(上階、オークション会場の扉の前。中からはざわついた声が聞こえてくるが、誰もエントランスホールに出てくるものはいない。)
ゲラルト「(その前で立ち止まっている。)…やはり、中にも多少聞こえていたようだな。」
マベ「(手すりにもたれかかり、腕組みしている。)そりゃまァあんだけド派手にぶちかましたんだ、無理もねえわな。(中の声の多さにまだ血のこびりついた目を細めた。)…大入りみてえだな。クソどもが…。」
ゲラルト「ここからはお前の仕事だ。私は口出ししない。お前のやり方でやれ。(くっと一度、顎で扉を指し示した。「早く入れ、」という合図。)」
マベ「へーい。いい加減外の連中も焦れったくなってンだろうしな。(戦闘中とはまた違った笑みで顔を歪ませた。)ーーー行くぞ。(言うが早いか、重厚感のある扉を勢いよく開け突入した。中の空気が急速に入口へと流れ込み、髪を大きく揺らす。)」
(中にいる人間全員が一斉に入口の方を見て、騒がしかった場内が一瞬しんと静まり返る。1人がぽつりと「あいつは……」と呟くと、また誰かが「ついに来たか……」と言葉を漏らした。)
マベ「(大袈裟に二度、手を叩いた。乾いた音が場内に響き渡る。)お集まりの自称・紳士淑女の皆々様!!本日一番の目玉商品のご到着だぜェ!?ご存じの方もそうでない方もご注目、なぁんてなアァ、アハハハハハハ!!(下品な笑い声を上げながら、会場の真ん中へ進み出る。一見滑稽に見えるがその威圧感は凄まじい。)」
「(その内の、主催者側と思われる男が狼狽えた様子で口を開く。)お、お前は……、何の用だ!? ここは美術品のオークション会場だ。お前が”取り締まり”に来るような場所では無い!!」
マベ「残念だがその言い訳は通用しねェぜ?下の階の人質は全員救出した。もう逃げ場はねえよ。
ウライオス所属、”札付きの狂犬”マベ・マヘス様が、この場にいる全員を連行する。(片目を細め、凶悪に笑った。)さーァ、両手を組んで膝立ちで泣きながら舌出して許しを請いな?上手にできた奴から本部へご招待だ!……っとォ。その前にひとつ、俺からプレゼントがあるんだったわ。」
(その名を聞いた途端、場内がまたざわついた。がくりと膝を着いて項垂れる者もいれば、勢いよく席を立ち逃げ出そうとする者もいる。)
「(客と思われる男が怒鳴った。)お前などにはわからんだろう野良犬風情が!どれだけこのオークションの”商品”に価値があると思っているんだ!!軍隊風情が出しゃばる幕はない!!とっとと出て行ーー」
マベ「(右手を天に突き出した。会場全体の空気に圧力がかかり、一般人なら床に叩きつけられ起き上がれないほど。)……うっせェな……ちっと黙ってろクソ豚野郎どもが……(ぎり、と歯噛みして主催者らを睨みつけた。)」
ゲラルト「…………軍隊風情、とは… ウライオスも随分舐められたものだな。(低い声で言いながら、少しゆったりしたペースで入ってきた。)」
(うめき声の響く会場内で、またどよめきが上がった。「今度は誰だ…!?」「いや…まさか…!」とその反応は様々。一様に皆、ゲラルトのほうを見ている。)
マベ「今日は建国祭にちなんで俺達から特別サービスをくれてやるよ。(ゲラルトに道を譲るよう横へ移動した。)泣く子も黙る、ゲラルト・シェズム隊長のお出ましだぜ?お前ら、その顔たァァっぷりおがんでおきな。良い冥土の土産になる。(平伏すしかない者達を見下ろし、口の端を吊り上げて嘲笑った。)」
