06.「建国祭」導入部 sideSM

(イシスアセト建国祭。とあるオークション会場、の裏口付近。)

(日が落ちてだんだん薄暗くなった頃。施錠された扉の前には見張りと思われる男が2人立っている。そこからほんの少し離れたところにまた別のふたつの影が佇んでいる。)

ゲラルト「…お前黙ってろ。(制服のロングコートではない。黒い長袖のシャツの袖をまくり、普段腰に下げている刀をハーネスで背負っている。耳からイヤホンが下がっている。 じ、と責めるように目の前にいる人を睨みつけた。)」

マベ「(通信を一時切断し)だって気になるじゃねえか、人の名前を何だと思ってんだアイツ……(ぶーたれている汚れたような茶色の髪の男。黒眼鏡はつけず、黒いレンズのはめられたごついゴーグルを首から掛けている。黒尽くめはゲラルトと同様だがさらに軽装でハーネスもつけず、身体にフィットしたズボンにホルスターを装着し、大振りのナイフを左右に一対ずつ提げている。)」

ゲラルト「……。(返事の代わりに更に鋭い目線を送っただけ。また扉の方へ顔を向けた。)」

ミラ『よーしよし、じゃあ行ってこよっと。 おわ、狭いな……。(ガタガタと音がして、その後何を言ったのかはよく聞こえなかった。)』

マベ「(切断した通信を入れ直し耳を傾ける。)………。(なんとなく聞こえているようだが、特に何も言わない。視線はずっと地面に落としているが、二人の周囲では常に超微弱な風が起こっており、警戒は怠っていない。)」

ゲラルト「(同じく何となくその内容が聞こえたようで、少し肩を竦めた。)…口の悪さも一級だな。 ……何の音だ?」

ミラ『ん?ダクト通って制御室入るの。アンタらにはできないでしょ?このために2kg痩せてきたんだから感謝してよね。』

マベ「あれくらいカワイイもんだぜ?……ほう、やるじゃねえーか。んじゃご褒美はチョコレートバーだな(くっくっと笑った。)」

ミラ『女子に棒状のモノ咥えさせるのやめてくんない? あー、……ちょっと緊張する。』

ゲラルト「(マイクの部分を手のひらに握って音声が通らないようにし、マベを睨みつけて)……お前。この間、”触った”らしいな。あれは協力者だが、隊員ではない。扱いに気をつけろ。」

マベ「(まだ笑っていたが、こちらを睨みつけるゲラルトにイヤそうな顔をし同様にマイク部分を手で押さえ。)……あんにゃろ喋りやがったな……。……そんなつもりは毛頭ねぇよ。事故だ事故、本人には謝ったしな。今言うことか?ったく…。(顔を背け、マイクに向かって。)………頼むぜ、ミラ。お前が頼りだ。」

ミラ『……え?…うん。 行ってくる。』

ゲラルト「……事故で触るような場所か?全く、お前は……」

(暫く間が空いたあと、イヤホン越しにバヂン!!となにか弾ける音と、重たいものが床に崩れ落ちるような音がした。)

ゲラルト「(一度かくりと項垂れ、大きなため息をついた。)…こんな甘い計画でよく生き延びられるな……。 (ぱっと手をイヤホンから離し、顔を上げた。眉間に皺を寄せて怖い顔してる。)」

マベ「ッ……(耳に響いたのか煩わしそうに顔を歪めた。)………ま、今はアイツが文字通りのキーマンだ。そう言ってやるなよ。」

ミラ『えーと、今、裏口のあたりにいるの?ロック解除したらすぐ入れる?』

マベ「……………隊長?(いいんだな?と意思確認でゲラルトのほうを見た。)」

ゲラルト「(どこか遠くを見つめたまま、はあ、と大きくため息をついた。)…ひとりの方がよほど気が楽だな。」

ミラ『こうかな?あ、いけそう。 ……今空いたんじゃない?ふたりが抜けたら元に戻すからね。』

マベ「(聞いていない様子のゲラルトに明らかにイラッとした顔になり。)…………おい。ゲラルト!(マイク部分を押さえた。さすがにミラには聞かせないように。)任務中だぞ、返事くらいしたらどうだ!?」

