗きたけりゃ覗けって言う割に下着ナシで下りるのはイヤってどういう…。…ま、いい。別にこっち(上階)でもいいが、俺が毎日使ってるベッドだぜ?」

ミラ「一緒一緒。だから私もホテル暮らししかしないんだもん。(つられて笑った。) ごめん。言わなきゃバレないから言うつもり無かったんだけど、ほら、なんか…どうなの?棒を挟む感じ…w(言いながら笑ってる) そんなの気にしないけど、あーいや……、私どうせ寝ないから。」

マベ「(少し真面目な顔になり)………お前。いつか足洗いな。(それだけぽつりと。)……あー……。まあ…そうな……ってか懲りねえなお前はよww今もっと言い方あンだろって言ったばかりなんだけどなァ?(呆れもあるがほぼ笑っている。)……寝ない?なんでだよ。」

ミラ「……。……んー、(そこだけは聞こえないフリ。) いやいやごめんって。こういうくだらないことで笑ってくれるとこ、好きだよ。(おかしそうに笑ってる。)っふふ……あーウケるわ……。 え?不安……じゃなかった、 元々あんまり寝ないんだよね。ちょっと不眠気味っていうか。」

マベ「(特にそれ以上何か言うわけでもなく。)ま、女には棒一本じゃキツいわな。俺が訓練も兼ねてそうしてるってだけで、梯子下ろしてもいいぜ。………そうか。眠れねえのはわかったが、せめてベッドで横になりな。身体が休まる。」

ミラ「そだね、その辺の女の子よりは鍛えてる自信はあるんだけどちょっとね……。(今の今まで笑ってたのに、ふと笑い声が消えて)……あー、あのさあ。めちゃくちゃ迷惑かけてるのわかってるんだけど、わかった上で、ひとつだけお願いしてもいいかな。(長い髪の先を指先でくるくると触って。)」

マベ「ああ、仕事に関しちゃお前は確かに一級品だよ。ちィとばかし危なっかしいけどな(困ったように笑ったが、ミラが笑うのを止めたのでこちらも真顔に戻った。)……おう。言ってみな。」

ミラ「あは……、ありがと。何かそれ、あの人にも同じこと言われたよ。 うーん……。……。……今晩だけさぁ、同じ部屋に居ちゃダメ?絶対邪魔しないし、端っこに置物みたいに座ってるだけでいいから。 ……なーんてね。(断られた時の保険なのか、へにゃっと笑って。)」

マベ「ほー。そりゃ最大の褒め言葉だろ。………。(ミラの頼みを聞いて、真面目な顔で少しの間黙った。雨音は、まだしとしとと続いている。マベがこんなに黙るのは珍しい、と思うほどの間沈黙していたが、口を開いた。)……いいよ。」

ミラ「……っ、(なぜだか息が詰まった。思わず顔を背けると、長い髪が頬にかかって表情を隠してしまう。)…………あ、の、 ……あっ、あ、履いてこよ!乾いたかな!(ぱっと立ち上がって。)」

マベ「………おう。(こちらも顔を背けた。そのまま立ち上がって後片付けをし始める。)……バァカ。そういうこといちいち口に出すなって。」

ミラ「はーーい。3回も同じこと言われちゃった。(ぺたぺたと風呂場に向かった。) やだなぁ、独りなんて慣れてんのに。何言ってんだろ私……(多分聞こえない独り言。ミラがいた場所に、また2つ入り交じったなんとも言えない香りが残っている。)」

マベ「滑って転ぶなよ?毎回なにかやらかしてるからなお前は。……。(後片付けが終わると、黙ってテーブルの前に腰を下ろした。雨の音にじっと耳を傾けている。)」

ミラ「あのさぁ、たまたま重なっただけで私そんなドジっ子じゃないんだから……(今度は何も言わずに帰ってきた。立ち止まって少し考えてから、2人分くらいのスペースを空けた隣に三角座り。)……雨、止まないねぇ…。」

マベ「そう言われてもな。初対面のときに”びゃっ”て声聞いた女はお前が初めてだぜ?(戻ってきたミラを見た。自分の少し離れたところに座ったのを見て。)ああ…。……ベッドに行かなくていいのか?身体、冷えてねえか?」

ミラ「もー、またそれ言う……いい加減そんなかっこ悪い私忘れてさぁ、アップデートしてよ……。(立てた両膝に腕を乗せて、その上に頭を乗せて。暫くそのまま間が空いた。)んー…、手足の先だけ。でもさ、それ、……として…………れない、、? (くぐもった声でよく聞こえないところが多い。)」

マベ「かっこ悪くはねえよ。面白いからいいじゃねーか。(目を細めてク、と笑った。)………ん?なんだって?(聞き取れず身を乗り出した。)………ミラ?(できるだけ優しく小さな声で、名前を呼んでみた。)」

ミラ「……うん……?ここだよ……。……こっち。(返事が全然噛み合ってない。)」

マベ「(噛み合わない返事に、普段あまり見せないような柔らかい表情をみせた。)…なァんだ。眠いんじゃねえか。(ふ、と小さく笑う。こっちと言われ、すぐ隣まで近付いて。)………そこで寝んな。風邪引いちまうぞ。な?(聞こえなければそれでいいしそこで寝てもいいよ、とでも言うように。)」

ミラ「……ん、……。……いいよ。(何に返事したのかよく分からないが、その先は穏やかな寝息が聞こえるだけ。もう夢を見ているのかもしれない。)」

マベ「………あーあー。可愛い寝息立てちゃってよォ(屈んで少しの間ミラを見ていたが、)……どーせ寝ぼけてぶっ倒れた拍子に頭ぶつけて飛び起きンだろ?知らねえからな、俺はよ。(と言いながらベッドにたたんであった毛布を持ってきて、ミラを包むようにかけた。)…おやすみ。ミラ。(立ち上がって明かりを暗くし、自分はミラから少し離れたところに座って、まだしばらくそこにいるつもり。)」

ミラ「(暫く後、言われた通り体が斜めに傾いて倒れそうになるが、自分でもそもそと毛布にくるまって床に横たわった。少し離れて座っているその先に、ミラの長い髪がほんの少し触れたかもしれない。)」