ゲラルト「(マベをチラリとだけ見て、小さく溜息をついた。前へ出て。)逃げようなどと無駄なことは考えるな。お前らを1人たりとも取り逃すつもりはない。 大人しく捕まるか、ここで死ぬか、今すぐ選べ。」
(「ゲラルトって…嘘だろ…!?」「あぁ…終わりだ…!」そんな声が会場のあちこちから聞こえた。先程軍隊風情と罵った者も、呆然として床に這いつくばっている。)
マベ「ちったァ黙りやがれ!!めでたい国の行事を隠れ蓑に毎度毎度汚ねェ真似しやがって……悪趣味野郎共が……(眉間に深く皺が刻まれるほどの怒りを低い声色に湛えた。数秒して、ふっと雰囲気が柔らかくなり)……隊長。ここで死にてえ奴、いないみたいだぜ?」
ゲラルト「そうか。こんな薄汚い悪趣味野郎共でも、少しは考える頭があるようで何よりだ。(ひとつも表情を変えずに、淡々と。) …全員確保しろ。」
マベ「………了ォォ解!隊長ォ!(狂ったような嬉しそうな笑みを満面に浮かべた。)
ーーーーーーーー!(何かを取り出し、上を向いて口に咥え、息を吹き込んだ。音の鳴らないそれは、犬笛だった。人間の聴き取れないその音はマベの起こしている風に乗り、確かにそれを合図と受け取った隊員達が、会場のあらゆる出入り口から流れるように突入してきた。)」
(いつの間にマベによってかけられていた圧力が消え、一人、また一人と隊員達の手によって確保されていく。)
ゲラルト「(暫くその様子を黙って見ていたが、全員確保出来たらしい様子を見て表情ひとつ変えずに来た入口へと向き直った。そして黙ったまま歩き始める。)」
マベ「尋問は俺が直々に行う。覚悟しとけよ?ドサンピンども!!(捕縛される主催者らを高い背を屈めて見下しながら、べ、と舌を出し中指を立てた。と、立ち去ろうとするゲラルトに気付き)……あァ、ゲラルト隊長。少し待っていただけますか?」
ゲラルト「(その途中、一度足を止めた。)……。(振り返りもしなければ、喋ることもない。)」
マベ「おい、お前ら。(マベが短く声をかけると、確保を終えた隊員達が素早く整列し、自身はその先頭に立った。)
…ここにいる全員に代わって、俺から礼を言わせてもらう。隊長のご助力に、心から感謝致します。………敬礼!(全隊員の挙手が短く空を切る音が、一糸乱れずに響いた。)」
ゲラルト「……ご苦労。(短くそれだけ言うと、入ってきた入口を出て歩いていく。)」
マベ「…………。(ふっと息を吐くように笑った。ゲラルトが退室したのを確認すると振り返り、)…今日は長らくお預けだったからなア!好きに暴れていいぜ、お前ら!(そう言うと後処理を他の隊員達に任せ、ゲラルトの後を追いかけた。)」
(―― その少し後。建物を出たところ。)
(外にいたウライオスの隊員たちや開放された人質などが居る上、その様子を遠巻きに見ている野次馬などもいて、周囲は騒がしい。)
ミラ「だぁーかーらぁ!!!私は違うんだってば!!離してよ!!(…その一角で一際騒がしく喚いている。)」
ゲラルト「…マベ、この件は戻ってすぐに報告だ。誰にかは、わかるな。(建物の中から歩いて出てきた。後ろにいる人に話しかけている。)」
マベ「ああ了解……俺あの人苦手なんすけど…。パンドラの箱に頭から突っ込んじまった気分だぜ…(ゲラルトの後に続いて出てきた。他の隊員の耳打ちを聞きながらちゃんと返事をしつつぼやいている。)」
ミラ「(2人の姿が見えた。一瞬、ほっとしたような、なんとも言えない複雑な顔をして。)あっ……、マベさん!隊長! おかえり…、無事だったんだね…、 ……じゃなくて!!アンタら部下に事情ちゃんと伝えてないの!?見てよこれ!!!!(手錠を掛けられた手を見せて)」