ゲラルト「(マベの問いかけはちらりとも見ずに完全無視。音もなく飛び出すと、扉の横にたっていた男のうち1人のすぐ背後につく。男が違和感に気付きほんの僅か動いた瞬間、片足で膝裏を払いながら男の顔面を片手で鷲掴みにし、後頭部を地面に打ち付けた。)」

マベ「お、っ…!(ゲラルトに舌打ちした、ほぼ同じ瞬間にはもう一人の見張りの頭上に飛び出している。男が見上げたときには既にマベの踵落としが深々と突き刺さっており、地面に崩れ落ちる。)」

ゲラルト「…仕事中だ。口の利き方を弁えろ。(そのまま扉に手をかけ、ノブを捻るとガチャリと扉が開く。マベのほうを横目で見て、建物の中に入っていく。)」

マベ「(着地し、膝のあたりを払う。)………チッ。どんだけ自己中サディストなんだようちの隊長はよ…(独り言。)………へーい。(テンションの低い生返事をしながら続く。)」

ミラ『仕事中に男二人でイチャつくのやめてよ。さあ、行ってらっしゃい、二人とも気をつけてね。 捕まってる人たちの居場所もあった。送っとくから確認して。』

マベ「(扉の少し手前で、ウォーミングアップのつもりで片足ずつ爪先で軽くジャンプする。)了解。助かったぜミラ。(イヤホンの位置を直しながら扉を開けて中へ。)」

ミラ『あーうん。仕事だから当たり前でしょ。 ……残念。捕まってる子たちのとこはここで制御してるわけじゃないみたい。暗証番号を直接入力するっぽい……。 私、そっち行くね。そこまでは付き合ったげる。』

ゲラルト「(裏口はあまり使われていないのか、通路にはほとんど明かりもついていない。扉や角がある度に警戒しながら進んでいる。)……ミラ、くれぐれも無理はするなよ。」

マベ「(特に何もせずに、ゲラルトに続き暗闇の中を真っ直ぐ歩いていく。周囲に起こしている極微小の風の跳ね返りと、聴覚、触覚などの感覚器官を使って敵の気配やルートを把握している。)………了解した。(少し声のトーンが下がった。)俺が人質の救出に向かう。(二人にそう声をかけた。)」

ゲラルト「(マベの方を一度だけ見た。頷く代わりに許可を示した。)」

ミラ『わかってますー。無理そうだったらアンタらでどうにかして。 うん、じゃあ自己責任の現地集合。私が先に着くかな? ……待ってるね。』

マベ「(ゲラルトに目を細めて応えた。すぐに視線を外し、ミラに。)…こっちもお前がどこにいるかは把握できるようにしておく。けど、ヤバくなったら逃げろ。……隊長が出るってことはそういうことだ。甘く見るんじゃねえぞ。(潜入する前とは打って変わって、その声色は真剣そのもの。)」

ミラ『はいはい。わかってるよ。隊長の仕事についてはアンタよりよく知ってるから。』

マベ「(通信を切った。)…………さァて。こっからは離れ離れだな、隊長。」

ゲラルト「何かあれば連絡しろ。…………頼んだぞ。(短く、たったそれだけ。)」

マベ「ああ。ウライオスの隊長であるあんたがここにいる以上、俺はあんたの指示に従う。ただ、気に食わねえことがあっても噛みつかねえっていう意味じゃないからな?(ふいっと顔を背けた。)ま、あの子のことは心配すんな。」

ゲラルト「……。(一瞬立ち止まったが、通路の分岐でふと進行方向を変え、振り返ることもなく歩いていった。)」