07.「建国祭」人質解放 SideS

(同時刻、また別の場所。)

(広い部屋に、身綺麗な男がぽつんとひとり座っている。何をするわけでもなく組んだ両手に顎を乗せ、そこにただ座ったまま。)

(静かに扉が開く音がして、男が振り返る。)

男「ようやく手に入りましたか? 彼女なら言い値で買いますよ。いくらでも――、(言いかけたところで、その先にいた人物をようやく認識した。言葉が自然と止まる。)」

ゲラルト「(何も言わずにそこに立っている。少し細めた目が鋭く目の前の男を貫いている。)」

男「貴方は、小鳥を殺した、……(その目に貫かれて、本能的に立ち上がって1歩、2歩と後退りした。)」

ゲラルト「……だとしたら何だ?(少し首を横に傾げた。表情は全く変わらない。)」

男「…貴方を逃がしたのは我々の最大の失敗だった、ということでしょうね。(また1歩、後退りして。)」

ゲラルト「(男の言葉を丸ごと無視して、)あの男が死んでから、特殊能力者はこういうやり方でしか仕入られなくなったか?」

男「…その問いかけに答えるメリットは?(口先だけで乾いた笑いをして見せた。目は全く笑っていないが。)」

ゲラルト「お前の返答の仕方次第だ。(僅かに目を細め、左手の指先だけがぴくりと動いた。)」

男「(その返事の意味が理解できないわけではない。顔が引き攣った。)……。この方法をとっているのは、我々は魔術師なら、能力者なら誰でもいいというわけではないからです。確実に欲しいものを手に入れるために……、」

ゲラルト「(はっと左耳を抑えた。これまでぼんやりと耳に入っていた”向こう”の音声に意識がいく。)……どういうことだ。(男の話を最後まで聞かずに、言葉をかぶせた。)」

男「(少しほっとしたような表情をした。)貴方の連れのことですよ。ちょうど罠にかかりましたか?」

ゲラルト「(聞こえてきた会話に、驚きの表情をハッキリと出した。)……カミラ、の、……ミラが、か?(例の研究の中心を担っていたその女の名前に、聞き覚えがないはずがない。)」

男「彼女のこと、何も知らないんですね?(まるで彼女は自分たちの所有物であるとでも言いたげな、満足気な微笑みを浮かべた。)」

ゲラルト「(色んなことが頭の中を巡った。思わず、これまで無視し続けていた通信を繋いで)マべ、始末しろ!」

男「おや、仲間がいるんですか?珍しい。 何も知らない割に、彼女に執着するんですね。(先程までと打って変わって、にこにこと笑って。)」

ゲラルト「何のつもりだ。一年前の建国祭でも同じようにミラを、(はっとして、通信を切った。)……ミラを拐おうとしたな?何をするつもりだ。」

男「カミラが密かに小鳥の血を混ぜて作った子ですからね。貴方が小鳥を殺してしまった今、我々は唯一の成功作である彼女を手に入れたいのですよ。」

ゲラルト「お前ら……、どれだけ傷付ければ気が済むんだ……?(ぐっと睨みつけた目線は、人間のものとは思えないほどに鋭い。)」

男「私は何するか知りませんから。(男がすっと右手を前方にあげた。足元に陣が出ることも無く、ほんの僅か転移魔術の気配がしたが、)」

ゲラルト「(男との距離を一気につめ、伸ばした男の右腕を自らの右手で引き、前方に身体が傾いたところに腹部を膝で蹴り上げる。そのまま空いた左手で男の首の後ろを押し、地面に叩きつけて。)」

男「(呻き声を上げて、意識を失う直前。)想像通りのこと、でしょうけどね……、(そこまで言って、動かなくなった。)」

ゲラルト「(だらりと下ろした右手の先からぽたりと血が一雫、床に落ちた。しばらく黙って、動かない男をぼんやりと見たまま何かを考えている。)」

ゲラルト「(顔を上げ、一度長く息を吐いた。 ほんの一瞬間を開けて、背負った刀を左手で抜き、その動作の流れのまま振り抜くと、刃先が床に擦れた不快な音がした。転がった男の首がはねられ、じわりと床に血が広がった。)」

ゲラルト「(振り返って扉の前に立つ。手をかけたところで立ち止まり、)……ミラ、余計な話はするな。(一言だけそう零して、部屋を出ていった。)」