ゲラルト「気にするな、私もだ。(そこまで言って、ミラに気付いた。) ……。……。……何やってるんだお前?」
マベ「あんたにも苦手な人っているんだな(可笑しそうに笑ったところでゲラルトに続きミラのほうを見た。)おー、ちゃんと一発派手にぶちかましてきてやったぜ。…………ぶっ(思わず吹き出しそうになり、)…あれ…隊長……外の奴らに話、してなかったんすか…?」
ゲラルト「……いや。どうだったか忘れたな。(首を傾げて誤魔化した。)」
ミラ「もう!!私まで悪いやつだと勘違いされてんの!!ちゃんと説明してこれ外させてよ!!💢💢(ばっと立ち上がって2人の方へ行こうとしたが、隊員に腕を掴まれて尻もちをついた。)ぎゃんっ……!!」
マベ「俺も忘れてるわ。なんせ取り込み中だったもんで(肩を竦めた。)………いやお前、悪いか悪くないかって言われたらそりゃ(尻もちをついたミラにきょとんとして、一瞬止まった。)………ぶっ、ははははははは!!おま3回目!!3回目だぞ俺の前でコケたの!!(耐えきれずに爆笑した。他の隊員が呆気に取られている…)」
ミラ「(思わずぎゅっと足を閉じて、)あ、の、さあ、笑わないでくれる……!? 取り込み中♡じゃないよ男同士でイチャついてるの見せつけられてさあ、外出たらこの扱いだよ!?私の身にもなって!!ほら!はーやーく!!(手を掲げて早く取れアピール)」
ゲラルト「……似合うぞ。そのまましばらくつけておいたらどうだ。(冗談なのだろうが、いつもの無表情なので全然冗談になってない)」
マベ「イチャついてる…?なんのことだ?(※本気でわからないらしい)ハハッ、ちょっとでかいプラチナリングだな!お相手様によろしく、なんてなァ(ニヤニヤ笑っているが、ミラの後ろにいる隊員に外してやれと目配せした。)」
ミラ「いや、つけたのこいつ(後ろにいる隊員)じゃん!!全っ然好みじゃないわ!!! (手錠を外された腕を見て、)あーもう……跡ついたぁ……。(立ち上がって駆け寄り、マベの後ろに隠れるみたいにして自分に手錠をかけた隊員に向かって、)サイテー!あんた女子の扱いクソすぎるから絶対モテないわ!!」
ゲラルト「……。……、(ほんの少し、視線がそっちを向いた。何も言わない。)」
マベ「そりゃこいつ(隊員)にも選ぶ権利はあるぜ?悪かったな。ご苦労さん。(自分の後ろに隠れたミラに困ったように笑い、二人に向けてそう言った。)……。……さってと。超行きたくねえが、俺と隊長はこの件の報告に行かなきゃなンねえ。(ゲラルトに視線を向けた。)隊長、傷はもういいのか?」
ゲラルト「問題ない。隊員にこの後の指示を出したらすぐに報告に向かう。 ……ミラ。お前は暫くの間、なるべく安全な場所にいろ。(また歩き出した。そのまま振り返る様子は無い。)」
ミラ「はぁーい……、言われなくてもそうしますよー……。(少し俯いて、また顔を上げ。) それじゃ、お疲れ様。 ……”またね”。(口元に手をあてて、ふふっと笑って、手を振ってから歩いていく。そのうちに周囲の人混みの中に消えていった。)」
マベ「おう、今度飯食いに行こうや。(それだけ言ってしばらくミラを見送った。彼女が人混みの中に消えるとふと複雑な表情を浮かべ、祭りの賑わいを映すような空を見上げた。)…………箱の底は、まだ当分見えなさそうだな。(そう呟くとホルスターに一本だけ残されたナイフに触れ、ゲラルトの後を追った。)」